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13.葛藤

オーク共は、仲間の埋葬に五日程かかっていた。その間、私達は砦周辺の調査を行った。

まぁ、私達が手伝ってもオークもいい気分はしないだろう。それにオークからしたら、目の前から私達が居ない方が腹立たしくなくていいかな。

ここの草原地帯は、砦周辺だけで四方は樹海に囲まれていた。族長の言う通り草原地帯の砦の近くに川幅三メートル位の川が南の山岳地帯から流れてきている。砦の櫓からならば良く人の動きが見えるだろうね。この川を遡っていけば廃城に行けるのかな。

ま、三人で慌てて行ってもドラゴン等の強敵と戦うわけにもしかないし、じっくり砦の周辺を調べておこう。

砦の北の樹海には、エンヴィー方面へ向かう獣道が一本あった。これが族長が言っていた裏街道になるのだろう。数キロ進んでみたが、ここを馬で走るのは困難だね。

倒木や落石が道を阻み、馬では侵入困難だ。歩いて進む分にはさして苦労はしないけど。

となると、先に立てた作戦というか段取りの変更が必要だね。

駅の整備は後回しで、まず三馬鹿を呼び寄せて、廃城の確保かな。廃城が使い物になるなら、そこから地道に裏街道を整備していけばいいかな。廃城が使い物にならない様な代物か、私達がドラゴンに追い払われたら、道を整備しても意味が無いよね。


さて、三馬鹿を迎えに行くのだけど、それが問題だね。誰が迎えに行こうかな。

三人で行けば、道中怖いものなしだが、そうすると砦を守れる者が居なくなる。となると、砦に一人お留守番が必要だよね。ゴブリンが襲ってきても三人の内、誰か一人いれば十分返り討ちに出来る。となると、誰を残し、誰が迎えに行くか。

はぁ~、いつも面倒な考え事は私に振られるんだよね。


「俺にはそんな難しいことはわからん。任せる」

と脳筋は言うし、

「戦いに関することは私には良く理解できません。民衆のためになることでしたら、いくつか考えがございます。一緒に実行しませんか」

ともう一人は、宗教に勧誘してくる。

ウォンは、頭は悪くない。普通に知恵はあるんだよね。教養を身につける機会が無かっただけで、教養を身につけたらその知恵である程度の策士になれるのに本人にその気がない。

「勉強している時間があれば、剣を振る」

と断言して、鍛えられる能力を戦士に全部つぎ込んでいる。

カタラは、知恵も教養も十分あるのだが、教会で教育を受けたせいか、宗教に偏り過ぎているのが玉に瑕。人助けや補給に関することなら、幾らでも献策してくれる。しかし、戦術や戦略となると発案は、ほとんどしてくれない。頭が良いから問題点や矛盾点を指摘してくれるのはありがたいけど、たまには楽をさせて欲しいよね。稀に作戦を思い付いてくれることもあるけどね。

となると、砦の防衛を安心して任せられるのは、やっぱり脳筋のウォンだよね。多少のことで怪我してもポーションで何とかするでしょう。とういうか、何とかしてもらおう。その前に傷をつけられるゴブリンは存在しないよね。ゴブリンが上級モンスターを連れて来るような知恵はないし、その点は気にしなくていいかな。

それにオークの族長や戦士長と仲良くやっていけそうなのもウォンだけかな。あの一人と二匹は、今回の経緯を乗り越えて、気が合うような予感がするんだよね。男同士の友情というのかな。喧嘩した後に生まれる友情と言われている伝説。あれを実現してしまうのが、ウォンの人柄何だよね。私には無理と言うか不可能。本当に不思議だわ。

で、私が砦に残ったら、恨みつらみが何時爆発するか分からないし、カタラだとゴブリン戦に不安が若干残るかな。差しでの勝負は問題ないけど、団体さんが来たら厳しいだろうな。

留守番は、ウォン一択かな。

私とカタラで三馬鹿を迎えに行こうか。三馬鹿の野郎共は、多分エンヴィーの魔法使いの家に集まっているだろう。よく、つるんで馬鹿騒ぎしているからね~。本当に三馬鹿は仲がいい。冒険中もふざけ過ぎる事がなければ、常日頃から行動を共にして、一緒に冒険の旅をしてもいいんだけど、三日も一緒にいるとこっちが精神的に参るんだよね。もうそれはストレスの塊と言っても過言じゃないね。

