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ブラッド・フィースト戦記  作者: しゅう かいどう


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33/61

33.赤龍攻防戦2

私の右手がレッドドラゴンに喰われた。目の前でレッドドラゴンが咀嚼をしている。忌々しい奴め。後で後悔するなよ。

まずは右肩の止めども無い大量出血を止血をしないと命にかかわる。

『火球召喚』

私の左の掌に直径十センチ程の火球が表れる。躊躇いなく食いちぎられ、骨や筋肉が露出している傷口に火球を押さえつける。

噛み千切られた激痛の上に、さらに火を押し付けることによって灼熱の痛みが加わる。痛みで意識が何度も飛びそうになるが、自分の肉が焼かれる臭いで覚醒することを繰り返す。

周囲の気配を読むどころではない。傷口を焼き潰すまでこの火球に耐えなければならない。

失神するのが早いか、失血死するのが早いか競争だ。いや、失神すれば止血が出来ず、失血死することには変わりはないか。ならば、意識を何としても保たなければならない。

痛みをこらえる為に噛みしめていた奥歯にヒビが入り、激痛が走り、目が覚める。

逆に好都合だ。今の痛みで落ちかけた意識が戻った。意識が落ちそうになる度に奥歯を強く噛みしめる。歯の神経は、人間が最も痛みを感じるところだと聞いたことがある。本当か嘘かは知らないが、確かに奥歯を痛めつけることで肩よりも歯の方が痛みを感じ、気を失わずにすんでいる。

どの位の時間が経過しただろうか。ようやく傷口を万遍なく焼き尽くし、血管を焼き潰して塞ぎ、血を止めた。しかし、かなりの血液を失ったようだ。格闘戦は無理だ。足にまともに力が入らない。立ち上がるのが精一杯だろう。

魔法も片手で唱えられるものは限られている。

めまいが酷い。血を失い過ぎたかもしれない。失血死の可能性はまだ考えられる。完全に戦力外だな。


不思議なもので激痛にも慣れ、頭に冷静さが戻ってくる。まだ、策の仕上げが終わっていないのに落ち着いては駄目だと頭の片隅から囁く私がいる。

地面からゆっくりと顔を上げると、幅広く強靭な背中が私を庇い続けていた。

見慣れた背中。頼りになる背中。追いかけ続けている背中。そして、もっとも遠い背中だ。ウォンの背中だ。

レッドドラゴンの噛みつきや爪の攻撃を巧みに盾と剣で受け流し、一歩も下がらない。私を守るために防御に徹している。

ナルディアも攻撃魔法を撃ち込み続けてくれている。

ロリも懸命に剣を振り続けてくれている。

カタラは、私に回復魔法をかけ続けてくれている。

ふ、私を守るためにここまで頑張ってくれるパーティーなんて有り難い話だ。

右手をレッドドラゴンにくれてやった甲斐があったものだ。

「よう。正気に戻ったか」

ウォンはレッドドラゴンを見据えたまま、私に語り掛けてくる。私の気配を読み取ったのだろう。

「えぇ、ようやく、正気に、戻った。右手を、無くすのって、意外に、簡単で、痛い」

呼吸が乱れ、切れ切れに言葉を返す。一言話すだけで、傷口に焼けた火箸を刺しこまれる様に痛む。

「そりゃ痛いさ。師匠に木剣で打たれただけでも数日寝込んだことがある。人間の身体は、強者には弱いものさ。で、ただで右手を奴にやったのか?」

「そんな、訳、ない。策の、一つ」

「その策に右手の価値はあるのか?お前の右手は相当価値が高いぞ」

「ありがとう。結構、評価、高い、のね」

「じゃ、そろそろ成果を見せてくれ。結構、しんどいんだわ。これ」

ラージ級のレッドドラゴンとの肉弾戦を結構しんどいの一言で済ますとは、やはりウォンの力の底が見えない。案外、底に穴が開いているのではないだろうか。まあ、確かにしんどいのは事実だろう。では、右手を犠牲にした策の成果をじっくり見てもらおうか。


「破裂せよ」

低く静かに命じる。

レッドドラゴンの中から私の命令を受諾したことを示す魔力の波動を感じる。

まず、変化はレッドドラゴンの臀部からだった。

強烈な爆音とも肛門から業火が噴き出す。そして、間を置かず、レッドドラゴンの腹部も轟音が鳴り響く。口からドラゴンブレスでは無い大量の業火を撒き散らす。業火が収まった後、口からは黒い煙と共に、爆風によりズタズタに裂けた肛門から、大量に血が床へ流れ出す。

