振袖の選び方
――二十歳になるお嬢様方へ――
この度ご成人おめでとうございます。
成人式に向けて振袖をこれから選ばれるかと思います。
高校卒業する頃には色々な会社から振袖のカタログ、勧誘が山のように届いているかと思います。
お母様をはじめとしたご家族ご親戚からも振袖の話題を振られることもあるでしょう。
成人式も近づけばご友人同士でも振袖が話題にあがることもあるでしょう。
ですが、誰も振袖の選び方を教えてはくれません。
それもそのはずです。
――だって振袖はただの衣服ですから――
好きな物を好きなように着ればいいんです。
成人式はお嬢様あなたのお祝いです。
主役はあなたなんですから。
でも、それが難しいんですよね。
それでは振袖の選び方と参りましょうか。
早い方で18歳で、大抵の方は19歳で成人式の振袖を決められます。
レンタルでもご購入でも本番の成人式の前年のお正月から夏までに、遅くても秋に入る頃まで選ばれるといいでしょう。
夏を過ぎると人気のあるものは残っていません。
カタログがあるくらいですから一点物じゃありません。
もちろん一点物だってありますが、それは何百万もするような作家物と呼ばれるブランド品です。
100万円位までで揃えようと思っていらっしゃるなら誰かと同じものを着ると思っていて間違いありません。
誰かと被りたくないなら大枚をはたいて買って下さい。
高い商品が売れると喜びます。
秋を過ぎ、冬になればもう振袖は在庫の中から選ぶしかありません。
もう最悪なのは11月、12月に選ぶ方です。
レンタルでは10年以上も昔に流行ったようなダサいものしかありません。
ご購入でも本番までに仕立てが間に合うかどうかです。
早く仕立てるために無駄に仕立て代を上乗せされることもあります。
じっくりと選ばれることは大切ですが、あまりに遅いと好きな物が着られないかもしれません。
カタログに『数十点セット』と記載があり、その数が多い方がいいように思うかもしれません。
アレは着付けに必要な道具の数を示したものでその数字に意味はありません。
酷いものでは仕立て代もその数に含まれていました。
『数十点セット』は着付けに必要なものが揃っているくらいに捉えて下さい。
カタログによくあるセット内容としては『振袖』『帯』『長襦袢』『ショール』『帯締め』『帯揚げ』『草履』『バッグ』『髪飾り』『着付けに必要な小物』で総じて数十点でしょうか。
中には『前撮り』『当日の着付け・ヘアメイク』もありますね。
『前撮り』『当日の着付け・ヘアメイク』が付いていたらラッキーって程度に思って下さい。
『前撮り』『当日の着付け・ヘアメイク』は自分で探して見つけるものだと思っていた方がいいです。
呉服屋さんも『当日の着付け・ヘアメイク』を幾らか用意はしていますが、当日スタッフの確保が大変なんです。
浴衣と違って振袖の着付けは複雑ですから……
話がそれてしまいます。
肝心の振袖選びですが、憧れの振袖のイメージがあるならそれを伝えて下さい。
昔からある古典柄、流行りのモチーフ柄、幾何学模様、昔ディズニープリンセスの柄を見たことありましたけど今でもあるのでしょうか。
まず、ご自身が一番好きな色から見て参りましょう。
次によく着る服の色です。
好きな色は誰にでもあるかと思います。
ピンクが好き、青が好き、好きな色は似合います。
だってあなたの色ですから。
例えばピンクが嫌いな人はピンクの振り袖を選んでも似合いません。
ピンクと一口に言っても沢山の色があります。
明るく薄い色合いのものからくすんだ色合いのものまで様々です。
ピンクが好きな人は好きなピンクをよくわかっているからご自身に似合うピンクを見つけられるんです。
嫌いな色だとこうはいきません。
次によく着る色ですが、今の時代黒や白を着ている方が多いと思います。
もちろん黒や白も人気のある色ですからいいのですが、幼い頃によく着せられていた色を浮かべるといいでしょう。