カタラだと三馬鹿も言う事を聞いてくれるけど、私だとドワーフと魔法使いの間で喧嘩を起こしてしまう可能性があるんだよね。

ドワーフには理知的な会話が成り立たない。

魔法使いは、私を勝手にライバル視し、私が使えない魔法を披露して悦に浸る癖がある。

私は魔法剣士であり魔法使いじゃない。使えない魔法があっても不思議じゃないもん。悔しいのは事実だけど。

ま、本気で戦ったら秒殺できるんだけど、馬鹿魔法使いは、その危険性に気がついていない。

私を本気で怒らせたら、素早さも剣技も全てこちらが上回っているんだから、沈黙魔法をかけて、一斬りで終了なんだよね。

魔法使いは、呪文の詠唱が出来ないとただの人。確かに魔力は強大で同じ魔法を使っても馬鹿魔法使いの方が威力や効果が高い。それに慢心して、私に勝てる幻想を抱いている。だから、馬鹿って言っているんだけどね。

魔法の勉強ばかりで、普段から身体を動かしていないから肉弾戦には対抗できないんだよね。だから何とか我慢できているのかな。

救いなのは、唯一、ピグミット族とは友好な関係にあることかな。一緒に食事や買い物をしたりすることもある。彼は私の言う事を素直に聞いてくれる。

ただ、ピグミットはドワーフとはさらに仲が良く、暴走することに関しては特に波長が合うようで二人を止めるのに苦労をする。何回、調子に乗って、パーティー全滅の危機に追い込まれたことか。


その点、カタラは、魔法使いとピグミットとは幼馴染だ。だから姉貴分として慕われており、素直に言うことを聞いてもらえる。

それにしても、幼馴染で近所の美人のお姉さんという立場は最強だよね。小さい頃からお世話になり、恥ずかしい事も知られているから頭が上がらない。言う事を聞かない訳にはいかないよね。悪い事をして叱られる時に小さい時の事を持ち出され、周囲に恥ずかしい話を暴露されてしまう。

もちろん、カタラには何の悪気もない。ただ、昔話をしているだけだ。

しかし、男という生き物は種族に関係なく面子というどうでもいいものにこだわるらしい。カタラが昔話を始めただけですぐに謝罪を入れる。どうやら昔話は恥ずかしいらしい。

ちなみに魔法使いの初恋の相手は、カタラだった様だ。それでますます頭が上がらない様だ。

人の弱みを握っておくと便利だよね。本当に言う事を素直に聞いてくれるからね。

幼なじみと言っても、ピグミット族は少し特殊かな。エルフのように長寿で四百歳は生きる。性格と容姿は、幼い子供と似通っている。身体的特徴は耳の先端が少し尖っており、完全な菱形に近い。後、洩れなく眉毛の間にホクロが必ず現れる。ここが人間族との外見的区別になるかな。他の人間族との違いは、今は思い出せないな。それだけ良く人間の子供と似ているということだね。

しかし、幼馴染と言っても一緒に遊んでいた時はすでに大人だった訳だ。十数年前だから、当時八十代後半。人間年齢で十七・八歳になるかな。これを幼馴染と言っていいのか微妙だ。

今は、彼ももう百歳になるはずだから、人間年齢で二十歳位なんだけど容姿も精神年齢も未だに十歳位かな。百歳だけど本当に幼い。

子供のまま大人になり、子供のまま死んでいく『永遠の子供』と世界で言われているのも納得してしまう。

だが、冒険者としては一流の戦士というところが恐ろしい。ろくに修行も練習もしていないのに、生来の種族特性である敏捷性で戦士として私と対等に仕合ができるのが、嫌になってしまうよね。

こっちは、色々工夫して剣術の修行をしているのに、小さくて素早いだけでそれなりの強さを得るとは羨ましいですよ~と。ま、愚痴はここまでにしておこう。後ろ向きは、私の性に合わないからね。


