表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッド・フィースト戦記  作者: しゅう かいどう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/61

36.解散

いつもの隊列を組み、レッドドラゴンの死体がある大広間にまで戻ってきた。死体にネズミや虫がたかっている以外には、変化は無い様だ。

「ロリ、ブラフォード。次、勝手な行動をとったら無条件で殺す。覚えておけ」

念の為、釘を刺す。だが、意味が無い事も知っている。この二人は、己の興味が最優先される。

「は~い、ロリ、了解」

「分かっておるわい。二度も同じ失敗はせん」

その台詞を何度聞いたことやら。暴走しても絶対に止めない。次は見捨てる。

レッドドラゴンが出てきた大扉は、粉々に砕け床に散らばっている。隣の部屋は薄暗く状況をこの広間から確認することは出来ない。

「ロリ、何か物音は聞こえる?」

「何も聞こえないよ」

「ウォン、何か気配は感じる?」

「いや、何も無いな」

私の感覚でも隣の部屋に何者かが潜んでいる様な感覚は無い。中に入っても問題ないだろう。

適当な石を拾い、魔法をかける。

『永続発光』

石自体が光り輝き出す。直視できない位に明るく設定した。『永続発光』の魔法なので、私が消えることを命じない限り、発光が消えることは無い。光る石を隣の部屋に投げ込む。

部屋の中を明るく照らし出し、中に入る。

金銀の光が反射して眩しい。大部屋の壁が見えない程、財宝が天井までうず高く積み上げられている。お陰でこの部屋の本当の広さが分からない。この財宝の壁から城の壁までどの位の厚みがあることだろうか。

金貨、銀貨は言うに及ばす、宝石の見本市が開催できるだけの種類と数。銀や金で作られた装飾品の数々。ドラゴンが燭台や食器を集めてどうするのか、いつも疑問に感じるが、光り物が好きなカラスと同じで、光る物を意味も無く反射的に集めてくるのだろう。

そして、冒険者から奪ったと思われる武器と防具の数々。百年間もここに住んでいれば、この城に襲って来る冒険者も相当数いただろう。

ここ最近は、この城の存在は忘れられていた様だが。

戦利品の中で気に入ったものを集めてきたのだろう。なかなかに趣味の良い落ち着いたデザインの物が揃えられている。これならば、私の好みの鎧も見つかるかもしれない。

はてさて、この財宝を全て売れば、主要都市の年間予算に匹敵するのではないだろうか。

さすが百年間かけてレッドドラゴンが、溜め込んできただけの事はある。

「うひゃ~!お宝だ~!」

ロリが、走り出し金貨や銀貨の上を転げ回る。そんな固い所を転げ回って痛くないのだろうか。本人が喜んでいるのだから、止める必要は無い。

「ふむふむ、このサファイアもダイヤも大粒でカットも見事な物じゃ。熟練工の仕事じゃな。どれ、こっちのルビーはどうじゃ。ほほう、見事な研磨じゃ」

ブラフォードが、熱心に宝石を鑑定し始める。ドワーフ族の血が騒ぐのだろう。時々ポケットに手を突っ込んでいるのが頂けない。目の前にこれだけの財宝があるのにセコイ。これだけの量を六等分すれば誤差が出るのに、内緒でせしめた処で意味が無い。

「さて、役に立つ魔導書や巻物の一つでもあればよいのだが。ドラゴンに期待しても無駄であろう。我は、ファントム・ソーサリーの魔導書を読むことにする。何かあれば、声を掛けてくれるかな」

