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ブラッド・フィースト戦記  作者: しゅう かいどう


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24/61

24.最後の欠片

日が昇る前に目が覚めた。誰も起きていないし、起きてくる気配も無い。

久しぶりに覚醒した鋭敏な感覚に若干の違和感があるがすぐに馴染むだろう。元に戻るだけの事。愛用しているバスタードソードを掴み、洞窟の外に出る。スケルトンは昨晩と変わらず彫像の様に立哨している。どうやら、昨夜は何事も無かったようだ。

東の空が白み始めているが、まだ春先の為、空気は冷えている。吐く息が白い。逆に気が引き締まって、昔の感覚を取り戻すのには都合がいい。

河原の適当な広場に陣取り、剣を鞘から抜き上段の構えから一気に真っ直ぐ振り下ろす。確実に昨日とは違う。剣速、剣筋共に自分のイメージより早く明確だ。いかに自分が今までブレーキをかけた状態で剣を振っていたかを実感する。自分の感覚と現実の剣筋が一致するまで剣を振り続ける。冷えていた体が火照りだし、全身にうっすらと汗をかき始める。数十回と丁寧に確認しながら剣を振るうが、感覚と現実がまだかみ合わない。これでは、戦闘に支障をきたす。攻撃とは敵の動きに合わせて斬る訳だが、予測地点に到着する前に剣を振り下ろしたり、逆に間に合わないのでは空振りして話にならない。戦闘での一瞬は生死を分ける。

出来れば、皆が起き出す前に完全に調整しておきたい。こんな中途半端な状態を見せたくない。皆が起きるまでに調整できなければ、今日の冒険は延期してもらうつもりだ。パーティー全体の安全性に関わる。

感覚と現実が完全に一致するまで一本一本動作を確認しながらゆっくり剣を振り下ろすが上手くいかない。

一度、全ての感覚を総動員して自分の身体がどの様に動いているか確認した方がいいな。初歩に戻ろう。

何本か振った後、力を入れるタイミングと抜くタイミングが噛み合っていない事にようやく気づく。どうやら、これが違和感の正体だろう。

ここを修正して、自分の感覚より早い剣速を自分のものにしなくては、遠くから見ている誰かさんの期待に応えられない。


さらに五十本程、素振りを繰り返した頃から当たりが出始めた。感覚と現実が一致し始める。自分の剣術がこの数年の間、数段劣化していた事実に愕然とする。

私自身が上級剣士となり、この世界に強敵と呼べる存在は、かなり減った。多くのモンスターが自分より格下になってしまい、技術が低下しても圧勝できた為、気が付かなかった。

ウォンとの本番の修練でもウォンがメキメキ実力をつけ、離されてきているものだと思い込んでいた。しかし、現実は違った。

私が弱くなっていた。戦闘を甘くみていた。私は強いと慢心をしていた。

これでは、ウォンが昔の私に戻そうと思わざるをえない。この腕前は酷過ぎる。昨日の私の状態で、レッドドラゴン戦に突入していた場合、死んでいてもおかしくない。ウォンが途中で引き揚げた理由は、ブラフォードの件より私の弱体化が原因だろう。ファントム・ナイトの強さを私が知らない為、互角に近い戦いをしていても気にも留めていなかった。世の中にはまだまだ強い敵がいるなと思っていたぐらいだ。

しかし、ウォンはファントム・ナイトの実力を知っている。つまり、私があの程度の敵に苦戦するとは夢にも思っていなかったのだろう。圧勝とまでもいかずとも終始優位に戦闘を運べたに違いない。今ならハッキリと自分自身でも解る。奴は確実に格下の相手だった。


ようやく、素振りでの感覚と現実は一致した。まず、第一段階は修了。第二段階は、型を行ってみる。まず、基本の型だ。頭の中に自分の分身を想像し相対する。想像した自分へ袈裟斬りするが、あっさり避けられる。敵の反撃を剣で受け流し、急所を突くが避けられ、一度剣を構え直す。

やはり、複雑な動作が入ると感覚にズレが生じる。

次に高等技でイメージトレーニングを続ける。感覚のズレが一層酷くなる。

やはり、これも数をこなすしかないか。基本技を数十本繰り返し、応用技に移行する。技を振るう度に感覚のズレが収束していく。よし、良い兆候だ。

「どうやら、だいたい調整出来た様だな」

ウォンが背後から声をかけ近づいて来た。私の調整具合を洞窟の入り口から眺め、仕掛ける頃合いを待っていた事に気がついていた。ウォンの視線が、冷血のミューレと手合わせをしたいと強く訴えかけて来ている。

