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正統なる叛逆者  作者: 太占@
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霊長6

 ◆◇ロロ視点◆◇


 なぜそのような行動に出たのか、私自身、わかっていない。

 ただ、脳がその情報を受容した瞬間には、既に右脚は何かを蹴り飛ばしていた。


 反射、というものだろうか?

 ……まぁ、なんでもいい。


 それよりも、眼前の光景を整理しよう。

 『荒らされた商家の蔵』『床に散乱する銀細工』『半裸の若い女』『腹を抱えて悶絶する男』


 おそらくは、抱腹絶倒している男が捕えた女を強姦しようとしていたのだろう。

 

 ……抱腹絶倒は違うか。

 誰も笑ってない。


 ただ、この男、身なりからして高位貴族の非嫡子か国王直属の騎士団員の類いだろう。

 それも、私のような、名ばかりの国王直属ではない。

 (学院卒の騎士は一応、国王直属という形であるが、実際は国王お抱えの貴族──軍団長などを務めている──によって率いられている)

 

 であれば、私は、かなりマズイ事をしてしまったのではなかろうか?


 封建制度に支配された厳格な身分社会の中で、明らかに上位者である人物に危害を加えたわけである。


 部屋の隅で震えている栗毛女からすれば私は救いの使徒かもしれないが、社会的には犯罪者だ。


 この罰、打首獄門では済むまいて。


 ──ならば。


 「リザ。止めを」


 言い切るや否や。

 男の首に直剣が突き立てられ、標本の如く、床に止められる。


 「もう一匹もなのだな?」


 ……さて、どうしたものか。

 文字通り、流れで助ける形になってしまったが、別段、助ける義理は無い。

 むしろ、保身のために、上官殺しという凶行に走らされたと怨むことも出来る。


 だが、過ぎた事を論じても無駄。

 現状を好転させる策を思案する方が有益というものだ。

 


 まず、我々に余裕は?


 蔵に入る前、教会前に陣取っていた敵残党は、まだ保っていた。

 南門より入った軍は、入り組んだ旧市街で侵攻が遅れている。


 …………時間はあるが、多くはない。


 次いで、この女の価値は?

 

 それなりの大きさを持つ商家の蔵にいて、破れているが、着ている衣も上等なもの。

 十中八九、この家の者だろう。

 それに、散乱している銀細工も安物ではなさそうだ。


 捕えて身代金を取るか?


 だが、栗毛だ。

 どの地域にも一定数いる栗毛では、どの民族かわからん。

 もし家主が死んでいて、引き取る身内がイタロスなどとなれば、距離と宗教的な問題で、かなり面倒くさい。

 イリリクムなどと言われた場合は最悪だ。

 連絡手段が無い。


 ならば、奴隷商に売るか?


 容姿は悪くないので、それなりの値になるだろうが、奴隷売買に縁が無いので検討がつかない。


 ……本人に尋ねれば早い話か。


 私は標本から栗毛に向き直り、見降ろす形で問いかける。


 「……私が、私が貴女を保護したとして、貴女を引き取ろうという者は?」


 「ひっ、い、いや!来ないで!!!」


 「…………」


 「やっ、いやぁ……」


 無言で眼を覗き込めば、栗毛は身を竦めて俯いてしまう。


 ……これでは会話もままならんな。


 抵抗する者を連れ去るのも面倒だし、それくらいならば他に金目のものを持って帰る方が楽だろう。


 やむを得ん。


 「リザ。行きますよ。……あなた、郷里に残してきた者は?」


 「む?強いてはいないが……それがどうかしたのだな?」


 「その辺に散っている細工、中々に良い品です。今の流行りは知りませんが、それなりの価値はあるでしょう。ですから、土産にでも、と」


 アインス殿に過度な略奪は禁じられたが、戦地土産ぐらいは目を瞑るだろう。

 近衛兵にはそうでなかったとしても、臨時編入の我々は、戦の常として認められるに違いない。


 「むむむ……。リザはいらないのだが、良い物なら貰ってきたいぞ」


 収奪物として金属細工を、か……


 ここにあるものは、おそらく装身具の類いだろうが、こういったものの価格は流行の影響を大いに受ける。


 この町では流行りだったかもしれないが、これを売る町では違うだろう。

 流行が共有される程度の範囲にある街は襲撃済みだ。

 商人達も、戦火にあったばかりの町に装飾品を売ることはない。

 売るのは、まず確実に、離れた町だ。


 装飾品とは、いわゆる、価格の安定しない商品である。


 行商ならば、その隔たりを上手く利用するのだろうが、私には出来ないし、従軍の商人もそのことは理解しているだろうから『価格の安定しない商品』は買い叩かれると見て違いない。


 「……やめておきましょう。買い叩かれるのがオチです。利は出るでしょうが、他のものを漁った方がマシというもの」


 「そうか……。なら、行くのだな」


 「ええ。今後の事を考えると、資金の多いに越した事はありませんからね」


 「うむ。リザの俸給のためにも、だぞ」


 ……やはり、軽く騙された事は不満らしい。

 契約では『私が主人から給金を貰った際に』としているが、早めに俸給を払っておいた方が良いかもしれんな。


 

 金の事を考えながら、私達は銀の細工の蔵をあとにする。


 栗毛がこちらを見上げていた気がするが、私は気にしなかった。


 

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