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正統なる叛逆者  作者: 太占@
23/36

ガリア人

前話の前後書きに即座に反応した読者がいた。

最高だ。


……フランス人、アイルランド人の方、怒らないで。

(まあ、現在はほとんどケルト系じゃないし大丈夫だろ)





 ◇◆ロロ視点◇◆ 


 丘を下り、第一軍団の陣へ至る。

 

 陣外から眺めれば、天幕の設営間隔は整っており兵の士気も高く、第二軍団との差が顕著に見られ、心なしか羨望の念を感じなくもない。


 「止まれ、何者か」


 歩を進めていると巡回中の部隊に制止される。

 この者達を見るだけで装備の質、兵の練度に於いて、如何に新設部隊が脆弱であったかは瞭然だ。


 なにせ素人による暗殺が横行する程であるからな。


 「第二軍団所属ミラ歩兵大隊麾下第二中隊隊長ロロである。軍団長閣下に申すべき由あって参り候う」


 呪文みたいな所属だな。

 

 「…………。ええっと、第二軍団からの使者ということでしょうか?」


 「ん?あぁ、そうだ。頼むよ」


 「了解しました。暫し」


 そう言って巡回兵の一人が陣の奥へと駆けて行く。



 ……なんで北方古代語を使ってしまったのか。

 しかし、案外と通じるものなのだな。

 市井に北方古代文字を使えるものは無いというのに、音声が通じるとは奇妙に感じるが、『識字』という言葉が存在することを思うと、それは当然のようにも感じる。



 ……文字、か。

 口伝では廃れ行く知識を残すべく編み出された()ならば、唯一神教の『知恵』とはこのことなのかもしれない。

 


 



 ◇◆◇◆


 リザに馬と手土産を預け、『暫し』待った後、本陣……ではなく軍団長の天幕に通される。


 ……なんで?

 好都合だが。



 「久しぶりだね!ロロ、ボク(Moi)のこと、憶えてる?」


 清流のように流麗な金髪に、煌めきを幻視させる程艷やかな金髪。

 腰ほどにまで伸ばした金髪を遊牧民の如く馬の尾に似せて結った金髪。

 それに加えて、碧い瞳。

 どれもノルド人には無い特徴だ。


 忘れもしないさ、ガリア人め!


 「おお!ヘレン様ではありませんか!もちろん、共に学んだ日々の記憶は新しく、ヘレン様のご活躍は昨日のことのように思い出せます。……いや、ここはヘレン伯とお呼びすべきですかな?」


 「もう、伯なんて照れるなぁ。まぁ、ロロなら好きに呼んでいいよ!」


 ティセリウス辺境伯家子女、ヘレン・ティセリウス。

 辺境伯であるように、ティセリウス家は宰相を務めるヒスティア家と同じ親国王派なので、彼女とはミラ嬢を介してだが学院で交流があった。

 辺境伯家だけあって文武ともに優れていたと覚えている。


 そして、子女でしかない彼女を伯と呼ぶのは彼女が当主名代として軍を率いているようであるからだ。

 王国唯一の辺境伯家が第一軍団を率いるのは当然のことだが、まさか子女が率いているとは、驚きである。


 ……親父と兄殿はどうしたのか。



 ちなみに、彼女の名はノルド語で呼べは『ヘレナ』だが、ここはあえて『ヘレン』とガリア風に呼んでおこう。

 その方が彼女の機嫌を取りやすいだろうからな。


 ……そういえば、リザの瞳は琥珀色だったな。

 アンバー(Amber)とは、実に狼らしい。


 「いやぁ、覚えててくれたんだね。ボク、学院の外でロロと会ったことがなかったからさ、ちょっと心配だったんだ。あ、でも、君が────」


 「お嬢様。思い出語りは後ほどになさった方がよろしいのでは?」


 ヘレナ伯の従者と思われるノルド人の騎士が声をかける。

 20歳と少し、だろうか?

 端整な顔立ちに、それほど主張は強くないが、充分に鍛えられているとわかる肉体。


 きっと良い騎士なのだろう。


 「そうだった!用事があって来たんだもんね!ロロ、何の用だい?」


 「それではお伝えしたく、と言いたいのですが、その前に、お人払いを」


 「……む、失礼な。先代よりティセリウス家に仕える私を信用ならないと言うのか」


 先代?

 ティセリウス家の現当主は先代の晩年に産まれたはずなので、先代から仕えていたとするとイワン殿並の高齢となるのだが……?

  

 「いえ、そういうわけではありませんが、これは戦の趨勢に関わるやもしれんのです。それ程重要な情報を他家の者に聞かれては困るでしょう。あなたに、ヘレン様のような()()ができるならば別ですが」


 腹芸。


 そう、巡回兵は私のことを『第二軍団からの使者』と伝えたはずだ。

 退却したとはいえ軍団の使者を迎えるならば、本来は軍幹部の集まる本陣に通すはず。

 

 しかし、私は軍団長のヘレナ伯の天幕にいる。


 これの意味することは簡単だ。

 ヘレナ伯は私の手土産を自身の手柄とするつもりなのだろう。

 なにせ、中隊長は軍議に参加できないからな。


 「当たり前だ!私とてそのくらいはできる!!!」


 はてさて、その反応の示すのは如何に?

 そもそもからして、脳筋な騎士に戦闘以外に何ができるのか。


 「では、先程からヘレン様が仕掛けている───」


 「……ロロ、その辺にしておこう。アインスも外に出て」


 当たりのようだ。


 ……彼、アインスというのか。

 灰髪なのでノルド人とおもったが、名前からして混血か?


 「ですがお嬢様」


 「アインス、出て」


 「っ、……かしこまりました」


 そう言ってアインス君は天幕から出て行く。

 

 ……デジャブを感じたが、今回は睨みつけられなかったな。


 「さて、これで2人っきりだ。わかっていて来たという事は、君も何か考えがあるんでしょ?……さあ、じっくりと話合おうじゃないか!」


 純朴そうな顔をしてこちらを謀ろうとするとは、なんとも怖ろしいことだ。


 

 ガリア人、滅べ。


 

※注釈


ヘレナ伯が話した『Moi』はガリア語の『私』とか『ボク』って意味。

『ボクのこと、憶えてる?』は、『ロロ』が主語なので、『Je』ではない。


ロロたちノルド人は『私』を『jag』とか『jeg』とか言う人種。



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