8.オーク砦突入
私達は見つかることを警戒し、火を焚くこと無く樹海の中で冷たい食事を済ませた。まだ日没前だが、昼でも火を焚くと煙が上り発見される恐れがある。潜伏中は、火を簡単に使えないのだ。冒険中の食事は味気ない。ほとんど保存食の固いパンと干し肉と干し野菜が中心だ。水で戻して調理することも出来るが、火を起こせることが出来ないことの方が多い。
そろそろ街を出て一週間以上経つ。街の熱い食事が恋しくなってきたよ。
日没から一時間経過し、辺りは充分暗くなっている。
オークが居る岩山の方に目を向けると篝火らしきものが十数本以上見える。どうやら、結構大きい規模の砦のようだ。ふふっ、楽しみ。
「このゴブリンって、まだ何か知っているのか?」
ウォンが木にぶら下げていたゴブリンを下ろしながら尋ねてくる。
「そうですね。もう一度、確認をしておいた方が良いでしょう。もしかすると何か話をする気になっているかもしれませんし」
カタラが答える。カタラは真剣にまだ情報を引き出せる気でいるみたいだ。
でも、このゴブリンは岩山の手前に草原があるって一言も言わなかった。
多分、協力するつもりはないか、もう何も知らないだろう。ゴブリン語ならカタラも話せるし、よし、二人に任せておこう。面倒だもん。
『お聞きします。オークは何匹居ますか』
ゴブリンを大地に座らせ、正面に仁王立ちでカタラが聞く。ウォンは後ろでゴブリンを縛るロープの端を握っている。
私は、少し離れて椅子代わりになる岩に腰掛け、この茶番を楽しむことにしよう。
『俺は知らない。中に入ったことがない』
まぁ、そう答えるよね。
『本当の事を話して下さい。そうすれば命を助けます』
無理、無理、さっきゴブリンの村で皆殺しをしたでしょうに。信じるわけないよ。
『嘘だ。俺の仲間、子供も殺した。信じない。おれももうすぐ殺される。分かっている』
だよね。私がゴブリンの立場ならそう思うよ。それに、こいつは村で一番強そうな奴だった。肝も座っている様に見えるよ。
『正直に話してくだされば、解放します。あの砦はどの位の規模ですか』
解放するわけないでしょう。解放して寝ている処を襲われるのはゴメンだよ。止めは刺すよ。ごめんね、カタラ。それに砦の中に入ったことがないのなら規模は分からないと思うよ。
『知らん。オークは、ゴブリンを砦に近寄らせない。用がある時だけ村に来た』
『用って何かしら?』
『食料の調達だ』
『オーク自身は食料の調達はしないの?』
『しているが、不足の時に奪いに来る。これ以上の話は、時間の無駄だ、さぁ殺せ』
『いえ、もう少しお話しを致しましょう。分かり合えるかもしれません』
いや、カタラ、無理。仲間を虐殺している人間を信じろと言って信じるのはアホだよ。
『無理だ。早く殺せ。分かっている。そこのエルフ、後ろの戦士に止めを刺して欲しい』
おっと、こちらに話が来ましたか。多分、匂いで種族が分かったのかな。
『彼はパワーファイターで、痛みを感じずに死ぬことは出来ないかもしれないぞ。私は技巧派だから急所を一撃で安楽死させることも可能だぞ』
『出来れば戦って死にたい。力の差は分かっている。仲間の仇、いや一矢報いたい』
『私は構わないけど、彼に聞いてみるね』
「いいのですか、ミューレ。ウォンと決闘させるなんて」
「いいと思うよ。本人の希望だし、ウォンが負ける可能性はゼロでしょう」
「俺がどうした?」
「決闘することになった」
「ふ~ん、そうか。何時だ」
「今から、止め刺していいから。聞ける情報は無かったよ」
「了解。ゴブリンにしては男前だな。決闘で死にたいとは。俺なら安楽死を選ぶね」
「嘘ばっかり、最後まで生にしがみつくくせに」
私は、ゴブリンのロープを解き、回収する。
