霊長3
◆◇ロロ視点◆◇
雑兵が40名弱、隊長格の兵が4名。
廃棄された宿屋の2階から覗けば、国王軍編成の4小隊が見える。
雑兵共は落ち着きなく歩き回り、隊長格の4人は何やら言い合いをしているのが、見て取れる。
「攻めるか待つかで喧嘩してるのだな。兵は戦わずに略奪だけしたいらしいぞ」
「聞こえるのですか……。まぁ、兵の心理などそのようなもの。予想通りですが、やはり士気は低い」
「勝ち戦だな?」
「そうですね。だからこそ、です。これ以上戦わずとも勝ちは決まっているのに、わざわざ危険を犯したくはないでしょう?兵共の見つけたいものは、敵ではなく金と女。この期に及んで敵を探す者など、戦果がほしい貴族か南の狂信者だけですよ。あなたも傭兵稼業をしていたのですから、分かるでしょう」
「リザは闘うのが好きだぞ」
「戦闘狂を追加する必要がありましたか……」
多くのノルド人の戦う理由は臨時収入のためやら、冬越しのための口減らしだったりと、実利を目的としているが、確かに、闘争の高揚感や殺戮の快楽を目的とするのも、わからなくはない。
始めは略奪収入を目的として従軍したが、気がつけば戦争を目的として従軍している、なんてノルド人傭兵はざらだ。
と、まぁ、私の副官が戦闘狂と判明したが、今の問題はそこではなく、あの4人の中のどれが騎士位を持つ中隊長なのか、ということだ。
……副官が戦闘狂でも、別に問題は無いか。
「リザ、どれが中隊長か、その大きな耳でわかりますか?」
「あの隊の隊長なんて知らないのだな。何か特徴はないのだぞ?」
「私みたいな奴です」
「そんな奴には今まで会ったことないし、たぶん死んでも会わない」
「フフッ、それもそうでしたね。私の如く美形かつ優秀なノルド人など、古今おおよそ、我々がノルドの地に来りしほど昔まで辿ってもいないでしょう。神話の世ならば美の女神もかくや、というほどに」
「…………そういうことに、しておくのだな」
「ええ、ええ。………いや、冗談ですよ?」
「………………………」
「………………………」
やめて、辛い。
ご主人様泣くよ。
「中隊長かはわからないが、一番偉そうな奴は見つけたぞ」
「どれです?」
「あの……、ちょうど今、兵の尻を蹴り飛ばした奴だぞ!」
指示する方向を見れば、苛立たしげに棍棒を振るうゴリラのように屈強な『THE 蛮族』と、膝から倒れ込むまだ若い少女……いや、あれは少年だな。
線が細く、肩まである髪のせいで危うく見間違えるところだった。
だが、二度は間違えん。
「あのゴリラが私に似ていると?」
しかも佩いている剣はロングソードではなく、ツヴァイベンダーとカッツバルゲルだ。
前者は騎士の、後者は傭兵の象徴物である。
私?
私が佩いているのはバゼラートと呼ばれる型の剣だ。
短いが、安く耐久性に優れる庶民の武器である。
鉄が高いんだよ。
いつか、ウルフバートの剣とかほしいなぁ。
「ゴリラ?」
「知りませんか?正式には『ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ』'内海の向こう側"をさらに南に下った所にある大森林に棲む、と伝わる怪物です。2メートルを優に超す巨体は漆黒の体毛に覆われ、重装の騎士すら握り潰すほどの怪力。まさに化物」
「な、なんなのだな、それは……。リザは見たことも聞いたこともないぞ」
少々珍しい程度ではあるが、一応、伝説に登場する種族の我が副官は、普段は隠している耳と尻尾が露わにするほど、存外に驚いているらしい。
……そういえば、なんで耳と尻尾を隠すのだろう?
唯一神教に支配された南では生尾人を弾圧するらしいが、北でそのような事は無いし、どちらかといえば唯一神教の方が弾圧対象なのに。
「……まぁ、異国が神話の生き物ですし、彼もそれほど異形ではありませんから、仕方ありませんか。私の喩えが悪かったです」
暫し、沈黙が場を支配し、私はクォレルに矢を番え、リザはその長く豊かな尻尾で床を掃く。
……あれ?
尻尾、どうやって隠しているんだ?
ただ、手回し器の歯車を巻く音が響く。
どのモデル民族の言語を調べても、ゴリラはゴリラだった。
THE霊長類シリーズは続くかもしれない。