豪奢な椅子を見つけ、座り込み魔導書を広げる。これで、ナルディアは、数時間の間、自分から動くことは無いだろう。

さて、私も目当ての物を探すとしましょうか。

『魔力感知』

物品にかかった魔力を感知する魔法をかける。私の目には、魔法の物品が光って見えている。魔力が弱ければか細く光り、魔力が強ければ煌々と光る。

とりあえず、光が一番強い所から当たっていく。最初に目についたのは、指輪だった。この財宝の中で最も魔力が光り輝いている指輪だ。もしかすると、積み重なった財宝の奥には、もっと強力な魔法がかかった物が有るかも知れない。とりあえず、フォールディングバッグに放り込み、後で調べよう。おっと、私もブラフォードの事は言えないな。同じことをしている。ま、誤差の範囲という事で見逃してもらおう。装備するのは、何の魔法が掛かっているかを鑑定してからだ。呪いの物品だと困る。冒険のお約束だ。それよりも鎧を手に入れなければいけない。より一層、注意が鎧の探索へ向かう。ウォンとカタラが何か会話しているが、用があれば声を掛けてくるだろう。軽く、聞き流しておこう。


「圧巻だな。この物量は、財宝の有難味が無くなるな」

「はい、見事な量です。いくらか教会にまた寄付を致しましょう。少しでも貧しい方の救いになれば良いのですが…」

「なら、カタラの取り分を全部寄付するか、良ければ俺のもやるぞ。それと貧乏人に直接ばらまけばいいんじゃないか。教会のピンハネも無いしな」

「それは、以前にミューレに止める様に言われました。過ぎたる寄付は、その寄付に依存し、自立しなくなり、救いたい人々を怠け者にするそうです。確かにこれだけの額を貧しい方に一気にお渡しすれば、どなたも働かなくなるでしょう。教会も同じです。布教活動の一環である街への奉仕活動もお金で代行させることになるでしょう」

「なら、スラムに家でも建てたらどうだ」

「以前にしましたが、ギャングに乗っ取られ、悪に加担する羽目になりました」

「それなら、無料の病院でも建てたらどうだ」

「それも試しましたが、医者の成り手が見つかりませんでした」

「何故だ。カタラが高給で雇って、全額補助するのだろう」

「はい、その計画でした。しかし、医者ギルドに睨まれると将来、個人で開業することができなくなるそうです。医者の応募がありませんでした」

「無料の病院が、高級な薬も調剤してくれれば、街医者には患者が来なくなるということか。さらに、院長であるカタラが居れば、毒蛇に噛まれても即解毒ができる。医者ギルドの圧力に負けずに応募する医者はいない、ということか」

「はい、その通りでした。そこでミューレに相談したところ、先程の、過ぎたる寄付は身を亡ぼすとの事でした」

「なるほどね。物もダメ。金を渡したくとも渡せない。良心の板挟みか。金の扱いだけは難しいな」

「はい、本当に難しいです」

「とりあえず、酒代に金貨を貰っとくぞ」

「よろしいのではないですか。それにナルディアの家にも一生食べるのには困らない量の財宝が置いてあります」

「じゃあ、頂きだ。で、ミューレは静かだな。探し物に専念しているな」

「代わりの鎧が見つかれば良いのですが」

「これだけ鎧があれば、流石に良いのがあるだろう。ミューレの身長なら多少大きいだろうが、ベルトで調節すれば着込める。それでも大きければ鍛冶屋の二代目にサイズを直してもらえば何とかなるだろう。逆に二代目はその方が喜ぶかもな」

「新しい仕事が入るからですか」

「いいや、お前さんに会えるからだよ」

「そうですか。私の説法を心待ちにして頂いているという事ですね。わかりました。鍛冶屋に因んだ逸話を教書から探しておきます」

「そう来たか。二代目も報われないな」

「では、幸せとは何かの逸話に致しましょう」

「まぁ、何でもいい。とりあえず、二代目に説法をしてやってくれ。喜ぶのは間違いない」

「はい、わかりました」

「ところで、ミューレ。目ぼしい物はあったか?」

鍛冶屋の二代目は、どうやら報われない様だ。

ぱっと見ただけでもプレートメイルが、ゴロゴロ転がっているが、魔法が弱い鎧には用はない。今まで着ていた鎧を超える魔法が掛かっている物があれば最高なのだが、世の中そう簡単にはいかないだろう。

