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正統なる叛逆者  作者: 太占@
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サンドウィッチ

 ◇◆招令発布の一週間前(ロロ視点)◇◆


 王立学院の軍事課を卒業し、私と同期の者達が各自の辞令を受け取ったのが一週間前のこと。



 与えられた中隊を視察した私は、驚愕した。


 '新設中隊"というのは2年前に始まったばかりの徴兵制による部隊だったのである。


 普通に考えればわかることではないか。


 爵位もなにも無い私が、まともな、もしくは希望した少数の騎兵部隊に配属されるはずがない。

 

 ……それなりに馬上弓は得意だったんだがな。


 まぁ、既に決まってしまった事なので配属云々の話はさておき、問題は中隊の旧傭兵組である第一小隊以外が弱兵だったことだ。

 小隊ごとの隊列、行軍や槍衾など最低限の行動はできるが、その隊列は乱雑であり、個人の練度も小隊の4人組が私一人に蹴散らされるほどである。


 はっきり言って烏合の衆だ。


 聞く所によると、国王軍の再編計画では、どうやら部隊レベルではなく団レベルで部隊が新設されているようなので、おそらくは国王軍の約半数が司令級を除いて、このような低練度の弱兵であると想定される。


 このようなお粗末師団が編成された原因は、おそらく、3年前の対スヴェーリエ戦争のせいだろう。

 北の軍事大国スヴェーリエがダンメルク王国の領土を狙って起こした戦争だ。

 この戦争は周辺国の支援を受けたダンメルク王国が辛うじて勝利することができたが、国王軍は半数もの戦力を失うという大損害を被った。


 国王はこの損害を補填すべく、既に困窮している農民からさらなる徴兵を行い、そして、戦力の中核たる騎士増強のために、養成施設として王立学院に軍事課の創設したのだ。


 もし──外征ばかりの現国王ではあり得ないのだが──王国に数年間の平和があれば、新規徴兵された部隊の練度もまた違ったのだろうが、はたしてこの烏合の衆が今回の戦争で役に立つのだろうか?

 数の大半を占める農兵は弱兵で、戦力の核たる騎士も多くは即席の者。


 隊の統率者としても、騎士位持ちはほとんどが知り合いとはいえ、未だ隊毎の顔合わせすら行っていないという有様なのだぞ。


 しかも授爵から辞令が下るまでは実質的な休暇であるとはいえ、王都で暮らしていた私はともかく、多くの卒業生が自領に帰っており、現状、ほとんどの者が自身の部隊に着任すらしていないという状況ですらある。


 兵の練度が低く中隊規模での連携すらとれない軍。

 これで士気が低ければ潰走寸前だ。


 だが、物は使いよう。

 烏合の衆でもせいぜい弾除けにはなるだろう。

 鳩ですら弾を止められるのだ。

 仮にも人間ならば、できるはず。


 できなくても、私がさせてあげよう。






 ◇招集令発布から約一時間後:王都管区駐屯地◆ 


 私を含めた騎士位持ちがブリーフィングルームに集まり、連隊長の訓示が始まった。


 「諸君が今日という日を迎えられたのはひとえに国王陛下の……」


 学院で教授達が『貴族の教養』と熱心にご教示して下さった、無駄に修辞的で、その実ほとんど意味を持たない文体で話が進む。

 …

 ……

 ………


 始まって5分程経ったはずだが、未だに王家の権威だとか神聖帝国が卑怯であるとか愛国心やら忠誠心がなんとかという、心底無駄に思われる話が続いている。

 思うに、そういった戦意高揚の演説はこの場にいない一兵卒にするべきだろう。

 基本的に脳筋の騎士にも効果はあるだろうが、隊を統率する立場の者が集まっている場であれば、できる限り実務的な話に努めるべきではなかろうか?


 こうしている間にも敵は動いているのだから。


 ……そもそも、統率者が脳筋ではいかんだろ。



 それからも何分か心を殺して同じ様な話が聞き流し続けた後、ようやく本題の作戦概要に入る。


 これもやたらとわかりにくい言い回しが多用されていたので要約しよう。


 曰く、国王軍は神聖帝国北部の諸侯を抑えるため主戦場にならないであろうダンメルク東部に集結した後、ダンメルク南部から侵攻する諸侯軍の作戦が完了しだい合流し、戦争の主導権を確保した上で決戦に臨む。

 と、いうことらしい。


 あくまでも一中隊長ごときの推測であるが、聞く限り敵の政治的弱点を突く上策だろう。


 神聖帝国は大国でこそあるが皇帝の力は弱く、最近は諸侯を統制できていない。

 中でもガリア人の皇帝と対立的なノルド系北部諸侯の牽制に弱兵の国王軍を当てることで兵力の集結を妨げつつ、練度の高い諸侯軍が散発的戦闘を行いつつ決戦場を確保する。


 敵が国王軍の陽動に気づいた場合、諸侯軍に仕掛ければ練度で勝り、かつ内線をとれるこちらが有利。 

 国王軍に仕掛ければ国王軍を2つに分けて半分は牽制を続け、もう半分と、外線をとった第一軍と挟撃できるこちらが有利。

 北部諸侯が単独で国王軍に仕掛ける可能性もあるが、兵数で勝り、しかも、こちらが内線の優位性を得られるので問題無い。


 そもそも、本来ならばこちらが侵攻される側であり、なおかつ狭い国土を活かして内線を取りやすい王国軍が、その利点を捨てて侵攻するのだから余程作戦に自信があるのだろう。


 「以上で訓示を終える。各員指定時刻までに集結するように」


 「総員、敬礼!」

 

 訓示が終わると後方用員は各自の部隊へ戻っていく。

 前線指揮官はラウンジに集まりって顔合わせをするそうだ。


 ……私も行かねば。 


 いざという時に弾除……、それは同僚に失礼だな。

 名誉ある戦死を遂げられるように上手く誘導せねばならんからな。


 

 ◆◇



 私がラウンジに入った時にはすでに多くの騎士位持ちが集まって談笑していた。

 憂鬱にされるよりはマシだが、これから戦争だというのに暢気な奴らだ。


 だが今回は私もその暢気に倣って紅茶と………なんだろう、知らない料理だ。

 この黒パンに色々と挟んだ物を手に歩兵部隊の集まりを探すことにしよう。



 ……なんだと!