「えぇ、お陰様でね。ほぼ、以前の私に戻ったわ。ほんの少しのズレがあるけど実戦で修正していく」

「いや、それじゃ俺が背中を預ける気にならん。今、修正してやる」

ロングソードを抜き放つ。お互いに防具は付けていない。一撃が命取りだ。

「防具は無しでいいの?」

「そんな物をつけたら命の危険を感じないだろ。命懸けでないと修正できん」

「上等」

会話は終わりだ。戦士と剣士が向かい合う。静かだ。無駄な動作が無いため、雑音が生じない。私の剣が粛々と自分の腕と同化していく感覚がある。今なら思い通りに間違いなく剣が動く。

やはり、練習より命をかけた戦いが効率良く、感覚のズレを修正できそうだ。間違いなく冷血のミューレに戻れるだろう。

多分、私が冷血のミューレに完全に戻れる、もそくは戻ったとウォンが判断した時に攻めてくるだろう。もう秒読み段階だ。あともう少しで、数年前の感覚が戻るだろう。そんな予感がする。頭の中の神経が猛烈な速度で最適化されている様な感覚だ。

肩の力を抜け、前足の足先は敵に向けろ、後足は九十度回転させ重心を載せろ。そんな言葉が脳の奥底から吹き上がってくる。こんな初歩の事まで、忘れていたのか。なるほど、ウォンとの差が広がる一方だ。あちらは毎日の基礎鍛錬を欠かしたことが無い。それに比べ私は魔法の勉強を優先し、剣を握らない日もあった。差が開いて当然だ。中々魔法剣士というのも面倒なものだ。どちらもおろそかに出来ない。エルフの寿命があるからこそ成り立つ職業だな。どうりで人間族で魔法剣士を見かけない訳だ。

さて、頭の中に吹き上がってくる言葉が無くなった。つまり、基礎は全て思い出し、無意識に行っていたイメージトレーニングが終了した。その瞬間、ウォンが剣を振り下ろす。

後足を半歩下げ、目の前を剣が通り過ぎるのを確認する。二撃目が来るはずだ。一撃で終わらせるのは素人。ウォンの全身を見る。目や腕等の一部だけを見るのは初心者。全身を見る、いや、感じることで次の動きが先読みできる。ウォンの右手首に若干のひねりを感じる。剣を横に薙ぎ、足を切り落とすつもりか。

自分の剣を地面に突き立て、ウォンの剣を弾く。金属のぶつかる甲高い音共に火花が飛び散る。地面に突き立てず、腕の力で剣を弾こうとしていれば、私は剣を飛ばされ足を切断されていただろう。だが、これで一瞬だがウォンの動きが止まる。左手で胸元のダガーを抜き、一気にウォンの喉元を貫く。だが、上半身をうまく捻じって避け、その勢いを利用し間合いをとる。

結果的に数年ぶりの二刀流になってしまった。普段は盾を装備している為、二刀流になることがない。さて、付け焼刃に等しい二刀流がウォンにどこまで通用するものかな。顔がニヤケテくる。私の力が確実に元に戻ってきている。最後、一つだけ残った違和感が分かれば、完全復活できる。

ウォンは止まることなく、下段から突き上げてくる。これでは地面を利用できない。ダガーとバスタードソードで十字受けをし、さらに上へ剣の軌道を反らす。私の仮面を掠める様にウォンの剣先が通り過ぎていく。今、ウォンの胴はがら空き。誘いだろうだが乗ってやろう。

ウォンのロングソードはダガーで固定し、バスタードソードで柔らかい腹を横に割く。ウォンは逆に踏み込み、私のバスタードソードの持ち手を骨盤で抑え込んでくる。これでは剣を振り抜けない。お互いが密着状態だ。私の背が低いため、ウォンの分厚い胸板が私の目の前にある。心臓がゆっくりと普段と変わらない脈動をしているのが目で見て分かる。つまり、まだまだ本気じゃないということか。いいじゃないか。本気で殺してあげる。上唇を舌で蛇の様に舐める。

