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10.オーク砦殲滅戦

気付かれぬ様に極力篝火の影になる部分を通り、門をくぐり櫓に上がる。

思っていた通り、見晴らしが良く砦の中と外が一望できる。念の為、もう一度状況を自分の目と耳と肌で確認する。もしかすると何か見落としがあるかもしれない。慎重さは生き残るには重要だ。

「二人共どう?状況は掴めた?」

「はい、ミューレの偵察通りの様ですね」

「よし、作戦通りで問題なさそうだな。修正は必要ないと思う」

「では、準備を」

私とウォンはフォールディングバッグからロングボウと矢を取り出す。弓矢の取り扱いも戦士や剣士の嗜みだ。弓矢が使えて当然と世間一般からも思われているし、私達も弓の取り扱いも達人クラスだ。これだけ篝火で明るいと狙いやすい。

カタラは昇降口に立ち、盾を構える。防御重視の戦闘でいく様だ。まぁ、そちらはカタラを信じて任すしかない。

私達は、こちらに近付けさせないように撃破していくのみだね。

壁に弓矢を立て掛ける。すぐに手に取れるか一度確認する。

この場所で問題ないようだ。もう一度、同じ場所に弓矢を立て掛ける。

呼吸を整え、火球の呪文を一気に解き放つ。

『火炎爆裂』

目の前に直径一メートルはある火球が突如出現し、勢い良く広場の中心へ突進していく。

私には、すでに結果が分かっている。最後まで見ず、準備していた弓矢を手に取り、すぐに構える。

火球は数瞬で広場の中心に到着し、直径三十センチ程に爆縮し、一気に暴発する。紅蓮の業火が広場を爆音と共に全てを焼き尽くす。離れたこの櫓まで熱風が突き抜けていく。

一部の炎は風の勢いに乗り、部屋として使われている洞窟の中へ蛇の様に侵入していく。数十匹居たほとんどのオークが一瞬で丸焦げになり、即死する。だが、不運にも一部の力の強いオークはすぐには死に切れず、生きながら焼き続けられていた。

『痛い』

『熱い』

『水…』

『苦しい』

『助けて』

様々な苦痛が広場に満ちる。

オーク達は、悶え、叫び、呻き、憎み、苦しみ、死んでいった。

また、ある洞窟には炎が来なかったが、業火が酸素を喰らい込み、酸欠で苦しみ抜いて死んだ者も多くいた。

カタラが信じる宗教の火炎地獄を一瞬で再現だ。全ての不浄を聖火が焼き清めると言われている。


何が聖火だ。この虐殺を起こしたのは私だ。ミューレ自身の魔法だ。そして、それは自分の意志だ。強制されたのではない。私は、人殺しだ。大量虐殺者だ。普段、ふざけようが、おどけようが一度たりとも忘れた事は無い。シリアルキラーと言われても反論できないし、反論する気もない。私の両手、いや全身は他の生き物の血で汚れきっている。いや、汚れているというのは、殺してきた生き物に失礼だよね。他の生き物の命を全身に纏っている。

いくら水浴びをしようときれいな布で拭おうとしても決して落とすことは出来ない生命の重み。また、新たに全身が重くなった。もう二度とこの重さから逃げられない。これからも重みが増えることがあっても減ることはない。

だけど、私は冒険を続けるの。これからも虐殺をすることがあるだろう。生き物を殺すこと、それもモンスターではなく、人間を殺すこともあるだろう。実際に数え切れない程の人間も殺している。

それでも、私は冒険を続ける。自己満足のために、自己の依怙のために、自分が必要だと感じた時に、躊躇いなく自分が楽に生きる道を選択する。

すでに私の心は壊れている。如何に効率よく戦うかしか考えていない。

戦いが私に生きていることを実感させてくれる。興奮させてくれる。充足感を与えてくれる。

だから、私は冒険を続ける。人からどの様に思われようと感じられようと気にしない。すでに私の心は壊れているのだもの。


無事だった洞窟からオークが飛び出してくる。その都度、弓矢で撃ち抜いていく。それは女子供など関係ない。例外はない。すでに条件反射の領域に入っている。

目標発見、照準、予測、射出。一匹も撃ち漏らす事無く矢を打ち出していく。

矢のほとんどが確実に急所を撃ち抜いていく。

眉間、こめかみ、喉仏、延髄そして耳。鎧に覆われていない部分を的確に捉えていく。一撃でオーク達はその場で崩れ落ちる。

オーク達は、こちらに気づく余裕すら無い様だ。思い思い燃え盛る炎を避け、安全だと思われる方向に逃げようとしている。だが、安全地帯は無い。ウォンと私が確実に撃墜していく。