『得物は何が得意なの?貸してあげるわよ』
ゴブリンは意外そうな顔を浮かべている。
『エルフ、おまえがそう言うとは思わなかった。そういう言葉なら戦士が言ってくれると期待していた。そうか、お前も戦士の心を知る者だったのか。残虐で冷酷な奴だと思っていたが、それは地獄を見てきたからなのだな。では、ショートソードを貸せ』
フォールディングバッグからショートソードを一本取り出す。勿論、魔法のかかっている極上品だ。私の手荷物は一流品で揃えている。理由は単純。いざという時に換金でき、ノーマル品より重量が軽く多く携行が出来るからだ。
ところで、戦士の心って何かしら。初耳だな。ま、いいか。ゴブリンの言うことだし。
「おいおい、ミューレ。いくら何でも業物を渡しすぎじゃないか」
ウォンから不平が上がるが、本気じゃない。お約束の意思表示だ。
「仕方ないでしょ。ショートソードはこれしか無いんですよ~。それにハンデにもならないでしょう」
「やれやれ、何かあったら化けて出てやる」
「どうぞどうぞ、その時はカタラにお願いして天へ速攻で送ってもらうから安心してね」
「そっちの安心か。俺の体の心配は無しか」
「え、怪我するつもりなの」
「いや、しないよ」
「なら、心配いらないじゃない」
「そういうことになるか。こっちはいつでもいい。合図もいらない」
「じゃ、ゴブリンの都合で仕切るから。がんばれ~」
「おう」
ウォンは短く答え、ノーマルソードを抜く。全身から力を抜き、どこから攻められても良いように棒立ちになる。
剣の構えは、上級者になる程、自然体に近づいていく。上段や中段の構え等を取ると次の動きが限定される。
しかし、初心者にとって構えは非常に重要だ。剣の動かし方、体の捌き方の基礎をここで覚える。そして意識せずに形の動きを体に染み込ませる必要があるからだ。
だが、上級者のレベルに立つと突然目の前に壁がそびえ立つ。
構えを取ることにより、先読みをされてしまうのだ。攻撃パターンも読まれ、先に動いても、次に来る剣筋を読まれ、対処されてしまう。
上級者同士の対戦で睨み合いが発生する主な原因はここにある。お互いが数手先を読み合い、攻めあぐねるのだ。
そこで更に強くなり勝つために覚えた構えを捨てる必要が出てくる。
大いなる矛盾。一度手に入れた物を全て捨てる。気が遠くなるほど繰り返し続けてきた形の練習を一度白紙にし、師匠に教わった形から己の動きへと昇華させる必要があった。
そして、この壁を乗り越えた者だけが達人と呼ばれる。ウォンは、達人となるべく自然体の構えを選択し、壁を乗り越えた。
ちなみに私は身長が低いのでミディアムシールドにほぼ身体が隠れ、相手からは私が剣を抜いているのか、構えているのか、それとも呪文を唱える準備をしているのか見えない。シールドを正面に半身で構えるのが本気の時だ。
私は自分の体型を活かし、何とか達人の壁を超えた。
今、自然体で立っている戦士ウォンは、素人目には棒立ちにしか見えないだろう。だが、そこから出される技は無数。次の手を読むことは事実上不可能だ。
『いつでも、そっちの都合で始めていいそうだぞ』
ゴブリンがゆっくりとショートソードを中段に構える。剣術において中段の構えは、基礎中の基礎だ。一傷でも与えたければ、基本に忠実なのが良いだろう。どんな達人であっても基本形が基礎になっているのだから。
じわりじわりとゴブリンが間合いを詰めていく。先手を取るようだ。
達人相手に後手に回れば、自分の番は永遠に来ない。自明の理だ。
このゴブリン結構頭がいいな。間合いの見切り方が上手い。初心者を脱出する頃の冒険者になら楽勝で勝てただろうな。
ちょっと、ペットに欲しくなってきたが、もう遅い。一人と一匹は完全に死合っている。もう、私には止める権利がない。
