11.カタラのためらい
族長室を出て、焼かれていない綺麗な洞窟で私達三人が向かい合う。
もちろん、族長達への警戒は怠らない。今も族長室の中央に固まって黙り込んで座っているオーク七匹が見えている。今のところ、不審な動きは見せていない。
まぁ、襲い掛かってきても、こちらの方が実力は圧倒しているし、オーク共に策がなければ私達に勝つことは無理かな。
「ミューレ、貴方は何か良からぬことを企んでいませんか」
カタラが口火を切った。いつも、詰問される時はカタラからだ。頭の回転が速いので、多分先の先まで考えているんだろうな。
こういう時は、正直に答えるのが一番。カタラに嘘をつくことは非常に恐ろしい目に遭う。延々と、神はこの世界をどうやって作ったか、どうやって人々は生きていくべきか聖なる書物を一冊分読み終わるまで解放されない。
だが、エルフ族にとって神はいない。
人間族が作り出した幻想というか、苦痛から助かりたいという想いから創られた物語だ。その物語を神話と人は呼ぶ。
その嘘八百の神話とやらが書かれている聖なる書一冊を読み終わるまで三時間。それを聞かされる時間は苦痛以外の何物でもない。
魔法などは、目の前にいる精霊が実際に力を貸してくれるから発動するのであって、信仰心などという訳の分からないもので発動するわけじゃない。人間族には、力の弱い精霊達を肉眼で見ることができないらしいけど、炎の大精霊イフリート級や水の大精霊ウンディーネ級などになると肉眼でも見えるみたい。だから、人間族も精霊の存在は信じている。そうじゃないと魔法使いという職業は成り立たない。魔法の全ては、精霊から力を借りることで発動するんだから、精霊の存在を信じないと魔法が使えないからね。
実は、神聖魔法も私の眼から見たら精霊の力を借りて発動しているのだけれども、僧侶の言葉だと精霊の力も神の力に置き換えられてしまう。目に見えず、でも力は肌で感じる訳だから精霊の力を神の力と言い換えるのは簡単だよね。
まぁ、これをカタラに指摘すると火に油を注ぐことになり、説教で一晩を明かすことになっちゃったなぁ。それ以来、大人しく聞き流している。
説教がしたければ、同じ人間族にすれば効果があるだろうね。
人種が違うと価値観が全く違うから、エルフ族の私には精霊の話なら、現実に目の前を精霊が横切ったりしているので、話も受け入れやすいのだけど、神様ばかりはどうも受け付けない。
実際に宗教で命や精神が助かる人もいるから否定もしないけど肯定もしないよ。ゴメンね、カタラ。無神論者で。
パーティーを組んで、すぐの頃に一度だけカタラに嘘をついてひどい目にあったことがあり、それ以来、懲りてカタラにと言うか、パーティーのみんなに嘘をついたことはない。
まぁ、黙っていることは時々あるけどね。
「てへ、企んでるよ」
とりあえず、満面の笑みでカタラに応えるが、仮面を被っているから私の表情はあまり分からないかな。
「じゃあ、策を聞くか。何をするんだ」
そしてウォンが泰然自若と言えば聞こえは良いが、俺は何も考えていないぞ、発言をする。
「は~い、あのオークを私達の配下にします」
「待て待て、オークだぞ。表向きは言うことを聞くが、背中を向けた瞬間に裏切るぞ」
「そうです。いくら人間語に堪能でも忠誠心は期待できません」
ま、二人から言葉は違がえど同じ様な反論が返ってくる。予想通りだね。
「私もね、純粋なオークなら配下にしようと云う気持ちにはならなかったけど、戦士長以外は、ハーフオークだね。ハーフオークが部族を仕切るって凄いことだよね。長い間、冒険して来たけど見たことないよ」
「ハーフオークって、何だ?」
あれ、ウォンが知らない。結構、有名だと思っていたけれどもそうでもなかったか。
面倒だし、カタラ、よろしくね。
「人間とオークの間に生まれた亜人です。人間とエルフの間に生まれた人間は、ハーフエルフと言いますよね」
「そういう意味か。人間とオークの合いの子か。初めて知ったな。そんな存在が居るのか」