腹部の比較的柔らかいところも裂けて、爆風で切り裂かれた腸がはみ出し、消化物と血が止めども無く流れ続けている。

レッドドラゴンは、体内で起きた大爆発の余韻で脳震盪を起こしている様だ。視線が彷徨っている。いくら、鱗が固かろうが内部が柔らかいのは、ブラックドラゴンでこの体で体験済みだ。

攻撃する絶好のチャンスだ。間髪入れずロリとナルディアが、たった今、空いた腹部の大穴を中心に魔法と剣で攻撃を加えていく。本来ならば、私も攻撃に参加したいが身体がいう事を聞いてくれない。

立ち上がろうとして左側に倒れそうになる。どうやら、右手を失って体の重心が狂ったことに対応できない様だ。受け身も取れず、そのまま床へ倒れていくところを大きな胸板が包み込んでくれる。しかし、プレートメイルが顔に当たり痛い。

「受け、止めるなら、優しく、して…」

「ああ、すまん。そんなに繊細だったか。お前」

ウォンがヒョイと肩に担ぎあげる。

「おい、ここは、お姫様、抱っこ、だろ…」

「はぁ~。お姫様だ~。どこに居るんだ?俺には龍のケツに腕を突っ込んだ馬鹿しか見えないなぁ」

「後で、覚えて、いろ…」

「はいはい、重傷人は黙って運ばれていろ」

会話をするのは、非常に苦しい。だが、今はレッドドラゴンへ攻撃するチャンス。

「私、置いて、いけ。ドラゴン、斬れ」

「いいんだよ。手当が先だ。カタラのところに連れていく。それまで大人しくしていろ。その後、思う存分斬りに行く。後で種明かしをよろしくな」

確かに治療を優先し、私が早く戦線復帰し、ウォンの言う通りに共同戦線を張った方が効率が良いかもしれない。ならば、大人しく運ばれることにしよう。どうせ、私は自力で動けない。選択する権利は最初から無いのだ。

「ミューレ!無茶をし過ぎです。これは作戦と呼べません。治療を優先しますが、後で説教します。覚悟して下さい」

開口一番、カタラに怒られた。

ま、仕方ない。馬鹿のせいで今回は意図しない遭遇戦になってしまった。

色々と考えがあったが、ロリのお陰で全てドラゴンブレスと共に吹き飛ばされてしまった。それでも、レッドドラゴンに一矢報いる攻撃が出来ただけでも右手を喰わせた甲斐はあった。

レッドドラゴンの死角になる場所に寝かされ、ウォンは戦線に戻った。遠くで魔法の爆発と剣戟、そしてドラゴンの咆哮が聞こえる。

今は、カタラと二人きりだ。

『体力回復』

カタラの天への祈りが、私の身体に力をくれる。血の量が増え、巡りが戻り、強いめまいが徐々に治まっていく。

『体力回復』

次に痛みが引き、呼吸が楽になってくる。徐々に通常と変わらぬ呼吸になる。

ようやく、人心地ついた。

「一応、身体が動く様に治療しました。腕の再生に入りますか。それとも戦線に復帰しますか。私は腕の再生を進言します」

カタラは、私の無謀な策に本気で怒っている。怒ると事務的になるのがカタラの特徴だ。

完全に私を物扱いしているが、冷血と呼ばれる私に対して、本気で心配し怒ってもらえる良い仲間をもって、私は幸せ者だ。

「カタラの言う通りにしよう。腕の再生をお願いします」

素直にカタラの進言を受け入れる。心配されたとか怒られたとかは判断の基準にしていない。

合理的に考えて、このまま、戦線に復帰しても出来ることは限られている。片手では印が結べない。初歩魔法を撃ち込むのが関の山だ。初歩魔法では、レッドドラゴンには効果が無いだろう。剣も左手で使えないことは無いが、本来の半分も実力は出せないだろう。つまり足手まといだ。復元を優先させる判断しかない。

『身体復元』

指を凍傷で失った時に、お世話になったばかりの魔法をかけて貰う。

まさか、この高等魔法に何度もお世話になるとは思ってはいなかった。

まず、焼いた筋肉を突き破り、骨が再生を始め、それを纏う様に血管、神経、筋肉と復元していく。上腕部が形になった時に皮膚が再生を始めていく。

ゆっくりとした再生だ。このペースであれば、完全復元されるまで三十分以上かかるだろう。

治療速度を上げることは出来ない。ここはじっと横たわり、治療に専念するし待つしかない。

とりあえず、レッドドラゴンに大ダメージをあそこまで与えたのだ。ウォン達三人なら、対等の戦いを進めるだろう。心配はいらないはずだ。

私の横でカタラが必死に天へ祈りを捧げている。額にうっすらと汗をかいている。美人は汗をかいても絵になるなど、呑気な事を考える。どうやら、死から遠ざかったことにより心に余裕が出てきたようだ。