ウォンが踵で私の足の甲を踏み抜こうとする事を筋肉の動きで感じた。足の甲、特に親指と人差し指の付け根は急所だ。この急所を的確に踏み抜かれると激痛で失神する。

ならば、ダガーを支える力を一瞬抜き、力を入れ直す。それによりウォンのバランスが若干崩れ、踏み抜きがキャンセルされるが、ウォンの自由な左手が私の腰に回される。

しまった。踏み抜きは誘いか。ウォンの剛力により腰が片手で締め上げられ、両足が浮く。骨がミシミシと鳴り、腹から強制的に息を吐き出させられる。痛みと酸欠が私を苦しめる。

私の右手は、自分の身体とウォンの身体に挟まれ動かせない。左手は、ウォンの剣を止めるので精一杯。密着し過ぎで効果は薄いが、金的を膝で潰す。ウォンが素早く内股になり、私の膝を防ぐ。だが、それは囮。本命は、喉元への噛みつき。ウォンの締め上げで身体を持ち上げられた為、目の前に無防備な喉がさらけ出されている。これを利用しない手は無い。本気で噛み切るつもりだ。狙い通り、ウォンの喉元に歯を立てる。一センチ程、歯が喉に喰い込むがウォンの鍛え上げられた筋肉に阻まれ、そこで止まる。だが、諦めない。急所を取ったのはこちら。ここで力を緩めるわけにはいかない。口の中に生暖かい液体がゆっくりと流れ込んでくる。鉄の味がする。一口ごくりと飲み込む。美味しい。こんな感覚は忘れていたな。さらに、堪能すべく顎に力を加える。


「参った」

ウォンが一言呟く。突如、殺し合いは終わった。ゆっくりと力を抜き、地面に降ろしてくれる。

私もすでに喉元の噛みつきを止めている。

「あら、予想より早いギブアップじゃない。いつもなら、まだまだ次の手を出してくるのに。それに肉弾戦じゃ剣技の感覚が戻らないじゃない。練習にならないわ」

「今回の本番は、冷血のミューレを復活させることが目的だからな。元に戻ればこれ以上の本番は必要ない。それに剣技よりも勝利への貪欲さの低下が一番酷かったからな。ここ数年の本番で金的や噛みつきとかして来たか?先にギブアップしていただろう」

「確かに。そこまで勝ちに拘っていなかった。あくまで剣技の勝負に拘っていた」

ようやく、最後の違和感が分かった。勝利への拘わりが無かった。絶対に勝つという想い。戦う者にとって、絶対に無くしてはならない心。弱者が強者に勝つ為に、絶対に勝利をあきらめない事が唯一の勝つ方法。上級戦士だって人間だ。想像もしていない様なミスをすることもあるだろう。それが万が一の確率であっても諦めてしまえば、勝利はゼロ%になる。

一番大切な事を私は忘れていた。最後のパズルのピースがはまった。

冷血のミューレの完全復活だ。

「フフフ。長い間、待たせたのかしら?」

「そうでもないさ。優しさのあるミューレも良かったぞ」

「心にもない事を。これでカタラが悲しむことが決まりね」

「仕方ないさ。パーティーの弱体化は、次のドラゴン戦では致命的だ。特に今回の冒険は嫌な予感しかしない」

「そう?三馬鹿も予定通りの馬鹿をさらけ出しているだけで、順調に事は進んでいると思うけど」

「だが、ブラフォードが以前と同じ罠に引っ掛かり、俺の唯一のトラウマが現れる。次は何があるか不安を感じるな」

「考え過ぎ。三馬鹿が失敗するのは、いつもの事だし、ファントム・ナイトが現れたのも城の騎士が幽体になっただけの事。あの惨状なら、アンデッド化していてもおかしくない状況だった。それだけのことよ」

「そうだな。偶然が重なったとしておくか。よし、気分を変えて朝飯にしよう」

ウォンは剣を鞘に仕舞い、洞窟へ踵を返す。私もダガーとバスタードソードを鞘に戻し、ウォンの後ろをついていく。

鋭敏になった感覚が、洞窟に居る四人も起きて朝の支度をしていることが分かる。

さて、私を見てどんな反応を示してくれるか楽しみだ。

それにしても、ウォンの血って美味しかった。


「ウォン、ミューレお帰り!カタラが朝食の準備をしてくれているよ」

ロリが出迎えてくれる。だが、ロリは以前と態度が変わらない。まぁ、そんな奴だ。私の気配の変化に気がついているのに興味が無いのだ。元に戻っただけなのだから。

「フハハハ、二人で朝の散歩とは仲が…。ゴホン、いや、おはよう」

ナルディアが私の目を見た瞬間に口を閉ざす。そう言えば、ナルディアは長い物に巻かれろというタイプだった。ナルディアがロリを手招きし、呼び寄せ小声で相談している。こちらには聞こえていないつもりなのだろうが、地声が大きいので丸聞こえだ。