「目ぼしい物は、まだ見つからない。もう少し探してみるつもりだ。しかし、逆にこの物量だと探すだけでも苦労する。下や壁の方に埋もれている物は、簡単に掘り出せないな」

「魔法の道具は、簡単には壊れないのだろう。埋もれていたら上の部分を魔法で吹き飛ばせばいいんじゃないか」

ウォンの金銭感覚が麻痺しているな。魔法で吹き飛ばしたら、金貨や銀貨が溶け混じって価値が下がるし、宝石の中には燃えてしまうものがあるから私は遠慮していたのに。

いや、待てよ。風の魔法なら、溶けない、燃えないか。装飾品が多少壊れた処で支障は無い。それも有りか。よし試そう。

「雪崩を起こす可能性があります。止め方がよいです」

カタラが、寸でのところで止めてくれる。危なかった。雪崩の可能性は、考えていなかった。財宝の雪崩で圧死したら笑いものだ。魔法で吹き飛ばすのは無しだ。表面上だけを探そう。

「カタラの言う通りだな。魔法で吹き飛ばすのは止めておく。地道に探すから、もう少し時間をくれ」

ウォンが肩を竦め、カタラがやさしく微笑んで返事をしてくれる。さて、あまり待たせるのも気まずい。早く魔法の鎧を見つけたいものだ。


気まずいと言いながら、二時間後ようやく私の眼鏡に適うプレートメイルを見つけた。

見た目は、珍しい艶消しの黒色だ。私の黒髪に合いそうだ。

大きさもやや小ぶりで、もしかすると姫様用の儀礼用の鎧かもしれない。何せ、持ってみても普通の鎧よりかなり軽い。しかし、鈑金は十分に厚みがあり、動きやすい様に稼動部分は細かく部品が分けられているにもかからず、チェーンメイルに埋め込むことで脱着が容易にできる様になっている。かなりの腕前の職人による物だろう。魔法で軽くしているのだろうか。

装飾も細かな彫金が施され、品良く高貴な雰囲気を醸し出している。さて、強力な魔力を発しているが、何の魔法だろうか。あまり、借りを作りたくは無いのだが、今はナルディアに鑑定を依頼するしかない。

意外かもしれないが、私は鑑定の魔法を習得していない。魔法の物品を鑑定するには、ナルディアに頼むか、街の鑑定師に頼むしかないのが現状だ。

いや、逆に私らしいかもしれない。戦闘や冒険に直接役立つ魔法は習得しているが、日常的な魔法は覚えていない。どんな魔法でも習得には時間がかかる。ならば、同じ時間がかかるのであれば、攻撃魔法や補助魔法もしくは武芸の鍛錬に励んでしまう。

仕方あるまい。背に腹は代えられぬか…。指輪は街の鑑定師に頼もう。別に急ぐ必要は無い。

「ナルディア、すまないがこの鎧を鑑定してくれないだろうか」

「フハハハ、ミューレともあろうものが、我に頭を下げるか」

やはり、喜々として調子に乗ってきたか。予想通りだな。

「仕方ない。私は、鑑定魔法を習得していないから、ナルディアにお願いするしか手段が無い」

とりあえず、下手に出ておこう。頼みごとをする時は、下手に出る方が、好感度が良い。高圧的な態度が有効なのは、暴力馬鹿に対応する時くらいだ。

「う~ん、気持ちいいぞ。我にミューレが頭を下げるとはな。さて、どうしたものか」

少し怒りを覚える。やっぱり、馬鹿には高圧的に攻めれば良かったか。今から作戦変更をするか。いやいや、人に物を頼むのだ。このぐらいは我慢をすべきだろう。

「ナルディア、待ちくたびれたから、さっさとしてくれ。ぼちぼち、腹が減った」

予想外のところから声がかかった。ウォンが助け舟を出してくれる。確かにウォンやカタラにとっては、かなり待ちぼうけを喰らわされている。そら、早く食事して一眠りしたいだろう。特に昨晩は、戦士組のみで立哨をした。睡魔や疲労が溜まっているだろう。

