Shall we dance ?
タロットは知りません。
◇◆ロロ視点◇◆
先日よりの憂事、未だ来たらず。
「暇だね、ロロ」
「そうですね。……会談の準備も終わっていますから」
今日は到着を予定していた日なれども、既に陽は沈んでひさしく、今や火の消えた篝も少なくない。
「……暇だよ」
「そうですか」
私も暇です。
早く寝て下さい。
「………戦利品に面白そうなのあった?」
「名のある品は目を通されたはずでは?」
「うん。だから、隠れた名品とか」
平民の、しかも、齢20にも満たない若造の審美眼を問うと?
「……街の中央に、大きな石造りの建造物があったのを憶えていますか?あれは教会という唯一神教の──」
「知ってるよ」
「……ガリア王国は唯一神教の国でしたな」
「家は精霊信仰だけどね。ママがガリア人だからさ」
「それはそれは。……異教徒と生活するのは大変なので?」
毎日が聖戦だったりするのだろうか?
「う~ん……。そうでもないよ。ママが『郷に入りては郷に従え』って言ってるからね」
「随分と殊勝な心掛けで」
なんなら棄教までしてもらえるとありがたいんですけどね。
辺境伯家が異教に改宗する可能性があるというのは、とんでもない内憂なのだ。
ある日突然、背中を刺されては、たまったものではないし、その警戒をしていては、気が休まらない。
この状態を放置している時点で、国王が事の重大さを理解していないのは明らかだが、宰相閣下は如何にお考えなのだろう?
「ふふん!……それより!戦利品だよ。教会の面白いってなに!」
「色硝子です。……ステンドグラス、というのですかな?」
色とりどりに模様や絵の描かれた硝子のことだが、そもそも、気泡の入った硝子を見ることすら少ない私には、その価値は測り得ない。
ただ、高価なのはわかる。
「へぇ……どんな柄?」
「さて。私は存じませぬが、アインス殿ならお憶えかと」
彼は間近で見たはずだからな。
「アインスか……。いや、いいよ。持って来て」
「無理ですな」
「なんでさ!」
「無いゆえにございます」
「無いの?!」
「ええ、ありませぬ」
木っ端微塵である。
「どういうことさ、説明してよ!」
「……では、件の色硝子を見つけた時の話から始めましょう」
「…………」
「あれはここ、リンデバウムに攻め込んだ時のこと。私は副官のリザと共に、アインス殿率いるティセリウス軍の先鋒部隊にて戦っておりました」
「ボク達は西門から突入したんだよね」
「ええ。……西門を破った我々は逃げ惑う敵兵と、抵抗する住民を斬り伏せながら、中央部へと侵攻します。そして、街の中央へと至り、各々に略だ……接収を行っておりました。……ところで、唯一神教を国教とする街の中央にはある建造物が存在するのですが、ご存知で?」
「教会だね。……まさかっ!」
「ええ、その通り。なんと、アインスめは教会に攻め入り、命乞いをする信徒を撫で斬りにし、「主よ」と祈る神父を叩き斬ったのです!」
「なんだって!!!むむむ……許せん!今すぐアインスを────」
アインス殿の行動は、精霊信仰のノルド人的には唯一神教徒への対応として至極真っ当なのだが、ご都合主義を信奉するガリア人の目には、惨劇にでも映っているのだろう。
……唯一神教への改宗を拒んだノルド人を皆殺しにした事件は忘てないぞ。
「まあまあ、お待ち下さ────」
「止めてくれるな!騎士の道に外れたあやつを生かしておいては、ティセリウスの名が廃る!」
騎士の道?
……なんだそれは?
ノルド人のものでは無いから、ガリア人の習慣だろうか?
字面は従士の掟に似ているが、内容は別物であるらしい。
掟は虐殺や焼き討ちを禁じる類いのものではないからな。
「そこを何とか。……陣中をご覧下さい。兵の士気は高く、戦勝の気運が高まっております。今ここに水を差しては、それこそ、武門の誉高きティセリウスの名を貶すというものです」
「む、むむむむむ…………」
「確かに、軍の規律を保つことも重要です。ですが、今ここで糾すこともありますまい。せめて講話が成るまでは待つべきかと」
「……ロロが言うなら」
「お聞き入れいただき、ありがとうございます」
信頼されているのは好都合だが、できれば説得を踏まえての判断であって欲しかったな。
その信頼の根拠を、私は知らないのだから。
「そうそう、教会と言って思い出しました。面白いものがあったのです」
「……戦火に巻かれてない?」
「ええ、健在でありますよ。……売り払いましたが」
「売ったの?!」
「売りました。褒賞として与えるには高価過ぎですし、かといって伯爵位の家が着回しというのも品位に欠けますゆえ。……判を押されたのはヘレン様ですよ?」
「うっ……。そ、それで、なんだったのさ!」
「南方様式の婚礼装束です。女物の」
「ウェディングドレス?」
「ウェ…ウェッ………?よくわかりませんが、白いヒラヒラしたドレスです」
「ウェディングドレスだね」
「ウェッ………」
根本的に、言語系統が違うのだな……。
「…………。名はともかく、大きな商家より見つけましたので連れて来た商人に見せましたところ、『状態は良く、流行りの型』だそうで、それなりの値で売れましたよ」
そのドレスを着る予定だった女性も良い値が付きそうなのは内緒だ。
わざわざ主人の不評を買う必要は無い。
「へぇ。それで?」
「なんと、製作した職人は最近独立したばかりで大口の顧客は少なく、しかも、ダンメルクに工房を構えるつもりだとか」
「今の内に刈っとけって?」
「唾を付けるぐらいには」
「う~ん……。でも、ボクはそのドレス見てないし、そういうの決めるのは当主の仕事なんだよね……」
懸かったな。
切り出すなら、今。
「……椅子は直に空きます。狙いますか?」
スッと、ヘレナ伯の気配が、変わる。
仕官が時が如く、切先の鋭利なる様に。
「……そうか、ロロはその確認がしたかったから、ボクの愚痴に乗ってきたんだね。……でも、ちょっと口が過ぎるかな。ロロには兄さん達の'唾"は付いてなさそうだけど、どこで聞かれるかわからないから。……折を見て、ね」
「フフッ。お誘い、お待ちしておりますよ」
野心があり、私へ疑念が無い。
政変への明確な返答は無かったが、この事を確認できれば、
十分。
会戦より何度もこの話題へと誘導していたが、今回、勝負に出て正解だった。
戦争が終えて領地へと戻るまでに意志を聞いておかねば、という焦りがあったのも事実だが、やはり、相手の顔色を窺って事の成ることは無いな。
行動してみれば、案外と呆気ないものである。
ふと、思い立って、天幕を出た。
東方の果てには、薄く、明星の輝きやある。
設定にちょろっと書いといた『なんかヤヴァイ奴』以外の呪術系には、科学的な設定があります。
話は変わるが、ガルパンはいいぞ。




