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正統なる叛逆者  作者: 太占@
33/36

霊長4

『救い』が長すぎるから改題するよ。

本題に入るのが次話から(予定)だからね……


まぁ、適当な題を思いついたら。



 ◆◇ロロ視点◆◇


 窓枠をパビスの代わりに身を潜め、弦を巻きながら、私は問いかける。


 「リザ。あなた、クォレルは扱えますか?」


 「たぶん無理なのだな」


 「たぶん、とは?」


 「矢を番える時にだな、弦が爪に引っ掛かって切れるのだぞ。だから撃ったことも無いのだな」


 犬や狼の類いは爪がしまえないのだったな。

 難儀なものよ。

 

 それにしても、クォレルの弦が切れるとは、その爪はほとんど刃物ではないか。


 ……いや、そのように考えるのは愚かだな。

 私は身を以て味わったではないか。

 力を込めて握った程度で掌を斬り刻むなど、並大抵の刃物ではできまい。


 せめて、オシワケ族だけがその様であることを願うよ。


 「……手袋を着ければよろしくて?」


 「嫌なのだな」

  

 え、嫌……?


 「……如何なる理由にて?」


 「戦場だとな、こう、バーっと力を発散させるみたいに闘いたいのだな。だから、手袋とかは邪魔なのだぞ!」


 なんだ、ただの戦争狂(バーサーカー)か。


 ……中隊編成時や砦攻略の際には生尾人であることを隠していたようだが、『陵辱の乙女』制作以降は生尾人の姿を露わにしている。

 姿を隠す基準は何なのだろう?

 いずれ、聞いてみようか。


 「……手回し器を回して下さい。2張りありますから、私が狙いを付けている間に弦を巻いてしまえれば効率が良い。もちろん、矢は番えて渡しますよ」


 クォレル。

 南の方ではクロスボウなどと呼ぶらしいこの武器は、帷子はもちろん、金属製の全身鎧ですら貫き通す程の威力を持ち、なおかつ、射程は弓をも凌ぐ強力なものなのだが、装填時間が長いという欠点を持つ。

 一般的なクォレル兵で1分間に2,3発、4,5発も撃てれば達人と呼ばれるだろう。

 そしてこの欠点は、長所を長所足らしめる理由でもある。


 そもそも、クォレルが長射程高威力を発揮し得る所以は、その機構にある。

 手回し器で歯車を回転させ、人力を超す力で弦を張るというのは、中々に大変な作業なのだ。


 「よいぞ。任せるのだな」




 ◇◆◇◆


 再び窓枠から覗けば、目標は先程とあまり変わらぬ立ち位置。

 銘々が向かいの建物に寄りかかるが如く屯している。


 狙うのは隊長格の4人。

 

 敵狙撃兵の存在を誤認させることで、敵の攻勢方面と推測させ、南路を塞ぐ部隊を一時撤退させる。

 

 ただし、中隊長は牽制、または軽傷程度に留める。

 新設師団の中隊長級は、まず確実に貴族家の者であるから、私が下手人とバレるとかなり厄介なことになるからだ。


 

 まずは、こちらに背を向けて立っている傭兵風の小隊長だ。


 矢先を向けて狙いを合わせ、引き金を引けば、「ヒョウッ」という鳴声が響く。

 放たれた矢は、そのまま彼の背に突き立ち、傭兵は前のめりに倒れ臥す。


 放たれたクォレルに矢を番えてリザに渡し、装填済みの弩を取りて、再び射目立てる。


 次いで、長槍を肩に抱え、石段に座り込んでいる農兵風の小隊長を目掛けて射らば、矢は一条、憐れな農夫の額を穿ち、彼を骸と成す。


 「リザ、次を」


 「……よし、ご主人!」


 ……あまり大声を出さないでもらいたいのだがな。

 射点がバレてしまう。

 まぁ、慣れた者なら死体の倒れ方で判別つけられるが。



 リザからクォレルを1張り受け取り、三度(みたび)身を乗り出す。

 

 先は速射で完全に不意を突けたが、さすがに敵も攻撃に気が付く。


 しかし、奇襲である。

 最後に残った小隊長と思しき者は雑兵共々慌てふためいており、明らかに浮足立ってしまっている。


 ……それに比べてあのゴリラ、落ち着いて兵に檄を飛ばし、それでいて素早く座っていた石段を離れるとは、かなりの歴戦と見た。

 おそらく、名のある武門の出であろう。


 

 動く的は狙いにくい。

 まずはあの盆暗小隊長だ。


 クォレルを構えて矢を放てば、投石機の如き風切り音と共に、盆暗は石壁に串刺しとなる。


 そして、私の右手には強い痛みが。


 …………?


 「強めに巻いておいたのだな」


 貴様が犯人か!


 「まぁ、良いです。それより次のを」


 我ながら何が良いのかさっぱりわからないが、今はとにかく、作戦を遂行しなければ。


 クォレルを受け取りつつ、そんなことを考えていた時である。


 「そこか!ウォォォオオオオ!!!」


 危険を感知した第六感の命令に従い、部屋の隅へと飛び退けば、獣の唸り声と共に、窓枠が吹き飛び、部屋の採光率が大幅に改善された。


 見れば、天井には歩兵用の長槍の柄が生えているではないか。

 ……何事だ。


 「ご主人!中隊長だ、あそこだぞ!」


 何倍にも大きくなった窓の先には、()()()()()()用の長槍を投槍の要領で構えるゴリラの姿。


 当初の位置より離れ、この部屋からでは狙い辛い場所り


 ……やれるか?


 私はクォレルを構え直し、奴の胴体を狙う。

 先程の威力ならば、胴で十分。


 投槍の体勢に入る。


 3


 「ウォォォオオオオ!!!」


 長槍が、放たれる。


 2


 その一撃は、放物線を描く。


 1


 「ご主人、危ないのだな」


 抜剣したリザが、飛来する長槍に向けて、斜めに刃を振り下ろす。


 0


 金属を弾く音の後、木の裂ける音。


 弦を弾いて、矢を放つ。


 矢は直線に、彼の肩を刺す。


 よろめくも、彼が膝をつくことは無く、その影は、街角へと消えて行った。

 



第23部のあとがきに以下の注釈を追加しました。


※注釈


ヘレナ伯が話した『Moi』はガリア語の『私』とか『ボク』って意味。

『ボクのこと、憶えてる?』は、『ロロ』が主語なので、『Je』ではない。


ロロたちノルド人は『私』を『jag』とか『jeg』とか言う人種。



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