死合が動き始めた。ゴブリンが中段からの突きを連撃で入れる。
しかし、ウォンはすべてロングソード一本で軽くいなしていく。その間、一歩もその場を動かない。やはり、力の差がありすぎたか。
ゴブリンの全身から汗が飛び散る。息が続く限り連撃を止めないようだ。
対してウォンは、汗一つかかず涼しい顔ですべての剣をいなし続ける。
一瞬、ゴブリンの速度が鈍った。息継ぎだ。だが、そんな一瞬を見逃すウォンではない。ゴブリンとカタラには見えなかっただろう。ロングソードがほんの一瞬、横一閃に動く。
ゆっくりとゴブリンの首が背中の方へ落ちていく。ゴブリンの首を切断した。
遅れて胴体の切り口から噴水のように血が噴き出る。
勝負あり。ウォンの勝ちだ。ゴブリンは自分が殺されたことに気づいていないだろう。体は脊髄反射で剣を突き続けている。しかし、重心がずれ、徐々に前へと崩れていき、地面に倒れ動かなくなった。
「ウォン、お疲れ様。お見事なお点前で」
「そうか、ミューレと稽古した方がマシだったな」
そうですか、私の剣術はゴブリンと比較される様なレベルですか。はぁ~、自分的には達人クラスだと自負しているのだけど、達人レベルでは下の方ですか。この化物め。
ゴブリンからショートソードを回収する。軽く剣の状態を確認するが、刃こぼれ一つない。ウォンのいなし方が上手かったのだろう。
カタラがゴブリンの両手を胸に組み、頭部を胸に載せている。そして、神への礼拝を始める。ま、その位の時間はまだあるか。ここはカタラの気が済むようにしよう。別に私が困ることじゃないし。
さて、完全に日は沈んだ。オーク砦をどう攻略するか。
情報がないんじゃ、近づいて様子を見るしか無いか。はい、いわゆる臨機応変って奴ね。別名、無計画。私達らしくて良いか。行き当たりばったりで先に進む。相手がオークならそれで押し切れるはず。
オークは、基本的に人間とほぼ身長は同じだが、マッチョ体型に豚鼻を着けた様な姿をしている。見たままの体型通りかなりの筋力を持っており、人間を片手で投げ飛ばすこと位は造作も無い。
性格は、凶悪獰猛で知恵も人間とほとんど変わらず、好んで悪巧みな思考をする。
普段はオーク語を話しているが、人間語も習得している事がほとんどだ。
水浴びをする習慣がゴブリン同様無いので、全身に苔の様な垢が溜まり、常に悪臭を放っている。繁殖力もかなり強く、人間と交配できるため、オークのオスに人間の女性が襲われるがことがよくある。そして生まれたハーフオークは、凶暴のため基本的に人間の中で育てられることはなく、生まれてすぐに処分される。オークの村で生まれた場合は、人間の血が混じったことによりオークの半分も力が出せず、オークの奴隷として一生を終えることになる。
ゴブリン一匹なら農夫が集団で退治することもできるが、オークになると農夫が束になっても敵わない。オーク退治には冒険者の出番となる。冒険者ギルドは、オーク退治を推奨し報奨金を出すくらいに人間の脅威となっている。
あとの問題は、他の化物がいないかどうかだ。オークは人間同様に他の怪物をペットに飼っていたりすることがある。知力のある怪物はこういう事も考慮しなければならないし、面倒なのよね。ま、何とかなるでしょう。
夜の草原は星明かりだけだ。ありがたいことに月は出ていない。しかし、カンテラや松明を点けるわけにはいかない。私達の存在をアピールすることになるからだ。
今回の隊列は、夜眼が効く私が前衛だ。代わりにウォンが後衛につく。夜間戦闘時の基本パターンだ。私の夜眼には昼間と変わらぬ光景が広がっている。何の支障もなく草原の出来るだけ草が高いところを選んで進んで行く。今のところ、砦に不穏な動きや変わった動きは感じられない。
