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18.廃城、目に映る

さて、トロールとの戦いは一瞬で決着がついたけど、後の説教が予想より長かったね。ロリは、カタラに一時間以上説教をされ、シュンと大人しくしている。まぁ、一時間もすれば綺麗に忘れるんだろうだけどね。お陰で日が暮れ始めてきたよ。樹海の中のため、一度日が暮れ始めるとすぐに周りが暗くなってしまう。樹海の外に出れば、そこそこ明るさはあるんだけどね。それに私は、夜目が効くから暗くなっても問題はないんだけど他の者が身動きが取れなくなる。どうやら、今日はここらで野営だね。

「ウォン、もう野営の準備かな」

「そうだな。日没が近い。カタラはどうだ」

「私も野営の準備に入ったほうが良いと思います」

「じゃ、野営するか。ロリとナルディアで焚き木を拾ってこい。さっきのペナルティということで。それで忘れることにする」

「は~い、いってきま~す」

「何故、大魔法使いである我が雑用を…」

一人は元気に、もう一人は散々愚痴をこぼしながら樹海へ消えていった。

皆、手慣れたもので何も相談せず各々が必要と思われる準備をしていく。私も取り敢えず近くの枯れ木で焚き火を起こし、二人が帰ってくる目印を作る。まだ春先で冷える為、暖を取るというのも理由の一つだけどね。やっぱり寒いのは嫌だよね。

火を焚く事で獣は警戒して来ないが、モンスターがやって来る可能性は考えておかなければならない。そこで今回は夜警のローテーションだけど、人数が多いと眠れる時間が増えて助かるのは有り難いよね。いくら、あの馬鹿共でも自分の命もかかっているから危ない事はさすがにしないからね。

今回の夜警からはナルディアを外しておこう。何だかんだでスケルトンをポコポコ作ってもらわないと駄目だからね。眠っていないので魔力が回復してませんでは話にならないし、キッチリ眠って、魔力を回復してもらおう。私も前半か後半に夜警に立って、まとまった睡眠を貰うことにしよう。私も魔力を回復させておきたいからね。

冒険で重要なのは、この地味な夜警のローテーションだったりするんだよね。断続的な眠りじゃ魔力は回復しないし、いざという時に魔法が使えないのはパーティー全滅の危機に繋がる可能性があるからね。魔法を使う人間の状態は常に掴んでおかないとローテーションが組めない。カタラは今回何も魔法を使っていないので、順序を考慮しなくていいね。

適当にローテーションを決め、カタラが作った鍋料理を頬張りながら皆に告げる。まだ、冒険初日だから、新鮮な食材が味わえるけど明後日くらいからは保存食ばかりになるね。途中で猪でも狩って食べるのもありかな。

さて、ローテーションは異論無くすんなり決まった。ま、いつものことだけどね。今回は、傍らにトロールのスケルトンも居ることだし、これを見たらゴブリン程度は逃げていくかな。

さて、何とか初日も無事に終わった。冒険中は、馬鹿共から目が離せないからな。気苦労が絶えないよ。

今回の冒険のメインは城の調査だけど、中に入る前に城の周囲を探索した方がいいよね。

城から疲れて出てきた時にモンスターと鉢合わせなんてゴメンだ。やっぱり、先に城の周囲を探索しておこうかな。さて、明日はどんな一日になるだろうね。平穏な日々であります様に。ローテーションの一番最後を担当する私はすぐに眠りについた。


「ミューレ、起きて下さい。当番の時間です」

カタラに優しく起こされる。すぐに頭が覚醒し、状況を把握する。

「おはよう、カタラ。当番交代するね。引き継ぎ事項はある?」

「ありません。では、私はあと少し眠らせてもらいます」

と言うとすぐにカタラは眠りについた。

冒険者は、このON・OFFが簡単に出来ないと辛い。敵襲で起こされても寝ぼけていれば殺されるし、すぐに眠れなければ必要な睡眠時間を確保することが出来ず、疲労回復が出来ない。駆け出しの頃は、苦労したね。あくびしながら戦っていたなぁ。もう数十年以上前の事か。あの時のパーティーの奴らも墓の下か…。人間はすぐに目の前から消え去る。今の仲間もまもなく消えていくのかな。星空を眺めながら、珍しく感慨にふけっていた。

