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ブラッド・フィースト戦記  作者: しゅう かいどう


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34.赤龍攻防戦3

レッドドラゴンの喉の奥から熱気を感じる。ドラゴンブレスがまもなく臨界に達し、吐かれるのだろう。

ドラゴンブレスを吐くことなど予測済み。あえて、危険なレッドドラゴンの正面に立ったのは、ドラゴンブレスのタイミングを見逃さないためだ。ドラゴンブレスは、パーティーにとって脅威だ。威力、効果範囲共に絶大で全員が同時に喰らう事になれば全滅してもおかしくはない。

ドラゴンブレスを止めるタイミングだけは、見逃したくない。

だが、急激に熱気が遠ざかっていく。ドラゴンブレスを吐くのを止めたのか。

「エルフ、貴様何か企んでいるな。わざわざ、俺の正面に立ち、何を考える」

言葉と同時に左の鉤爪が振り下ろされる。あえて、左足を踏み込み半身となり、鉤爪をやり過ごす。そのまま、踏み込んだ勢いで喉笛をインテリジェンスソードで切り裂こうとするが、鱗に阻まれる。やはり、急所部分の鱗は、他と比べて特別硬い。

「何も考えていない。貴様の顔に直接剣を突き立てたいだけだ」

そんなのは嘘だ。そんな難しい事は、これっぽちも考えていない。突破力の高いウォンが、レッドドラゴンの防御をすり抜け、心臓に剣を突き立ててくれる可能性の方が余程高い。

「そんな筈はないだろう。高位の僧侶を居る事を前提にためらいも無く、策の為なら右手を差し出す。勝つ為なら何でもするお前が、策も無く俺の目の前に立つ筈がない。策も無く、地力で勝つつもりであれば、あの戦士を正面に据えた方がお前も魔法が使えて、作戦に広がりが出るのではないか。何かあるのだろう」

まいったな。ウォンの天才軍師とかの言葉を真に受けている様だ。本当に無策に等しいのだが、過大評価いや過剰評価だ。意外かもしれないが、私は自分を天才だと思ったことは一度も無い。単なる年の功だ。人間より長生きをし、色々な経験を沢山してきただけだ。

昔のパーティーとの経験の積み重ねに過ぎない。勘違いも甚だしいが、ここは勘違いを利用すべきだろう。

「さすがは、ドラゴン族。次の策を用意していることに気が付くとは。ワイバーンなぞ、考える前に攻撃してくるというのに」

「俺とワイバーンごときを一緒にするな。あれこそ、巨大トカゲだ。それとも、今のは挑発のつもりか」

同時に右鉤爪が顔面目がけて飛んでくる。私の顔を吹き飛ばすつもりだろう。

『気弾』

顔に迫る直前で空気の振動弾で鉤爪の軌道を逸らす。私の頬をかすりそうになる。危ない、危ない。

やはり、安い挑発には乗らないか。

「挑発?そんな手には、もう乗らないでしょう。貴様の怒りは、すでにそんな生易しいものではない筈」

三連突きを鼻に目がけて放つが、器用に避けていく。お互いに有効打が出ない。

他の四人も気配で健闘をしていることは把握しているが、誰も成果が無い。

連携攻撃ができれば、状況も変わるのだろうが、一緒に固まる事は、攻撃を同時に受けることを意味し一瞬で敗退する恐れもある。諸刃の剣だ。ならば、四方から攻撃し、レッドドラゴンの意識を散らすことによって防御を散漫にし、少しずつでも体力を奪っていった方がマシだろう。実際、レッドドラゴンの注意の半分は、正面に立つ私に向いている。

その為、他の四人の攻撃が時折、本体に当たっている。といっても分厚い皮膚と筋肉に阻まれ、有効打とはいえない。

「さては、俺が血を流し過ぎて動けなくなるのを待っているのか。気の長い話だ。確かにお前にはらわたを破壊されたが、死に至る傷ではない。さすがに石槍で地面に縫い付けられるとは思わなかったがな」

噛みつきが迫るが、下顎から斬り上げて弾き飛ばす。

よく喋るドラゴンだ。逆に向こうが何かを狙っているのか。本当に弱っていて、救援を待っているのか。もし、つがいであれば、救援が来る可能性は十分にある。とりあえず、こちらが優勢である様に見せる方が良いだろう。