たまに、ウォンと目標が被り二本の矢が同時に刺さることもあったけど、私は気にせず、打ち続ける。ウォンも気にかけず、次弾を発射していく。


十分程経過した頃、ようやく、虐殺の衝撃から私の心が立ち直りつつあった。何とかいつものミューレに戻れそうだ。

落ち着いてきたことにより、体の芯が快感で痺れていることに気づいた。やっぱり、私の心は壊れているのね。こんなことで気持ち良さを得てしまうなんて、人間を止めてしまったのね。

「ミューレ、ぼちぼち良いだろう。下に降りるか」

ウォンは、普段通りに話しかけてくる。本当は私の心が壊れていることに気づいているはず。どうして、普通の人間と同じ様に接してくれるのかな。

涙が出てくるじゃない。人間を止めてしまったはずなのに。

私は平静さを装い返事をする。

「そうね。もう、洞窟からオークも飛び出してきそうに無いしね。カタラは、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。こちらにたどり着いたオークは居ませんでしたから」

カタラの顔が少し蒼い。僧侶様にはちょいとこの修羅場はきつかったかな。

「では、族長とご対面といきましょうか。ウォン、先鋒を頼めるかな。戦士長が絶対不意打ちをしてくるからね」

「そうだな、俺の方が戦士長とやり合うには向いてるからな。久しぶりに楽しめるかもしれん」

こういう時、ウォンの軽口が頼もしい。単純に脳筋なのかもしれないけど。

ウォンが私に人間として接してくれるのは、もしかしたら同類なのかもしれない。私と同じで心が壊れているのかも。

いや、違うなぁ。ウォンは心の鍛錬で人を殺す苦しみを乗り越えた普通の人間だと思う。だから、時々人を思いやる言葉が出てくるんだろうな。

やっぱり、ウォンは化物だ。達人クラスの上級者になるには心が生きていないとだめなのだろう。

だから、私は達人クラスの中級者から先に成長できないのだろうな。

私の壊れた心はもう二度と治らない。カタラがどんなに凄い治癒魔法をかけてくれても体の傷が癒えるだけだろうな。

櫓を降り、周りを警戒しながらそんな事を考えていた。

広場を横断するとき、豚肉を焼いた香ばしい薫りを感じた。

「さすがにこの臭いはキツイな」

「えぇ、肉の焼けた臭いが酷いですわ」

ウォンとカタラが会話をしている。

こんなに美味しそうな薫りなのに。やっぱり、私は壊れているのね。

多分、ブラックドラゴン戦が遠因じゃないかな。生き抜く為とは云え、自分からドラゴンの内臓に飛び込む人間なんてそうは居ないよね。あの時に壊れかけていた心が、完全に壊れたのかな。

