12.二人で本番
オーク共の会議は、未だに続いている。かれこれ一時間は経過したかな。
さすがに、私達も待ちくたびれたので携帯食を食べながら結果が出るのを待っている。
「なぁ、ミューレ。これ、まだ待つのか」
ウォンが干し肉を空中に放り投げ、自分の口に放り込む。相当、退屈している様だ。
「待つよ。彼らにとっては死活問題だからね。ここで度量の広さも見せておいた方が良いと思うよ」
「待つなら暇だし、いつもの腹ごなしの運動に付き合わないか」
「え!こんな処でするのはちょっと…」
「大丈夫、大丈夫。カタラに見張りを頼んでおけば問題ないぞ。俺の方は、もうギンギンだぞ。爆発寸前だ。ピクピクしているぜ」
ちらっとカタラを見るが、清ました顔でコップの水を飲んでいる。
我関せず、だそうです。
「わ、わかったわよ。付けて本番?それとも無しで寸止め?」
「いいね。やる気になったか。もちろん、付けて本番だ。よし、準備して待っているぞ」
ウォンは、足取りも軽く嬉しそうに広場へ出ていった。
一度、立ち会ってからは、暇があると挑んでくる。よっぽど相性が良かったらしい。
さて、私も準備をして、追いかけますか。結局、私も馬鹿だよね。クタクタになるのが分かっているのに誘われると断らないんだから。
この前だって、そうだったなぁ。裂けちゃうって言っているのにドンドン突いてくる。
もう駄目って言ってもまだ満足してないぞって言ってガンガン攻めてくる。
本当にウォンは加減を知らないから本当に疲れるんだよね。
終わった後なんて、足腰が震えて立てなくなるのに。もう本当に馬鹿なんだから。
でも、私も嫌いじゃないけどね。
広場に出るとまだオークの死体を片付けていないため、肉が燃えた臭いが立ち込めていた。この臭いの中でしようだなんてウォンも物好きだね。本当に脳筋って単純。
全身の具合を歩きながら確認しつつ、ウォンの前に立つ。
同時に足許のどこに何があるかをあらかじめ確認をしておく。
ウォンは全身をくまなく覆うフルプレートアーマー、左手に五角形のラージシールド、右手には幾百の敵を切り捨ててきた業物のロングソード、完全フル装備だ。ちなみに兜は視界が狭くなると言って着けているところを見たことがない。
私も息苦しさから兜を着けたことがない。それに髪型も崩れるしね。
私も同じ様な装備だ。全身を覆うフルプレートアーマー、左手に円形のミディアムシールド、そして両手持ちも片手持ちも出来る愛用のバスタードソード。いつもは付けていないサークレットも額に追加装備する。
このサークレットには風の精霊が宿り、周りの状況を大気の流れで教えてくれる魔法のアイテムだ。乱戦では大気の流れが乱れて役に立たないが、一対一の戦いの場合、周りの様子が空から見るようにわかる。ウォンの相手をこれからするのだから、これ位は用心をしておかなければ怪我じゃ済まないからね。
さて、お互いフル装備を付けて本番の仕合の始まりだね。さて、今回はどちらが勝つかな。
ウォンは、自然体で剣を抜き身にして立っている。いつもの構えだ。こちらに近づくつもりは無いようだ。私が攻めてくるのを待っている。後の先を選択したか。じゃあ、私は先の先で対抗するしかないかな。
シールドを前に掲げ、半身になりシールドの中に隠れる。剣は片手で持ち、刺突の構えを取る。ウォンからは私が今どの様な構えをしているかは眼では見えないはずだ。何せ背が低いからシールドにすっぽり隠れちゃうんだよね。
ゆっくり、ウォンの間合いに近づいて行く。間合いまであと半歩の処で一旦止まる。この間、ウォンは動いていない。
予備動作無く間合いに踏み込み、装甲が最も薄い喉元へ剣を突き込む。
だが、ウォンのシールドに弾かれ、剣が右手ごと流される。ウォンもすかさず、私と同じように喉を狙ってくるがシールドで受け流し、さらにウォンの間合いの内側に入り込む。ウォンの剣は私のシールドの上を火花を散らしながら滑る。身体を守るべきウォンのシールドは私の剣を弾いたため、ウォンは身体をさらけ出している。今、ウォンは無防備だ。
