霊長2
君がこの小説を読んでいるということは、私はかの天災を生き延びたということだろう。
実家近くの川が溢れた。
本格的に被災したBrotherとSistarは小説でも読んで暇をつぶしてくれ。
◇◆ロロ視点◇◆
陽は未だ高くあれど空は紅く、両の耳には、勇み戦う者達の怒号と、怯え逃げる者達の悲鳴が絶え間なく響く。
実戦の経験が浅く、訓練も野戦を闘いを想定したものが多かったからだろうか。
そう珍しくもない、街の焼ける様の一つをとっても、何事かの違いに気付き、それに考えを巡らすというのは。
この街では、木の爆ぜる音があまりしない。
ハノーファーのような新興の都市や農村では木製の建物が多く、あの小気味よい音がたいそう雅に響いたものだ。
だが、大きく、そして十分に発展した都市では、建材の多くが石となり、下層民の棲家も痛み湿気った松か樅で、火付きが悪い。
とはいえ、如何に石や湿気といえども、油壺に敵うことはなく、は南門方向では旧市街が、東門方向では市壁が炎に巻かれ、煙を高く昇らせているのが見える。
今は、ティセリウス家の近衛隊と別れ半刻は過ぎたころだろう。
あの後、我々も西門周辺てま残党討伐と略奪を行ったのだが、大将首には会えず、押し入った邸宅にもめぼしいは無いと、良いとこ無しであった。
こればかりは運が無かったと諦めざるを得ないのだが、戦の醍醐味を味わえないのは不満であるし、何より、今後の活動資金の足しにする当てが外れてしまうのは、少々心許ない。
ゆえに、敵の組織的抵抗が予想され少々危険を伴うが、その分手付かずの家屋の多い、街の中央部へと向かったのだ。
そして今、我々は広場に陣を構えた残党を包囲する部隊の加わっている。
敵は広場の中央にある石造りの教会を囲むように陣を組み、それをダンメルク軍が南、西、東の三路を抑えて包囲する形だ。
無論、我々はティセリウス家の軍が構える西路にいる。
「来たか」
背後から声をかけられ、振り返ればアインス殿。
……まぁ、いるよな。
「ええ、ただいま。……状況は如何に?」
「見ての通り、家具や瓦礫で即席の防壁を造られた」
「……東門の部隊は何を?彼らが中央まで一気に浸透する手筈でしたが」
「知らん!……いや、すまんな。お前に当たっても仕方無いことか。……大方、略奪でもしていたのだろう。北方で余裕の十分な貴族というのは、少ないからな」
「左様ですか。……ところで、私が見るに、広場へ繋がる路は3つしかないように思われますが、なぜ全ての路を塞いでしまったのです?」
「なに?どういう意味だ」
「どうもこうも、そのままの意味です。西門より続くここ、東門より続く路、それと、ここからは見え辛いですが、南門より続く路にも部隊が展開していましたよ」
「真か?」
「真です」
「………………ふぅ、どこの家だ?」
アインス殿が声音を下げで言う。
お怒りのようだな。
南門を塞ぐのは予定外のことらしい。
「王家です」
南門は国王軍が受け持っていたのだから聞くまでもないはずだが、そんな単純なことにも気付かないとは、アインス殿もお疲れなのだろう。
「貴様の主人ではないか!!!」
「そう言われましても、私の所属していた大隊は解体されましたゆえ」
「クソッ、適度に蹴散らすつもりだったのに、余計なことを……」
「新設師団の練度など高が知れています。それに、南門の方向にあるのは旧市街です。どうせ国王軍の奴ら、生活の足しにとて略奪を働いたのでしょうが、碌に奪う物が無く、手付かずの中央部へと流れて来たのでしょう」
「あいつら、仮にも貴族であろう。騎士の風上にも置けんな」
「ええ、まさに」
似た理由で中央部に向かっていた一組を知っているような気がするが、記憶違いだろう。
騎士の名に恥じぬ高潔な精神を持つ我々が、略奪などという下衆の行いを目的に戦争を行うはずが無い。
後ろに侍らせている従士辺りから非難の視線を感じるが、それも気のせいだろう。
……おのれ半ガリアめ。
南の豊かな貴様らに言われたくないわ。
「……して、国王軍は如何いたしますか?警告でも?」
「……そうだな。数はどれほどであったか?」
「50名ほど。新設師団の編成ですと、中隊の半分です。多くはありません。説得して退かせますか?」
「無理だな、所属が違う。下手な対応をして主家と王家の争いになっても、私では責任がとれん」
「では、私が退かせてみせましょう。……東門側の部隊とは連携できるので?」
「ああ、東の路を抑えている家の軍は我々に合わせるそうだ。……策があるのか?」
「時間をかけず退かせましょう。クォレルを2つお貸し下さい」
「……その任、君に任せよう。クォレル兵から借りるといい」
「ハッ!……こちらから合図はできませんので、準備の整いしだい、攻撃を開始して下さい」
クォレルを借り受け、我々は西路より、南へと向かう。