「貴様は、この状況からどうやって勝つつもりだ。私達から逃げる術は無いぞ」

『魔力光弾』

弾き飛ばしで剣の間合いから外れた為、レッドドラゴンの頭部へ適当に光の弾を叩きこむ。

光弾の爆発で上から赤い鱗が舞い散る。やはり、あの固い鱗が邪魔だ。内部破壊しかないか。

また、ブラックドラゴンの様に中に潜るか。いやいや、もうあんな生臭い体験は御免だ。次はウォンやロリにしてもらおう。しかし、二人とも羽や尾、後脚に邪魔をされ、腹部に取りつけないでいる。

時折、ナルディアの攻撃魔法が腹部を抉るようだが、ほとんどを羽で防がれている。

あの羽、皮膜の分際で頑丈だ。ラージ級になると面の皮だけでなく、羽の皮まで厚くなるのか。忌々しい。

やはり、私が攻撃の起点になる必要があるか。と考えながら、素早く伏せ、レッドドラゴンの左鉤爪をかいくぐる。

すれ違いざまに剣を重ねるが、鱗に阻まれ火花が散る。

考え事をしていてもインテリジェンスソードが警告を発してくれるため、今のところ五体満足だ。しかし、スタミナはドラゴンの方が上だろう。早期決着が望ましい。

「ちょこまかと逃げるエルフめ。小賢しい。それにその剣も目障りだ。俺の攻撃を一々伝えおってうっとうしい」

「それにしても貴様は、よく喋るドラゴンだな。独り身で寂しかったのか。ペットになるのなら飼ってやるぞ」

剣を中段に構え、真っ直ぐレッドドラゴンの目を見つめる。

炎の様に赤い瞳が私を睨み返す。

「性懲りも無く挑発か。確かに俺は独り身よ。まだ雌を娶るつもりは無い。この百年、この城に住まいを移してからまともに話をできる者は来なかったからな。この城に来た者は、俺に辿り着く前に、ファントム・ソーサリーの実験台になっておったわ」

はい、言質頂きました。独り身ということは、援軍は来ない。ならば、戦力をここで使い切っても問題ない。

「ファントム・ソーサリーなら屠った」

「何?奴とは数日にわたって戦い、俺が引き分けた存在だぞ。人間共に倒せるわけがなかろう。奴は最強のアンデッドだぞ。死を超越し無限の寿命、知識も常人を超える博識、魔力に関しても底知れぬ程膨大。もっとマシな嘘を申すのだな」

「では、どうやって私達はこの部屋に来たのでしょうか」

「なるほど、確かにこの部屋まで聞こえた爆発音は奴との戦闘だったか。奴を倒すとは恐ろしい人間共め。さぞ、人間界では名が売れているのだろう」

「いえいえ、無名ですよ。知名度なぞ人生を楽しむ為の足枷。こうして、冒険を楽しむのがいい」

「ほう、この自殺行為も冒険の一言で済まし、楽しむだと。ふざけるのも止めろ」

「本気ですよ。命のやり取りも冒険の楽しみですよ」

「ふ、それも俺への挑発であろう。乗らんよ」

この会話の間もドラゴンの牙と爪が襲い掛かってきている。都度、盾や剣を駆使して受け流し、反撃を加えるが、有効打は無い。

挑発のつもりは一切ない。挑発になるとも思っていなかった。

この命のやり取りに興奮が止まらない。根っからの冒険好きだ。心の奥底から今の状況を楽しんでいる。他のメンバーには言えないな。命をかけて戦っているのに、私には命懸けの遊びにすぎないなんて知ったら怒る、いや、私から離れていくのだろう。過去にも有ったな。

だが、負けてやるつもりは一切無い。私が勝つ。

今の会話による時間稼ぎでようやく作戦が組めた。ならば、すかさず、実行するのみ。


『石壁展開』

レッドドラゴンの長い首を中心に石壁を多重に展開し、がんじがらめにする。

「こんな石壁など、紙も同然よ!」

そんな事は、こちらの方が詳しい。言われるまでも無い。

『金剛』

石壁が壊さる前に鋼の強度に高め、レッドドラゴンをしっかり固定する。

正面から見れば、壁の中央からレッドドラゴンの首だけが生えている様だ。横から見れば、地面から数メートルに渡り、ギブスで首を固定されている様にも見える。これで攻撃は、魔法とドラゴンブレスの二つに絞られた。