私はシールドを火花が顔に飛んでくる事に躊躇わず、そのまま滑らしウォンの顔面へシールドの側面を叩き込む。シールドアタック。確かな手応え。だが、ウォンは鎧の肩の装甲を利用し、受け止める。相変わらず器用な奴め。ここで攻撃を止めたら反撃される。私は突撃の勢いを止めない。ウォンに体当りし完全に密着し、装甲のない腋を剣で貫く。
だが、腋に刺さる直前、剣が万力に挟まれたかの様にピクリとも動かない。ウォンが腕と胸で剣を挟み込んでいる。
「お~、今のは危ぶね。油断した。やっぱり、小さいと弱点を下から狙いやすいんだな」
「うるさい。小さい言うな。少し小柄なだけよ」
「とりあえず、離れてもらおうかな」
急激に私のシールドに押す力がかかる。その場に踏み止まろうとするが、筋力の差は歴然。身体を浮かされ後ろにふっ飛ばされる。
相変わらずの馬鹿力だ。右手一本、それも剣を握った状態で重装備の私を五メートルも飛ばすとは。
さて、仕切り直しか。次はどう来るかな。
「やっぱり、ミューレはいいな。こちらが考えていない攻撃をしてくる。練習相手の相性に最高だ。俺の胸の筋肉が喜びでピクピクしているぞ。見せてやりたい位だ」
「そんなに相性良い?なら、一度位、殺しちゃおうかな。安心して、後でカタラに蘇らせてもらうからね」
「できたら、半殺しで止めて欲しいな」
「本番を希望したのはウォンよ。半殺しが希望なら寸止めを選べば良かったのに」
「本番じゃなきゃ、今の攻防は出てこなかっただろ。さあ、仕合を続けようか」
どうやら、今度はウォンから攻めてくるようだ。自然に散歩のように歩いてくる。
こちらも自然体で待つ。自然体で来られるとどこから攻撃が飛んで来るか分からない。守りの構えを取ってしまうと、どうしても死角が幾つか出来、そこから攻められる。そうなるとこちらの守備が間に合わなくなる。
風の精霊が警告をする。当然、私も視えている。ウォンの剣が下から斜めに斬り上げられる。素早く右足を一歩前に出し、半身を取る。目前を凄まじい勢いで剣が下から通り過ぎる。
だが、これで終わるわけがない。一撃で終わらせるのは素人。連撃を加えるのが定石。
ウォンの剣が真っ直ぐ振り下ろされる。兜割りだ。左足を背中側に大きく引き、身体を回転させると同時に遠心力を利用して、ウォンの胴を剣で薙ぎ払う。だが、甲高い音ともにシールドに弾かれ有効打が出ない。それも計算内、回転力の勢いが残っている内にウォンの左膝に目掛け右足でローキックを仕掛ける。これなら、私の剣を受け止めたシールドにより死角となり視えないはず。予定通りウォンの左膝の裏に私の全体重を乗せた蹴りがめり込む。いくら私が小柄で体重が軽いとは云え、今は鎧を着けた重装備。蹴りもそれなりの重さになってくる。
さすがに幾ら筋力を鍛えても関節は鍛えられない。ウォンの態勢が崩れていく。兜割りで前へ重心を掛けていたため、勢い良く左足から崩れ落ちていく。すかさず、左膝を顔面へ叩き込む。
完全なカウンターが決まった。だが、顔面を蹴った感触ではなく、何か大きな肉に包まれた感触だ。すぐに離れようとするが足が固定されて動かない。ウォンが右手で左膝を握りしめていた。
なんという反射神経。正直、この攻防は二秒もかかっていない。間違いなく、攻撃に成功すると思っていた。倒れる身体を私を支えにして食い止めると同時に攻撃も防ぐとは思っていなかった。
戦闘では何が起きても不思議では無い。一々、予想外のことに反応していられない。折角、ウォンが至近距離で剣を離して立っているんだ。逆にチャンスだ。身体は既に動いていた。ウォンが身体をガッチリ固定してくれているのだ。足場としては十分だ。右回し蹴りを側頭部に放つ。この距離、タイミング、意外性、これならいける。