自分の心の事を考えるのは、もう放棄しよう。元に戻らないものの事を何時まで考えていても先に進まない。いつものミューレに戻ろう。

冷静沈着、正確無比、冷酷非情。だけど、冗談を言い、ふざけ、おどけ、人をおちょくり、笑わせ、馬鹿をする。それが人から見たミューレだ。

私はそれを演じ続ければいいよね。


広場を三分の二程、横断した時、突如オークの死体がめくり上がり、私に襲い掛かってきた者がいた。たまたま、私が一番近かったのだろう。

振り下ろしてきたハンドアックスをミディアムシールドで受ける。重い衝撃が私の全身を突き抜ける。

敵を見ると革鎧と肌が熱で癒着し境目が分からない。全身の肌が燃えつき真皮や筋肉が露出し、全身がケロイドと化している。

よく、この状態で反撃できたものだね。何もしなくともあと数分の命だろう。

だが、もう役に立っていない革鎧の上から心臓に剣を突き入れ、捻り、素早く抜く。

数瞬遅れ、傷口から血が噴き出す。噴き出すことが分かっていた私はすでに歩みを進めている。血で汚れたくないものね。

背後でオークは、ゆっくり膝から落ちていき、地に伏した。

その後、どこからも逆襲は無かった。


広場を横断し、族長室の前に着いた。

「よし、突入するぞ。多分、右側から攻撃がくると思う」

「何故そう思うのですか?」

「多分、ウォンはこう考えたと思うよ。左手にシールドを付けているから、敵が左から不意打ちをしてもシールドで防げる可能性があるって」

「なるほど、確かに左手を動かすだけでどの様な攻撃にも対応できますわ。流石です」

「あ、そうなのか。そこまで考えてなかったな。そうか、言われてみればそうだな。何となく右側から殺意を感じるな~と思って言っただけなんだが」

く、しょせん脳筋戦士だったか。買い被っていた。こいつ、何も深く考えて無かったよ。

「とりあえず、俺が中に入ってから一分後に入ってくれ。それまでに入り口から敵を離しておくから」

「了解。じゃ、よろしく」

ウォンがゆっくり、油断なく族長室に入っていく。すかさず、鈍い金属と金属ぶつかり合う音が響く。どうやら、始まったようだ。ウォンに言われた通り、一分間待つ。その間も金属のぶつかり合う音は響き続け、止まらない。少しずつ、入り口から音が遠ざかっていく。時間だ。私とカタラも不意打ちに警戒しつつ族長室に入った。

族長室に入ると眼の前でウォンと戦士長が激闘を演じている。

そう、「演じている」のだ。明らかにウォンが戦士長の力量を図ろうと全力を出している演技をしている。私の眼にはそうにしか見えなかった。

他の者には、激闘に見えたかもしれない。中々の迫真の演技だ。

その向こう側に族長を守るようにメスを含めオーク四匹が、斧や剣といった武器を構えている。オークは凶暴だ。メスだろうと武器を持ち襲い掛かってくるのが普通だね。ま、私達も女だけど冒険者をしているし、オークと違いなんてないんだよね。

族長室は炎にも酸欠にも襲われず、綺麗なままだった。

綺麗?違和感がある。なぜ、オークの族長室が綺麗なのだろう?

今迄に出会ったオーク達の居場所は、食い散らかしたゴミが散乱し、それを餌にするネズミやゴキブリが這い回り、部屋中に蝿が飛び交っているのが普通だった。

だが、この部屋はどうだ。人間の村長の家と何ら変わらぬ清潔感で溢れている。驚くべきことだ。このオークの族長は高い教養を持っているのかもしれない。その辺も後で話に聞いてみようかな。

よくよく、族長達の姿を見るとこの部屋に居るオーク全員が清潔にしている。ちゃんと水浴びをし、服も洗濯をしているようだ。

これは、本当に驚きだ。オークがこんな生活習慣を持っているのを見るのは初めてだ。


さて、族長に近づきたくとも目の前でウォンと戦士長が戦っており、向こうに行けないし、向こうもこちらに来られない。

まぁ、魔法を使えば一瞬で勝負がつくけど、ウォンも久しぶりに楽しんでいるみたいだし、任せておこう。それに魔法は力加減が難しい。

魔法は当てるか当てないかの二者択一。生か死かになってしまう。

当てずに恐怖で支配する方法もあるけれど、ここはそこまで無茶する必要はないかな。

この人数なら、剣技のみで十分対応可能な状況だ。お互いに睨み合みが続く。ならば、ウォンの演技でも見ていよう。

オークの戦士長は、想像よりレベルが高かった。と言ってもオークの割にはだけど。オークの上級種のオーガとも一対一なら勝てるのじゃないかな。

本気ではないと云え、ウォンの攻撃を見切り、いなし、隙を見つけては反撃している。何せ情報を聞き出すため、殺しては元も子もない。ちなみにウォンは、じっくり戦士長の力量を楽しみながら計っている様だ。

たまに

「ここを攻めたらどう来るんだ。そう、弾くか。では、この死角は気づくかな。あっと、難しかったか。刺しちまった」

と呟いている。

徐々にウォンが手数を増やし始め、戦士長を圧倒していく。オークの戦士長は、次々に体の表面を刃に削られ血しぶきが舞っていく。戦士長の全身が赤く赤く染まっていく。床に血溜まりも少しずつでき、ゆっくりと広がっていく。