レッドドラゴンの動きも首と腹を封じた為、攻撃が単調となり、ウォンとロリの攻撃も活発さを増す。

だが、安心はできない。石壁がいつ壊されるか分からない。実施できる攻撃オプションは直ぐに実行しなければならない。

インテリジェンスソードと共同して呪文を詠唱する。

一人で呪文を詠唱するより、インテリジェンスソードに私の魔力を吸わせて、同じ魔法を二重掛けすることにより、通常より相乗効果を上げることが出来る。

他人と二重掛けしても魔力の質と波動が違い、相乗効果は生まれないが自分の魔力ならば完全にシンクロして初級魔法も上級魔法に匹敵する効果を上げる。その分、魔法の発動二回とインテリジェンスソードへの魔力の受け渡し、インテリジェンスソードの詠唱操作とそれに伴う魔力のロスと通常より魔力を四倍以上消費するのは仕方がない。まぁ、私の魔力量なら大した影響では無い。

最大の欠点は、インテリジェンスソードが初級魔法を唱えるのが限界であること。上級魔法を唱えることが出来れば、もっと強力な魔法になるのだが、所詮は剣だ。魔法の詠唱をさせられるだけ良しとしよう。

『火球召喚』

初級魔法である火球召喚を行う。手のひらに炎の球を作り出すだけのシンプルな魔法だ。直接、敵に押し付けたり、照明の代わりにしたり、火打石の代わりにするのが一般的な使い方だ。前回は、自分の止血の為に自分の傷口に押し付けた魔法だ。

だが、あの時は単なる炎の球だった。しかし、今回は違う。剣との二重詠唱による魔法。

炎の球は、左の手のひらで旋回し、時折、青くなったり、白くなったり激しく燃え盛っている。

通常は、さほど感じない熱気も今回は火傷しそうに熱い。炎の球は、普段の数倍の温度になっている。

レッドドラゴンへ一歩ずつ近づいていく。レッドドラゴンの表情が一瞬引き攣った様に感じた。

「おいおい、エルフよ。何をするつもりだ」

レッドドラゴンの話には耳を傾けない。こいつで目を焼き潰してやろう。

石壁でレッドドラゴンの顔を焼きやすい位置に固定してある。左手に渦巻く、炎の球をゆっくりレッドドラゴンの右眼へ近づけていく。

「待て待て、それは流石に俺も痛いぞ」

当たり前だ。痛く苦しむ方法をあえて考えたのだ。

何も言わず、にこやかに私は笑う。ためらい無くレッドドラゴンの右眼に炎の球を押し付ける。

盛大な煙が立ち上がり、肉が焼ける音がし、肉の焦げる臭いが広がり続ける。

レッドドラゴンが痛みの咆哮をあげるが、私には甘美な歌声にしか聞こえない。

しばし、歌声に酔いしれる。だが、いつ噛みつかれるか分からない為、警戒は疎かにしない。

しばらく経つとバシュと破裂し蒸発する音が、肉が焼ける音に混じった。右眼が破裂して蒸発したのだろう。

ならば、折角の余白を有効活用しない手はない。炎の球をレッドドラゴンの右眼があった窪みへ放り込む。

さらにレッドラゴンの咆哮が一段と高くなる。頭蓋骨の中から焼いているのだ。周りの筋肉や神経も焼かれ、一気に痛みが増えたのだろう。レッドドラゴンが痛みで盛大に暴れまわる。

胴体に刺さっていた石槍が全て折れ、石壁にヒビが入り始める。痛みを誤魔化す為か、翼や尾を地面に激しく叩きつける。これではウォンたちは近づけない。ウォンたちは一旦離れていくが、私はまだその場から離れない。

