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第64話 鍛冶

ちょっと遅れました。

通常更新再開です。

またよろしくおねがいします。

 月明かりの中、静寂をあざ笑うようにエンジン音をがなり立てながら荒野を疾走する。

 強烈なヘッドライトが暗闇を押し退け、次々と跳ね飛ばし、その光の行く先に建物の影が見えてきた。

 速度を落とし、ライトの明かりにコンクリートの壁を映して、止まる。


「着いたにゃ!」

 そう言ってリリィが颯爽と運転席から降りるが、それに僕らが続かない。


「うぅ、やっとか……」

「うぇぇ、車ってこんなに揺れるものだったんですかぁ……」

 僕とヌーはリリィの運転に打ちのめされていた。

 が、本人はなんのその。


「何やってるにゃ? みんな待ってるから急ぐにゃ」

 リリィがヌーに肩を貸し、僕にも急いてくる。

 シートベルトを外し、公民館の入り口を見れば、扉の隙間からポチが首を出し。

 心配そうにこちらを覗いていた。


 中へと入り、奥には出発前と同じ顔振れが、長老さんとマイルズさんにエリオットさんだ。

 帰宅の挨拶を交わし、ヌーが一歩前に出る。


「これからよろしくおねがいします!」

 ヌーが長老さんへと頭を下げ、


「ああ、ようこそいらっしゃい。パルテル村は歓迎するのじゃ。とりあえず今日はもう遅いし、これからのことは明日話そう。

 リリィ、空いてる部屋へ案内してくれるか」


「わかったにゃ」


 荷物を持って僕らの寝泊りしている旧リサイクルプラント、大長屋へと移動する。

 2階には個室や食堂があり、リリィの使っている部屋の隣が空いていた。


「それじゃ、また明日にゃ」


「はい、ありがとうございます」


「いろいろ戸惑うことはあるだろうけどわからないことがあったら、気兼ねなく聞いてね」

「わん!」


「あ、はい」

 夜も遅いので説明などは省いたが、ヌーの視線はポチを見て固まっていた。

 その目が何か言いたげだが扉を閉め、僕らも部屋へと戻り休む。



 次の朝、太い窓ガラスから部屋を焼くような日差しが入り、瞼の向こうの圧力に意識を揺り起こされる。

 2階の窓ガラスは割れてるものが多く、この窓も地下のガラス壁を切り出して無理やりはめ込んだものだ。

 その性かどうにもレンズのような性質を持ってしまい、光が部屋へと柔らかく広がるのではなく、太い光線として入ってくる。

 その光に顔を照らされ嫌が応にも目が覚めてしまう。

 強烈な日差しに手をかざしながら、指の隙間から窓を見る。


「……冬場はまだしも、夏はきつそうだな」

 カーテンでも付けてみようか、そう思いながら体を起こす。


「わぅぅ……」

 ポチも起きたようで大きく口を開けながら伸びをしていた。


 備え付けの洗面台で顔を洗う。

 どうやら今、他の人も水道を使っているようで水の出が細い。

 この水道も非常灯と一緒で非常用の電源を使って動いているようだが、その為か出はあまり良くない。

 電力もその内なんとかしないとなぁ、等と考えていると。


「わん! わん!」

 ポチがドアを引っかいて急かして来る。


「はい、はい」

 ドアを開き、ポチを先頭に食堂へと向かう。



 食堂のドアを開くと少し焦げ臭いにおいと薄く甘い香りが漂ってきた。

 食堂は細長いテーブルとイスが並んでおり、奥に調理場がある。

 ガスが通っておらず、元々備え付けてあった調理器具は使えず、換気扇の下にかまどを設置した。

 レンガと粘土で作られた天辺に穴が開いており、そこにピタリと鍋が納まる。

 排気用のパイプが換気扇へと伸びてある。

 そのかまどの前でマイルズさんの奥さんが鍋をかき混ぜている。


「おはようございます」


「おはよう、はいっ」

 芋粥の入った椀を2つ受け取り、テーブルへ。

 一つをポチの前に置き、僕も粥を啜っているところリリィたちが食堂へと入ってきた。