浅い傷を全身に付けられ劣勢に追い込まれていき、ついには、防戦一方となり反撃ができなくなった。

後は、戦士長が降参するのを待つばかりだ。戦士長も力量の差を思い知っただろう。しかし、降参する気配は感じられない。死んでも族長を守る、そんなつもりだろうか。

いや、違うようだ。こちらは、力の差を思い知らせ、降参するのを待っているのだが、どうやら、戦士として死ぬというプライドを選択しているみたいかな。


剣と剣をぶつけ合い、キンキン云わせ、そろそろ耳が痛くなってきた。

「ウォン、剣を折ったら終わらないかな」

「そうか、じゃ折るわ」

次の瞬間に戦士長の剣は、根本から折れた。いや、ウォンが狙って折った。

いやいや、薪割りじゃないのだから、そんな簡単に折れるものじゃないでしょう。本当にウォンは化物だな。

剣を折られ、戦士長との攻防は、突然終わった。

オークの戦士長は呆然としている。剣とともにプライドも折られたのだろう。

多分、こちらの会話を聞いていたのだろう。私が「剣を折れば」と言い、即実現させる実力。敵は遙かなる高みにいることを改めて思い知ったはず。

そして、奥に居る族長達も私達の冒険者としての強さを悟ったのだろう。何か族長が周りの者に一言二言言うと、すぐに皆が武器を捨てた。

あれ、思ったより物分りがいいな。ま、ここまで大きい砦を運営する手腕を持っているということはそれなりの頭脳を持っているわけだよね。下手な人間の村長より、この族長の村の運営に関しては数倍上手だね。

「我らの負けだ。好きにしろ」

お、人間語で話してきましたか。知能高いね~。オークじゃなく、トロールとかジャイアントならペットで飼いたくなるけど、オークは凶暴すぎて駄目。寝首を平気でかいてくるからね。だけど、この部屋の清潔感から感じる教養の高さ。とてもオークとは思えない。すごい変わり種の様な気がする。

戦士長が立ち上がり、族長の前に立つ。一応、盾になるつもりなのだろう。

私達三人とオーク七匹が部屋の中心で睨み合う形になった。

念のため、前衛を私とウォン、後衛カタラで隊列を組む。

いつ、戦闘が再開されてもおかしくない。オークの凶暴さは理性を上回る。

いくら、降参しても突発的に襲ってきてもおかしくないからね。


「俺達の負けだ。好きにしろ。氏族は全滅だ。もう頑張る意味はない。だが、死ぬ前に何故皆殺しにあったかは知りたい」

やっぱり、オークの族長はかなりの変わり種だ。今迄、散々オークと戦ってきたけど、こんな理性的なオーク初めてだね。かなり、興味が湧いてきたかな。

「正直に言うよ。情報が欲しかった。だけど、オーク族は凶暴で凶悪だ。素直に話し合いに乗らない。完全な力の差を見せつけ、情報を引き出したかった。族長の様に話し合いができると知っていたら、ここまでの事はしなかった」

「そうか、我らの本能が招いたことか。他のオーク族なら間違いなく。お前達の言う通りにしただろう。だが、俺達が今迄ゴブリンにしてきたことがそのまま返ってきただけだ。思い残すことはない。好きにしろ」

うわ~、本当に理性的なオークだ。人間語も流暢だし、教養が高い。部下も大人しく話し合いに応じているし、人間語を理解しているね。ありえない反応だよ。ますます興味が湧いてきたな。

「じゃあ、いくつか、聞きたいことがあるよ。廃城が近くにあると思うんだけど場所を知らないかな」

「はいじょう?」

あ、難しい言葉は無理か。教養高くとも普段使わない言葉は知らないか。

「あぁ、壊れかけた城や誰も使っていない城だよ」

「赤の城のことか」

「お、いいね。詳しく聞かせて」

「ここから三日ほど南に川沿いに登ったところに深い谷がある。その谷の中に城がある」

「それだけ、他にも知っているんでしょう」

「俺たちは、その城に住むつもりだった。先客が居た。勝てなかった。だからここに砦を作った」

「先客って誰かな、続けて」

「赤き竜」

あいたたた~。レッドドラゴンが住み着いていますか。最近、ドラゴンと縁があるなぁ。これは面倒な話になりそうだよ。

「赤き竜の大きさはどの位なのかな」

「翼を広げて二十メートルくらいだった。ブレス一息で氏族の戦士、半分死んだ」

そりゃ、そうだ。オークが勝てるわけがない。そこに追い打ちで私達が来たわけだ。道理で予定より口が軽いわけだ。とても口が軽いなと思って疑問に思っていたけど、納得しちゃった。