「ウォンが言うのであれば、仕方あるまい。気は乗らぬが、鑑定してやろう。どれだ」

「この黒い鎧だ」

「ふん、ミューレにしては良い趣味ではないか。確かに強い魔力を感じるのう」

『根源鑑別』

ナルディアの目に赤い魔力が集まる。彼の目には、この鎧がどの様な能力を持っているか、読み取っているところだろう。聞いたところには、視界に対象物の能力が文字にて表示されるらしい。やはり、鑑定の魔法を習得した方が便利だろう。しかし、ナルディアの鑑定レベルまで上げるには数段階の鑑定魔法を覚えなければならない。いくら、エルフは長寿で時間があるとはいえ、あまり鑑定魔法は勉強していても楽しくない。せいぜい、今習得している鑑定系の初歩魔法『魔力感知』だけで良いか。鑑定は、街の鑑定師に任せるのが確かだろう。

さて、この鎧の能力は一体何だろう。楽しみだ。

ナルディアが鎧の周りをぐるぐる回る。丁寧に漏れなく見てくれている様だ。時折、頷き、感嘆の声を上げている。どうやら、素性が良さそうな物の様な気がしてきた。

「ほう、硬質・軽量・冷却の魔法が掛かっているのう。焼き入れした鋼が硬質の魔法により更に強度を高め、重くなってしまった鎧を軽量化する魔法により、従来の鎧の半分の重量に削減することに成功しているのう。何よりよく考えておるのが、黒塗りの鎧は、基本的に太陽の熱を吸収し火傷をするために金属鎧では避けられている。それを防ぐために冷却の魔法が掛かっている。鎧が体温を超えると冷却の魔法が発動する様だのう。ふむ、これを造った人間は、使う人間の事をよく考えている。一級品ではないか。ミューレには勿体ない」

ナルディアのべた褒めに小躍りしたくなるが、実際に着てみないと使い物になるかどうかは、分からない。

「ありがとう、ナルディア。試着してみるが、呪いはかかっていないよな」

「呪いの類は無い。断言する。我がその様な物を見逃すはずがなかろう」

では、ナルディアの言葉を信じて、新しいプレートメイルを着込んでみようか。もし、呪いが発動してもカタラに解呪してもらえるだろう。ただ、解呪すると全ての魔法が無効化されるので、また一から鎧探しをしなくてはならない。

今着ている黄銅色のプレートメイルを脱ぐ。艶消しの脂で十年以上磨き上げた鎧は、さまざまな場面で私を守ってくれた。パーツを外すごとにこの傷はジャイアントに殴られた時の痕だなとか、この凹みは、ドラゴンの牙の痕だなと色々思い出す。右手の部分を失わなければ、もっと着ていただろう。

全てのパーツを外し終え、黒い鎧と向かい合う。長年放置されていた割には、傷一つなく、汚れもない。

先ず、足のパーツを手に取る。やはり、軽い。今まで着けていた鎧にも軽量化の魔法はかかっていた。しかし、それをはるかに超える軽さだ。完全装備をすれば、どの様な感じだろうか。心が躍る。

着け方の説明書の類など無い。試行錯誤しながら、順にパーツを付けていき、兜以外のパーツを着けた。若干、一回り大きいがベルトの穴の調整で済むレベルだ。二代目に私専用にハトメ入りの穴を開けてもらおうか。

バスタードソードを両手に握り、中段の構えをとる。抜刀から静止に至るまで慣れないためか、ややサイズが合わないためか、少し動きがぎこちなかった。

「フハハハ、良かったな。何とか着れたのう。だが、まだ鎧の方が大きい様だな。フハハハ」

ナルディアが馬鹿にするが、プレートメイルはそういう物だ。革ベルトで装着時に調整出来る様になっている。ちょっと一番小さく着る穴が足りなかっただけだ。そこを調整すれば、問題ないはずだ。調整できなければ、店で売る事など出来ないし、体型が変わった時に着れなくなるような物は、欠陥品だ。

「ミューレ、なかなか似合うじゃないか。ただ、お姫様っぽくなったのが、頂けないな。冷血の二つ名が泣くぞ」

「いえいえ、大変お似合いです。この機会に冷血の二つの名は捨てましょう」

ウォンとカタラの言う通り、少し姫らしいか。予想通り、どこかの国のお姫様用に造られた鎧の様だ。今は少しブカブカだが、二代目に調整してもらえれば、スムースに動けるだろう。

