第7話 警備室へ
ポチを連れてコントロールルームにまで戻ってくる。
二人ともケガをしていた。
僕は肩とわき腹に、ポチは後ろ足を片方悪くしている。
僕のケガは治るかもしれないが、ポチのケガ……、故障は僕には治せない。
それがポチに申し訳なく感じ、そしてくやしい。
「痛てて……。うわ……肩ざっくり切られてるな」
作業服を脱ぎ、患部を見る。
肩には爪で引っかかれた痕がざっくりと残っており、わき腹は触ると息が詰まるような痛みがある。
折れてはいないようだが、ヒビ入ったかな。
とりあえず血を抑えないと。
「たしか工具箱にハサミとか入ってたような……」
薬も包帯も無いので患部を水で洗った後、着ていた作業服をハサミで切り、包帯代わりにする。
しっかりと縛り、新しい服を着る。
「僕はこれで良いが、ポチ。見せてごらん」
わん、と鳴いてポチが寄ってくる。
全体に擦り傷が付いているが、それは問題ない。
問題は、右の後ろ足の挙動がおかしいようだ。
フレームが少し曲がったくらいなら、僕でもなんとかなるかとも思ったが。
内部の部品がおかしくなってるのはどうにもならない。
「ポチ、ごめんな」
ポチを抱き寄せ、謝る。
「わん!」
ポチは何も気にしてないように応えた。
「に、しても痛てて……。今日の探索はこれ以上は無理そうだな。
最後に出てきたのは取りこぼしか? それとも……」
ダンジョンコアによる、新たな作成だろうか?
「……ちょっと見てみるか」
もちろん、直接動力室のダンジョンコアを見るわけにはいかない。
動力室に繋がるエレベーターホールを、監視カメラ付きのガンタレットで確認することにした。
「ん? 画面の半分が白いな、故障か?」
エレベーターホールのガンタレットから送られてくる映像は、画面の右半分が白く濁っている。
エレベーターホールの中をザッと見ていくが、辺りに白い紐の様な物が張り巡らされている。
奥の動力室へと繋がる厳重な扉の前には、黒い小山が道を塞ぐように積もっている。
いや、アレは小山ではない、巨大なクモだ……。
足を畳んでいるようだが、その横幅だけでも5mほど。
高さは2mぐらいか?
その表皮は黒く金属質な光を返している。
じっと見ていたところ、クモが身動きをする。
8つある複眼がこちらに向く!
ぞくり…とし、画面越しでも動きが取れない。
ガンタレットも動かなかったことで注意を失ったようだ。
また動かなくなる。
「ヤバイ……、あんなのが居るのか」
魔物図鑑を開き、該当する魔物がいないか探す。
「あった。……ダークメタルスパイダーか。
ダンジョンボスとして目撃例有り。
危険度は特大、出会ったら逃げろか」
ダンジョンボスとは、ダンジョンコアを守るための特別な魔物である。
ダンジョンコア自身は呪いの様な光を別にすれば、身を守る力は無い。
なのでダンジョンボスとなる魔物が、ダンジョンコアのある場所に続く道を塞ぐように守っているそうだ。
この様にダンジョンコアは自身を守る強力な魔物と、ダンジョン内を徘徊する通常の魔物、それと時々変わった特殊個体と呼ばれる魔物を生み出す。
「アレに挑むのは無理だな。ガンタレットの5mm弾も効くかわからないし」
5mmライフル弾はリザードナイトの盾にも防がれている、より強力な魔物に効くかと言われれば難しそうだ。
「傷も痛むし、今日はもう寝るか」
ステータスを見たところ、HPが105/150となっている。
マットを床に広げ、ポチを呼び寄せる。
一緒に毛布に包まる。
ポチの機械の体が冷たいが、心細さが解けていく。
「ポチ、これからもよろしくな」
「わん!」
ポチの返事を受け、ほどなく眠りに付いた。
次の日、全身に倦怠感がある中、起きる。
傷口はまだじくじく傷む。
「ポチ、おはよう」
「わん!」
朝食にチョコバーとゼリーを食べる。
一昨日からの代わり映えの無い食事だ。
ポチはご飯の代わりに、お腹から充電ケーブルを出して充電している。
包帯代わりに使ってる布を替える。
血がべっとりと付いて、濡れている。
ステータスを見ればHpが100/150と昨日より減っていた。
「血が流れた分減ったか……」
やはり薬が無いのは厳しい。
唯一の回復手段と言えば……
監視カメラから廊下の様子を見る。
「おお、増えてる増えてる。やはり減った分、補充するのか」
廊下にはうろついているリザードマンが5体ほど見える。
「さて、やりますか」
今日は今まで使っていなかった、中央にぶら下がったガンタレットを使う。
使ってない分、これは弾が満タンだ。
まずは、近くをうろついているリザードマンの頭部に照準を合わせ……3連射!