まだ、オーク共に気づかれていないのだろう。草原を横断しつつ、念の為、風下方向に移動していく。音だけでなく匂いで私達が接近していることをバレぬようにするためだ。
意外と私も細かいところに気を使っているんだよ。ただの殺戮狂だと思わないでね。
オークの門番の姿がはっきり見える所まで近づいてきた。
一旦、行軍を停止し作戦会議といく。
三人みんな草原の中にしゃがみ込む。
「さて、入り口付近まで来ましたけど、どうしましょうかね」
一応、皆の意見を聞こう。パーティーを組んでるだからね。まぁ、答えは一つしか無いんだけど。
「切るしかないだろう」
と、ウォン。はい、テンプレ頂きました。
「こちらには、シーフもいませんし、静かに突入でしょうか」
と、カタラ。はい、予想通りです。
やっぱり、シーフかアサシンが居れば作戦も広がるんだろうな。無いものをねだってもしょうがない。
「了解、では静かに突撃で。剣は極力近くまで抜かないでね。剣を早くに抜いて反射で見つかるのは勘弁なので」
「おう、わかった。つまり、いつも通りだな」
はい、そうです。いつも通りです。力押しです。でもまぁ、世界最強クラスのパーティーだから大丈夫でしょう。
見つからぬように慎重に歩みを進めて行く。無事に壁へたどり着く。後はこのまま砦の入り口に向かうだけなのだが、壁の外にいてもかなり中が賑やかだ。かなりの数のオークが居るようだ。
「提案で~す」
「何ですか。ミューレ」
「どうやら、敵は宴会中。もうしばらく様子を見て、酔い潰れるのを待つのはどうかな?」
この賑やかさは酒宴の様だ。なら、酔い潰れてから攻め込んだ方がリスクが幾分か下がる。
「そうですね。良い案だと思います」
「じゃ、ここで休憩だな」
とウォンは言うと早々に目を閉じ、睡眠に入った。すかさず、それにカタラも続く。
私一人残された。仕方ない、しばらく番をしてますか。後で適当に変わってもらおう。
オークの酒宴は、始まったばかりの様だ。酔い潰れてくれれば楽がかなり出来そうだ。思惑通りにいってくれると良いのだけど、こればかりは運任せだね。
日没から六時間程経過していた。丁度、新しい魔法の勉強もしたかったので、結局、誰とも交代せず一ヶ月程前に古書店で手に入れた魔導書を読み込む。
太陽も沈み暗闇だったが、エルフの夜眼があれば真昼と同じだ。本を読むのに支障はない。明かりは必要なかった。
暇があればこの魔道書の解読をしていた。最初は偽物だと思って期待していなかった。
何せ、街中の古書店に売っている時点で怪しいし、値段も格安だった。本来、魔道書の類は、魔法組合が管理・販売している。魔法組合が関わるとどんな初心者用の魔法でも一般庶民の一月分の稼ぎと同じ額になる。そんな魔道書が古書店で格安で手に入るなら、ハズレでも良い。こんなチャンスは無いと購入しておいた。
古書店に置いてあったのは、一見すると料理のレシピに偽装されていたからだ。だから、売買した当人達は、そんな貴重な魔導書だと想像もしていなかったのだろう。研究を他の者に知られたくない魔法使いが良く使う手で、最近は逆に解読しやすい。
購入して大正解。読み込む内に魔導書が本物である確信を得た。
新しい魔法は、基本的に水と風の精霊の力を借りて発生させる魔法の様だ。要約すると『大音響、大光量を伴って顕現し、大気を二つに割る』と記載されている。以前から研究していた為、この冒険中にようやく魔法式が解読でき、いつでも詠唱できるが、結果がハッキリと理解できない。
魔法はイメージ力が重要だ。魔法を詠唱し結果を強くイメージする。そのイメージが明確かつ正確、さらに脳内に描写される情景が現実味を帯びる程、威力が増す。この最後の結果のイメージが掴めない。