気がつくと空も白み始め、夜明けが迫っていた。まもなく、全員を起こす時間だが、せっかく全員眠っている今の内に顔を洗っておこうかな。素顔を見られるのは気恥ずかしいからね。

軽くお湯で体を拭き、身だしなみを整えていく。やっぱり女の子なんだから、余裕がある時は綺麗にしておきたいしね。

準備を整え終えると皆を足蹴にして起こしていく。さすがにウォンとロリは蹴りが入る前に気づかれ先に起きられてしまう。やっぱり警戒心が強いね。流石だね。

朝食は、簡単に済ませ直ぐに隊列を組み、川を上っていく。さすがに今回はロリもカタラに出発前に釘を差され、単独行動をとらない。お陰で何事もなく二日目、三日目と過ぎていく。そうそう、モンスターと遭遇するもんじゃないしね。


川は遡るごとに両岸の壁が高くなり、渓谷へと入っていく。樹海を割るように渓谷が走り、その底を遡っていく。先程までは樹海の安定した大地を歩いていたため、歩くペースも早かったが、ゴツゴツした岩の河原を歩くことになり、歩くペースが極端に落ちた。渓谷に入り一時間もしただろうか。渓谷の高さも相当なものになり五十メートルほど両側から垂直の壁が迫って来る。ただ、川幅はあまり狭くならず、河原を含め二十五メートルのままだ。

そして川の上流に白亜の石城が見えてきた。どうやら、あれが目的の廃城のようだね。

ここから歩いて三時間くらいかな。まだ、夕方にもなっていないが両岸の壁のせいでこの辺りは薄暗くなっている中、廃城の辺りだけ河原が開けており、太陽の光を浴び、城が白く輝いている。

「着いたね」

「そうだな。あれだな」

私とウォンは、深刻な表情で廃城を見つめる。あそこにレッドドラゴンが住んでいる。無造作に飛び込んだりすれば、パーティーが全滅してもおかしくない。先に城の周りを探索しようと考えていたが、高さ五十メートルの壁に囲まれた河原では調べるところはほとんど無い。となると廃城を一周し、外から確認し中に入るという選択肢しか残っていないかな。後は監視かな。

まだ、距離があるとは云え、ここからでも廃城の規模がよく分かる。多分、三層構造で部屋数だけでも三十以上はあるんじゃないかな。ちょっとした国の首都の王城並だね。これは、中の調査に手こずりそうだね。何でこんな所に立派な城を作ったのか疑問だね。

ちなみに、馬鹿二人は後ろでカタラに咎めながらもはしゃいでいる。

「うわ~、かくれんぼし放題だ~。鬼ごっこもやり放題だ。ブラフォードも早く連れてきたいな」

「ほほう。これは見事な城だ。我の研究所にふさわしい。さらにこの立地、研究を盗まれる心配もなく、魔法も崖に対して打ち込み放題だな。くくく、この大魔法使いの血が騒ぐわ」

まぁ、今は好きにさせておこう。今から相手をしていたら疲れるだけだしね。取り敢えず、馬鹿二人がやる気を出してくれたのは、ありがたい。やる気なく、適当に流されるのが一番困るからね。

さて、この距離ならドラゴンに私達の存在を察知されることもないだろうし、この辺りにベースキャンプを張って、しばらく城の出入りを確認した方が懸命かな。ドラゴンの他にもモンスターが居ることが分かっているし、城の出入りをチェックすることで何か分かることがあるかもしれないしね。まぁ、無駄骨の可能性もあるけど時間はあるし、慌てる必要はないよね。

「ウォン、カタラ。ここらの目立たない所にベースキャンプを張って廃城を数日監視したいんだけど、どうかな?」

「うん?一休みしたら朝一で城に行かないのか?」

「ミューレは、城の行動パターンを知りたいのでしょう。軍のような組織があれば、厄介ですし、数日様子を見るのは良い考えだと思います。後、スケルトンの数も少ないようですし、監視組とスケルトン作製組に別れてスケルトンを増やしてブラフォードを合流させた方が良いかと思います」