「はい、オークはオークだけでなく人間とも子供を残せるのです。ただ、ハーフオークは基本的に、通常のオークより人間の血が入った分、非力になります。逆に人間の血が入った為、知能が高くなります。しかし、部族内での階級は最下級で奴隷に等しい扱いを受け、虐待を受けることがほとんどです。若いオークのストレスの捌け口になり、寿命を全うすることは無いと言われています。その為、クォーターオークを見た人間はいません。ところが、この部族はハーフオークの一族が統治しています。これは、余程の知能がないと生き残れません。普通のオークに筋力では逆らうことはできないのですから、かなりの才覚が無ければ、族長に昇り詰めることはできません。つまり、あの族長は普通の人間より高い知能があり、部族内で上手く立ち回る実行力及び実現力があると云うことが考えられます。長年、族長として君臨してきた手腕は、亜人ではありますが、評価に値します」
相変わらず、カタラの解説は長いけど分かりやすいね。でも、ウォンには通じていないと思うよ。
「つまり、族長はオークの賢者だと思えばいいか?」
さすが、ウォン。予想通り。一言で言えばそうです。脳筋は単純でいいよね。
「良いよ。その認識で十分だよ」
「しかし、よくミューレは、ハーフオークだと気がつきましたね」
「う~ん、人間語を流暢に話し過ぎたから違和感があったのかな。普通のオークは、ここまで流暢に話せないし、人間語を使う必要もないでしょ。そうすると、人間に長年にわたって教えてもらったのかなっと思った訳。じゃあ、長年人間がオークと連れ添うことが出来る方法は何か。どんな方法があるのか考えると、オークの奴隷にされている親が人間なら、自分の子供となら人間語でお互いに会話をするかなって。後、部屋が綺麗すぎるんだよね。人間の親が、掃除の習慣を多分教えたんだと思う。オークに掃除の概念ってないよね」
「なるほど。そして総合的に考えて、ハーフオークだと考えに至った訳ですね。納得致しました」
カタラが神妙に頷いている。まぁ、本気で褒めてくれているようだし、ボケるのは止めておこう。さて、作戦会議の続きだ。
「じゃ、簡単に考えている事を地面に書いていくよ。間違い、不都合は後で指摘してね」
積み上げてあった薪の中から、書きやすそうな細い木を選び、地面の砂に1~7までの作戦経過を箇条書きで記入した。
「はい、出来上がり。検討をどうぞ」
1.族長をここの周辺の管理者にする。
2.砦の戦力を補強するため、三馬鹿を配置。
3.エンヴィーへの道を整備。途中に駅を設置。替え馬を用意。
替え馬を幾度かすることにより、エンヴィーへ一日で到着可能にする。
4.駅は、オーク配下のゴブリンが管理。
5.砦に私達専用区画を設け、廃城攻略戦の基地にする。
6.廃城攻略戦には、三馬鹿も合流させ、六人で攻める。
7.カタラを城主とする。
ウォンとカタラが、文字を読みながらじっくり考えている。その間は、私がオークを警戒しておこう。族長室を見ると時間が止まっているかの様に七匹のオークは動いていない。
本当に逃げる気が無いみたいだね。
私の機嫌を損ねて殺されるよりも、プライドを捨て生きる道を選んだのかな。そこまでしたたかでないと族長まで昇れないよね。
「うん、分かった。俺の出番は6からだな。後は任せた」
「お~い、馬の手配とか、三馬鹿を連れてくるとか、攻略戦の資材運搬とかお仕事たくさんあるよね」
「え、俺もするのか。三馬鹿に任せたら駄目か?」
「駄目。役に立つなら三馬鹿って言わない」
「なるほど、そりゃそうだ。仕方がない。骨を折るか」
ウォンはどうやら納得したみたいだ。
さて、カタラは…。
「1~6までは了承しました。しかし、7の私が城主になるという意味が理解できません。私が城主になる必要などありませんし、ただの宝物庫に城主は不要でしょう。それに私達の対等の立場が崩れる恐れがありませんか」