顔が固定されている内にさらに追い打ちをかける。

『魔力光弾』

レッドドラゴンの左目へ光弾を徹底的に叩き込む。だが、こちらはまだ眼球は壊れない。頑丈な瞼のせいだ。ならば、もう一度。

『魔力光弾』

さらに左目へ光弾を打ち込み徹底的に痛めつける。瞼はかなり抉られ、後一発で眼球を潰せるだろう。

さらなる痛みでレッドドラゴンが激しく暴れる。油断したつもりは無かったが、私の腹部にレッドドラゴンの角が深々と刺さる。だが、痛みも何も感じない。角をすぐに抜くと傷口は何も無かったかの様に消え、分身がダメージを肩代わりし、一体が消滅した。これで分身が残り三体。まだ、近距離で戦える保険は十分にある。

「角が邪魔だな」

片方は、ウォンがすでに切り落としているが、もう一本が健在だ。その角が私を刺し貫いたのだ。剣を上段に構え、タイミングを計る。

脱力して剣を振り降ろす。抵抗を感じることなく、角を切り落とす。首が固定され、動きが予測できるのであれば、幾ら固い角であろうが切り落とすことは、造作も無い。

『魔力光弾』

レッドドラゴンへ三度目の魔力光弾を撃ち込む。七発の光弾が瞼を抉り、ついに眼球を叩き潰す。これで、レッドドラゴンは盲目だ。敵戦力の極端な低下は確実だ。

左目を潰された痛みにより、咆哮と暴力さが増す。ついに石壁の耐久性を超え、壁が崩れ落ちていく。

レッドドラゴンは、視力を失った代わりに体の自由を取り戻した。

「はぁはぁ、貴様よくも好き勝手にしてくれたな。俺の目を、俺の目を。絶対に許さん。焼き尽くしてくれる!」

レッドドラゴンの喉の奥が、赤く光り始め、熱気を感じる。時折、炎の欠片が口許より零れ落ちる。ドラゴンブレスを吐くつもりだ。

「死ね。エルフ!」

レッドドラゴンが大きく口を開け、ドラゴンブレスを吐こうとする。

この瞬間をずっと待っていた。隠し玉が効果を発揮する。

「破裂せよ」

静かに命令する。

ドラゴンブレスより早く私の命令が実行される。ダイヤモンド化された火炎爆裂の魔法が轟音と共に炸裂する。切り裂かれた腹からは業火が噴き出し、吐き出そうとしていたドラゴンブレスは、吐く瞬間を妨げられレッドドラゴン自身の喉と胸を焼き尽くす。

口と鼻と眼球を失った眼窩から、ドラゴンブレスと火炎爆裂が混じった業火が噴き出し、顔を焙る。ドラゴン族の威厳も無く、業火の痛みに地面を転がり回る。

「おい、レッドドラゴン。自分のドラゴンブレスの味はどうだ。中からじっくりと焼かれる気分はどうだ。自分自身が最大にまで高めたブレスだ。盛大に体内で炎が暴れているのだろう。どうだ、気持ちいいだろう」

