第66話 穴に潜むもの
20m四方程度の畑の真ん中に太く張りのある芽が一つピョコンッと出ている。
この畑はトマト専用だ。
スイカ草と同じなら1週間ぐらいで育ち、次の種を吐き出すか何かするのだろう。
この畑を埋めるぐらいに多く出してくれると良いが。
「さて、種も撒き終わったし」
「狩りに行くかにゃ?」
「そうだね。難しい相手かな?」
さっきリリィが言ってたのだと北の山付近に居る食べれる魔物のようだが。
「そんなことないにゃ。雑魚中の雑魚にゃ。準備さえしっかりしていれば簡単にゃよ」
「そうなんだ、それじゃ日が落ちる前に帰って来たいからすぐ行こうか」
「ヌーも連れて行くにゃ」
「え、私もですか?」
「そうにゃ。拾った受信機も余ってるからあげるにゃ。ちょっとでもレベル上げれば体が強くなるにゃ」
シェルターで拾ったスマホ等だ。
おみやげとして村人に配ってもまだ余っている。
「それじゃちょっと準備してくるにゃー」
そう言ってリリィはヌーを連れて食堂へと戻っていった。
車の準備をしているとリリィとヌーが戻ってきた。
その手には鍋と干し肉を持っていて、ヌーも黒色のスマホを物珍しげに見ている。
ヌーのスマホは電源が入ってないので充電器を付けて、車の変換プラグに接続する。
この車に電気への変換機が付いていて助かった。
車のエンジンからではエネルギーの変換効率は悪いだろうが、これでなんとかスマホぐらいなら充電が出来る。
「それじゃ出発にゃ」
「ポチ、こっちへ」
ポチを荷台に乗せ、北へと向かう。
「この辺のはずにゃ」
北の山裾に広がる森へとやってきた。
ポチをシートベルトの無い荷台に乗せていたので、リリィにはめずらしく安全運転だ。
ポチには悪いが帰りもそうしよう。
車から降り森の方を見れば、緩やかな斜面に鋭く細い葉を持った針葉樹が生えている。
平原に近い部分はそれぞれに距離があり、まばらに。
間には雑草が生い茂っている。
奥へと行くほどに木の密集度が上がり、徐々に草が減り、土がまばらに見えている。
手入れはされてないようでどの木も中ほどで枝分かれし、青々とした枝葉を広げている。
「それじゃみんなで手分けして穴を探すにゃ」
「あー、あれですか」
ヌーはどんな魔物を探すか、わかったようだ。
「とりあえずはコレでそこらへんの枝を切ってくれるかにゃ。こん棒と杭に使うにゃ」
「わかった」
リリィから鉈を借りてまずは近くの木と登る。
枝へと登り上げ、登った枝は太すぎるのでそこから伸びている枝を切り落とす。
5本落とし、葉の付いた細い枝葉を切り払い、持ち手の部分を削る。
こん棒はこれでいいかな。
「わうわう」
ポチも枝の先を噛んで尖るように加工している。
それぞれこん棒と4本の杭に加工し終わったところでヌーが呼びに来た。
「3つ見つけましたよ、こっちです」
案内された先には穴は見えず、枯れ葉がこんもりと盛り上がっていた。
「あれで隠してるつもりにゃ。わかりやすいから簡単に見つけられるにゃ」
「それでこれからどうすれば?」
「アルスにはこん棒で仕留める役をして欲しいにゃ。あの穴の中には花モグラって言うのが居るにゃ。
目が見えないんにゃけど代わりに鼻と耳が良いにゃ。……ちょっとごめんにゃ」
そう言ってリリィが僕に土を付けてくる。
「鉄とかの臭いを出すものを外して、全身に土を塗せば奴からは気づかれないにゃ。
それじゃ準備するにゃ」
バールを外し、こん棒を持って穴の横へと静かに立つ。
穴の正面には杭を並べ立て、壁とする。
杭には溝を掘って、そこに干し肉を差し込んだ。
その後ろへと鉈を持ったヌーが立つ。
ポチは鉄の臭いが強いということで、置いてきた車の見張りを頼むことにした。
リリィが鍋とお玉を持って、忍び足で穴の上側へと回る。
僕がこん棒で積もった枯葉を押しのけると、穴に向かって鍋を差し出しかき鳴らす!
カンッカンッカンッ!と甲高い音を立て少し待つと……
「チィーッ!」
穴からこげ茶色の塊が飛び出してきた!
勢い良く飛び出しものの杭にぶつかり、その場へと落ちる。
動きが止まりよく見れば、40cmほどの大きなモグラだ。
何故か頭にピンク色の花が咲いている。
動きの止まったモグラは鼻をくんくんと鼻を嗅いでいる。
杭に挟んだ干し肉を探しているようだ。
その様子は魔物とは思えないほど愛らしい。
こん棒を構えたものの、どうするか?と思い悩んでいると。
リリィから強い視線が向かってきた。
今だ、殺れ!とその目は訴えてくる。
「……」
それでも思い悩み動きを止めたままでいると、モグラが干し肉を見つけ当てたようで口に咥えた。
「……!」
リリィが口に手を当て、声にならない悲鳴を上げる。
ヌーからも、何やってんですか!という視線が送られてきた。
厳しい世界だ。
すまないと心の中で謝り、こん棒を振り下ろす!
「ピギェ!?」
モグラは一鳴きして目を回し、横に倒れた。
その頭からは5片ある花びらがはらりと1枚落ちる。
ヌーがすかさず鉈で止めを刺すと花びらが全て舞い落ち、花のあった部分から紫の魔素がぷしゅっと一吹きだけ湧き出た。
……
あれ、少ない?
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