だが、鈍い金属音に弾かれる。シールドと足甲がぶつかり合い火花が散る。これにも対応するか。まだだ、私の両手は自由。ウォンの四肢はこれで全て塞がった。バスタードソードで袈裟斬りする。だが、剣が肩に当たる直前にまた放り投げられた。地面に激突する勢いを転がりながら殺し、即座に立ち上がり剣を構える。ウォンはその場で膝を着いたまま、剣を拾っている。だが、隙は無い。
「今の蹴りは、少し痛かったな。右手がまだ痺れているぞ。まさか、ミューレが体術まで会得していたなんて知らなかった。完全に油断したな」
「あらら、油断してくれたの。珍しいね。どう、昔の男に教わった技はいかが。というか、髪の毛が汚れちゃったじゃない。乙女を地面に叩きつけるってひど~い」
「乙女って誰がだ。おばあちゃん。なかなか美味じゃないか。居酒屋に入ったつもりが、高級レストランの味を味わえるなんて最高だ。なぜ今まで使わなかったんだ」
「おばあちゃん?誰に言っているのかしら。分からないわ。私は魔法剣士が正式な職業だし、体術を使ったらウォンに邪道って言われるかななんて、思ったりして。後、絶対殺すから」
「最後何か言ったか。聞こえんかったな。いやいや、こんな美味しい料理があるなら遠慮なく出してくれ。俺には好き嫌いは無いぞ」
「ゴメンね。戦士のプライドがあるかなと思っちゃった。だから殺す。」
「戦いでプライドなんて役に立たん。逆にプライドで死んでいった奴ならたくさん見てきたけどな。それと、何か聞こえたような」
「そうだね。そんな奴、いっぱいいたよね。本当は、剣士の腕前を上げたいから剣術しか仕合で使ってこなかったんだけど、今回は特別。だって、ギャラリーが大口開けてこっち見てるんだもん。ちょっと凄いところ見せようかな~って。キッチリ殺す」
「ギャラリーって、カタラか。あいつ聖なる書を読んでるぞ。一度もこっちを見向きもしてないし。まだ根に持ってる?」
「違う違う、ギャラリーはオークの方。シッカリ殺す」
「あぁ、そっちか。魔法だけじゃないと言いたいのか。結構、見栄っ張りなんだな。あちゃ~、本気?」
「そんな訳無いでしょう。見栄を張る必要なんてないもの。これだけ強い相手なら配下になるしか無い。復讐なんてできないと思い知らせたかったんだよ。すかさず殺す」
「そういうことか。これも交渉の一つなのか。なら仕合は終わるか。目的は達したんだろう。仕合だから血生臭いのは止めようぜ。」
「ふ~ん、ウォンはそれでいいの。やられっぱなしで。有無無く殺す。」
「しかたない。殺されたくないけど、第三ラウンドをしようか。可愛がってやるよ」
「殺されないように、口先だけじゃなく、腕で証明してね。」
おばあちゃんと言いましたか。確かに百九十歳なら人間族なら老衰で二回以上死んでますよ。でも、私はエルフ族で人間の歳に換算したら十九歳位なんですけど。お肌すべすべの乙女で仮面を外せば、男が煩いくらい近づいて来る美少女なんですけど。ウォン、君は何があっても殺す。
さて、とっておきをウォンに見せてしまった。これでもうウォンに有効打を体術で取ることは難しくなったかな。剣士らしく、次は剣術をメインで組み立ててみようか。
ウォンは相変わらず自然体で私の目の前に立っている。やはり、隙は無いね。
定石では自分より大きい者と対峙する場合、末端部分を狙う。そして弱ったところで密着し、止めを刺す。密着すれば、身体が大きい者は長い手足が邪魔をして素早く反応することが出来ないとされている。
だが、相手はウォン。先程の様に密着しようが、即座に反応する。
一流の戦士に体が硬い人間なんていない。柔軟な身体を持たなければ、自分の思う通りに自由自在に技を出すことなど出来ない。さて、どうしたものかな。
風の精霊が警告を出す。当然私も気がついている。