「と云うことなんだけど、どうかな」

「時間制限もないし、いいんじゃないか。ちなみに俺はスケルトン組に入れてくれよ。じっとしているのは性に合わん」

「分かってますよ、旦那。監視は、私とロリでいいと思うよ。副族長は案内役に連れて行ってね。私とロリの二人じゃドラゴンが襲ってきても守れないからね」

「わかった。取り敢えず、休むか。場所はロリに探させよう。どうせ、じっとしてられないんだろう」

「そうだね。ロリならこの河原の岩場も苦にならないだろうしね」

というわけでロリにキャンプが張れるような場所を偵察に行ってもらう。本人は散歩のつもりか、鼻歌を歌いながら探索に向かった。さすがにピグミット族だね。身軽なこともあり、岩場の段差も気にせず猿のように飛び移っていく。私たちには無理な芸当だね。

さて、良いキャンプ場があればいいんだけどね。

他の者は、今日の疲労を回復させるためにも大人しくしている。ナルディアもさすがに大人しくしている。さっきは城を見たため一時的にテンションが上ったのだろうが、所詮は魔法使い。体力は無いよね。まぁ、無いと言っても冒険者。一般人と比べたら数倍のタフさは持っているんだけどね。さすがにここの岩場には苦労したみたいだね。私も途中でプレートメールを脱ぎたくなったもんね。

ま、大人しいのは有り難い。とにかく、今からでも城の動きをしっかり監視しておこうかな。


二時間後、ロリが帰ってきた。

「お待たせ~。いい場所あったよ。ここから東へ三十分くらいのところ」

「はい、お疲れ。休んだら、案内してね」

ロリに羊の皮で作られた水筒を投げ渡す。中の水を美味そうに飲み干す。ここの川は飲めそうだから、飲み干されても問題はないかな。

「じゃあ、行こうよ。最高のロケーションだよ」

ピグミット族はタフだね。散々歩き回ってきたのにもう出発するなんて言っているよ。私なら一時間くらいは休憩したいと思うんだけどなぁ。まぁ、本人が行くと言っているし、行きましょうか。

ロリの案内で進んでいくと、ちゃんと人間の足で三十分のところに岸壁に洞窟があった。てっきり徒歩三十分はピグミット族の足でかと思っていたが、時折見せるこの賢さが正直侮れない。ロリ、いやピグミット族は人を騙しているのではと勘ぐってしまう。まぁ、証明できないことを幾ら考えて無駄だし、もう考えるのは諦めているけどね。

「ねぇ、ウォン。居るよね」

「居るな」

「うん、居るよ」

「そういう大事な事は、先に言おうな。ロリ。面白がっているだろう」

「てへへへ」

やはり、ピグミット族は分からん。理解不能だよ。

要は洞窟の中に先客がいるということだ。さて、この気配はオークか、オーガかな。それとも水辺だしリザードマンの可能性もあるかな。

「で、先客は何で何匹なのかな?」

「え~とね、リザードマンで最低でも十数匹はいるかな。中は小部屋がたくさんあって、長屋みたいだったよ」

中まで入ってきていたのか。相変わらず好奇心のまま動くなぁ。本当に面白ければそれでいいと云う種族だね。もう、こんな命知らずの馬鹿と付き合うと疲れるよね。

「じゃあ、突撃するか。小部屋ごとに戦闘していけばいいんだろう。なら、無音戦闘で進めれば問題ないだろう」

戦闘マニアが、そういえば居たな。ここから撤退して他所にベースキャンプを作ってもリザードマンに発見されて襲われる可能性がある。やはり、ここは先手必勝かな。仕方ない、脳筋の策に乗りましょうか。ウォンの言うとおりに無音戦闘で進めていきましょうか。

「ナルディア、無音戦闘の意味分かっているよね」

「無論である。爆音を立てなければ良いのであろう。我は不服だが、魔力光弾や静寂空間で我慢してやろう」

「それで、よろしくね。大魔法使いさん」

「うむ、任せておくが良い」

取り敢えず、持ち上げておけば機嫌が良い。どこまで効果があるかは分からないけど、これでしばらくはこちらの言うことを聞いてくれると思う。と言うか、だったら良いな。

「隊列変更だな。ナルディアは後衛、ミューレとロリが前衛。俺が中衛に回る。俺の身長ならロリの頭上から敵を攻撃できるしな。カタラが小部屋の扉を警戒してくれれば、不意打ちは避けられるだろう」