ところで、ドワーフは、幼馴染でも近所の知り合いでもなんでもない。

一度、他のパーティーとグループを組んで冒険した時に相手方のパーティーに所属していた。

その時に内の魔法使いとピグミットと意気投合し、向こうのパーティーを無断で抜け、勝手にこちらのパーティーに付いてくるようになった。向こうのパーティーに詫びを入れに行ったけど、逆に感謝されちゃった。どうやら、向こうでも持て余していたようだ。向こうのリーダーの晴れ晴れとした顔は未だに忘れられないよ。あの時はなぜそんなに嬉しいのか分からなかったけれど今はあのリーダーの気持ちが手に取るように分かるよ。

おかげで、こっちが憂鬱になるようになったからね。

他所のパーティーでは戦士としての技量は一流なのだろうだが、内のパーティーでは今ひとつ実力が物足りない。パーティーの誰と仕合をしても勝った試しがない。連敗街道を突進中だ。

とりあえず頑丈なのが取り柄だ。本来ならパーティーに入れないんだけど、ピグミットの奴がどうしても仲間に入れて欲しいと嘆願するので仕方なく入れている。

だから私が、戦術を立てる時も攻撃力では無く、盾役というか防御力というか、いやハッキリ言おう。囮役にしか見ていないし、攻撃力には計算に入れていない。

足を引っ張られる事の方が多いんだけど、本人には全く自覚がない。それどころか、パーティー最強の戦士だと勘違いしているフシがある。最強の戦士は、ウォンに決定しているんだけどなぁ。私もウォンに勝つには魔法を併用しないと無理があるかな。純粋な剣技では、今まで何度も仕合をしてきて勝てないことは実感している。

勘違いのドワーフは、身長一メートルちょいしかないのに、体重が七十キロ以上はある小太りの様な体形だ。その体形の為に動きは鈍重だ。そんなノロマの攻撃を誰ももらうわけがない。そのくせにやたら大きいバトルアックスを両手持ちし、余計に速度を殺している。

自分の短所を理解していない。

体重が重いのは、仕方がない。身体の大半が筋肉で出来ており、屈強な肉体をしているためだ。筋肉と脂肪では、筋肉の方が重いのが自然の摂理だからね。

ステーキを食べるナイフやフォークでは、ドワーフの筋肉を傷つけることもできない。

だから、長所である防御力を上げるために片手用のハンドアックスとシールドを装備してくれれば、もう少し盾として使えるのだが、装備の全てを攻撃力重視でまとめている。装甲が薄いブレストアーマーに牛の角を生やした革兜。そして武器に巨大なバトルアックス。

装備を用意してあげると言っても、これがカッコイイとか言って話にもならなかったな。

今思えば、そこからドワーフとはぎくしゃくし始めたのかな。

ちなみに筋肉ダルマのくせに、手先が非常に器用で宝石細工や武器職人などを生業としている者も多い。あの太い指で繊細な細工を仕上げることが出来るのか、謎の生物だ。

性格は頑固一徹の一言。なかなか自分の考えを曲げない。というか、ドワーフの考え方を皆に押し付けてくる。ドワーフの考え方や掟や習慣なんて、これっぽっちも知らないこちらにしたらいい迷惑だよね。自分ルールが最優先だから、何を考えているか理解ができないんだよね。

でも、戦闘での怪我を回復できる僧侶であるカタラには頭が上がらない。

何せ、やたらとすぐに突撃する癖がある。そして痛い目に遭って帰って来る。すぐに怪我を直してもらわなければ、死が待っているからだ。だからカタラの機嫌を損ねる様な事は出来ないよね。自分の命を握られている様なものだものね。

それなのに先手必勝と叫びながら突撃し、しこたま殴られて帰ってくる。学習能力が無いのか、それがドワーフ族の掟なのか、聞く気にもならない。ただただ、呆れ返るだけだ。

そう言えば、以前に注意したら

「身体一つで強敵に挑み勝つ。それが漢のロマンだ!」

と理解不能なことを言っていたなぁ。ウォンが言えば様になるけど、ドワーフが言っても実力がないのに困ったもんだよね。

突貫一筋のドワーフと効率重視のエルフ。これは、反りが合わないのも仕方ないよね。


砦の周囲を捜索しながら、三馬鹿の事を考えていると気が重くなってきた。やっぱり、合流するのは止めようかな。でも、ドラゴンに、それも凶悪なレッドドラゴンと対峙するには三馬鹿が必要だ。性格に難があろうが、他のパーティーと同盟を組むよりは、三馬鹿の方が戦力としては段違いの強さだ。この事実だけは認めないわけにはいかない。ドワーフだって、他所のパーティーに加入すれば、パーティー最強を謳うことも本当に出来るのに…。