さすがに幼い頃に黒ばかり着ていたって方は少ないと思います。
幼い頃親御さんが選んでくれていた服の色は今のあなたにも似合います。
不思議ですよね。
試着で合わせたときに違和感を覚えた色は勧められても弾きましょう。
それは絶対にあなたに似合っていません。
大人の事情です。
次に柄ですが、『古典』か『今風』や『モダンな柄』と言われる洋花をあしらったものどちらがいいのか大まかに決めます。
その中に好きな花嫌いな花があったら先に伝えて下さい。
『今風』には薔薇が描かれていることも多く薔薇が嫌いな人に薔薇は勧められませんから。
この柄選びが一番難しく、わからないといわれることが多いです。
「どれが似合うかわからない」
当たり前です。
普段から着物に慣れ親しんでるお嬢様なんて殆んどいません。
「七五三以来着ていません」
「浴衣も着ません」
どうせ着物文化なんてそんなものです。
……愚痴ったとこで仕方ありませんね。
好きな色、似合う色を見つけ、古典か今風を決めたらスタッフがあなたの好みに合うだろうと予測した振袖を広げてくれます。
全てを試着するのことは止めましょう。
あなたの体力が持ちません。
スポーツに自信があって、自他共に認める体力バカでも無理です。
その店舗で、一日で試着出来る数は2、3枚が限度です。
試着の最中に体調を崩されるお嬢様は多いです。
広げてくれた振袖をインスピレーションで選んでいきます。
ここでは多くても10枚くらいまでしておくといいですね。
次に試着とまではいかなくても鏡越しで顔に合わせてくれます。
洋服屋さんでも試着とまではいかなくても鏡越しに合わせるでしょ? まさにそれです。
そこで気になったものを2、3枚に絞ります。
ここでいいものがなければ再び振袖を広げて見せてもらいましょう。
気になった振袖を着せてもらったら次は帯です。
振袖は着姿全体の面積が大きいので一番こだわりを持って選ぶと思いますが、要は帯です。
振袖に対して安いチープな帯を選ばないよう気を付けましょう。
振袖価格100万円に対して5千円の帯を合わせられていた方がいましたが、っそれはもうかわいそうなくらいチグハグなコーディネートでした。
ご予算内でどうしてもその振袖が気に入ってしまったのなら仕方がありませんが、100万円の着物にはそれなりのものを合わせましょう。
例えるならバラを使ったブーケにバラ以外の花が造花だったくらいチープでチグハグになります。
値段ではありませんが、着物より高い値段の帯の方が素敵に着られます。
……話がそれました。
帯の色合いは振袖に比べると数が多くありません。
稀に青や赤といった色合いのものがありますが、大抵は『金系』『銀系』『黒系』に分けられると思います。
今、あなたが着せられている振袖にそれぞれのお勧めを当ててくれると思いますのでその中から選ぶといいでしょう。
しっくりこない場合は帯の柄が悪いので変えてもらいましょう。
ここまでくればあと一息です。
その振袖を飾る小物を選びます。
男性のスーツでいうとこのネクタイやベルトといったとこでしょうか。
ここを適当に選ぶとダサい振袖になります。
上から半襟、伊達襟、帯揚げ、帯締めとなります。
まず半襟ですが、真っ白の柄のない半襟は一昔も二昔も前の流行りです。
今は刺繍や、プリントのされた可愛いものが沢山ありますのでその中から選んでください。
首の長い方はそれこそ振袖に合わせて好きな柄を選ぶといいと思いますが、首が短い方は真っ白な半襟をお勧めします。
顔回りがスッキリ見えますよ。
真っ白でも刺繍が施されたものがありますので古くさいコーディネートにはならないと思います。
伊達襟の選び方ですが、これはスタッフのお勧めのままに選ばれて間違いないと思います。
着物にネックレスを付けられないのでその代わりのようにラインストーンやレースのついたものも素敵です。
ですが、古典柄にこれを選ぶスタッフはセンスを疑います。
