哲学的真理
◇◆◇◆
ある哲学者は言った。
「万象の『存在する』には意味がある」と。
また、別の哲学者はこうも言った。
「万象の『存在する』に意味は無い。ただ在るだけ」と。
この2つを知り、完全にではないにしろ、ある程度の理解を得たとする上で、私はこう言いたい。
「どちらにせよ、万の現象の『存在する』は確実で、それらは何らかの現象の作為によって、その時、その場所に、『存在する』のである」と。
◆◇ロロ視点◆◇
騎士君を捕らえたは良いものの、それによって心がかりが出来てしまった。
貧相な胸にある神聖帝国の貴族の紋章とガリア風の可愛らしい容姿に、これまた乙女の様に華奢な体躯。
肩で切り揃えられた流麗なる金髪と仄かに香る少女特有の甘酸っぱい体臭。
しかし、馬に積む時に不本意ながらも確認できてしまった股間のモノ。
これは…俗に言う『男の娘』と言うものではないか!
『男の娘』
……なんと背徳的な響きだろうか!!!
男なのに娘という絶対的な矛盾を抱えているにも関わらず、それでいて理性と本能が手放しで肯定する『存在』。
それは則ち、真理である。
本能と理性の肯定を以てしても矛盾を感じるという事は、単に私の知恵と知識が不足している事実を示しているのであり、それと同時に、己の不足補うる叡智を内包した真実が、そこに存在しているということなのだ!!!
今までは小姓を囲い衆道に耽る男……いや、違う、彼らは漢だ!
私はその漢達の存在を『生命に対する冒涜』と軽蔑していたが、真実、私こそが軽蔑される側であった。
彼らは真理探求に余念の無い崇高なる哲学者であり、孤高の求道者なのだ。
思い返せば、学院で密かに解読していた古文書に名を残す賢者達の多くも衆道を嗜んでいたと書かれていた。
ならば、『男の娘』が真理であると歴史が証明していると言っても過言ではないのだろう。
あぁ……、私は真理の一端に触れた。
これをモノにせずして、どうして学士を名乗れようか!
今、我が心は、生の悦びに満ちている!!!
「落ち着くのだな、ご主人。心の声が駄々漏れだぞ。大音量で」
む、活動を自意識下に置けていなかったとは……。
気をつけねばな。
「ならば、話についてこれますね?」
彼女ほど賢い者ならば哲学は余裕だろう。
「いや、まあ、言ってる事の理解はできるのだかな、その、何というのか……」
「ええい、歯切れの悪い!」
「……。話の筋は通ってるとように聞こえるのだが、腑に落ちないのだな」
「ええ、そうでしょう、そうでしょうとも。かつての私もその様でした。ですが、こう考えてもみて下さい。『真理とは、容易の人知では受け容れることすらできないのだ』と」
「む、むむむむむ………!そう言われると……。だが、納得したくないぞ!……そうだ!唯一神教は同性愛を禁止しているのだな!」
「ふっ、甘いですね。私は森司祭ですが、それ以前に一人の学徒として、もちろん聖典には目を通してありますよ。……いいですか?聖典は『神の教え』をまとめた物とはいえ、所詮それを作ったのは人間です。彼らの神が『存在する』ことを前提として、その神が真理を示したところで、人間如きがそれを正しく解釈できると思いますか?それに、聖典によると人間は『知恵の真理』を手に入れたとあります。そして、神は人間がさらに『生命の真理』を得ることを恐れている、ともあるのです。それらの『真理』が何であるのかは私の知るところではありませんが、ここまで来れば、唯一神教が同性愛という『真理』を禁ずる理由ぐらいは察せますよ」
「ううぅ………………………」
◆◇リザ視点◆◇
次の軍に向かう途中で収入になりそうなチビッ子を捕まえたと思ったら、突然、ご主人が気の触れた様な演説を始めた。
演説の内容があまりにも倒錯的且つ狂気的だったのでご主人の正気を取り戻そうとしたのだが、いかんせん、ご主人は頭のキレが良すぎる。
あらゆる反論が全て丸め込まれてしまった。
いつもならば論破された時点で納得しておくのだが、しかし、内容が内容だ、今回だけは放っておけない。
ご主人の気質として、容姿は悪くない上かなり賢く、纏う貧しさを隠しきれていないがその心の高貴な事はそれ以上に明らかなので、女受けは良さそうなのだが、最北の氷河の如し雰囲気と瞳に宿る虎狼の心は、なまくら以外の何者も寄せ付けなかったはずだ。
で、あれば、少々下世話なのだろうが、おそらく、ご主人に女性経験は無いだろう。
性交渉はもちろん、恋愛経験もだ。
……女を抱いたことも無いのに男を抱くとは、さすがに憐憫に堪えない。
なんとかしてご主人の興味を逸らさねば……!
評価……。
作品の評価が欲しいのはいつものことですが、今回はこの話の評価も聞いてみたい。
(Twitterとか感想で教えて)




