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21.廃城突入

夜警をスケルトンに任せ、一晩ぐっすり眠ったのは何日振りかな。久しぶりに目覚めが良い朝だ。昨日の涙の件は、もう忘れようね。ウォンも私が言い出さない限り、話を持ち出してこないだろうしね。あれは、自分ながら不覚。余程、情緒不安定だったらしい。

数百年生きてきても、まだまだ若いね。パーティー内では鉄の乙女と思われているのにね。今回の件でウォンには本性がばれちゃったなぁ。まぁ、今日から鉄の乙女に戻りますか。

さて、いつの間に起きたのか、カタラがすでに朝食の準備をしてくれている。いつでも、朝食にありつける状況だね。と言っても昨日に引き続き、保存食、つまり干し肉・干し野菜・乾パンを並べただけなんだけどね。朝食を用意してくれるだけでも感謝しないとね。

ちなみに内のパーティーの野郎共と副族長は、全員いびきをかいて眠り込んでいる。ま、一声ですぐに臨戦態勢を取るだろうから、寝起きは良いはず。そうでないと冒険者は務まらないからね。

「起きろ。飯だぞ」

あれ、無反応だ。野郎共は眠り続けている。普段なら一発で目を覚ますのに、完全に油断しきっているというか、怠けたいということだね。ならば、この策で対抗しますか。

「ロリは、好きな人がいます。その人は大変優しく…」

ロリが即座に毛布から飛び出る。

「おはよう。ミューレ!今日もいい天気だね」

「おはよう、ロリ。洞窟の中から天気が解るってすごい才能だね」

「そ、そう。何となく匂いで解るんだよ。うん、ご飯だよね。すぐに席に着くね」

ロリは慌ててベッドから抜け出し、椅子に座る。

「ミューレ、その様なやり方は感心せんな。人には触れられたくないことがあるものだぞ。デリカシーの欠片も無いな」

背後からナルディアが声をかけてくる。

「なら、素直に狸寝入りせずに起きればいいのに」

「ふ、惰眠を貪る贅沢を知らぬとは悲しいのう。ちびエルフが」

「昨日の氷の魔法を知らないなんて悲しいわ。エセ大魔法使いが」

「くっ。ま、魔法には得意分野と不得意分野があるのは常識だ。それに今は炎系を研究しており、氷系までは手が回らなかっただけだ」

「だから、エセ大魔法使いって言っているの。『使えない』のと『知らない』のでは雲泥の差があるのをご存じ?」

「むむむ、次のドラゴン戦で我が真の実力を見せてやろう!炎系の魔法の集大成をな!」

「次のドラゴンってレッドドラゴンだよね。炎竜に炎系の魔法をぶつけるんだ。効果があるといいね」

「くっ。飯だったな。また、保存食か。無い物は仕方がない。頂くとしようか」

ちっ、逃げたか。もう少し追い詰めたかったけど、まぁ朝からナルディアで遊ぶのもほどほどにしよう。

で、ウォンは椅子に何食わぬ顔で座っている。いかにも最初の号令で起きて、いい子にしていますよという顔でだ。私は、ちゃんと見ていたからね。ナルディアが私に声をかけてきた瞬間に気配を消して椅子に着くところを最初から最後までね。

「あれ、ウォンって寝てなかったかな」

「うん?何の話だ。知らんぞ。ちゃんと最初から座っていたぞ。気のせいじゃないか」

残念、とぼけられては証拠が無いから突っ込めないなぁ。それに昨晩の件もあるし、これ以上、つつくのは私の為にならないかな。止めておこう。

ちなみに副族長は素直に最初の号令で椅子に座っている。力関係がハッキリしていると楽でいいね。


「さて、今日の予定だけど補給にオーク砦に戻りたいと思うんだけど、何か意見有るかな?」

朝食を摂りながら、皆を見回す。反対意見は無いみたいだけど、確認したいことがあるのかな。カタラが考え込んでいる様に見える。しばし、待ちましょうかね。

「ここには、誰が残るのでしょうか?空にしますと別のモンスターが住みつく恐れがあると思うのです。それとも放棄するのですか?」

「放棄しないよ。今後の廃城攻略のベースキャンプにするつもりだけどダメかな?留守中はスケルトンを何体かを警備に置いて、全員で砦に戻ろうかなって思っているよ。ちなみにスケルトンは何体できたの?」