「却下。私が前衛に行ったら魔法が使えないじゃない。ウォンとロリが前衛で、私が中衛。広い場所では前衛にも回るから」

「そうか、確かに前衛では魔法が使えんな。ふむ、やはり俺には頭を使うことは向いていないな」

「そう。結構、良い作戦だったと思うけどね」

「まぁ、ミューレがそう言うなら、そう思っておこう。では、ミューレ案で突入だ。スケルトンにするから犬歯は残しておけよ」

「了解」

さて、直径五メートルほどの洞窟が目の前に口を開けている。この位の広さなら剣を振るうのには困らないだろう。使えない技も出てくるけどね。

駆け出しの冒険者なら岩肌に剣をぶつけて、満足に戦えないだろうけどね。

さて、私達は洞窟の中へ足を踏み入れた。外より空気が暖かい。リザードマンは寒いのが苦手だから暖房でもいれているのかもしれないね。

洞窟に入るといきなり、木製の扉に道を阻まれる。扉には覗き窓がついている。

ウォンがのぞき窓から中を伺う。

指を三本立てている。つまり、三匹のリザードマンが居るということだね。

「ナルディア、強制睡眠よろしくね」

静かに囁く。ナルディアも静かに囁き返してくる。

「よかろう。初歩魔法だが、お主の指示に従ってやろう。どうせなら上級魔法をリクエストしてくれるかな」

「はいはい、考えておきますよ」

『強制睡眠』

ナルディアが魔法を放つ。ナルディアや私くらいになると初歩魔法や中級魔法程度は、呪文の詠唱や触媒など不要だ。呪文の名前に詠唱や触媒で必要な分の魔力を余計に込め、一言で魔法を放つ。

外部の力、つまり詠唱や触媒に頼らない分、魔力の消費が通常より多くなるが気にする程でもないかな。

「ロリ、どうだ。眠ったか」

ロリが扉に耳をあて、中の様子を伺う。

「うん、バッチリだよ。寝息が三つ」

「ふふふ、我に失敗など…」

カタラがナルディアの口を手で塞ぐ。チッ、私なら殴り飛ばすのにカタラは優しいね。

ウォンが扉を静かに開ける。どうやらここは守衛室になっているようだ。簡素なテーブルが一つにそれを囲むように粗末な椅子が並んでいる。そのテーブルにリザードマン三匹が突っ伏して寝入っている。奥にはもう一つ木製の扉がある。次の部屋は、守衛室の控室かな。

ウォンが、目で合図を送ってくる。ウォン、ロリ、私がそれぞれ一匹ずつリザードマンの背後に立つ。剣をゆっくり引き抜き、背中から骨を避けるように心臓を一刺し、剣を捻る。

リザードマンは一瞬痙攣し、すぐに息絶えた。他の二人も同じように仕留めている。

副族長が私達の連携に目を丸くしている。オークの天敵であるリザードマンがあっさりと抵抗も出来ずに倒されていく。何度見ても驚きの光景らしい。特に何も言わずに連携を取れることが信じられないようだ。