気が付くと、前腕部の復元が始まった様だ。いつの間にか気を失っていた様だ。復元部分を見ると上腕部と同じ様に骨から再生が始まっている。

これでようやく三分の一が終わったわけか。手のひらは複雑だし、今より時間がかかるかもしれない。

失神前と変わらず、魔法の爆発と剣戟、そしてドラゴンの咆哮が続いている。気配を読むところ、一進一退の攻防戦の様だ。早く、私とカタラが戦線に加わり、一気に攻めに転じたい。

あと少しの我慢だ。


ようやく私の右手の復元が完全に終わった。

カタラは三十分以上微動だにせず、神に祈り続けため、濃い疲労が見える。水分の補給代わりに気付けのポーションを手渡す。少しばかりの感謝の気持ちだ。自分も念の為、ポーションを飲んでおく。

腹の奥底が厚くなり、気分的には元気になったような気がする。

「カタラ、ありがとう。カタラが居なければ、この策は実施できなかった。さて、ウォンたちも疲れてきた頃だろう。助けに行ってくる。カタラは休憩していい。魔力と気力の消耗が激しい。まぁ、私のせいなのだが、本当に感謝している」

「はい、ありがとうございます。無事に再生できて良かったです。私は大丈夫です。皆を助けに参りましょう」

本人が大丈夫というのであれば、止める必要も無いだろう。お互い一流の冒険者だ。どこが、限界点かは弁えている。

すぐには、近づかない。折角死角にいるのだ。この有利な状況を利用しない手はない。しっかり、準備をしてから行くとしよう。

『分身現出』

四体の分身を産み出して、攻撃の回避と身代わりさせる。

『魔力甲冑』

魔力を全身に覆い、見えない甲冑化とし、物理攻撃の緩和をさせる。

『氷雪付加』

刀身を絶対零度にし、切り刻んだ処を凍傷にし、自然再生をさせない。

私の強敵と戦う際の定番の魔法を再び唱える。

さらに、今なら詠唱の長い呪文も唱えることができるが、必殺の『氷結吹雪』で凍らせて粉砕する方法もあるが、体力的に最後まで舞い終わる自信が無い。代わりに光の矢でも盛大に撃ち込んでやろう。

『多重魔力光弾』

私の周辺に白い光球が現れ、円錐形の形をとる。それが次々と生まれ、28本の魔力光弾が私を取り囲む。これで準備はいい。

「さ~て、やるか」

レッドドラゴンの死角となっていた瓦礫から姿を現す。

向こうも私の存在に気が付いた様で、一瞬だけこちらに視線が向けられる。その一瞬をウォンが見逃すはずがない。

ウォンが首を刎ねるべく素早い剣筋を放つが、すぐに気が付いたレッドドラゴンが首を下げる。剣は間に合わず、角を一本切り落とすだけに終わった。

今のが決まれば、目の一つも潰せただろうにおしい。

「俺の角を…」

戦場の空気が変わった。一時的に皆距離を取り、防御姿勢に入る。

「虫けら共、今ので頭に昇ったが血が下がった。生まれて数百年、尻に腕を突っ込まれるという恥。自分の糞を食べさせられる恥。自爆攻撃に追い込まれるという恥。ドラゴンの象徴である角を落とされる恥。俺にここまでたくさんの恥をかかせてくれた。全て生まれて初めての事ばかりだ。だが、虫けらと侮っていた慢心が一番の恥。人間共の実力を見抜けず、お前達のペースにはめられた。エルフよ。お前が全ての起点となった。絶対に許さぬ。慢心も遊びもせぬ。俺が殺す」

レッドドラゴンがプライドの象徴である角を切り落とされたことで逆に冷静になった。

冷静な敵程、戦いにくい相手はいない。熱く興奮させることで隙が生まれ、攻撃の糸口とし、さらに冷静さを奪うのが常套手段なのだが、ここまで冷静になられると熱くさせる事は無理だろう。

まずは、状況の把握だ。三十分以上戦線から離脱していた為、戦況が分からない。情報を制するものが戦場を制する。それが私の持論だ。レッドドラゴンの長口上のお陰で現状把握する余裕が出来た。