「フハハハ、約五十体は造ったぞ。一日でここまで造る我が魔力量。思い知ったか」

「昨日は、攻撃魔法をほとんど使ってないもんね。魔力温存の作戦を進められて良かったよ」

「そうであったな。魔力光弾なんという初級魔法を使っただけだったな。ちっ!」

ナルディアの自慢は聞き流すのが、本当は一番手っ取り早いんだよね。ただ、ほっとくと増長していくから釘を差すだけで、このレベルなら釘を差す必要はないね。

「それじゃあ、奮発して十体のスケルトンをここの警備用に置いておこう。今後も使い道がありそうだしね」

「ふむ、よかろう。スケルトンの中でも能力が高そうなのを十体見繕っておこう。そうすれば複雑な命令も理解できる可能性があるからな。フハハハ」

上級魔法を使いこなすこともあって、馬鹿ではない無いんだよね。こういう時に先を見通した行動も取れるし、普段からこの状態だといいんだけどなぁ。

「じゃあ、それでよろしくね。残り四十体は約束通り、族長に指揮権を渡して砦周辺の統治に乗り出してもらおう」

「うむ、解った。選別は任せてもらおう」

「了解。他に何かあるかな?」

次は誰からも意見は無かった。朝食後、荷物をまとめ旅立ちの準備をする。と言っても、鎧を着こんで荷物を背おうだけなんだけどね。

ナルディアが選んだリザードマンのスケルトンは、確かに上物だった。軽く剣を合わせてみたが、ゴブリンやオーク級のモンスターならば歯がたたないだろう。スケルトンの元になったリザードマンは、強い戦士だったんだろうね。これなら警備を任せても大丈夫かな。

「んじゃぁ、行くか」

ウォンがいつも通り気合の入らない掛け声をみんなにかける。

それぞれが異口同音で答える。来た時と同じように川伝いにオーク砦に向かう。

行きと違うのは、背後にスケルトン四十体が骨をカタカタと云わせながら付いて来ることだけだね。


で、二週間後にリザードマンの洞窟に戻ってきた。スケルトンがちゃんと仕事をしてくれていたみたいで、洞窟の入口に数体のゴブリンの死体が転がっている以外は、出発前と変化は無いね。スケルトンにゴブリンの死体を河原に埋めさせ、今は洞窟の中の警備室で休憩をとっている。

最初に来た時は、道なきところを歩いて来たけど、さすがに四十体のスケルトンが歩くと踏み固められ、獣道の様になり、楽にここまで来れた。ちょっと嬉しい誤算だね。

さて、今回は正式パーティー六名のみで構成されている。ドラゴン戦ではチームワークが重要だし、オークが応援に来ても役に立たないしね。

ちなみにブラフォードは、オーク砦で先生扱いされて上機嫌だ。このパーティーでは、戦士としては格下でもオークと比べれば、戦士としての技量は比較にならないほど高いからね。

オーク達にとっては、戦闘訓練には良い先生になったんだろうね。

その時の自慢話をウォン達に熱く語っているが、多分現実の二倍位は話を盛っているんだろうね。カタラは素直に相槌を打っているけど、ウォンはどこまでブラフォードが風呂敷を広げられるか面白がって聞いている。私は、あまりにも付き合いきれないので、以前から研究をしている魔導書を読んでいる。何度も読み込んでいるうちに完全に暗記し、呪文や触媒も解読したけど肝心の魔法発動の結果だけが読み解けない。もしかしたら、何か見落としがあるのかと思って魔導書を読んでいるが、暗記している内容との食い違いは無いんだよね。

何が起こるか分からない呪文を詠唱するなんて事は自殺行為に等しい。呪詛の類である可能性であってもおかしくない。ナルディアに唱えさせる事も考えたけど、即死魔法の類であればこちらに被害が及ぶからねぇ。まぁ、魔導書を読む限り、そういうものではないとは思うんだけど何かのきっかけで閃けばすぐに使えるんだけどなぁ。あぁ、悶々とするよ。


ちなみに、ロリには付近の偵察をお願いしていて今ここにはいない。ロリはピグミット族だから、敏捷性に優れ小さい体を活かした隠密行動が得意だ。戦闘よりも偵察の方が向いている。それに好奇心の固まりだから、些細な事も見落とさない。逆にその好奇心のせいで悪い方向に流れることもあるんだけどね。

実はすでにここに来て一週間ほど経過している。

ロリは、外が明るい内のほとんどを偵察に費やしてくれているけれど、新しい発見が無い状態が続いている。どうやら、新しい情報も無いまま廃城に突入することになりそうだね。

