第65話 鍛冶2
レンチは叩かれその度に薄く広がり、熱が冷める前にまた火炉へと突っ込まれる。
熱せられ、叩かれ、それを繰り返すこと三度、レンチの頭の部分が叩きなおされ小振りの斧のようになった。
まだ赤く光と熱を放つ斧を火箸で持ち、ホランドさんがためつすがめつ眺める。
「とりあえずここまでだな。冷めたら削って形を整えてから焼入れだ。それと他にもあったな」
工具箱から今度は小振りなレンチを取り出す。
さっきのが30cmほどの大きなレンチだが、今度のはその半分ほどの大きさの小さなものだ。
「こっちは頭を一つ切り落としてナイフにしよう。この部分が刃だ」
そう言って持ち手の部分を指差す。
多分、今度のも僕にくれるみたいなのだが。
「えっと、作ってもらえるんですよね?」
「ん? ああ、ぼうずには世話になってるしな。それに持ってきてもらった銅線の代金を支払わなならんし」
「あれはおみやげだから別にいいですよ。必要な分は街でお金に換えましたし」
「そういう訳にはいかんさ、ただわしも今は懐具合が厳しいんでな。こうやって仕事働きで受け取ってもらえるとありがたい」
そう言ってホランドさんがへへっと片目をつぶる。
確かにずっと年下の僕が何でも渡すというのも変な話だ。
村での人間関係がおかしくなるかもしれないし、ここは提案に乗った方が良いだろう。
「それではおねがいします」
「おう、それとこれだけの量だ、30kgぐらいか? これだけあればリリィの槍も作ってやれるぞ。
伝えておいてくれ」
銅線を持ち上げ頷く。
前にリザードマンのウロコも渡してある、これで魔鋼の一種、緑銅で作ってもらえそうだ。
「わかりました、伝えておきます」
「それとお前さんの使ってるのは……それか?」
僕が背に回したバールを指差した。
「ええ、そうですけど」
「ふーん、変わってるな。まぁ、いいか。手斧とナイフの仕上げに1週間ほどかかる。
武器はその後じゃ。それと銅がもっとあると助かる」
「はい、今度また取ってきます」
鍛冶小屋での用も済まし、外へと出ると日は高く昇っている。
そろそろ昼食か。
荒野を吹く風が涼しい。
鍛冶小屋の中は蒸し暑く、シャツが肌に張り付く。
ポチも触ると思わず手を退けてしまうほど表面が熱くなっていた。
日陰に座り込み、ポチと共に涼んでから食堂へと向かった。
「アルス、こっちにゃー」
食堂のテーブルの端の方でリリィとヌーが元気よく手を振ってくる。
昼食のお椀を受け取ってから、そちらへと向かう。
今日の昼食は芋粥と干し肉か。
席へと着くと、二人はすでに食べ終わった後のようだ。
粥に手をつけながら二人に聞く。
「やぁ、そっちはどうだった?」
「みんなに挨拶まわりは終わったにゃ」
「どうもです」
「アルスの方はどうにゃ?」
「ホランドさんがリリィの槍を作ってくれるって」
「ホントかにゃ!? 後で行くにゃ」
「それと銅がもっと要るから持ってきてくれって」
「またシェルターから持って来ればいいにゃ。それと午後は畑にゃ?」
「うん、新しい種とか植える場所決めないと」
「そうだにゃー、ヌーの畑も決めないといけないし」
「ヌーも畑をやることを決めたの?」
肝心のヌーに目を向ければ、ヌーは僕の椀のに添えられている干し肉を凝視していた。
「……はっ! はい、農業ですよね。トレーダーの副業としてやることにしました」
「うん、そうなんだ。欲しいなら少し分けようか?」
「いいんですか? じゃあ……」
「あ、私も欲しいにゃ。くれにゃ」
二人の差し出してきた手に一枚ずつ渡す。
これで残りは一枚だが一口サイズだ、少ない。
3人でゆっくりと味わうように噛み締める。
「肉、もう少し欲しいよね」
「そうだにゃー。今度狩りに行くかにゃ」
「あ、狩りといえばスイカ草の食料、肥料?の分の魔物も狩らないと」
「それなら車もあるし北に行ってみるかにゃ? この辺は虫の魔物が多くて食えないにゃ。
北の山近くに行けば食えるのも出てくるにゃ」
食事も終え、早速畑へと出る。
畑には話を聞いたようでエリオットさんが待っていた。
「それが新しい種かい?」
僕の抱えているジャガイモやニンジンを指差す。
「ええ、これなんですけど。植え方わかりますか?」
「こっちは芋だよね? これならわかるけど、この赤い方はとりあえず植えなおしてみるよ」
エリオットさんにどちらも排水の良い土で夏場は水多目にした方がいいと、あの少年に聞いた事を伝える。
「それじゃ、次はこっちにゃ」
リリィがその手に大きな種を持つ。
「おっきい種ですねー」
ヌーもその大きさに感心しているようだ。
「一応、トマトの種らしいけど植えてみようか」
「トマト、ですか。どっかで聞いた事あるような」
ヌーが首を傾げる。
新しく開いた畑を使わせてもらえる事になった。
スイカ畑とは少し離れている、近くだと何か変な反応とか起きたら困るからな。
鍬でよーく土をほぐし、丸く開けた穴に種を落とす。
埋め直し、水を撒くとすぐにぴょんっと深緑で艶のある芽が出てきた!
「やはりアレの仲間か」
遠くからゲッゲッゲッと鳴き音が聞こえてきた気がした。