内部を暴れる業火でレッドドラゴンは返事を返す余裕が無い様だ。無様に転がり続けている。

巻き込まれては、痛いだけだ。私も安全地帯へ離れていく。

それを見ていたナルディアが喜々として、上級範囲魔法を思う存分に撃ち込んでいく。

皆がレッドドラゴンから離れ、魔法によって巻き込む心配はない。先程までちまちまと放っていた初級・中級の魔法で鬱憤がたまっていた様だ。

火柱、氷柱、石柱、爆風、礫などが次々に生まれ消えていく。まるで魔法の見本市だ。


「ウォン、ロリ。こっちへ」

ウォンとロリにこちらへ来てもらう。どうせ魔法馬鹿が暴走をしている内は、レッドドラゴンに近づけない。ならば、私の役に立ってもらうまで。

「ミューレ、後で種明かし頼むわ」

「ロリも種明かし聞きた~い」

「その前に護衛をよろしく。少し詠唱の長い魔法を使うから無防備になる。信頼しているから」

二人から了解の返事を貰う。魔法馬鹿が気を引いている間に、リザードマン戦で使用した『氷結吹雪』を使う。

これで、一気に止めを刺す。

邪魔になる剣と盾を片付け、息を整える。ゆっくりと舞を始める。風の精霊、水の精霊、炎の精霊に私の力を見せつけ、力の流れを全てこの魔法へと注ぎ込んでいく。

前方で爆発するナルディアの魔法と私の静かで神々しい舞の対比が、異次元への世界に誘うかのようだ。

一つ一つの所作に深い意味があり、定められた順に正しく魔力を込めて舞う。額に汗が浮かび始める。十分近く舞い続ける。

『氷結吹雪』

ドラゴンの心臓を中心に十メートル四方の空間の水分がたちどころに凍り付いていく。炎の精霊は活動を休めて眠り、水の精霊は万物を凍らす水を産み出し、風の精霊が荒々しい風による結界を張り、魔法の効果範囲内に侵入しようとする熱を防ぐと同時に内部の熱を奪っていく。一気に魔法の効果範囲内が絶対零度に凍り付く。

レッドドラゴンの動きが止まった。心臓を一瞬で凍らされてしまえば、いくらドラゴン族であろうと生命を維持することは出来ない。

詠唱の終了であるオリエンタルの正座の姿勢で地面に両手を添え、お辞儀をする。

その瞬間、魔法の効果範囲の氷が一瞬で霧散する。レッドドラゴンの身体に十メートル四方の巨大な空間が生まれる。

額の汗が、揃えた手の上に零れ落ちる。

息も上がり、全身を倦怠感が蝕むが、戦闘は終わった。私達の勝ちだ。

「戦闘終了のはずだけど、ウォン確認を頼める?」

「分かった。見てくるか」

「ロリも行く~」

ウォンとロリが気軽にレッドドラゴンへ距離を詰めていく。別に油断をしている訳ではない。身体に力が入っている方が、危機回避の時に思うように身体が動かないものだ。

レッドドラゴンは、身体の重要な器官、心臓や肺を物理的に失ったのだ。命がある方がおかしい。

だが、確認だけはしておくべきだ。ドラゴン族は、最も神に近いモンスターだ。人智を超えた能力を持っているかもしれない。本当は自分で確認をしたいのだが、今の魔法で体力と魔力を根こそぎ持っていかれた。今は、正座を崩し、へたり込んでいるのが精一杯だ。この魔法は、圧倒的有利な状況でないと使い物にならないな。ここで敵が襲いかかってきたら、私には防ぐ力もない。使い所に気を配らねばいかんな。

背後から近づいてくる気配を感じた。カタラだ。私の横に座ってくる。

「ミューレ、お疲れ様でした。結局、あなた一人に頼ってしまいました」

「そうでもない。皆が居なければ、最後の秘術までの道筋は付けられなかった」

「それにしても、あの魔法は恐ろしいです。空間ごと全てを霧氷と化し、何も残りません。まるで私達が通った跡の様です」

「無の後は、自由が残る。何でも作る事が出来る。へたに瓦礫が残れば、畑にするにも家を建てるにも向いていない。余計な手間がかかる。無は、悪ではないよ」

「なるほど、その様にも考えることが出来るわけですか。勉強になります。まずは、疲労回復を致しましょう」

『体力回復』

カタラが私の隣で天へ祈り始める。全身の火照りにいつもの回復魔法の暖かさが加わる。ゆっくりと失われた体力が戻ってくるのを感じる。

魔力は、当然のことながらこの魔法で戻ることは無い。こればかりは睡眠を八時間以上取らなければ、回復する方法は無い。

カタラの祈りのお陰で体力は完全に回復した。先程までの身体を支配する倦怠感が嘘の様に消えた。

今の私は、魔法剣士ではない。ただの剣士としては役に立ちそうだ。トロールやジャイアント程度は、あしらうことは出来る。ナルディアもかなりの魔力を消費したはずだ。もう魔力も乏しいだろう。カタラも再生の魔法を使い、魔力をかなり失っているだろう。パーティーの戦闘力は、白兵戦のみ可能。戦力激減だな。この後に強敵が出ないことを祈るばかりだ。

ウォンが剣をしまい、こちらに手を振ってくる。剣をしまったという事は、危険はないということだ。レッドドラゴンは、完全に倒した。ナルディアも合流し、三人がこちらに戻ってくる。やれやれ、これで完全に脅威は去った。残る問題は一つか…。もう見捨てようか。

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