ロリが書き込んでいる周辺地図を思い出す。

渓谷の中に廃城があり、川を利用した堀に囲まれている。大きさは四百メートル四方の三層構造の石造り。入口は、正面と横に一か所ずつ。崖の上から見る分には、壊れているところは無さそうとの事。

中規模な城だけど、ここにあるのが不思議だね。

洪水が起これば、外界とは完全に隔離されるし、水攻めもし易い。崖の上から弓や魔法で一方的に攻められ、投石器を使われれば、防御性は皆無。

私なら、水攻めで籠城戦に追い込み、崖の上から投石器で城を破壊する。その後、油壺を投げ込み火攻めで詰み。

何でこんな場所に城を建てたのかな。別荘にしては交通の便が悪いけど、建築当時は街道が通っていたのかな。使い道を考えても分からないなぁ。行くしかないかな。実際に行けば、何かに気づくかもね。

ロリの話では、渓谷の中は、岩場で隠れるような場所は無く、ここと同じ様な洞窟や割れ目は他には無い。崖を上がり、樹海を探索するがこちらにも現在のところ集落や道などの人工物もなく、モンスターの巣も見当たらないとの事。時折、ゴブリンに出会うらしいが、狩りに来た様子で尾行してもかなり遠くまで帰ろうとするので途中で見逃しているらしい。

日帰りで偵察できる範囲も今日でおしまいだし、いよいよ明日から廃城攻略戦を開始かな。

さて、今日は何か成果があるといいんだけどね。


残念なことに昨日のロリの偵察は成果が無かった。とりあえず、崖の上は樹海ばかりで危険物は無い様だ。逆に考えるとドラゴンの餌場であるため、生き物が皆無なのかもしれない。逆に考えるとモンスターの不意打ちなどの心配は無く、廃城攻略に専念できそうだね。

いつも通りの朝のやり取りをした後、ウォンの掛け声で洞窟を出発する。

情報が無いのであれば、正攻法でいくしかないよね。周りを警戒しつつ、廃城へ接近する。遠くで見るより近くでみれば、これが数百年前に建造された城とは思えない程、元の外観を保っている。贅沢にも総大理石張りの外壁だ。これは、かなりの上物だね。レッドドラゴンが巣にする理由が分かるような気がする。

ドラゴン族は、綺麗な物が好きだ。光り物を集め、城や砦などに巣を作る事が多い。子供から成竜になったばかりのスモール級は、冒険者たちの獲物としてよく狙われる。何せ、十数年にわたって集めてきた金銀財宝、そしてマジックアイテムを持っているからだ。ま、私達も率先してスモール級を倒して、装備を魔法装備一式に揃えることが出来たんだけどね。

いくら、成竜になったばかりといっても強さはそこらのモンスターからずば抜けている。中堅の冒険者が何とか倒せる位かな。

数十年生きているドラゴンはミドル級と呼ばれ、ここまで大きくなると知能も人間並みになり、上級の冒険者で対等の勝負になる。勝敗は、その時の状況というか、作戦次第になってくるね。ちなみにお宝のグレードも格段に上がってくるけど、リスクを考えると収支が合わないね。

次にラージ級と呼ばれるサイズになるのだけど、これがこの前対峙したブラックドラゴン二体がラージ級に当たる。百年以上生き、賢者と同様の賢さを持ち、智恵も力も何かもが人間が勝てる部分が無くなってくる。ラージ級に勝てる冒険者となってくるともう有名どころのパーティーぐらいだろうね。心当たりがあるのは、勇者チームを入れても十パーティーも無いかな。ま、酒場で強者ランキングの話が出ても私達のパーティーの名前は出てこないけどね。本当にびっくりする位、知名度がないんだよね。そのラージ級を二体同時に相手して辛勝するなんて、私達のパーティーって自分でも恐ろしい。

そう言えば、勇者君がこの前、酒場でチラッと私達の事を口に滑らしてたなぁ。

「実は、俺達よりも数段強い奴らがいる」

周りから誰だ、ここに居るのか?俺たちが知っている奴かって周りから問い詰められて真っ青な顔してたなぁ。さすがに私達に視線を送る様な馬鹿な真似はしなかったから、知らんふりしていたけど、お酒の力って怖いねぇ。あれ程、私達の事を話したらダメって口止めしておいたのに、今度お仕置きしとこかなっと。

正体がばれたら、面倒な依頼が殺到して、好きな冒険が楽しめなくなるじゃない。こんな風に時間に縛られず、自由気ままに城を冒険する時間なんて無くなっちゃうもんね。世界の平和は勇者君と勇者チームに任せたよ。