幻影系の魔法なのか、風系の魔法なのか、それとももっと別系統の魔法なのかが明確に書かれていない。暴発覚悟で一発試してみれば、すぐにでも解るのだけれど、何せ冒険中。大音量、大光量を伴うのでは、実験できない。ああ~、早く実験したい。この新魔法は、詠唱すればどの様な結果を生み出すのだろう。ドキドキが止まらない。
魔法剣士という職業を選んで本当に良かったとつくづく思う。エルフの寿命だからこそ二つの職業を極めることが出来る。人間だったら、途中で寿命を迎えている。
大軍を賢者級の魔法で蹴散らし、近接戦も達人級でいなしてしまう。普通の軍隊相手なら小隊程度は楽勝、中隊規模でも勝てるでしょう。これが、魔法使いだけでは不可能だし、戦士だけでも不可能。魔法剣士だからこそ出来る芸当。魔法剣士をやっていて良かったと本当に思う。まぁ、その分、成長が遅いのが玉に瑕。だって、一つの事に専念している者と兼業で修行している者なら当然専念している方が成長も早いよね。
実際、専門職と一対一で勝負するとやはり専門職の方が同じ実力の達人クラスなら相手の方が強いことが若干多いけどね。兼業の唯一の弱点かな。ま、弱点と言う程でもないけど。魔法と剣術を駆使すれば、同クラスの専門家になんて負けませんよ。
さて、オーク砦も静かになってきた。どうやら酔い潰れた様だ。歩哨が数人、門や通路を歩く音が聞こえるだけになってきた。
二人を起こし、ぼちぼち行きますか。
「確認しておこう。目的は、廃城の場所を知ること。知っていそうなのは、ここの指導者層と隊長格でいいんだよな」
ウォンが突入前のミーティングを始める。
「はい、それで結構だと思います。他の者にも一応声を掛けた方が良いかと」
カタラが追加してくる。
「つまり、止めを刺す前に廃城を知っているかと聞いて止めを刺せばいいんだな」
うわー、直球勝負だな。まぁ、ウォンならこんな感じか。
さすがにカタラも顔が引きつっている。
「まぁ、そうですね。もう少し婉曲に言って頂けると助かるのですが」
「結局、することは一緒なんだろう」
「えぇ、そうですね。私が気にし過ぎでした。もう忘れて下さい。敵に見つかる恐れがあるので、」
カタラがため息をついている。そう言えば、ため息を一つつくと幸せが一つ逃げるってどこかの種族のことわざであったな。カタラ、苦労するぞ。
「ところで、廃城は何で必要なんだ?」
「ちょっと待て。あの快感、いや、激闘を忘れたのか。ブラックドラゴンを二匹倒して宝物庫を漁ったら、途方も無い国家予算並の財宝や魔法の物品が出てきただろ。今、装備している物も大半がそこから掘り出した物じゃないか。で、バカ魔法使いがダンジョンをぶっ壊して、野ざらしになっているから保管場所を探しているんだろう。で、この辺りに廃城があるという情報を手に入れ、使えるかどうか調べに来た。わかったか」
「おぉ~、そういう事で廃城を探していたのか。単純にいつもの冒険心から面白そうという理由で動いていると思っていたぞ。確かにあの財宝を置きっぱなしには出来ないな。ま、モンスターが手強いから上級冒険者でも簡単に行けるような場所じゃないから盗難の心配はないな。」
「しかし、財宝が雨で錆びたり、日焼けしたりするのは困ります。いくら、防水布をかけてきたとはいえ、あのままには出来ません。ウォン、一ヶ月以上疑問に持たなかったのですか?」
「あぁ、面白ければいいからな」
「あ、それ私のいつもセリフだ~」
「たまには俺が使っても味があるだろ」
「次から使用料、一回金貨一枚でいいよ」
「金取るのか。あんなにあるのに」
「普段、宝石で買い物できないでしょう。やはり現金がないと」