やっぱり、そこに引っかかるよね。いきなり、城主になれって言われても困るよね。それもこんな辺境の訳の分からない土地で、僧侶様が城主になるって有り得ないよね。何よりも面倒くさいよね。ちなみに、私はゴメンだ。
それにしても、全く立場の事は頭になかったよ。肩書にへつらう様な人間はこのパーティーにいないし、完全に想定していなかったな。カタラは、教会に属しているから階級とかのしがらみがあるから、出て来る発想なんだろうな。
「城主と言っても単なる城の管理人というだけで、それで私達の立場が変わる事は無いと思うんだけど、カタラの考えすぎじゃないかな」
「現状、お互いに尊重をし、冒険で得た物も平等に分配し、当番も分け隔てなくこなしています。ですが、そこに城主という肩書が入れば、必然的に私が城の管理責任者として、皆様にお願いをしなければならなくなると思います。さらに城の管理をするためには、修理などで自由になるお金が必要になり、私だけが特別にお金を自由に使用する権限が生まれます。そうなれば、対等な立場ではなくなります」
何か変な方向に話が動いてきたな。すぐに作戦開始だと思ってたんだけど、カタラは難しく考えるなぁ。
「カタラの言う通り、お願い事や約束事は必要だよね。でも、カタラは、私達の立場って今も平等だと思っているの?」
「はい、平等だと信じております」
「正確に言うと今も平等じゃないよ」
「え、それは何故でしょうか?」
「宝物の分配で宝石三個ありました。一個ずつ分けました。これって平等?」
「私には、平等に思えますが…」
「鑑定したら宝石の価値が一個は金貨一枚、一個は金貨十枚、一個は金貨百枚でした。ね、不平等だったでしょう」
「鑑定後に不平等が生まれてくる事はあります。ですが、分配する時は価値が分からずに分けている訳ですから、平等だと思います。良き物を得た者は神からの贈り物です。問題ありません」
あ~、神様を出されると反論できないよ。水掛け論になって答えが出なくなっちゃうんだよね。僧侶を説得するのって面倒だね。
じゃあ、別方向から納得してもらおうかな。
「パーティー内の役割について考えてみようか」
「わかりました。そうですね、ミューレは主に作戦立案と交渉、ウォンは力仕事全般とパーティーの行動決定、私は消耗品や食料等の調達と人間関係の調整、という処でしょうか」
「その話でいくと、私が作戦参謀、ウォンが指揮官、カタラが兵站参謀でいいかな」
「軍隊に置き換えれば、そうだと言えます」
「そうすると、ウォンがお偉いさんで私とカタラがその部下になるよ」
「別にウォンの部下になった覚えはありませんが」
「私も誰の部下でもないよ。でも、立場は平等ではないでしょ」
「言葉のすり替えです。私達は軍隊ではありませんよ」
「分かってるって。分かりやすい言葉で表すのに使っただけだから。単に私が言いたいのは、真の平等や対等は有り得ない。必ず、どこかで差が出る。すでに差が出ている状況で城主という仕事が増えたところで、このパーティーに関して立場がどうのこうの言う人間はいないよ。もしいたら、すでにウォンがリーダーやってるから手当くれとか、何も言わずに俺の命令を聞けとか言っているよね」
「そうか、俺はリーダーだったのか。よしよし、お前達、俺の言う事をちゃんと聞くんだぞ」
『ウォン、おだまり!』
私とカタラが同時に言葉を発する。
「すまん」
シュンとなったウォンは捨てておこう。これ以上、面倒事は増やしたくないしね。
「今のでハッキリしたでしょ。カタラだってウォンに『おだまり』何て言うんだし、私達は、平等じゃないし、立場も気にしない。それぞれが自由だからパーティーを組めるんだよ」
「そうでした。世界は平等ではありません。貧富の差、身分の差などが溢れています。このパーティーは居心地が良過ぎます。つい、世界は平等だと勘違いをしてしまいました」
「じゃあ、城主をしてくれるかな」
「それは、お断りします。他の方にお願い致します」
あらら、説得失敗。フフフ、作戦参謀を舐めるなよ。次の手は、搦め手でいきますか。
