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正統なる叛逆者  作者: 太占@
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女騎士

 森司祭的には、神≒精霊 です。

 日本の八百万信仰のようなものだよ。

 

 第一話を改稿しました。

 その後はホープ殿が俯いて話すのをやめてしまったので、終始無言のまま本陣へ至った。


 天幕に入るとそこには既に私達以外の3人が居たのだが、ケンカでもしたのだろうか?

 ハーシュ、ニックの両名の顔には影が差し、イワン殿からは怒気が見て取れる。


 何があったのか少し気になるが、触らぬ神に祟り無しだ。


 …障らぬ、か? 


 神に触ると祟りがあるのか、神が障ると祟りがたるのか。

 神が障ると祟りがあるというのは納得できるが、諺の意味を考えると前者の方が正しい気もする。

 だが、触れられただけで相手を祟るような狭量な存在を奉じたくはないな。


 …今、信仰が試されている。











 ◆◇◆◇


 「皆、待たせたせましたね。それでは軍議を始めましょう」


 触りと障りのどちらが正しいのか、私の信仰はどの程度なのか、という森司祭として重大な問題に決着がつかないまま、ミラ嬢が入室して軍議が始まってしまう。


 ……天幕に入る一瞬の間に見えた暗澹たる面持ちは気のせいだろうか?

 気のせいであってほしい。


 「戦果報告は見ました。聯隊で最大の戦果です。これ程の戦果が得られたのは単に皆が勇敢にして優秀であるからに違いありません」


 右翼が一番の激戦だったのだ、戦果最大はあたりまえだろう。

 当然、その前線で指揮していた我々がそのことを知らないはずが無い。


 わざわざ言ってくれなくてもよいのだよ。


 「精鋭の騎士団や騎兵隊にほとんど戦果はありません。それに比べて初陣の我らがこれだけの戦果を上げた。この事実こそが君達がいかに精強で──」


 またもや同じような話を…

 と、思ったが、小賢しい私は気づいてしまった。


 たしかに、繰り返し言い聞かせれば、そうは思えるかもしれないな。

 だが…


 「ヒスティア卿。そのようなことは無駄です。止めましょう。帰れば、再び見ることになるのですから」


 「…………。本題に入りましょうか。先程、本隊から連絡がありました。敵主力に動きがあったため第二軍団も移動するとのことです。出発は明日。編成を含め、準備をしておくように」


 「「ハッ」」


 「それでは解散です」


 天幕に近いニックから順に出て行き、最後に私が出て行く。


 やれやれ、運良くミラ嬢の思惑に気づかなければ無駄話に付き合わされるところだった。

 それを阻止できたのが私の本日一の功績だろう。


 さて、戻って編成を考えるか……


 「ロロ。君は残り給え」


 「……了解しました」










 ◆◇◆◇


 「周囲には誰も居りませぬ。人払いは済みましたぞ」


 「そうですか。では、イワン。お前も帰りなさい」 


 「なっ!ですが、それではこの男と二人きりに…」


 戦場の血気に充てられて気が昂りましたかな?

 お若いことで…


 「はぁ……。…案ずることはありません。お前が思っているようなことは起きませんよ。彼はそのような下らない男ではありませんから。それに、これから話すことは万一にも漏れてはいけないことなのです」


 残念ながらミラ嬢の眼まなこは御曇りになっておられるようだ。

 口には出さないが、私とて下らない事を考えることもあるのだ。


 「……わかりました。お嬢様がそう言うのでしたら…」


 そう言うとイワン殿は天幕から出て行く。


 すれ違いざまに睨みつけられたのだが、結局それきりで何の罵声もない。


 下世話な妄想を見抜かれたか?

 いや、私とは口をききたくないだけか。


 嫌われる覚えはないのだが、いわゆる『反りが合わない』という奴だろう。

 私も彼とは仲良くはできそうにない。 


 ……私と仲良くしている人間が思い当たらん。


 「すみませんね。良い人なのですが、頑固というか情動的なところがありましてね」


 「そうですか。して、何用ですかな」


 イワン殿がどの様な性格であろうと興味は無い。


 だが、ミラ嬢は答えること無く、荷袋から上等そうな酒の革袋を取り出し、ジョッキに注ぎ始める。


 私の質問に答えるよりも酒の方が大事ですか…

 それがあなたの応えなのですね。


 「イタロス産のものですよ。どうです?」


 イタロスというと葡萄酒か。

 蒸留酒がよかった。


 贅沢は言いませんけどもね。


 「遠慮しておきます。そのジョッキ一杯をとっても私には身に余る物でして」


 蒸留酒ならば言い訳つくが、戦地で酔う様なことがあっては一生の恥である。

 とはいえ、ミラ嬢が飲むというのにそれを言うわけにはいかない。

 ゆえに『私の私財など無いに等しい』と辞したのだ。


 お貴族様の物とはいえ、戦地で使うジョッキの一つや二つは買えるが。


 ………買えるはずだ。



 しかし、そんな私の苦悩に関わらずミラ嬢は2杯目のジョッキにも注いでゆき、無言で差し出してくる。


 遠慮するというのは『遠回しに相手を慮る』という意味ではなく、慣用句として『いらぬ』と言ったのですよ。


 わかってます?

 わかってますよねぇ…はい。

 『飲め』ということですね。


 だが、私は権力などには屈しない無い!

 何があろうとそのジョッキは受け取らんぞ!!


 「私の酒が飲めないとは…。どれ程有能でも側には置きたくないですねぇ」


 「喜んで頂戴します」


 うぅ…権力には勝てなかったよぉ……


 

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