「ミューレ、金貨も相当数ありましたよ」
「そうだっけ。多いに越したこと無いよ」
「まったく、これからオーク砦に突入するのに緊張感がない奴らだな」
『お前・あなたが言うな』
ゆっくりと草原の中を一人で進む。砦の入口の反対側に回り込もうとしているのだ。
ウォンとカタラはその場で待機し、私は夜眼が利くため入口の反対側に回り挟み撃ちをしようと云う算段だ。今のところ、オーク共に気づかれていない。
入口に二匹のオークが歩哨として立っているが、器用に立ちながらうたた寝をしている。よほどのヘマをしない限り、気づかれずに近づけるだろう。
予定通りに入口の反対側にたどり着き、ダガーを刃が反射しない様にシールドに隠しながらゆっくりと抜く。ウォンとカタラに向かって、一瞬だけダガーを光らせる。突入の合図だ。ウォン達が動いたと信じ、オークの背後から突撃する。物音に気づいたのか、のんびり眼をこすっている。
遅い。オークの口を手で塞ぎ、一気に首を切り裂く。切り口から新鮮な血が前方へ舞い散っていく。口を塞いでいたオークの痙攣が始まり、徐々に収まり血の噴出も止まった。首筋に手を当てると鼓動を感じない。どうやら死んだようだ。
ウォンの方を見ると私と同じ様な態勢をとっており、頷いてくる。私も頷き返す。どうやら、作戦成功のようだ。他のオークにもバレていないみたい。
重たいオークを引きずり草原の中へ隠す。ちょっと一休み。さすがにオークは重い。引きずるのに息が上がる。
ウォンを見ると、片手で簡単に草原へ引きずり込み、引きずった後や血の後を上に砂をかけて消している。息を切らせるどころか、汗一つかいていない。
後ろを振り返ると私の代わりにカタラが、引きずった後や血の後を上に砂をかけて消してくれている。
「ありがとう、カタラ。さすがにオークは重いわ。か弱い乙女には無理があるわよね」
「か弱い乙女?はて、私の目の前には屈強なアマゾネスしか居ませんが」
「ほう、カタラさん。老眼が始まりましたか。人間は老化が早いですからね」
「失礼な、私はまだ二十代です。老眼にはなりませんわ。真実を述べただけです」
「見た目十九歳、身長百五十センチ台の美少女のアマゾネスって可憐な美少女って意味だったんだ。初めて知ったよ」
「以前にアマゾネスの集落にお邪魔したことありませんでしたか。もうお忘れで」
「確かに行ったけど、みんなカタラそっくりの体型だったね」
「いいえ、あの筋肉ダルマはミューレにソックリでしたわ」
「誰が筋肉ダルマですって。この細い腕、スラっと伸びた足。無駄な筋肉なんか一つも付いてないじゃない」
「あら本当、胸もお可愛いことですわ」
「そんな脂肪の塊、肩こりになるだけで戦闘の邪魔よ」
「持たざる者は、皆そう言われますわ」
「巨乳なんて、垂れるだけよ。美乳こそ正義よ」
私とカタラの視線が激しく交差する。たまに何かの拍子でお互い突っかかることがある。はてさて何が原因だろう。
「俺、どっちも大丈夫。二人とも可愛がる。骨までしゃぶり尽くす」
気配に気づいてはいたが、ついに会話に割り込んできたか。
私たちの言い争いに気づいた酔っぱらいのオークが話に割り込んできた。
『うるさい!趣味じゃない!』
カタラのメイスが顔面にめり込み、私のバスタードソードが心臓を貫く。
はぁ、結局隠密作戦が台無しだ。砦の中が、ザワザワと騒がしくなってきた。
ウォンがゲラゲラ腹を抱えて笑っていた。はぁ~、またこのパターンか。
半日以上かけて、慎重に見つからないようにしていたのに、この数分で全て水の泡だ。最初から私達らしく正面から乗り込んで行けば良かったか。
私は剣を地面に擦りながら砦に入っていった。
後ろからカタラとウォンが順に付いて来る。
仕方ない、いつもの殲滅戦を始めようか。