それにしても、本当にこの鎧は軽い。十キロ程しかないのでは無いだろうか。普通の鎧の半分以下の重さだ。軽く、剣を振っても疲れにくい。これは、行軍の時もありがたい。動きやすさも今まで以上に可動範囲が広い。

そして、問題は兜だがこれを兜と呼んで良いものだろうか。カチューシャと言うか、ティアラと呼んだ方がしっくりくる。防御力としては、期待できないがこれにも魔力はかかっている。すべて揃って着用している方が、魔法の効果が期待できるだろう。それにこれならば、私の仮面と意外にも相性が良く、デザイン的にも装着的にも干渉しないので普段から着けることにしよう。

さて、問題は固さだが、確認するにはウォンに頼むのが、一番良いだろう。手加減ができるからな。他の者に頼めば、壊されるのがおちだ。それも面白そうだからという理由で、全力で壊そうとするだろう。

「ウォン、固さを確認してくれる?」

「よし、任せておけ」

ウォンが腰のロングソードを抜き、上段に構える。

「え~と、ウォンさん。全力ですか?」

「そうだ、全力だ。何か問題でもあるか」

ニヤニヤしながら、からかってくる。ウォンもそういう癖があったな。忘れていた。

「冗談だ。掌底でいくぞ。俺も怪我したくないからな」

剣を鞘にしまい、掌底を撃ち込む構えに入る。反射的に私も防御の構えをとる。

ウォンが胸の一番装甲が厚い処へ掌底を放つ。いつもの精彩さは無い。気の抜けた様な掌底だ。ウォンの手甲と胸板が衝突の甲高い音を発する。だが、気の抜けた一発と言えどもウォンの打撃だ。的確に強烈な衝撃がプレートメイル全体に響く。

くっ、オーガの一撃並みの衝撃じゃないか。この鎧が脆ければ、ウォンの掌底が鎧を貫き、私の心臓が止まっても仕方がないではないか。だが、衝撃は激しかったが、痛みは感じていない。鎧が全て衝撃を受け止めてくれた様だ。衝撃吸収性は問題無い様だ。さて、外見の変化はどうだろうか。

掌底を撃ち込まれたところを確認するが、傷一つ無く、塗装も剥がれていない。発見時の状態を保っている。これは大当たりの鎧を見つけた。文句なしだ。さっさと街に戻って手直しをしたくなってきた。

「ほう。俺の掌底でも傷がいかないか。ミューレ、前の鎧を持って構えてくれ」

言われた通りに先程まで着ていた鎧の胸板の部分をウォンへ向けて構える。

予備動作なく、ウォンの掌底が入り私の手から胸板が吹き飛ばされる。手が痛い。

「痛い。さっきより力を入れていないか」

「いや、全く同じ力だぞ」

「なら、いいんだが」

吹き飛ばされた胸板をロリが持って来てくれる。

「ねえねえ、今度の鎧スゴイネ。ロリも欲しいけど、ロリに合うサイズが無かったよ」

ロリから手渡された胸板を見ると見事に手の痕が残っている。先程とは比較にならぬ強い衝撃、やはり、ウォンの奴、前より強く打ったのではないか。

「ウォンさんやい。手形がついているんですけど~。本当に同じ力ですか~」

「間違いなく同じ力だ。俺が力加減を間違えると思うか」

「すまない。確かに同じ力だった。つい、結果に驚いて」

ウォンの腕前を知っている私が疑ってどうする。今のは、私の目で見ても確かに同等の打撃力だった。新しい鎧は、ここまで頑丈なのか。驚きだ。今まで着ていた鎧にも硬化の魔法は、かかっていた。それを上回る硬さに相反する軽やかさ。最高の鎧を手に入れたのではないだろうか。レッドドラゴンの尻に手を突っ込んだだけの甲斐はあった訳だ。