「何でしたら、オークの族長に任せても良いのではありませんか」
カタラの提案は、私の中では一番に検討済みなんだな。普通のオークなら馬鹿なので番人をしていろと命令すれば済むけど、族長達は賢すぎる。宝物を調べ、自分達が使える物を探し出し反旗を翻してもおかしくない。それだけの事を私はした。族長達を城の中に入れることはできない。私達に危険が及ぶ可能性が高い。
「え~、だって城の管理にオークは駄目だよ。基本的に攻略後は宝物庫に使う予定だし、オークを城に近寄らせる気がないもん。特に族長達は賢すぎるしね」
「城を宝物庫にするのが最初からの目的であることは理解していますし、他に城の管理を任す適任者はおられないですか」
「ウォン、やってみる?」
「俺か、無理だな。城に近づく奴は追い払えるが、すぐに飽きて修行の旅に出てしまうな」
やっぱりな~。そうだと思いました。戦士一筋、十数年。己を鍛えることに喜びを感じている様な人だもんね。
「それとね。多分だけど、馬鹿魔法使いが研究所を城に開くと思うよ。色々な魔法実験をするのに人気がないのって魔法使いには好都合なんだよね。実験を見られたり盗まれたりする心配がないからね。周りに迷惑をかけたり、城や自然を破壊したりする可能性が高いよね。で、馬鹿魔法使いの抑えられる人間が必要になるかな」
「何だ。じゃあ、馬鹿に城主を任せりゃいいんじゃないか。城に常駐しているなら問題ないだろう」
「それは止めといた方が良いよ。魔法の研究って、凄くお金がかかるの。魔法の触媒に黄金や純銀なんかを使うのは当り前。あっという間に宝物庫から宝物が消えていくよ」
「そうなのか。じゃあ今のは無しで」
「間違いなく、あの子なら研究所を城に作り、周りの影響を考えず魔法実験に打ち込むでしょう。特に破壊魔法の開発が好きですから、下手をするとゴブリンの集落を丸ごと実験に使うことも考えられます」
カタラが表情を曇らせる。色々と想いを巡らせているのだろう。
私と馬鹿魔法使いは、同じ魔法使いということもありライバル関係にある。ライバルと言っても相手は、魔法使い本業一本。数歩先を行かれているのが現実なんだな。魔法への造詣は、格段に馬鹿魔法使いの方が悔しいが上だ。そして、カタラにとって馬鹿魔法使いは、弟の様な存在だ。非常に可愛がっていることを知っている。
すぐに調子に乗り暴走する性格であることも理解している。馬鹿魔法使いが素直に言うことを聞くのは姉貴分であるカタラの言葉だけだ。
私とウォンの言葉に馬鹿への抑止力は無い。
ちなみに三馬鹿の残り二人は火に油を注ぐ方だ。
「だから、抑え役が欲しいなって。馬鹿魔法使いを止められるのはカタラしか居ない。私やウォンでは止まらないし、オークが馬鹿へ陳情に行ったら、皆殺しにされてエンヴィーへの隠し街道が使えなくなるかな。だって、駅を管理するゴブリンを統治するオークが居なくなれば、ゴブリンが駅の管理を放棄するに決まっているし」
「では、強くあの子に宝物庫やオークやゴブリンに手を出すなと、私から念を押すだけで良いのではありませんか」
「それも考えたよ。カタラとの約束なら馬鹿魔法使いには有効でも、オーク共にとって、ここの支配者が誰なのかをハッキリ示す必要があると思う。族長達はすでに理解しているけど、ゴブリンの頭じゃ、リーダーのいないパーティー六人が出入りしていたら、誰が城主なのか理解できないよ。形、つまり偶像が必要だよ」
カタラがため息をつく。どうやら心の葛藤が激しいようだね。よし、あと少しで落ちる。
「偶像であれば、ミューレでも問題は無いのではないでしょうか」
「私でも務まる仕事なんだけど、今回は具合が悪いんだよね。そうじゃなければ、最初から立候補するんだけどね。私はさ、あいつらを虐殺したでしょ。族長の前に死屍累々を今も見せつけているんだよね。そんな私に忠誠心が湧くかな」
そう今もこの砦の広場には数十のオークの焦げた死体が所狭しと転がっている。明らかに魔法による攻撃であるとわかる。