リザードマンの頭部に赤いレーザー光が灯り、連続した射撃音に合わせ撃ち砕かれる!
次に、その光景を見て唖然としているリザードマンを仕留める。
「ギィィ!!」
残りの3体から怒りの声が上がる!
3体が同時に向かってきた!
動力室側から2体、警備室側から1体だ。
「まずは!」
素早く警備室側のリザードマンに照準を合わせ、胸を撃ち抜く!
即死しなかったようだが、時間は稼げた。
「次!」
ガントリガーをグイッと捻り、動力室側にガンタレットを急転回させる。
「落ち着け……落ち着け……」
自分自身に言い聞かせる。
2体のリザードマンが迫ってくる中、慎重に片方の頭部に照準を合わせ、撃つ!
ダダダッ!!と火花が散り、それと共にリザードマンの頭部が撃ち砕かれる!
だが、もう1体はすぐ近くまで来ており、飛び掛ってきた!
リザードマンの顔が画面に徐々に拡大していく、それを中心に捉え……引き金を引く。
ダダダッ!!
至近距離で受け、リザードマンの頭部が粉々に撃ち砕かれるのが、画面に精細に映りこんだ。
カメラにも青い血が着くが、すぐに蒸散し魔素の霧となる。
ついで、残りの警備室側のリザードマンにもトドメを刺す。
その時、プシューッ……とドアの開く音が画面越しに聞こえる。
まだ残っているようだ。
リザードマンが廊下に出てこようとしている……
「出てくるまで待つかよ!」
廊下に顔を出したところをすかさずヘッドショット!
さらに残り4体出てきたが危なげなく、撃ち倒した。
「ふぅ……。やっぱガンタレットは便利で簡単だな。さて……」
痛む体を押して、廊下へとでる。
紫の魔素の霧へと体を滑り込ませ、吸収する。
肌にひんやりと、胸の奥に熱を灯らせ、肌から吸い取っていく。
全て吸い取った後、マグマの様に熱い血がドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッと全身に流れていく。
「良し、無事レベルアップできたみたいだな」
ステータス
Name アルス・クレート
Age 16
Lv 16 (+1)
HP 150/160 (+10)[生命力]
MP 1655/1655 (+15)[魔力量]
Str 23 (+1)[筋力]
Vit 25 (+1)[耐久力]
Mag 50 (+2)[魔力制御力]
Dex 25 (+1)[器用さ]
Agi 25 (+1)[素早さ]
ステータスを見るが、HPは最大値から少し減っている。
レベルアップのたびに全快になるというわけでもないのか。
傷口を触ってみたところ、少し痛みが走るが傷口は塞がった様だ。
「さて体も大体治ったし、リザードマンを全滅させた今が探索のチャンスか」
この地下5階の廊下沿いで、まだ行ってないのは警備室を残している。
「ポチ、ちょっとココで待っててくれるか?」
ポチはケガしている、コントロールルームに残した方が良い。
「くぅーん……」
だが、ポチはそれを否定するように僕の足へと擦り寄らせてくる。
「ポチ、今から行くところは危ないかもしれないんだぞ?」
「わん!」
「そうか……、じゃあ。行くか!」
ポチを抱きしめ、頭を撫でる。
「わん!」
バールを抜く。
いざとなったら何が何でも守り抜いてやる。
覚悟を決め、廊下を慎重に進む。
警備室のドアを開くが……リザードマンは居なかった。
ほっ、と息を吐く。
警備室に入り、中を見回す。
「なんかココはずいぶん荒らされているなぁ」
警備室内の机の引き出しやロッカーの扉は開け放たれたままだ。
中を覗くがめぼしいものは残っていない。
「後はあれか」
警備室の奥に大きなシャッターが付いてある。
シャッターの幅は車が余裕を持って通れる程だ。
その横にカードリーダーが付いてある。
「さて、こちらはどうかな?」
カードリーダーにコントロールキーを通し、シャッターを開く。
ガラガラ……と音を立て、シャッターが開いていく。
「な……!?」
中を見て、驚く。
中には、装甲板の付いた無骨な形状のロボットが3体置いてあった。