「これで戦力アップか。宝探しはまだ続けるのか。もしかしたら、剣や盾も上物が出てくるかもしれないぞ」

「私は、この鎧で満足だ。他の者はどう?」

周りを見渡す。ウォンとカタラは、興味が無い様だ。私が視線を合わせると首を横に振る。

ロリとブラフォードを見ると首がもげんばかりに縦に振っている。どうしても探し出したい様だ。

ナルディアを見ると、ファントム・ソーサリーの魔導書をかざしてくる。魔法使いには、鎧も剣も縁は無いか。

「となると、この城の修繕と管理をしなければならないが、私のここでの冒険は終わったから街に戻りたい。二手に分かれる?六人パーティーを組む必要もなくなった様だし、一時解散しようか」

「それは、ロリ・ナルディア・ブラフォードが城に残り、ウォン・ミューレ・私が街に戻るということしょうか」

「ふむ、我が魔導書の研究をしつつ、魔法生物共を創造し、ここの掃除と警護をさせればよいのだな。そして、その合間にこの二人が持ってくる宝らしき物を鑑定してやるということか。良いだろう。街の屋敷よりもここの魔導書を研究する方が我が野望に近づくであろう。本拠をここに移すとしよう」

日頃は、魔法馬鹿と馬鹿にしているが、やはり頭脳明晰だ。こちらの意図を汲んでくれた。

「お屋敷は、空にしても大丈夫なのでしょうか」

カタラが心配しているが、無用の心配だ。この魔法使いの屋敷は、罠で一杯だ。暇つぶしにロリとブラフォードの手先の器用さと無駄な発想力で着々と要塞化されている。

案内なしで侵入すれば、庭を超えることすら不可能だ。

「フハハハ。我の屋敷に忍び込めるものならば、してみるがよかろう。皆、返り討ちだがな」

「ロリとね、ブラフォードが頑張ってい~っぱい罠を仕掛けたんだよ」

「うむ。ワシの傑作じゃ。抜かれる心配は無い」

欲の皮が突っ張った三馬鹿が、そこまで力説しているのだから、放っておけばよいだろう。泥棒が入ろうが、燃やされようが私には影響がない。ナルディアの屋敷には何も預けていない。金目の物は、極力持ち運びしやすい様に宝石に替えて、フォールディングバッグにしまってある。逆に言えば、このフォールディングバッグさえあれば、一年くらいは働かなくとも贅沢な暮らしは出来る。

足りなくなれば、適当に冒険をして報酬を得るか、一発逆転の大物退治に挑戦するかだ。

ウォンも金に興味は薄い。飲み食いに困らなければ良いらしい。武器道具もほぼ一流品を揃え済みだ。これ以上求める物は、達人への道らしい。

カタラは、教会に属している為か、日頃から質素な生活を好む。私達と行動をする時は、豪華な食事や宿になっても文句も言わず合わせてくれている。私達と冒険することが、教会への寄付に繋がることで折り合いを心の中でつけている様だ。聖職者は、気苦労が絶えないね。

私は御免だ。

さて、ここでパーティー解散は決まった。食事代と鎧の改良費に金貨を一掴み貰っておこう。

「では、ここでお別れだ。キャンプに戻る。まだ城の中にモンスターが潜んでいる可能性があるから気をつけて」

「分かっておる。だが、安心するがよい。この大魔法使いナルディア様にかかれば、どんな敵も余裕だからな」

三馬鹿を城に残し、あっさりと別れ、キャンプのあるリザードマンの洞窟に戻ってきた。

ここまで鎧がぐらつき歩きにくかったが、軽いため左程、戦闘に影響は出そうに無い。

さて、ここで一眠りし街に戻ろう。途中のオーク砦もどこまで発展したか、それとも滅亡したかが興味はあるが、別に栄えようが滅ぼうが正直どちらでも良い。

大仕事を何とか終えたのだ。次に為すべきことは、ちょっかいを出してきた連中に挨拶に行くことだ。しっかり、準備をしてから挨拶に行くことにしよう。何せ、新しい鎧をきっちり私仕様に調整しなければ連中を可愛がるのに百%の力が出せない。

あぁ、楽しみだ。どんな声で歌ってくれるのだろうか。今夜は寝付くのに苦労しそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