「おい、ロリ。昔のミューレに戻っているぞ。気づいたか」

「うん、気づいたよ。強くなったね」

「じゃあ、冷血のミューレに戻ったのか」

「ううん。冷血のミューレの時より強くなっているよ」

「そうか、気のせいじゃないのか。お互い言動に気を付けような」

「大丈夫だよ。僕はいつも良い子でいるからね」

まぁ、この二人の反応は予想通り。さて、カタラが面倒かな。


「ミューレ、おはようございます。その身に纏われている気配は、どうなされたのですか。かなり、寒々しい気配を感じるのですが」

「今後の為、元に戻っただけだよ」

「あぁ、長い時間をかけて慈悲の心を説き、ようやく最近、実を結ぼうとしておりましたのに…。元の冷血漢に戻ってしまわれるなんて…。今からでも遅くはありません。私と一緒に神に祈り、慈悲の心を取り戻しましょう」

「すまないカタラ、戻る気は無いよ。これが本来の私だ」

「あぁ、神よ。なぜ私にこの様な艱難辛苦を与えるのですか。はい、諦めたりなど致しません。神の慈悲の心をもう一度広めてみせます。ただ、今はほんの少し、悲しむ時間をお与え下さい」

そう言うとカタラは、詰所の片隅で壁に向かって跪き、嗚咽を堪えながら涙を流し始めた。

やはり、私を洗脳していたのはカタラだったか。

慈しみや優しさなどが物事を円滑に進めるのであれば、計算して生み出しその様に行動してみせれば良い。心根から変える必要は全く無い。慈悲や優しさは、私にとって弱点にしかならない。ウォンも私の弱点であると判断したから元に戻してくれたのだ。すまないねぇ、カタラ。布教や啓蒙は、パーティー外でよろしく。

さて、あと一人か。奴に本性を見せるのは初めてだな。さて、どんな反応をしてくれることやら。


「なんじゃ、朝から皆騒がしいのう。飯くらい大人しく食えんのか。ウォンもミューレも立っとらんで座って飯を食え。今日は大トカゲと一戦やるかもしれん。しっかり、腹ごしらえをせねばのう」

ブラフォードは、何も気にかけず一心不乱に干し肉に噛り付く。ロリと同じく、無反応と云うのが腑に落ちない。ロリは、分かっていて気にしていないということは、理解している。

では、ブラフォードは私の気配の変化に気づいていないのか、気にしていないのか。どちらだ。

とりあえず、私の変化が分かりやすい様にブラフォードの真正面へ座る。少しでもブラフォードの目に入る様にだ。

朝食を摂り始めるが、ブラフォードに変化は無い。隣に座ったウォンに聞く。

「あれって、気づいていないの?それとも、気にしていないの?」

「今まで眼中に無かったから気づかなかったが、気配が読めないタイプじゃないのか」

「眼中に無いって、結構手厳しいのね。あれでも上級戦士、気配が読めないなんて事はないでしょう。」

「普段の戦い方はゴリ押しだぞ。駆け引きとか見たことあるか?いつも突撃あるのみだろ」

「気配が読めなければ、背後からの敵に対処とかできない。そうじゃないと生き残れない」

「お前が何時も前衛にしているだろ。後ろから敵が来たら後衛が対処しているからな。後ろの事まで今まで考えて戦った事が無いんじゃないか」

「後衛に置いても使い道が無いから前衛に置いていたけど、言われてみれば心当たりがある様な…。他のパーティーでも同じ扱いだったのかも。」

「それと普段から空気が読めないからな」

「確かに。指摘されて初めて気が付いたわ。よく、上級戦士まで生き残ってこられたわね」

「ドワーフ族っていうのは頑丈さが取り柄だろ。不意打ちを喰らっても、不意打ちだと気が付いていないかもしれないぞ。ちょっと、気を当ててみたらどうだ。それでハッキリするだろう」