ちなみに、ウォンとカタラは三馬鹿と別に相性は悪くない。普通に接している。

要は、私の心の持ちようだけが問題なんだよね。私一人、我慢すればいいだけなんだよね。分かっているんだけど、割り切れないんだよね。理屈が通じない、話し合いができないという事が、こんなにも苦痛だとは知らなかったよ。ま、私一人我慢して、迎えに行くしかないよね。ここは諦めて迎えに行こう。


日も沈みかけ、砦に用意された部屋に私達は戻ってきた。暖炉には夕食の鍋が掛かり、いつでも食べられるように準備されていた。オークはこちらの要望をよく聞いてくれている。

複雑な気持ちだろうなとは思うけど、利用できるものは利用できるのが私なのだ。

「今日もお疲れ様」

ウォンとカタラに声を掛ける。

「おう、お疲れ。敵が出なかったな。物足りん」

「お疲れ様でした。何事もなく良き一日でした」

それぞれ真逆な返事が返ってくる。返事一つで性格って出るね。さて、本題に入りますか。

「明日から三馬鹿を迎えに行こうと思うのだけど、いいかな」

「お、ついに城への探索の準備をするわけだな」

「でね、ウォン、お留守番をよろしくね。カタラと二人で迎えに行ってくるね」

「俺は居残りか…。暇そうだな」

「もしかしたら、オークが弱体化した事を知ったゴブリンが集団で砦に襲い掛かってくるかもね」

「お、それはそれで暇つぶしにはなるな。それで俺が留守番なのか。納得だ」

一を聞いて十を知る。あぁ、理論的な会話って素敵だな。

「ウォン、やっぱり地頭が良いんだから、留守番の間に兵法とか勉強してみたら。もしかしたら面白いかも。本を貸そうか?」

「う~ん、止めておこう。ここの戦士長と鍛錬でもしていようか。非武装で仕合すれば、練習相手にはなりそうだしな」

「ウォンはオークと仲良くなったの?」

「おぉ、戦士長から声をかけてきたぞ。勇士殿、暇な時に稽古をつけてくれって」

「いつの間に…。ウォンはよく生き残った対戦相手に尊敬されるよね」

「不思議だよな。命のやりとりをした間柄なのにな」

ウォンは、戦士ということに関して純真無垢だ。それ以外の事柄には特段興味を持たない。

剣を振る時も恨みや憎しみ、肉を切り人を傷つける喜びなど負の感情を持たない。

傷をつけられても、逆に『やるじゃないか』と強敵に出会えた事を喜ぶくらいだ。

酒、博打、女とか他にも楽しみがあるだろうに、暇があれば剣を振り続ける。そんな純粋さが敵をも味方に引き込むのだろうか。

「カタラは、問題ない?」

「はい、ありません。あの子達に久しぶりに会えるのですね。楽しみです」

「おう、俺もあいつらと酒を酌み交わすのが楽しみだな」

はいはい、楽しみなのは二人だけですよ。私は鬱になりそうです。

確実に勝てる戦術を組んでもその通りに進まなくなるんですから、作戦参謀さんにとっては、頭痛の種がやって来るんですよ。三馬鹿の暴走も戦術に組み込まないといけないので、頭が痛くなりそうですよっと。

本題に戻そう。

「ウォンから族長にエンヴィーへの道案内を出してもらえるように頼んでもらえるかな。さっきの話だとオークと友好関係を結んでいるみたいだし、説明もして来てくれるとうれしいな」