しかし、十年近くも一緒に寝食を共にしていたら、これくらいは出来て当たり前で私達にとっては何でもないことなんだけどね。


「今の睡眠魔法はいいな。効果範囲はどの位あるんだ?」

ウォンがナルディアに聞く。何か思いついたのかな。

「そうだな、障害物がなければ直径百メートルは覆えるが、この洞窟ではせいぜい二十メートルが限界だな」

「となると、隣の部屋はカバーしているよな。よしよし、楽にいけそうだな」

ウォンが何か思いついたようだが、釘を刺しておこうかな。

「もしかして、二部屋同時に睡眠魔法をかけて次々攻略していこうと思っているのかな」

「さすがミューレだな。俺の考えがよく分かっているじゃないか。長年の付き合いのことだけはある」

やっぱり、考え方が甘いな。戦術の勉強をしてくれたら楽なんだけど、本人が嫌がっているから、どうにもならないか…。

「部屋の大きさって全部同じかな?」

「そりゃ、大きい部屋や小さい部屋もあるだろう。そんなの子供にも分かるぞ」

「じゃ、一部屋は大部屋で部屋の半分しか効果範囲に収まらなかったら、眠る連中と起きたままの連中が同居することになるよね」

「確かにそうだな。そこまで考えていなかったな。やはり、俺には作戦を考えるのは向いていないな」

「勉強すれば良いよ。このミューレ様が、個人教授、し・て・あ・げ・る」

そして、トドメのウインク。あぁ、仮面をしているからよく見えないか。

「いらん。そんな時間があれば剣の鍛錬をする。頭脳労働は任せた」

やっぱり、いつもと同じ返事か。ウォンだし、仕方ないよね。

「考え方は良いと思うよ。魔力の節約にもなるしね。ロリ、耳だけで外からその部屋の大きさって分かるものなのかな?」

「う~ん、中で何かが動いていたら、音が響いて、ある程度の部屋の大きさは分かるよ」

「ロリの耳を当てにして、各部屋の大きさを確認し、睡眠魔法を撃ち込み、トドメを刺すということでどうかな。これならウォンの言っていた方法と同じだよ」

「なるほど、先に部屋の大きさを確認すれば良いのか。俺も結構良い作戦案を立てていたんだな」

「詰めが甘かったけどね。皆もこんな感じでいいかな」

念の為に確認をしておく。やっぱり反対意見は出なかった。他の作戦と言えば力押ししかないよね。

「じゃ、早速ロリ、隣の部屋の状況を確認してくれる」

「了解~」

ロリは、扉に耳をあて向こう側を探る。本当にわかるのだろうか。普段の子供っぽい態度を見ていると不安を感じるんだけどね。

「う~んとね、広さはね十メートル四方でね、リザードマンは六匹かな。間違ってたらゴメンね。てへ」

ロリが無邪気に答えるが、パーティーの動向を左右する重大なことですよ。分かってますか。と、吊し上げたくなったがここは我慢。私が言い出したことだし、信じるしかないよね。

「では、ナルディア先生、お願い致します」

「うむ、この大魔法使い様に任せるが良い。」

『強制睡眠』

こいつも持ち上げたら、ドンドン図に乗ってきたな。まぁ、使い易いから良しとしておこうかな。

「ロリ、敵は寝た?」

「う~んとね、寝息は、1,2,の6匹。他に動く音は聞こえないよ」

よし、数は合うな。

ウォンが扉に手をかけ、静かに開ける。中を見渡すと予想通り守衛室の控室になっている。十メートル四方の部屋の中央にテーブルと椅子があり、壁際には二段ベッドが数台置いてあり、仮眠が取れるようになっているね。そしてリザードマンは、確かに六匹がテーブルに突っ伏して眠っている。他に動く影は見当たらない。ロリの言う通りだね。これでロリの耳が当てになることがハッキリした。少し一安心だね。

先程と同じ様に手際良く、トドメを刺していく。さすがに六匹も倒すと血の匂いが部屋に充満する。これは不味いかも。リザードマンは鼻が利くはず。血の匂いが奴らを呼び寄せる可能性があるね。

「みんな、不味い状況になったかもしれない」

「何が不味いのだ。我の魔法は効果抜群で順調ではないか」

ナルディアが自分の魔法が馬鹿にされたと勘違いしたのか。突っかかってくるが、今は無視だ。状況説明が先だよね。

「ゴメン。血の匂いの事を失念していたよ。奴ら、確か鼻が良かった筈だから、気が付かれかも」

「奴らは今、戦闘準備を行い、こちらに殺到してくるという事か」

ウォンは、私が言いたいことを代弁してくれる。

「多分、そうだと思う」

「結局、力押しか。ふ、我の魔法を出し惜しみ無く発揮できるというものよ!」

「ナルディアは本気を出してはいけません。貴方の力は強すぎるので洞窟ごと破壊してしまいます」

すぐにカタラが止めてくれる。

「ふむ、強大な力を持つということは不便なことよ。仕方あるまい。ミューレの指示で魔法を打ってやっても良いぞ」

この馬鹿魔法使いめ、後で仕返ししてやる。だが、ここは調子を合わせておくのが都合がいいね。

「ナルディア、そうしてくると助かるよ。頼りにしてるね」

くそ、心にもないことを言わねばならぬとは不覚。まぁ、私の作戦ミスが原因だし仕方ないよね。

「沢山、扉の向こうから走ってくるよ」

ロリが教えてくれるが、あいにくここに居る全員が聞こえていると思う。

外から金属同士がぶつかり合う音が良く聞こえている。

さて、どんな敵が現れることやら。取り敢えず、扉付近にテーブルや椅子をぶち撒け、重し代わりにリザードマンの死体を乗せ、バリケードの代わりにする。

結局、遭遇戦か。私もまだまだ若いなぁ。こんな単純なミスをするなんてね。

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