そして、この三人の中で戦士長と決闘したウォンは戦士だと判断し、メイスを腰にぶら下げ胸から宗教のシンボルのペンダントを下げているカタラは僧侶だと解る。
なら、残っている人間が魔法を使って皆殺しにした。つまり、残っている人間とは私の事だ。あの族長の事だ。多分ここまで推理、いや確信しているはず。何せ、私だけ見る目付きがかなり厳しい。
本当は、私を八つ裂きにしたいんだろうな。でも、実力では敵わないから大人しくしているんだろう。私が城主になるのは無理だよね。
「別に領地経営をして欲しいということじゃないよ。馬鹿を抑えて、城の管理をしてねって、という話。もちろん、カタラに任せっぱなしにはしないし、私達も協力というか、普通に管理するよ。でも、管理者がいないと、城が壊れる危険性があるから、城主になって欲しいの」
カタラは、渋い顔をしている。自分の宗教の教義に反しないかと考えているのだろう。しかし、美人は渋い顔も絵になるね。童顔の私では、悩んでいたら迷子のように見えるんじゃないかな。
「話は、理解しましたが納得していません。とりあえず、保留にしましょう。手に入れてもいない城のことで悩むのはナンセンスです。まず攻略戦を成功させましょう」
「そうだね、取らぬ狸の皮算用だもんね。とりあえず、6まで進めようか」
カタラの言うとおりだ。手に入れていない、しかもレッドドラゴンが住んでいる城を攻略するには相当手こずる筈だ。この前のブラックドラゴン戦の様な遭遇戦は避けたい。
何せ、レッドドラゴン、オーガ、トロール、ジャイアントが居る城だ。勝てる保証はどこにも無い。今、慌てて決める必要はない。攻略戦の間にカタラも気が変わるかもしれない。
まずは、攻略戦の準備だね。
「じゃ、族長達のところに戻ろうか。いいかな」
二人が頷く。
私達三人は洞窟を出て、族長室へと向かった。
族長達は、律儀にも私達がこの部屋から出ていった時と全く同じ姿勢でいた。少し位は、逆襲の意志を見せるかと思っていたが大人しい。やはりハーフオークか。どうやら、人間の血がかなり濃いのかもしれない。
「お待たせ。憎い相手と承知しているけど、話を聞いてくるかな」
ま、下手に出ておいた方が交渉事はまとめやすい。恫喝するのは何時でもできるが、優しく接するのは最初が肝心だ。後で優しくしても裏があると思われるだけだしね。
「正直に言おう。確かにお前達が憎い。特にエルフ、貴様が一番憎い。だが、お前達の中で一番話し合いが出来る人間だと理解している」
やっぱり、魔法を使ったのが私だとバレていましたか。しかも、仮面を被り、長髪で特徴的な長い耳を隠しているのにエルフだと特定されているよ。
それに私達三人の性格も会議の様子から特定したのかな。優秀な族長だね。
「では、まずこの仕打ちに対し謝る。ここまで、話し合いが出来るオークの集団だと思いも寄らなかった。話し合いが出来るのであれば、話し合いで済ませたかった。しかし、私達も死にたくなかった。だから、全力でこの砦に挑んだ。族長達を面白半分に虐殺はしていない。生き残るための最善だと思う策を使った。これだけは信じて欲しい。後は恨もうが、憎もうが、自由にしてくれて構わない。私はそれだけのことをした」
正直に心の中を打ち明ける。オークとは言え、亜人。人の心は持っている。それが悪意が優先されるか、理性が優先されるかは別の話だ。
「では、言おう。我ら七人、未来永劫お前を恨み続ける。だが、一生お前に勝てない。力の差は思い知った。だから命は狙わない。ただただ、恨み続ける。」
族長の目にどす黒い炎が灯った様な気がした。これはかなり恨まれている。
当たり前か、一族皆殺しだもんな。私だって許さないよな。
「了解した。いつまでもその恨み、受け続けよう。それ以上に値する仕打ちをした。当然の報いだ。で、提案なんだが、この私が言うのもおかしいが我々の配下にならないか」
直球勝負、オークに駆け引きはいらないだろう。誤解や曲解される方が困るからね。