人にお願い事をする時は下からお願いするのが大切。こんな美少女がうれしいなって言ってるんだから断らないよね。まぁ、仮面をしているから効果は、半減しているけどね。

「頼むのは問題ないが、説明が上手くできる自信がないな」

「道案内を出して欲しい。砦にはウォンが残ると伝われば問題無いよ」

「そうか、なら問題ないな。よし、今から、頼んでこよう」

「は~い、お願いします。私とカタラは、旅の準備をしておくから、日の出と共に出発でよろしく」

「うむ、理解した。族長に伝えてくる」

ウォンは、洞窟から出ていき族長の所へ向かった。

「じゃ、カタラ、旅の準備をしようか。族長の話では三日で着くって言っていたし、そのつもりで準備をしておいてね」

「はい、わかりました。準備が終われば、すぐに休ませて頂きますね。朝早く出るんですもの」

「どうぞ、ゆっくり体を休めてね。私ももう寝るね」

「ウォンを待たないのですか?」

「多分、帰ってこないと思うよ。今頃は、酒を進められて宴席が始まる頃だと思うよ」

「ミューレがそう思うなら、そうなのでしょう。ウォンはオークに人気がありますからね。それにしても、ミューレは本当にウォンの事をよく分かっているのですね。もしかすると気がおありなのですか?それでしたら、縁を取り持ちますが」

全く、予想していない質問が飛んできた。正直に言えば、色恋沙汰にはまだ興味がない。もう少し歳を重ねてからでも良いかと思っている。それに相手が人間族だと恋愛対象にすらならない。何せ、すぐに私を一人にして置いていくからね。

「人間族はすぐに私を置いていくから恋愛対象は、エルフ族じゃないと無理かな。それに良く見ているのはウォンだけじゃないよ。みんなを良く見ているよ。そうじゃないと、作戦が立てられないからね」

「そうでしたか、私の勘違いでしたか。それは大変失礼致しました。そうですね、長命種ですと、人間とは辛いでしょうね。浅はかでした」

「考えすぎだよ。さて、もう寝るね」

「では、ミューレ、また明日から頑張りましょうね」

「えぇ、頑張ろうね」

いつもより、早くベッドに入る。眠気は感じていなかったが、そこは冒険者。何時でも眠れる。すぐに夢の国に入った。

安らぎの世界であるはずの夢の国には、三馬鹿が待ち構えていた。これは、寝起きが悪くなりそうだ。早く、違う夢に変わって欲しいと思うが、なかなか奴らが消えてくれない。私の夢の中で好き放題に暴走してくれる。自分自身、唸りながら眠っていることを自覚する程だ。そして唸り疲れ、ようやく意識が遠のいていった。


翌朝、やはり寝起きが悪かった。夢の中で三馬鹿に散々振り回されたことは覚えているのだが、細かい内容となると全く思い出せない。完全に頭が拒絶反応を起こし、思い出すことを放棄している。

どうせ思い出しても、三日後には嫌でも本人達に出会うんだし、旅の間くらいは忘れよう。

ウォンは、やはり宴席に呼ばれ朝帰りだ。珍しく酒の匂いを、プンプン漂わせている。

口を開けるたびに強烈なアルコールの匂いが鼻を攻めてくる。匂いだけでこちらも酔いそうだ。

「ミューレ、道案内は副族長がしてくれる。奴について行けばいい。エンヴィーまで連れて行ってくれる」

「ウォン、口開けるな。酒臭い」

「寂しいじゃないか。往復で一週間は会えないんだぞ。何なら今、仕合をしてもいいんだぞ」

「やだ、疲れるもん。じゃ、副族長、案内よろしくね」

副族長が、無言で頷く。

やっぱり、喋ってくれないのは怒ってるからだよね。それとも元々無口なのかな。

できたら、無口な方がいいな。じゃないと夜が恐くて、しっかり眠れないよね。

「仕方ない、おい戦士長、こいつらが行ったら稽古しようぜ」

「おお、勇士殿。感謝する」

本当に仲が良くなったね。すごい才能だね。あれだけ、壮絶な殺し合いをしたのに。未だに私は憎まれているのにね。

ま、友好度が高い人間がいるということは有り難いよね。それだけで全体の敵対心が下がるんだから。

「カタラ、準備できた?」

「私は、大丈夫です。いつでも出発できます」

「じゃ、行こうか」

私、カタラ、副族長の二人と一匹が朝陽の中、砦を出発する。足元は太陽の光ではっきり見えている。

背後から、ウォンの声がする。見送りの声かと思ったけど違った。

「さぁ、どこからでもかかってこい。俺は素手で勝負する。お前は完全装備でかかってこい」

どうやら、戦士長と早速、稽古をするみたいだね。

こちらには興味が無いんだね。少し寂しい気もするけど、ウォンらしいとも言えるかな。

ウォンの馬鹿…。

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