表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正統なる叛逆者  作者: 太占@
31/36

霊長3 

 ◆◇ロロ視点◆◇


 雑兵が40名弱、隊長格の兵が4名。

 廃棄された宿屋の2階から覗けば、国王軍編成の4小隊が見える。


 雑兵共は落ち着きなく歩き回り、隊長格の4人は何やら言い合いをしているのが、見て取れる。


 「攻めるか待つかで喧嘩してるのだな。兵は戦わずに略奪だけしたいらしいぞ」


 「聞こえるのですか……。まぁ、兵の心理などそのようなもの。予想通りですが、やはり士気は低い」


 「勝ち戦だな?」


 「そうですね。だからこそ、です。これ以上戦わずとも勝ちは決まっているのに、わざわざ危険を犯したくはないでしょう?兵共の見つけたいものは、敵ではなく金と女。この期に及んで敵を探す者など、戦果がほしい貴族か南の狂信者だけですよ。あなたも傭兵稼業をしていたのですから、分かるでしょう」


 「リザは闘うのが好きだぞ」


 「戦闘狂を追加する必要がありましたか……」


 多くのノルド人の戦う理由は臨時収入のためやら、冬越しのための口減らしだったりと、実利を目的としているが、確かに、闘争の高揚感や殺戮の快楽を目的とするのも、わからなくはない。

 始めは略奪収入を目的として従軍したが、気がつけば戦争を目的として従軍している、なんてノルド人傭兵はざらだ。



 と、まぁ、私の副官が戦闘狂と判明したが、今の問題はそこではなく、あの4人の中のどれが騎士位を持つ中隊長なのか、ということだ。

 

 ……副官が戦闘狂でも、別に問題は無いか。


 「リザ、どれが中隊長か、その大きな耳でわかりますか?」


 「あの隊の隊長なんて知らないのだな。何か特徴はないのだぞ?」


 「私みたいな奴です」


 「そんな奴には今まで会ったことないし、たぶん死んでも会わない」


 「フフッ、それもそうでしたね。私の如く美形かつ優秀なノルド人など、古今おおよそ、我々がノルドの地に来りしほど昔まで辿ってもいないでしょう。神話の世ならば美の女神もかくや、というほどに」


 「…………そういうことに、しておくのだな」


 「ええ、ええ。………いや、冗談ですよ?」


 「………………………」


 「………………………」


 やめて、辛い。


 ご主人様泣くよ。


 「中隊長かはわからないが、一番偉そうな奴は見つけたぞ」


 「どれです?」

 

 「あの……、ちょうど今、兵の尻を蹴り飛ばした奴だぞ!」


 指示する方向を見れば、苛立たしげに棍棒を振るうゴリラのように屈強な『THE 蛮族』と、膝から倒れ込むまだ若い少女……いや、あれは少年だな。

 線が細く、肩まである髪のせいで危うく見間違えるところだった。

 だが、二度は間違えん。

 

 「あのゴリラが私に似ていると?」


 しかも佩いている剣はロングソードではなく、ツヴァイベンダーとカッツバルゲルだ。

 前者は騎士の、後者は傭兵の象徴物である。


 私?

 私が佩いているのはバゼラートと呼ばれる型の剣だ。

 短いが、安く耐久性に優れる庶民の武器である。


 鉄が高いんだよ。

 

 いつか、ウルフバートの剣とかほしいなぁ。


 「ゴリラ?」


 「知りませんか?正式には『ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ』'内海の向こう側"をさらに南に下った所にある大森林に棲む、と伝わる怪物です。2メートルを優に超す巨体は漆黒の体毛に覆われ、重装の騎士すら握り潰すほどの怪力。まさに化物」


 「な、なんなのだな、それは……。リザは見たことも聞いたこともないぞ」


 少々珍しい程度ではあるが、一応、伝説に登場する種族の我が副官は、普段は隠している耳と尻尾が露わにするほど、存外に驚いているらしい。


 ……そういえば、なんで耳と尻尾を隠すのだろう?

 唯一神教に支配された南では生尾人を弾圧するらしいが、北でそのような事は無いし、どちらかといえば唯一神教の方が弾圧対象なのに。


 「……まぁ、異国が神話の生き物ですし、彼もそれほど異形ではありませんから、仕方ありませんか。私の喩えが悪かったです」


 

 暫し、沈黙が場を支配し、私はクォレルに矢を番え、リザはその長く豊かな尻尾で床を掃く。




 ……あれ?

 尻尾、どうやって隠しているんだ?






 ただ、手回し器の歯車を巻く音が響く。

 

どのモデル民族の言語を調べても、ゴリラはゴリラだった。


THE霊長類シリーズは続くかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