第63話 村の新しい仲間
ヌーからハンターギルドの実情を聞いた。
誰でも気軽に入れるがその分、報酬は安め。
ジャンクの買取や街中での仕事の斡旋もしているようだ。
主に雑用が多いようだが。
ヌーと話してて思ったがしばらくハンターギルドには寄らない方が良さそうだな。
北のシェルターのことが知られたら、わっ!と群がってきて根こそぎ持ってかれそうだ。
とりあえず今やるべきことは、
「さ、村に戻るにゃ。すぐに戻ってくるから待ってるにゃ!」
空は赤み始め、日帰りで戻ってくるには急がないと。
「はい! よろしくおねがいします」
ヌーが深々と頭を下げる。
ちょっと調子の良い所はあるけれど、なんだかんだでこの子も後が無いんだよな。
車にキーを差し込み、エンジンを起動させる。
「それじゃそろそろ……」
「行ってくるにゃ」
「はい、すぐ戻ってきてくださいね」
車を回しギルドを出て、町の出入り口まで。
門番の人に通行証を見せ、外へと出たところで一度停め、後部座席に隠れていたポチを出す。
「わん!」
寂しかったのかポチがじゃれ付いてくる。
それを横目にリリィがちょいちょいと手招きし、
「ここからは私に任せるにゃ。ちょっぱやで帰るにゃ」
リリィがシートベルトを外し、ハンドルを代われとの催促だ。
「……安全運転でね」
「任せるにゃ!」
席を代わったリリィがいきなりアクセルをぐいっと踏み込む!
「うわ!」
急加速でガクンッと首が後ろに引っ張られる。
高回転のタイヤが地面を上手く掴めず、空転し、その度に土煙を上げながら後部を左右に振らした。
蛇行し、時に飛び跳ね、宙を進むかのような不安定さでバギーが加速していく。
「リリィ!?」
「わかってるにゃ。まずは南にゃ、すぐに見えてくるからそれに沿って東に行けば村にゃ?」
違う。
「安全……うぁ!?」
「ガソリンは満タンにゃ。もうケチケチする必要は無いにゃ! 飛ばすにゃ!」
足元からドンッと踏み込む振動が伝わってくるのと同時に、エンジンがけたたましく吼え始めた。
……
…………
わずか15分ほどで村へと着いた。
限界まで速度を出した車はちょっとした段差や石を踏むたびに飛び跳ね、着地と同時に砂利を弾き飛ばしながらスライドする。
その度に後ろのポチが僕の方へと前足を回し、しがみついてくる、重い。
まるで制御の取れてない運転に肝を冷やしたが、途中でリリィも慣れてきたか。
飛び跳ねたらアクセルを戻し、着地してタイヤが地面を掴むと同時にまたアクセルを踏み込む。
少なくともスライドはしなくなった。
「楽しかったにゃ。戻るときも私に任せるにゃ」
「いや、戻るときは僕がやるよ……」
「くーん……」
買ってきたガソリンを入れたタンクに売らなかった電線を持って、公民館へ。
扉を開き、奥へと向かうと板張りの床の上で、そこを定位置にしたかのように長老さんが編み物をしている。
「おかえり、思ってたより早かったのう」
「ただいまにゃ。おみやげもいっぱい持ってきたにゃ」
長老さんの前にどさっと荷物を置く。
「ただいま帰りました。実は相談したいことがあり、皆さんを呼んでもらっても良いですか?」
「ほほっ、ギルドで何かありましたかな? すぐ呼びましょう、タルパ!」
長老さんが公民館の入り口の方に向かって呼ぶと、しばらくしてドタドタッと聞こえてくる。
どうやら入り口近くの休憩室に居たようだ。
「ん、何?」
「マイルズたちを呼んできてくれるかのう?」
「わかった」
タルパ君が出て行き、すぐにマイルズさんとエリオットさんが連れられてきた。
「じいさん、どうしたんだ?」
「アルスさんがなにやら話があるらしくてのう」
「ええ、実は……」
街で出会ったヌーの事を話した。
……
…………
「へー、俺たち以外の獣人族か。居るとは聞いてたが会ったことはねぇからなぁ。山ネズミ族って言うのか」
「シャウザが街で別の獣人種を見かけるとは言っていたがのう」
「ええ、故郷を出て街で一人頑張っているようですが、厳しいようです。こちらに仕事を求めています。
本人の希望ではトレーダー関連の仕事が良いそうですが」
「うーん、この村もいろいろと隠しておきたいことが多いからなぁ」
マイルズさんは困ったように額を掻く。
「そうじゃのう……」
長老さんも下を向いてしまう。
「悪い子じゃないにゃ。助けてあげれないにゃ?」
「僕からもおねがいします。この村の一員となって秘密を守ってもらう、という事でどうですか?」
「うーむ……」
マイルズさんが唸るが、
「ふむ、それで良いじゃろう」
「じいさん、良いのか?」
「わしらネコ族も山ネズミ族と同じじゃ。故郷での狩猟と採取だけの生活では膨れ上がった人口を支えきれず、わしらみたいなのが開拓者として平原へと出てきた。
元々体の頑強なわしらはなんとか村を作れたが、件の山ネズミ族には厳しかったのかもしれん。種族は違えど同じ獣人種、助け合いは必要じゃろう。
わしらも住処を守るために縮こまるだけでなく、手を伸ばす時期に来たのかもしれん。互いに手を取るには最初の一歩として同じ獣人種は良いと思うのじゃ」
「おじいちゃん」
「じいさんがそう言うなら俺は何も言わないぜ」
「ありがとうございます。それではすぐに本人に確認を取ってきます」
頭を下げ、すぐに立ち上がる。
「あ、私も行くにゃ」
「わん」
僕らが公民館を出たときには空が暗くなり始めていた。
「さ、急ぐにゃー」
しっぽを揺らしながら、当たり前のように運転席へとリリィが向かう。
そのことにげっそりとした思いだが、急ぐなら仕方ない。
諦めて助手席に向かうが。
「わう」
ポチは一声鳴くと公民館へと戻っていってしまった。
「さ、行くにゃ!」
急加速でバギーが飛び出していく。
……
…………
さっきと同じぐらいの時間でまた街へと戻ってきた。
リリィの「夜道は度胸にゃ!」という言葉が恐ろしい。
ギルドの扉を開く。
ヌーは?と見渡すと、待ち合い席の端っこに荷物をたくさん抱えたヌーが一人ぽつんと座っていた。
すぐに目が合い、荷物を抱えてこちらへと走ってくる。
「あの、どうでしたか?」
不安げな目でこちらを覗きこんでくる。
「村の一員となるならOKだって」
「任せるにゃ。部屋だってまだまだ余ってるにゃよ」
「本当ですか! よろしくおねがいします!」
ヌーが深々と頭を下げた。
「頭を上げて、これからは同じ村の仲間なんだから」
「そうにゃ。これ以上暗くなる前に一っ走り急ぐにゃ」
「わぁ、私車って乗るの初めてなんですよー」
暢気にヌーが喜ぶ。
それに思わず苦い顔をした。
外へと出て、それぞれの席に着く。
さぁ、シートベルトを締めるか。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今週の投稿はここまで、来週は中篇製作5回目(全6回予定、それでも時間が足りなかったらこれを優先で更新、できるだけ急ぎます)なので。
次の投稿は再来週の火曜日(10/18)になります。




