Loyalty
メタルギアソリッド3のThe·Bossが好きです。
◇◆リザ視点◇◆
辛い事は、嫌だ。
この事は生きとし生ける全ての生命に於いて共通だろう。
ならば、万物の生より可能な限り苦痛は除かれるべきであるはずだ。
そして、己が生の幸福を希求するならば、良心をまたは生命への畏敬を持つならば隣人のそれを見過ごすべきでないと、私は信じている。
………「孤独を怖れる」と、ご主人は言ったのだ。
◇◆第一小隊天幕◇◆
我々第一小隊は全員が元傭兵だ。
そしてその隊長である私は、彼らならば目的の物を持っていると知っている。
そもそも、傭兵の誰もが好き好んで阿漕な商売をやっているわけではない。
人間ならば食い扶持減らしか親無しかといったところだろうが、総じて貧困が原因である。
ゆえに傭兵が剣や弓といった正規の武装を持たないことも珍しくない。
とはいえ武器も持たない傭兵が雇ってもらえるはずがないので、そういった者達は棍棒や斧などを武器とするのだが。
……資金不足の国の正規兵でも見たことがあるな。
ともかく、今ここにいるのは斧を拝借するためだ。
貧者からなけなしの武器を無断借用するのは気が咎めないでもないが、この戦が終われば所詮見ず知らずの他人。
ご主人の中での株を上げるため、弱肉強食の真理に従ってもらおう。
焚き火の傍で寝転がっている隊員が熟睡している事を確認し、片手斧を貸してもらう。
『酒は飲んでも呑まれるな』って言うだろう?
寝ている君が悪いんだ。
リザは戦斧を手に入れた!…なのだな。
◇◆◇◆
夜。
それは狩人達の世界。
夜の闇は地上に遍く光を奪い、光を失った者達は隠れ潜み、身を寄せ合い、隣人の温もりを感じることで不安を紛らわす。
されど、その温もりも闇の住民の前では蟷螂の斧に過ぎず、己が全て共々、暴虐に冦掠されるのみ。
そして、私の体には獣の肢、獣の耳、獣の眼がある。
そう、我々オシワケ之生尾人は闇の世界の住民なのだ。
……今宵の獲物は決まっている。
さあ、狩りを始めよう!!!
天幕の配置は大隊本体である第一中隊を中心にした円状で配置されている。
しかも、陣中を警備をしている兵はいないため、先程の第三中隊長の時と同じく、目標である第四中隊長の天幕に辿り着くのは容易であった。
足音で気づかれぬよう、忍足で天幕の入り口に近づき、フードを外して聞き耳を立てる。
文字通り自慢の狼耳を立てて音を拾うのだ。
……………。
長い間隔で深い呼吸が聞える。
よし、眠っているのだろう。
音を点てないよう慎重に入り、内部を見渡す。
持ち運びできる折り畳み式のテーブルに、何を入れているのかはわからないが大型の背嚢が3つ。
この香りだと蒸留酒だろうか?
テーブルの上には高級そうな鮭便とまだ中身の残っているジョッキが置いてある。
そして、何よりも目を引くのが騎士の全身鎧だ。
新調したばかりなのだろう。
傷らしい傷は無く、全体的に輝いて見える。
……そういえば、第三中隊長の天幕にも全身鎧があったな。
たしか、中隊長級は騎士階級にあたるのだったか。
ご主人の鎧はどんなものなのだろう?
一通り観察を終えて貴族階級の暮らしぶりを羨んでいると、大変なことに気づく。
肝心の第四中隊長が見当たらないではないか!
「うぅん……。Zzz………」
そこか!
……いない?!
とっさに音のした方向に斧を構えるが、そこにあるのは丸まった絨毯だけである。
……もしや、この絨毯に。
近寄って素手で触れてみるとそれは仄かに温かく、絨毯にしては異様にフカフカである。
どうやらこれは絨毯ではなく毛布のようだ。
……まさかこれ程に贅沢な毛布があるとは。
世界は広いのだなぁ。
ともかく、獲物を見つけたのだから狩ってしまおう。
頭部出るように毛布を剥ぎ、貴族様のご尊顔を拝する。
……それなりにイケメンだな。
斧を持った手を大きく振り被り、首筋を目掛けて振り下ろす。
ザッ゛バァッッ!!!
よし、と。
それでは騎士様にはご同行願おうか。
首だけだが。
◇◆◇◆
待ち合わせ場所である死体置き場の近くまで来ると、骸の山の傍らにある篝火で暖を取るご主人が見える。
……ついにここまで来てしまった。
柄でない事はわかっているのだが、どうしても緊張してしまう。
『孤独を怖れる』ご主人の代わりに暗殺を実行することで評価を高めようと考えたまでは良かったが、思わぬ落とし穴があった。
私生活で、仮にも異性に何かを贈るということが初めてなのだ。
捧げ物を気に入ってくれるだろうか?
もし受け取ってもらえなかったらどうしようか……。
無駄だとわかっているが、それでも思考の奔流を抑えることができない。
あぁぁぁぁぁぁ……!!!
◇◆◇◆
「戻りましたか…。それで、見せたいものとは?」
来てしまった!
来てしまったのだ!!
女は度胸、覚悟を決めろ、リザ!!!
「ごっ、ご主人!これを受け取ってほしいのだな!!」
勢いよくご主人の眼前に首級を突き出す。
ミシミシミシ…………
ああっ!
爪が捧げ物に!!
「おぉ……。ニック君、なんとも変わり果てた姿ですね……」
「わ、私が獲ってきたのだ!」
「……。中々に粋な捧げ物ですね。生尾人流の忠誠の儀、というわけですね。ならば受け取りましょう。……さすがに棄てさせてもらいますが」
「棄てるのか………。あ、いや、それもそうなのだな!代わりに今度別の物を───」
「必要ありません。その気持ちで充分です。……そう、文字通り。…忠誠の儀は贈った『物』が重要なのではなく『自身と相手にとって意味のある物を贈る』という行為が、その本質なのです。ですから、リザ。あなたの忠は既に示されました」
「…………。よし、なら改めてよろしくするぞ、ご主人!」
「ええ。こちらこそ。……戻りましょうか」
これが貴族の風格か……。
カッコイイな。
……15話まで読んだのだ。
そろそろブクマと評価をしても良いんじゃないかい?
感想とかレビューとかTwitterでの宣伝とかしても良いんだよ!!!