「おっはようにゃー」

「おはよー」

 朝から元気いっぱいなリリィとまだ眠そうなヌーと朝の挨拶を交わし、共に朝食を取る。

 互いに甘い芋粥を啜りながら、


「それで今日はどうするにゃ?」


「ヌーに村の案内を…」


「それは私がやるにゃ」


「それじゃ僕はホランドさんに銅線を渡してくるよ。あ、あと新しく入った種とかみんなに説明しないと」


「それ、私もやるにゃ。新しいの植えるにゃ」


「じゃあ畑の事は午後にまとめてでいいかな?」


「わかったにゃ」

 僕らが話している間、ヌーはポチをじっと凝視し、今はスプーンに掬った粥をポチの前に差し出している。

 ポチがそれを舐めると、おぉ……と声を上げた。


「あの、これ昨日から気になってたんですけどロボットですよね?」

 緊張した面差しでヌーが尋ねてきて、ついに来たかと説明をする。


「魔術でパワーアップした踏破者並の力を持つロボットですか……」

 恐る恐るポチの頭を撫でながら、ヌーが呟く。


「村の外の人たちには言わないでね」


「も、もちろんです。ギルドの連中、特にハンターの方に知られたら面倒ですよ」


「どう面倒なんだにゃ?」


「失礼ですが小さな村に踏破者が3人も居ると聞いたらスカウトの声が五月蝿いでしょうね」


「断ればいいにゃ」


「断っても村の規模が小さいから……、ギルドでの取引停止とか圧力掛けられますよー」


「むむ、どうすればいいにゃ?」


「うー、村の規模を大きくして舐められないようにするとしか」


「もしスカウトを受けるとしたらどうなるのかな?」


「そしたら多分ギルドの指導の下、ここらへんのダンジョンの攻略を求められるでしょうね。

 この辺には踏破者が居なくてダンジョンの探索は休止状態で、それ以外の場所でスカベンジャーがこそこそと剥がしてくるぐらいですから。

 田舎ですからねぇ、人材が居ないんですよ。踏破者の求人が色あせるぐらい張りっぱなしですし」


「ほうほう、給料はどれくらいにゃ?」


「日給1000Dは約束されるらしいですよ。能力に関して安いのか、高いのかわかりませんけど」

 そこそこの給料が出るようだが、


「んー、今は拘束されるのは嫌かなぁ」

 シェルターでの資材漁りもあるし、村作りも考えたら今は上からあれこれ言われるのは困るなぁ。


「だにゃあ。ま、暇が出来たらちょっと稼ぎに行ってやっても良いにゃ」




 朝食を終え、僕とポチは荷物を持って地下の鍛冶小屋へと向かう。


「こんにちはー」


「おお、ちょっと待ってろ」

 ホランドさんが火炉に火を着けている最中だったので、後ろで静かに待つ。

 足踏みのふいごを動かすたびに空気が送られ、火炉に詰められた木炭がパチパチッと音を上げながら煙を上げる。

 やがて火が細く吹き上がり、下に詰められた木炭が赤く発熱し始めた。


「これでいいじゃろ、で何を持ってきた?」


「これです」

 銅線を二束に工具箱を差し出す。


「おお、銅は助かるのう。それでこっちは工具か」


「使いませんか?」


「わしは鍛冶仕事が専門じゃからなぁ。使う道具は揃っておる」


「そうですか」

 何かに使えるかと思って持ってきたが、必要ないようだ。


「じゃが、……ふむ。これをちょっと打ってみようか」

 ホランドさんがボルト等を回す、レンチを箱から取り出す。


「打つ?」


「ぼうずは刃物の類は持ってなかったじゃろう? ちょっと待ってろ」

 そう言ってレンチを火の着いた火炉へと差し込む。

 10分ほどしてレンチの頭が真っ赤になったところで取り出し、それを鉄床に載せ叩く!

 金槌で叩かれる度に赤く発光している部分が、火花を上げながら形を変えていく。

 レンチの頭の部分の2本の太い角が薄く延ばされ、刃渡り10cmの小さな斧の様になった。



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