「何を言っているのだ。俺はお前を恨むと言った。その者をお前は配下にしたいという。馬鹿なのか」
族長の言うとおり、普通は配下にしないよね。でも、私は効率主義者なので、使えるものは何でも使うんだよね。
「私は本気だ。お前達はかなり優秀だ。赤き城を攻略するにはお前達の協力が不可欠だ。そう判断した」
「配下にしたところで、赤き城のモンスターには歯が立たない。役に立たないぞ。さっさと俺達を斬り捨てろ。死んだ仲間の元に送ればいい」
「それも選択肢にあったけど、一番に選択肢から外した。殺すのは何時でも出来る。だが、ここの砦と周辺の治安維持を任せたい。そうすれば、赤き城に近づく者は今まで通り、ここを通らなければならない。赤き城へ足止めできるだけでも、十分私達の利益になる」
「つまり、今まで通りに暮らせと。無理だ。七人でこの地域のゴブリンを抑えることは出来ない。これまでの略奪の報復が来る」
「それは問題ない。エンヴィーより応援を呼ぶ。そいつがお前達に軍事力を新たに渡してくれる。その軍事力を使えば、今迄以上にゴブリンを抑えることが出来る」
「何が目的だ。この砦にそこまでする価値はない。赤き城、この砦無くても簡単に見つからないはず」
「お願いしたい事は、違うところにある。エンヴィーへの街道を整備して欲しい。ただし、今まで通り人間に見つからぬ様にだ。途中、数カ所に馬小屋を作り、馬を乗り換えられるようにしたい。そうすれば、早駆けしても馬が消耗する前に次の馬に乗り換えペースを落とすこと無く、エンヴィーと砦を往復できる」
「何とそんな方法を…。だが、それだけの馬小屋を七人では管理できない。無理だ」
「ゴブリンを使え。これから呼び寄せる軍事力を背景に従わせろ。そうすれば、馬小屋、駅の管理が可能だ」
「それほど、強力な軍事力を俺達に渡すというのか。俺はお前を憎んでいる。その軍事力をお前に向けることを考えないのか」
「お前達に渡す軍事力程度では、私に怪我をさせることは出来ない。だが、ゴブリンには十分脅威になるはずだ」
「わかった。後は何を望む」
「この砦に私達専用の区画。この部屋と同じ位の大きさの部屋が二つ欲しい。そこを赤き城攻略戦の基地にする。滞在中の世話もよろしく。ご飯を出してくれたらいい。それ以上は望まない。言っとくけど、人間用の食事よ。そして、赤き城への道案内。戦闘はしなくてもいいわ。城が見える所まで案内してくたら十分よ。」
「待て、七人で相談する」
ハーフオーク六人とオーク一人がオーク語で会議を始める。七人とも人間語を解していたため、族長は他の者に私の提案を説明しなかった。
提案を受けるか、戦って死ぬかの、二択を決めているようだ。
あいにく、私だけがオーク語も解する。向こうは秘密のつもりかもしれないが、筒抜けだ。
私に対する罵詈雑言が凄まじい。会議というより私に対する恨みを吐き出す場所となっている。思わず殺意を抱いてしまうが、当然外には漏らさない。
ウォンなら気づいているかもしれないが、オーク共には私の殺意は届かないはずだ。
しかし、本当によくもここまで悪口が出てくるものだ。余りにも多く、早く、次々に出てくるものだから、記憶している暇もない。
涼しい顔で知らぬ振りをしているが何時首を刎ねてもおかしくない程、悪口が出るわ出るわ。まぁ、我慢だね。答えは最初から一つしか無いんだから。選択肢が沢山有るように見えるのは気のせいだよ。生きたければ配下になる。言うことを聞きたくなければ死ぬ。シンプルな選択肢だ。
だが、相手にそれを選ばせることが重要だ。私が無理強いしたという事実は無い方がいい。
後々、何か問題が発生してもそれは自分達が選択した事だと勝手に判断し、私への悪意は逸れる。それに、ここで本人の目の前で言いたい事を好き放題言えば、ほんの少しは気が晴れるだろう。
爆発しそうになっている圧力は、抜ける時に抜いておいた方がいい。反乱の予防にもなるしね。
さて、具体案を今の内に考えておこう。結果はすでに分かっている。