ウォンが一気に距離を詰める。ロングソードの剣先が私の鳩尾に向かってくる。予備動作なんて感じなかった。シールドで軽くいなして方向を変えてやり過ごす。ウォンの筋力をまともに受け止めることなど、私には出来ない。だが、いなした筈の剣は8の字を描くようにすぐに返ってくる。次は首か。その場で身体を屈め剣を躱す。しかし、これは悪手だ。しかし、他の選択肢が浮かばなかった。不味い。ウォンにがら空きの背中を見せている。やはり、その背中に真っ直ぐ剣が振り下ろされる。身体を屈めた時の勢いはまだ残っている。逆にウォンの足許に転がり込む。あぁ、また髪の毛が汚れちゃったじゃない。背後で地面に剣が突き刺さる音がする。風の精霊も私が想像している状態と同じ状態を教えてくれている。だが、私も攻撃されるだけじゃ癪だ。取り敢えず、手近な方の足を剣で同時に刈り落とす。だが、ウォンはシールドを地面に突き立て、剣を受け止める。そして、上から踏み潰す様に蹴りが飛んで来る。これも横に転がり避ける。魔法でも撃ち込みたい気分になってくるが我慢だ。これは仕合だからね。
転がる勢いを利用し、一気に立ち上がり今度は中段で構える。仕方ない、構えることによってウォンの攻撃方法を幾つかに絞らせよう。そこから迎撃に結びつけようかな。
ウォンが鋭く突いてくる。今度は剣を蛇の様に纏わり付かせ、勢いを削ぎ、絡め取る。鍔迫り合いの形になる。だが、これは私が圧倒的に不利な形。筋力勝負は避けたい。
「ほー。俺の力を剣一本でいなすのか。また、不思議な剣の使い方だな。まるで鞭で止められたような感覚だったぞ」
「剣士だから、剣技は得意なのよ。知らなかった?」
「どちらかと言うと、魔法使いのイメージが大きいな。魔法の破壊力には、剣では勝てんよ」
ウォンの剣を支点にし、体の中心線つまり正中線沿いに集中する急所を上から順に刺していく。眉間、目の間、鼻の下、下唇の下、喉仏、鎖骨のつなぎ目の上をウォンの剣の上で私の剣が踊り回る。一度たりともウォンの剣から離れず纏わり付く。そして、急所へ確実に剣先が伸びていく。しかし、あと少しで届くという処で軸をずらされ、ウォンの皮膚をかするだけだ。致命傷どころか、軽傷にも至らない。この相手の剣に纏わり付く剣術、纏い龍もことごとく躱された。ウォンを休ませず、上半身にばかり攻撃を集中させていたのは、この次手に引き継ぐためだ。纏い龍で気を上半身に引きつけ、その間に左手でダガーを抜き、纏い龍が終わった瞬間に脇腹を突き刺す。そして、抉る。はずだった。ダガーはウォンの膝に蹴り上げられ宙を舞う。気づかれていたか。ならば、ウォンは片足で立っている不安定な状況。単純に体当たりをぶちかます。だが、体重差が大きくウォンを倒すまでには至らない。少しぐらつかせた程度だ。だが、その隙で十分。纏い龍からの三連刺し。今、開いた隙を一瞬で貫いていく。しかし、全てを剣で弾かれる。もう攻撃できる隙は閉じられた。
間合いを取り直す為、ウォンから離れる。
「本当にこれは殺されるな。この数瞬に何撃出した?」
「十撃よ。美味しかったかな」
「あぁ、美味いものばかり今日は出てくるな。仕合を申し込んで良かったぞ」
「まだまだ、あるけど本当に殺しちゃうから、終わろうか」
「そうだな。やっぱり、戦士と剣士は違うな。戦士同士なら一合一合の戦いになる事が多いが、剣士だと手数や技が含まれ新しい刺激を感じる。これだから、ミューレとの仕合は止められない。また、頼むぞ」
「え~。この姿見てよ。全身土まみれじゃない。せっかくの長くて綺麗な黒髪が台無しだよ」
「それは、自分で転がったからだろう。俺は放り投げただけで、転がしていないぞ」
「う、確かにダメージを負わない為に自分から転がったけど、納得できない。もういいよ、戻ろう」
本当にウォンって化物だな。私もだけど、息を切らしていないし、疲れている気配も感じない。やっぱり、勝つには魔法を使うしか無いかな。でも何とか剣で勝ちたいんだよね。