この伊達襟は十二単の名残ですから何枚使ってもいいのですが、さすがに5枚は多いと思います。
実際に写真映えはしますが、着崩れの原因にもなります。
振袖の帯揚げといえば、鹿の子絞りです。
これも素敵ですが、綸子やレース、スパンコールなど様々な素材があります。
これもスタッフの勧めに従って大丈夫かと思います。
帯締めは今色々なものがあります。
ただの組紐だった帯締めに飾りがついたものが主流となっています。
カタログのコーディネートを見れば一目瞭然ですが、組紐を結んだだけのものはないかと思います。
大抵の店舗でそうだと思うのですが、半襟、伊達襟、帯揚げ、帯締めはオプションで好きなものを選ぶ形だと思います。
『数十点セット』に含まれる半襟、伊達襟、帯揚げ、帯締めは二昔前の流行りにそったものであることが多いと思います。
真っ白な柄なし半襟。
伊達襟、帯揚げ、帯締めに関しては同じ色の3セット。
悪くはありませんが、予算が許すなら半襟と、帯締めだけは流行りのものに変えましょう。
オールセットだとあなたの振り袖姿が古くさいものになってしまいます。
ショールはセットでもオプションでも好きに選んで下さい。
お母様の勧めに従うといいでしょう。
髪飾りは大きなお花を使ったコサージュも素敵ですが、つまみ細工の簪も素敵です。
このどちらかを選ばれる方が大半です。
素敵だと感じるのは生花ですね。
お花屋さんで生の花を髪飾りに加工してくれるので検討してみてください。
お花を直接美容師さんに渡しても「きれいな花ですね」だけで終わってしまうので、ちゃんとお花屋さんで髪飾りに加工してもらうことを忘れてはいけません。
草履とバッグですが、これはレンタルでもご購入でもちゃんとしたものを選びましょう。
セットでいいや、可愛いから、格好いいからだけで選ぶと草履は痛くて歩けません。
靴と同じで慣れない草履は靴擦れを起こしますし、普段から履かない、慣れない草履です。
少しでも歩きやすそうなものを選ぶことが大切です。
低反発素材などの足の痛くなりにくいものがありますからね。
成人式当日は夜中から着付けをして式典に挑みます。
もうそれだけで疲れますよ。
それに加えて足が痛いとか、笑ってご友人と写真撮れますか?
ひきつった顔でおしゃべりしたいですか?
振袖に使った半襟、伊達襟、帯揚げ、帯締め、草履、バッグ、その後の人生で使えますよとスタッフは必ず言います。
そんなことまずありません。
だってそれらは振袖に合わせて作られた商品ですから。
中には例外もあります。
草履とバッグです。
この先の人生の中で着物を着なくてはいけない日がこないとも限りません。
それは大抵、訪問着などのお祝いの席に着るものだと思います。
意外と草履、バッグを疎かにしている方多いんです。
バッグは流行りがあるかと思うのでそこまで気にしなくてもいいかもしれませんが問題は草履です。
成人式に痛い思いをした草履をまた履くかと思うと気が重くなります。
この時に成人式に使った草履とバッグがあると重宝します。
もちろん選び方があります。
振袖に合わせた可愛いもの、格好いいものはダメです。
それは振袖用の商品です。
振袖に合わせることは大事ですが、ここでお母様が使っても違和感がないかどうか考えましょう。
お母様が使っても違和感のない草履とバッグでしたらこれから先使うことができます。
地味じゃないかと思うかもしれませんが、振袖のカタログに載っている草履とバッグの中には留袖(結婚式でお母様が着ている黒い着物)に合わせるものもあるんですよ。
以上が振袖の選び方です。
1枚試着するだけで1時間から2時間掛かります。
さすがにオープンからクローズまで振袖選びに粘る方はいませんが、半日ずっと店舗にいる羽目になることもざらではありません。
一生に一度のことですから皆さん真剣です。
何度も店舗に足を運んで気に入ったものを見つけて下さい。