「赤き竜は一匹でいいの。二匹目とか、いたりしない?」

「赤き竜は一匹だ。他の竜はいない」

「竜はって、どういう意味かな?お姉さん、そういう回わりくどいのは嫌いだな」

「オーガ、ジャイアント、トロールなどを配下に従えていた。数は分からない。それどころじゃなかった。逃げるので必死だった」

「赤の城って、他に知っている奴はいるのかな?」

「いない。川を登るにはこの砦を通る必要がある。だから、この砦に近づいてきたものは皆殺し。知る者はいない」

やっぱり、オークだね。頭が良くても、本能には忠実ということか。

よし、有益どころか本当の話だったら最高の情報じゃない。まさかこんなに早く廃城の情報を得られるなんて思ってもいなかった。

「城の大きさとか分かる?」

「命からがら逃げ出してきたから、外見しか分からない。色は白色。石造り。外から見て三階はあった。一階だけでもジャイアントがうろつける高さもある。割りと規模は大きい」

「何で白い城なのに赤の城なの。あと、人間族が作った城だよね」

「赤き竜が住んでいることと、俺達の血がたくさん流れたから赤の城と呼んでいる。多分、人間が造ったと思う。しかし手入れはされていない。扉は朽ち果てていた」

となると、数年以上は人間が近づいていないのかな。

「どうやって、お前たちは城の場所を知ったの」

「氏族が大きくなり、今までの洞窟では生活が出来なくなった。だから数年かけて、探索をさせていた」

「なら、この辺りの事は詳しいわよね。人間とかゴブリンとかよく来るの?」

「人間は来ない。お前達が初めてだ。ここ、どこの街にも人間が作った街道は通じていない。ゴブリン共の村、幾つかあるが全て支配下に置いた」

「ということは、族長がここの国の王様なんだ。人間が作った街道はないということだけど、じゃあどんな街道があるの」

「俺達が使う獣道が、人間の街へ真っ直ぐに続いている。ローブを纏って人間のふりをして買い物をしたりするために通した」

「ちなみに何て街の名前?」

「たしかエンヴィー」

あらら、城塞都市ともあろうエンヴィーにオークが自由に出入りしていたとは驚きだ。全く想像していなかった。もしかしたら、普段すれ違ったりしていたかもしれないんだ。

これは凄い拾い物をしたかもしれない。

「エンヴィーまで何日で着くの?そしてどこに出て来るの?」

「俺達の足で三日。樹海から地下道を掘り、下水道に繋げている。エンヴィーのどこにでも出られる。それに俺はもう王じゃない」

「なんと云うことです。オークがいつでもエンヴィーを襲うことができたという事ではありませんか。恐ろしい」

カタラが心の底から驚いている。確かに、それもビックリだけど、他にも驚く処があるでしょうに。

さて、ここまで来るのに私達は徒歩で八日かかった。それがたったの三日でエンヴィーへ行けると云う事は、馬を使えば、一日で行くことも可能な様な気もする。

私の中で幾つかの閃きや考えがまとまり、一つの作戦が組み上がりつつある。赤の城偵察作戦の骨組みが出来上がったかもしれない。一度みんなに伝えてみよう。見落としや錯覚があるかもしれないし、私の思い違いかもしれない。

さて、話の続きだ。

「王じゃないって、どういう意味?」

「お前達と戦争に負けた。全てを失った。オレの家族、ここにいるだけになった。もう、王じゃない。お前達が王だ」

なるほど、こいつ本当に賢いな。前言撤回、ペットに決定。状況に応じては部下にしてもいいな。

「ちょいと、こちらも話を決めたい。外へ出るね。お前達はここで待っていて」

「わかった。敗者は、勝者に従う」

私は、ウォンとカタラに目配せを送り、族長室を出て、焼かれていない綺麗な洞窟に向かった。ここから族長室の中が見えるように扉代わりの布切れは外してきた。今のところ、族長達は大人しくこちらを見つめている。何かを話し合う気配もない。本当に降伏したのかな。


さて、オーク砦殲滅戦は作戦通り成功。いや、予想よりはるかに凄い戦果を得た。まだ、この戦果にウォンとカタラは気がついていない様だけどね。

まずは、廃城の情報が正しかった事に乾杯したいが、一度街に戻ってからの楽しみに残しておこう。

さぁ、二人に私の考えた作戦を言ったら、どんな反応を示すかな。

う~ん、楽しみ。さて、作戦タイムだ。

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