 肉だ、肉が挟まっていやがる!!



 「ロロ君、ロロ君ではありませんか。こっちです、早く来た給え!」


 「なんだ!それは肉よりも重要なのか!!」と言おうと思ったが、たぶん、肉よりも重要な人だ。


 手招きしている人物は数少ない知り合いの一人、で髪の色艶が違う。

 灰色の髪が多い北ノルド人の中で、銀に輝く髪をしているのは貴族かその血筋の者にあたるので、肉より僅かだが重要だ。 

 社会的地位の差だな。


 だが、肉料理は機嫌を損ねないがあいつらはすぐに不機嫌になる。


 ……料理は加工済みなだけあって生より高尚であるなぁ。



 「これはこれはヒスティア卿。私ごときを覚えておいて下さるとは光栄です」


 「フフフッ、これは面白いことを言われる。4期生の中であの悪名高きロロ殿を忘れられる者はいないでしょう。とはいえ、其は正に────っと、失礼。知られているとはいえ、本人に言うべきではないですね。ともかく、ああも恐れられたロロ殿が味方にいるのは心強い。頼りにしていますよ」


 蛮族呼ばわりか。

 演習で包囲した相手に騎馬隊を突撃させた事がまだ尾を引くとは。


 ……やれやれ、噂というのは侮れんな。


 だが、知っているのだろうか?

 ガリアやイタロスでは、我々ノルド人は蛮族扱いなのだぞ。

 

 「いえいえ、頼られる程のものではありませんよ。それにしてもヒスティア家のかたに畏怖していただけるとは、箔が着きましたかな」


 ヒスティア侯爵家は海賊の首領出身の貴族で彼女、ミラ孃はそのご令嬢である。

 貴族となってからのヒスティア家は、海賊など野蛮だと言って過去を隠したがっているようだが、歴史を学んだ人なら知っていることだ。


 つまり、土地の者を除いて、ほとんどの者が知らない歴史である。


 かつての汚名を隠蔽できる程の貴族の御令嬢。

 たまたま同期であり、なおかつ彼女から話かけて来たのでなければ、本来、平民ごときが話かけて良い身分ではない。


 「フフフ……、言いますね。まぁ、良いでしょう。──みな、紹介します。彼がミラ歩兵大隊最後の中隊長ロロです。知っていると思いますが実力は保証しますよ」


 ミラ孃が4人の中隊長に私を紹介する。


 ……ん?4人?

 5つの中隊で一つの大隊だから私とミラ孃を入れると6人になってしまうぞ?

 

 「失礼、ヒスティア卿。私の勘違いでなければ大隊は5中隊で編成されていたはずですが…」


 「その通りですね、なにも間違ってませんよ。今紹介しましたが、第一から順にイワン中隊、ロロ中隊、ハーシュ中隊、ニック中隊、ホープ中隊の5つでミラ歩兵大隊は構成されています」


 「ミラ歩兵大隊?」


 「ええ、そうです。私が大隊長を務めますから、あなたの上官にあたりますね」


 なんだと!

 同輩が上官とは……。


 ミラ孃はたしかに座学も武術も指揮も最上位で優秀だったが、それでも槍術以外のほとんどの分野で私の方が上手くやっていたし、実際に私は演習で()()()()負けたことはない。


 となると、国王軍の中でも侯爵家、ひいては貴族勢力の影響力は強いということか……。


 やはり、国王軍強化のために創られた王立学院だが、そこでも門閥貴族の存在は問題となるか。


 平民として文句があるのは配属に関してだ。

 本来、身分に囚われず適正に合わせて配属が決定される国王軍において、明らかに門閥が考慮されている。


 たとえば、私は戦術に優れている。

 古代の戦史を紐解いた軍人など私ぐらいのものだろう。


 あれを読むには考古学の知識が必要だからな。

 古代文明の用いた戦術と比べれば、現代に伝わっている戦術などお粗末もいいところだ。


 だが、それを活かすには、全体に指揮できる立場が必要になる。


 で、あるのに、配属は軍議には参加できない一介の中隊長。

 いきなり中枢に入れろとは言わないが、せめて大隊長ぐらいにはして欲しかった。


 ……無位無冠の私を軍議に参加させるには貴族の数が多過ぎるのだろうよ。


 そもそも、門閥貴族の問題は国王もその血縁に組み込まれている以上、抜本的解決を目指すには国体そのものの変革が必要になってしまうので、当面の間は解決は望めないか。


 ただ、ミラ孃が大隊長となると、イワン殿以外全員が今期の卒業生だということになる。


 イワン中隊は第一中隊なので、本陣付き。

 言い換えれば、ご令嬢のお目付け役である。


 であれば、最前線は新任ばかりということだ。

 成績優秀であったとはいえ、実戦経験の無い上官に命を預けろというのはやはり厳しい。



 国王軍のすべてがそうではないだろうが、さすがに不安を禁じえないな。

 

 



―――――――――――――――――――――――――――――――――

 各国動勢



 :中央エリア


 ・ガリア王国(焦り)


 ・神聖帝国(諸侯反発)



 :北部エリア


 ・ダンメルク王国(野望始動)


 ・スヴェーリエ王国(再編中)


 ・スエビ諸侯

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