ちょいと、ドラゴンの話から逸れちゃったね。

一番お会いしたくないのが、エルダー級のドラゴンだね。数百年の齢を重ね、総ての生き物を超越した化け物。知恵と力は人間を凌駕するどころか、魔法まで使ってくる。

意外にも年を重ねてきた為か、礼儀をもって誠実に話し合いをすれば、理解し合えたりする事もある。だけど、この話し合いが長い。短くても三日、長ければ一週間しても、話し合っていたりすることもある。向こうは無限に近い寿命を持つ身だから丁度良い暇つぶしだと思っているのかな。

だが、所詮は凶暴なドラゴン族。話し方や礼儀作法がなっていなければ、機嫌を損なって即座に話し合いが終了し戦闘になる。で、私達でも全滅だね。

ただ何でも例外はあって、数種類いるドラゴン族の中でゴールドドラゴンと呼ばれる美しい金の鱗に全身を包まれたドラゴンだけは違う。ドラゴン族とは別の種類ではないかと思うくらいだね。

非常に理知的でこちらが非礼を取らない限り、戦闘になる事はまずない。素直にテリトリーを荒らしてごめんなさい。強奪したアイテムは総てお返します。で、大抵は許してくれる。存在がかなりレアなんで、お目にかかった冒険者はほとんどいないだろうね。勇者チームも会ったことが無いって言ってたなぁ。伝説やおとぎ話の存在になりつつあるね。実際に居るのにね。

ちなみに、今回のレッドドラゴンは非常に不味い。一番凶暴なブラックドラゴンの次に凶暴凶悪の固まりと言っていい。何事も暴力で解決するタイプだ。出会った瞬間というか、見つかった時から戦闘が始まっている。こちらを観察し作戦を立ててから攻撃してくるからだ。

その点、ブラックドラゴンは凶暴だが、基本的に猪突猛進、思いつきで行動するからまだ対応しやすい。

レッドドラゴンは、背後からのいきなりブレス、頭上からの高高度体当たり、曲がり角での噛みつきなどなど状況に合わせた不意打ちをしてくる。如何に先手を取るかがレッドドラゴン戦では戦闘の行方を左右する。スモール級やミドル級なら不意打ちを喰らっても立て直す自信があるけど、ラージ級は難しいね。逃げの一手です。はい、見栄や根性ではどうこうできません。仲間の事を考える余裕もないね。自分を守るのが精一杯。ここは俺が何とかするお前たちは逃げろって無理。そんな長い言葉を話す時間もありません。エルダー級は諦めます。最初の不意打ちブレスで灰になります。

だから、ここのレッドドラゴンの大きさを確認したかったけど、ロリの偵察中一度も確認できなかったんだよね。お願いだから出来るだけ小さいドラゴンでいてね。あぁ、嫌な予感しかしない。


なんていう事を考えていたら、城の正面に着いた。朽ち果てた大門をくぐり抜ける。

外庭は荒れ放題になり、鬱蒼とした草むらになっている。本来なら、この草むらの中に池とか川とかあるんだろうけど、あまりにも濃い草で確認できないね。

馬車が走る石畳沿いに正面玄関の馬車寄せへ向っている。石畳の隙間から草が生えているが、ここを通って城に近づくしかないかな。

ウォン、ロリ、ブラフォードが前衛。ナルディアが中衛。私とカタラが後衛の3-1-2の隊列を組む。四方八方に警戒し石畳を進んで行く。

今のところ、私達の鎧の音が響くだけで他の物音は聞こえない。ドラゴンが棲んでいるため、他のモンスターは逃げたのだろうか。上空にも何度も目をやるがドラゴンの姿は視認できない。

馬車寄せに辿りつき、正面扉を見る。大理石で出来た観音開きの巨大な扉だ。巨人族ですら屈むことなく城に入れるだろう。大扉やその周りには草花をモチーフにした精緻なレリーフが刻まれている。余程の権力者でなければ、この様な城は造れないだろう。

となると、一つの考えにたどり着く。ここは権力者が外に出したくない者を幽閉するための離宮なのかな。だとすると、逃亡者が逃げようとしても崖の上から丸見えだし、関所を作ってしまえば、城を外界と完全に切り離せる。