レッドドラゴンの鱗は、三十分の攻防の間に半分近く剥ぎ取られ、皮膚や筋肉の露出が目立つ。魔法による凍傷や火傷も多数。斬撃により全身から隈なく出血をしている。だが、どれも深手には至らない。やはり、私が与えた内部爆破による腹部の破裂が一番の深手に思える。現在も出血が止まっていない。新鮮な血がどくどくと流れだしており、弱点を表している。だが、それはレッドドラゴンも承知している様で器用に羽や尻尾も駆使し、腹部の防御に重点を置いている様だ。

レッドドラゴンの最大の武器であるドラゴンブレスは、最初の一発以外は観測していない。ドラゴンブレスを生成する内臓が破壊されて吐くことが出来ないのか、それとも体力温存の為か、切り札に残しているのか判断が付かない。ドラゴンブレスは、吐けると仮定しておいた方が良いだろう。後、会話を長引かせることで出血による弱体化を期待できるかもしれない。

「よかったじゃないか。ドラゴンよ。色々と初めての体験が出来た様じゃないか。尻に手を突っ込まれたドラゴンは、世界で初めてではないのか?」

「お前の言う通り、世界唯一の存在であろう。そして、ドラゴンの尻に腕を突っ込むなどとイカレタ事を考えるなど、お前の頭はどうなっているのだ。ちなみにエルフ共よ、今まで我ら同族を何体狩った」

ふむ、やはり冷静になったドラゴンにはこの程度では熱くならないか。もう、挑発することは無理だな。ここからはガチンコ勝負か。

「カタラ、ドラゴンを何匹狩ったか覚えている?」

少し、カタラが考え込む。カタラなら正確な数を覚えているだろう。

「確か、全部で十九匹にはなると思います。ブラックドラゴンが五匹…」

「総数が分かれば明細はいいよ。ありがとう」

「そうか、俺が二十体目か」

「いいや、二十匹目だ。トカゲは匹と数えるものだ」

レッドドラゴンの瞼が痙攣する。さらに怒りを覚えた様だが、やっぱり挑発するには至らないか。

「よく、この少人数でそこまで同族を屠ったものだ。驚きだ。完全に侮っていた。この世にドラゴンスレイヤーが実在するとはな。てっきり、噂だと思っていたが、面白い。ドラゴンスレイヤーを倒せば、俺の名にも箔がつくな」

「無理だな。ミューレも復帰したし、お前の寿命は、まもなく尽きる」

ウォンがロングソードの血を拭きながら、レッドドラゴンへ死の宣告をする。

「一人増えただけで、この戦いが変わるとでも言うか」

「変わるさ。優秀な軍師が居れば、戦力は各段に上がるものだぜ。優秀ならな」

ウォンが最後にちらりとこちらを見る。

「はいはい。こちらは落ちこぼれですよ。すでに死者一名出しているし、自分の右手も無くす様な軍師ですよ」

「今回は、ブラフォードとロリが馬鹿をしただけだろ。作戦外だ。ノーカウントでいいんじゃないか」

「だけど、馬鹿の暴走も作戦に組み込められるのが、優秀な軍師だと私は思うのだけど」

「内の三馬鹿を予測するのは無理だぞ」

「三馬鹿とは誰だ?ロリとブラフォードは分かるが、後一人が我には分からぬ」

「お前だよ。ナルディア」

「は、我だと?正気で言っているのか?」

「正気で本気だ。自覚なかったのか?」

「ウォンよ、発言の撤回を要求する。それも直ちにだ」

「ほれ、今だって戦闘中だぞ。そんなの普通は後にするだろう」

「いや、我の名誉がかかっている。戦闘中だろうが、ドラゴン戦だろうが関係ない。この天才大魔法使いナルディア様を馬鹿扱いすることは断じて許すことはできない。発言の撤回と謝罪を要求する」