普段なら、まだまだ仕合を続けている。だけど、ここは敵地。本当に怪我したり、疲れたりしては意味がない。敵にチャンスを与えるだけだよね。
私はとりあえず体に付いた土埃をはたき落とす。ウォンも背中の方を落としてくれる。
「あ、今、お尻触った」
「鎧の上から触って何が楽しいんだ。俺にはそんな趣味は無いぞ」
「そうだったの?鎧が無かったら触るんだ」
「ち、違う。女の尻を触らないという意味だ」
「男が良かったのね。長い付き合いだけど、私やカタラに言い寄ってこないと思っていたら、男色家だったのね」
「そんな趣味はない!女が大好きだ!」
「いや~、犯される!結婚するまで清らかな身体でいると決めているのに~。カタラ助けて~。変態がいるの~」
カタラの方へ泣きながら走り寄り、抱きつく。
「ミューレ、汗臭いので離れて下さい。嘘泣きなのは分かっています」
「あ、やっぱり分かってた。カタラも参戦すれば良かったのに。身体動かすの楽しいよ」
「貴方達のは、身体を動かすとかいうレベルではありません。私にはついていけません」
「そう、残念。カタラとタッグを組んだら、確実にウォンを仕留められると思うんだけどね」
「その様な物騒な事はお断りします。その様な時間があるのであれば神の教えを学びます」
「そう残念。さてと、あっちの結果は出たかな」
ゆっくり、オーク共の方へ私は歩き出した。
オーク共の方に向かうと明らかに仕合をする前と態度が違っていた。
強者には従う野生の本能がさせるのか、七匹とも片膝をつき武器を目の前の床に置き、頭を垂れていた。どこでこんな儀式みたいのを覚えたんだろう。人間の方の親が、結構身分が高かったのかな。教育水準が予想より高いね。
「俺達、お前達を甘く見ていた。戦士長と互角の強さだと思っていた。今の戦いでお前達が我々より相当強いことがよく分かった。戦士長ですら、エルフの足許に及ばない。提案通り配下になる。言葉使いは良く分からない。そこは許してほしい」
やっぱり、あの仕合はオーク共の心を折るには有効でしたか。計算通りだね。おまけに私への憎しみも薄れ、逆に強者として認定されたみたい。これは予想外の収穫だよ。一生、命狙われるなと思っていたけど、その心配は無くなったかな。
「態度で示してくれればいいよ。言葉は意味が通じれば十分。それ以上求めないよ」
「何とこれからお前達を呼べば良い?」
「そうだね、様は偉そうだから殿にしようかな。ウォンもカタラもそれでいい?」
「好きに呼ばせるさ」
「様で呼ばれるような偉大な事はしておりません。殿でいいかと」
「では、戦士のことはウォン殿、僧侶のことはカタラ殿、私のことはミューレ殿と呼んでね」
「わかった、ミューレ殿。まず何をすれば良い」
「お部屋、用意してくれるかな。あの脳筋のせいで汗をかいたし水浴びしたいかな」
「確か、二部屋だったな。分かった用意する」
族長が後ろに控えていたオーク共に頷く。オーク共は立ち上がり準備にかかろうとするが、命令を取り消した。
「ごめん。今の命令取り消し。二番目にするよ。一番目の命令は、仲間を弔ってやって」
オーク共の動きが止まる。
「本当にその命令で良いのか」
「当たり前じゃない。家族なんでしょう。このままにしとくのは可哀想だよね。私が言うのも変だけど。私達はさっきの会議した洞窟を使わせてもらうね」
「わかった。その命令を最優先させてもらおう」
オーク共は、部屋から出て行った。砦の外に埋葬する様だ。数が数だけに数日はかかるだろう。その間に三人でもう少しこの辺を探検しておこうかな。
情報は、たくさんあるに越したことはないしね。
さて、久しぶりのベッドだ。敵地と変わらないから熟睡は出来ないけど、身体をゆっくり休められるのはありがたい。
鎧を脱ぎ、簡単に水で身体を清める。サークレットだけ着けておこう。風の精霊が何かあれば教えてくれるだろう。
ベッドに横たわると眠気がすぐに来た。すぐに深い闇へ意識が落ちていった。