ならば、攻めやすい城になっている理由が解ったような気がする。多分、この予測で当たっていると思う。中に入れば、確証もとれるかな。

ウォンがこちらに振り返る。目が扉を開けるぞと語っている。五人がほぼ同時に頷く。

大扉は、予想外に軽く音もなく開いた。ほんの少しの隙間からウォンとロリが中を伺っている。さてさて、中はどうなっているのやら。

ウォンは、すぐに扉を大きく開けた。どうやら何も無い様だね。

後方を警戒しながら、大扉をくぐる。てっきり大広間が広がっていると思っていたが、いわゆる玄関だった。もっとも玄関といってもこの城に見合う大きさな訳で二十メートル四方の部屋といっても問題ない。とりあえず大扉を閉める。これで外からレッドドラゴンに見つかる恐れは無くなったかな。大扉の反対側にも同じ様な大扉があり、左右には人間サイズの扉が各二枚ずつある。

何も相談せず、皆右側の扉側に集結する。ウォンが視線を皆に送る。そして皆が頷く。扉をゆっくり開け、中を確認する。どうやら守衛室の様だ。だが、そこには大昔の戦闘の跡が色濃く残っていた。散乱している机や椅子。そして、部屋全体に残る無数のどす黒い赤い血だまりの跡。そして、横たわる骸骨の群れ。骸骨は鎧を着ている者や着ていない者もいたが、武器だけは全員が持っていた。ここで大戦闘が行われたことは間違いない。装備品がそのまま残っているということは、盗賊の類ではなく戦争だろうか。全てが分厚い埃に覆われている。戦争があったのはかなり昔なのかな。それから足を踏み入れたのは、私達だけの様だね。床に足跡が残っていないからね。

となると、外庭の深い草むらの中にも同じように骸骨が無数に倒れている可能性が高いね。

残りの三つの部屋も探索をするが、全く同じ状況だ。血だまりと骸骨が部屋を飾っている。

大昔の戦争の痕跡しかない。

とりあえず、玄関に一度戻ってきた。

「どう思う。この状況は、ちょいと尋常じゃないぞ」

ウォンが話しかけてくる。

「がはは!何を恐れる必要がある。たかが昔の骨じゃ。気にすることもない。先に進めば良いではないか」

ブラフォードが心に思った通りに声を出す。

「しょせんは酒樽か~。普段から酔っぱらって頭が動かないみたいだね。」

思わず、ブラフォードの短絡的な意見に呆れかえる。ブラフォードが反論しようとするが機先を制する。

「カタラさん、出番ですよ~」

単細胞と話すのは疲れるのでカタラに任せよう。

「はい、分かりました。ブラフォード、良いですか。ここで大規模戦闘が行われ、たくさんのご遺体がありました。ほとんどの方が無念の死を遂げられていることでしょう。そう致しますと、この世に想いが残り、アンデッド化する可能性が非常に高くなります。特に怨念が強い程、上級のアンデッドになる可能性が高くなります。つまり、スケルトンの様な小物ではなく、レイスやファントムといった霊体系のアンデッドになり、物理攻撃が効きません。

私達は魔法がかかっている武器を使用しているので、剣や斧で斬ることができますが、恐ろしいのは精魂を吸い取られる事です。精魂を一部でも吸い取られると弱体化し、吸い尽くされると死に至ります。一度弱体化すると、一から修行し直し強さを取り戻す必要があります。如何にアンデッドの攻撃を貰わずに倒すかが重要になります。ウォンは、この先の敵がアンデッドであり、その為、この城の周辺にモンスターがいないのではないかと心配されているのです。これで、良ろしいですか。ミューレ」

カタラが、私に微笑みを向けてくる。今は、微笑んでいる状況じゃないんだけど、さすがに僧侶は余裕があるね。

「は~い、バッチリだよ。補足の必要もないね。さすが僧侶」

ブラフォードだけが、歯ぎしりをしながら唸っている。薄々、自分がこのパーティーの中で一番弱い事に気づいているだけに精魂を吸われて弱体化し、私達との差がひらく可能性を考えているのだろうね。そんな心配より霊体系のアンデッドには不意打ちの心配をしなさいっていうの。どこから突然あらわれるか分からないんだから。足音どころから物音一つたてないから、たちが悪い。気配で察知するしかないんだよね。

で、僧侶であるカタラの出番だね。そういったものの気配に敏感だし、私には原理が今一つ理解できない『神の加護』とやらも有効だしね。

ドラゴンだけでも厄介なのに、アンデッドの心配もしなければならないのか。

この廃城探索は、今までで一番難易度が高そうだね。それなのに、逆にワクワクするなんて私って変態。さぁ、気合を入れて探索をしましょうか。

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