二人の罵り合いが徐々に盛大になっていく。

やはり、馬鹿だな。呆れて言葉が出ない。

ウォンの考えは分かる。時間稼ぎをしている間に状況を把握して作戦を考えろ、という事だろう。

ナルディアは、本気で言っているから馬鹿扱いされる。

レッドドラゴンもこの状況でパーティー内で罵り合いが始まるとは思っていなかったようで、呆気にとられている。虚をつくも兵法なりか。

さて、最初の一手は決まっている。私の周りを浮遊している光弾を叩き込む。

そして、皆がレッドドラゴンから離れている今の内に範囲魔法を叩き込み、その後に肉弾戦へ突入、の王道的作戦かな。

この作戦なら打ち合わせ不要で動ける。しかし、締めの一撃が欲しい。隠し玉はまだ一つ残してあるが、止めにはならないだろう。

何か良い考えが閃いたりしないだろうか。

仕方ない。行き当たりばったりが、内の特徴だ。優秀な軍師とかおだてられても、策は無い。無いものは無い。

仕掛るか。


「全員、いつもの作戦でスタート!全弾発射!」

光弾二十八発がレッドドラゴンの腹部に直撃し、次々に爆発を起こす。

完全に虚を突かれたレッドドラゴンは、咆哮し痛みを堪える。

『氷塊刺突』

ウォン達を巻き込ない魔法を選ぶ。直径5m、長さ50mの範囲に無数の氷筍を飛ばし、相手を刺し貫く。さすがに今回は鱗も無く、氷筍が次々と刺さっていくが、レッドドラゴンの分厚い筋肉を抜けた物は無い。内臓にまで届かない。

『火炎爆裂』

レッドドラゴンの腹部付近に火球を発生させ、一気に爆発させる。業火と暴風がレッドドラゴンを包み込む。刺さっていた氷筍が溶け、筋肉に大きな穴を残していく。

『魔力光弾』

白く光り輝く円錐形の光弾七本が、私の目の前に現れ、すかさず、筋肉の穴を掘り返す。

『石槍激発』

地面より直径十メートルの範囲に剣山の様に石槍が生まれ、レッドドラゴンを地面から串刺しにする。傷ついた腹部を重点的に石槍が抉る。この魔法は、石槍を作り出す魔法だ。造られた石槍が消えることは無い。レッドドラゴンの腹に刺さったままになる。

ここまで十数秒。流れる様の高速呪文詠唱。伊達に数百年呪文を唱え続けていない。人間には出来ない芸当だ。

「突撃」

静かに呟く。皆心得たもので、ウォンとロリはすでに斬撃の有効範囲に詰めている。具体的な説明などいらない。十分、私のやり口は、皆が理解している。

石槍で固定され、自由に動けないレッドドラゴンは、斬撃の回避に手こずっている。自由に動く手足と羽や尻尾を振り回し応戦してくる。

だが、この一撃が侮れない。一撃をまともに喰らえば、身体を抉られる事は必定。絶対に直撃は回避しなければならない。

その点、ロリは敏捷性にて、ウォンは技術をもってうまく回避や受け流しをしている。援護はカタラとナルディアの魔法に一任すれば良いだろう。

さて、私にしか出来ないことをしましょうか。

あえてレッドドラゴンの正面に立つ。噛みつき、ドラゴンブレス、爪攻撃、魔法等あらゆる攻撃が予想される場所だ。あえて、死地に立つ。

愛剣のバスタードソードでは無く、ロングソードを構える。

「魔法の波動、右手に感知」

「了解」

剣が私に話しかけ、剣へ返事をする。インテリジェンスソード。知能があり、喋る剣だ。切れ味は愛剣より格段に落ちるが、魔力感知や異種族語を話せる。使い処を間違えなければ、強力な武器になる。今なら魔力感知の力が強力な武器になる。ちなみに知能は、ブラフォードよりも高い。

剣の言う通り、レッドドラゴンの右手が魔法の印を結ぼうとしている。最後まで印など組ませない。

すばやく、インテリジェンスソードを繰り出し、右手を弾き飛ばし、魔法の詠唱を失敗させる。ここで魔法による自爆攻撃など私が許すはずがない。一度喰らった失敗は繰り返さない。

レッドドラゴンが燃え盛る目で私を睨みつけてくる。逆に狙いやすい。インテリジェンスソードで左目を狙う。しかし、凶悪な牙が剣を噛みしめる。レッドドラゴンの荒い鼻息が私にかかる。甘いな。

『氷雪付加』

剣の刀身を絶対零度へと冷やす。牙、そして周りの口に氷が付き始める。

冷たさに耐えかねたレッドドラゴンが剣を離す。

『気弾』

レッドドラゴンの下顎に左手を添えて魔法を唱える。

手から空気の振動弾を打ち込み、下顎を吹き飛ばそうと試みるが、流石はドラゴン。人間ならば簡単に手足を吹き飛ばせる振動弾に耐え、そのまま私の頭部を噛み砕こうとする。

噛まれるのは二度と御免だ。盾で受け流す。金属とレッドドラゴンの牙が擦れ合い、豪快に火花が飛び散る。まるで稲妻の様だ。

五人がレッドドラゴンに対し、攻撃をしているというのにも関わらず、有効打が決まらない。

一瞬でも気を抜くと死が待っている。

レッドドラゴンの喉の奥にチラリと赤い炎が見えた。ドラゴンブレスか!

この位置で喰らうのは私だけ。余程の怒りを買っている様だ。

喉の奥が益々赤く光り始めていく。

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