ウォンの言う様にブラフォードに対し、殺気を軽く放ってみるが無反応だ。固い干し肉を噛み千切るのに必死だ。

「おう!」

ナルディアから短い驚きの声が漏れる。

「はぁ~」

ウォン、カタラ、ロリからは、ため息が漏れる。

「なんじゃ、オーとかハ~とか何かあったかのう。それとも今日の戦いが心配か。安心せい。昨日は不覚をとったが、今日は真の実力をみせてやるわい。ガハハハ」

ブラフォードは、何事も無く乾パンに噛り付く。

ウォンの言う通りでした。ブラフォードに気配を読む能力は無し。これは予想外、今後の戦いでも当てにしてはいけないという事が分かっただけでも収穫があったとしよう。

やはり、盾役か囮役にしか使えんか。役に立たぬビア樽め。次に足を引っ張るようなら、離脱してもらう事も考えないとダメか…。それとも消耗品として魂がすり減るまでこき使ってやるか。


無駄なことを考えるのは止めよう。出来ない事は出来ないで進めるしかない。さて、今日の廃城攻略だが、謁見の間以外の人間サイズの扉の部屋を捜索し、明日、謁見の間を捜索するのが妥当だろう。

レッドドラゴンが人間サイズの扉の部屋に居る可能性は少ない。凶暴なレッドドラゴンが魔法で人間に変身するような事は無いだろう。知性と品性を兼ね備えたゴールドドラゴンやシルバードラゴンならば、人間に魔法で変身していることもある。人が作った調度品や文化を嗜むのには、人間サイズが適しているからだ。そんな酔狂な真似を暴力の化身であるレッドドラゴンがするとは考えにくい。ゆえに、小部屋に潜む脅威を先に取り除き、レッドドラゴンとは後顧の憂いがない戦いに持ち込みたい。

「今日の予定だけど何か提案はある?」

まず、皆に意見を求める。こちらから作戦を押し付けるより皆で作戦を決めたという事実が欲しい。その方が何事も円滑に効率的に進む。

「はい、提案をさせて頂きます。小部屋から調査し、謁見の間は最後に調査した方がよろしいかと思います」

片隅で泣いていたはずのカタラがそんな事実など無かった様な素振りで、朝食を摂りながら作戦を提案してくる。やっぱり、女は怖い。心の切り替えが早過ぎる。自分も女ながら、カタラの切り替えの早さに感心する。

「フハハハ、うむ。カタラの言う通り、堅実に進めるべきだな。ドラゴンと戦っている最中に背後から襲われては、皆が困るからのう」

ナルディアは後衛にいるから、背中が一番気になるだろう。不意打ちされれば、防御力の無い魔法使いは無力だ。ナルディアにとって、後ろに敵がいるかどうかは死活問題だ。そう言うと思っていました。

「ロリもカタラと同じがいい。だって、あの小さい部屋には何があるんだろうって気になるんだよね。それに一番大きな楽しみは、最後まで取っておかなくちゃね」

これも予定通り。ロリは、好物を最後に食べる癖がある。

「軟弱な奴らじゃ。ガツンと最初に一番強い奴を倒すのがケンカの鉄則じゃろう。大トカゲから退治せんか」

さて、ビア樽が勇ましい事を言ってきた。はい、これも想定内。さてと、後はこの意見を無視するか、握りつぶすかだな。

「なぁ、ブラフォード。一人でドラゴンに立ち向かえるのか。言っとくが俺は無理だぞ。行けと言われても行かないからな。みんなの援護が無ければ勝つ自信は無いぞ」

ウォンは婉曲に皆の意見に賛成だから、お前も同調しろよと言っているが、空気が読めないブラフォードには通じるだろうか。

「もちろんだ!大トカゲの一匹や二匹に手こずるブラフォード様ではない!だが、まぁウォンの意見も聞かぬわけではない。ワシは度量の広い漢だからな。確かに皆で攻撃すれば、短時間で成敗できるであろうからな」

何が度量が広いだ。了見が狭いビア樽が大見栄だけ切って、結局は皆と同じ意見か。ちっ!しょうもない事でも言えば、精神的に追い詰めてやるつもりだったが仕方ない。今日はブラフォードで遊ぶのは止めておくか。

皆の意見が出揃った。作戦は決まりだ。調整どころか意見を聞く必要も無かったか。まぁ、これで私が独断で決めた訳ではない、皆で決めたという既成事実はできた。

「私も皆の意見に賛成です。小部屋を調査し、終了後、日を改めて謁見の間を調査するという事で良いですね」

五人からそれぞれの言葉で賛成の言葉を貰う。

本当の自分と数年ぶりに会える。さて、どんな冒険になるか楽しみだ。それにロリが以前より強くなっていると言っていた。事実であればうれしいが、これも確かめられる。

後はブラフォードが冷血のミューレを見て、どんな反応を示すかが一番の楽しみだ。

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