第61話 銅の売買2
すいません、遅れました。
「これはハズレですね」
そう言って、ヌーの持つケーブルの中から何本もの透明な線が出ている。
「ちょっと貸して」
手にとって見てみるが、やはり光ファイバーのようだ。
一つのケーブルの中に5本差し込まれ、それぞれが薄いゴム皮膜で覆われている。
剥き出しになっている部分はわざわざヌーが剥いてくれたようだ。
透明な線を摘み、曲げてみる。
結構硬いな、まるでパスタの乾麺のようだ。
あれよりかはずっと粘りがあるが、直角まで曲げたところでポキッと折れてしまった。
「それ、脆いし使い道もわからないんでギルドでも買取をしてないんですよ。それもジャンク行きですね」
「へー、ならこれは持って帰ろうかな」
今のところ使い道は無いがちゃんとしたケーブルだ。
捨てることもないだろう。
「キラキラしてきれいにゃ。家に飾るにゃ?」
「いや、まだ使い道はわからないけど」
「使わないなら私が貰うにゃ。おじいちゃんに渡せばザルや籠を編んでくれるにゃ」
「ほぅ」
そういう使い方もあるか。
これに似たケーブル、まだシェルターに山積みにされていたし、一応全部持って帰ってみるか。
それから残りの作業に戻る。
僕も剥いだゴムの切れ端を拾い集め、ジャンク捨て場に持っていく。
さっきのおじさんと子供たちがまだ居たので直接渡した。
「どうもー」
「いえいえ、ところでコレなにかに使えるんですか?」
「いろいろ使えるよ。家の雨漏りからサンダルの底に貼ったり。丸まった切れ端をいちいち伸ばして平らにするのが面倒だけどな」
「へー」
「また何か出たらよろしく」
そう言っておじさんと子供たちはゴミの切れ端を抱えてギルドを出て行く。
今の時代、いろいろな暮らしがあるんだな。
戻るとそこには剥き出しの銅線が2束纏められている。
長い間放置されていたが錆びもなく赤銅色に輝いている。
「ぴかぴかにゃー。これは高く売れそうにゃ?」
「良かったですね。錆があるとその部分にケチをつけられて値切られたりするんですけど、これなら問題ないですよ」
「それじゃコレを売りに行こうか。さっきの受付でいいのかな?」
「あ、さっきのは大口取引用の受付で、これくらいだと端にある小口受付ですね」
なるほど、それでか。
こちらの倉庫のような所では荷物を積んだトラックも出入りしている。
ああいうのを取り仕切ってる商人が大口受付に行くのだろう。
そこに見慣れぬ子供たちが並んでいたら、間違えたんだと思って声を掛けるよな。
ギルドの受け付けへと戻り、一番隅の受付に並ぶ。
僕たちの前にも5人ほど並んでいたが、それぞれ手持ちの量が少ないのかすぐに僕らの番が回ってきた。
「よう、ヌー。今日もジャンクか?」
大柄で髭を生やしたおじさんが受付をしていた。
「もう! ロイドさん、今日はジャンクじゃないですよ。ちゃんとした取引です」
ロイドと呼ばれたおじさんがヌーの後ろの僕らをチラリと見る。
「代行の仕事があったのか? 何を持ってきた?」
促され僕とリリィで一つずつ持ってきた銅線の塊をカウンターに置いた。
「ほう! 確かにこりゃマトモな取引だ。……錆びが無いな。状態は良い、計るぞ?」
カウンターの中にある体重計のような計りに載せると、目盛りはぴったり30を指した。
「30kgか、相場だと……これぐらいになるぞ」
提示した額は6600D。
「あれ? いつもより高いですね」
「状態が良いからな。それとそろそろ貨幣鋳造の季節だからな。金銀銅はそれぞれ絶賛高騰中だ。
他にもあるか? この質なら中央の連中に嫌味を言われることもない。いくらでも買い取るぞ」
僕とリリィが顔を見合わせる。
銅線はあと2束、車に積んであるがアレは村へのお土産用だ。
リリィが僕の肘を突っついてくる。
僕が決めていいんだろうか?
「また見つけたら持って来ます」
とりあえず最初の考え通りに、また売る分はシェルターから持って来ればいいだろう。
「おう、頼むぞ。それじゃヌー、ギルド証出しな」
「はい!」
そう言って前以て準備していたか、すぐに手帳のようなものを差し出す。
ロイドさんが手帳に数字を書き込んでいき、判子を押して返す。
「えへへ……」
ヌーが書かれた数字を見て、うれしそうに笑う。
僕らも代金を銀貨で貰い、懐に仕舞った。
「それじゃ用事はこれで済んだな? 次……」
「あ、待ってください。尋ねたいことがあるんです」
「ん? 何だ?」
「この街に科学者の人が居ると聞いて。ギルドの方から紹介してもらえませんか?」
長老さんから聞いたナイン・テックと言う科学者の集団。
僕の担任と同じ名前を冠するのはただの偶然か?
シェルターを去った彼らの消息を知る手がかりになるかもしれない。
「うーん……前はナイン・テックて言うのが居たんだけどな。この辺も優良なジャンクが獲れなくなってきて他所の街に行っちまったらしい」
「そうですか……。何とか消息を知ることは出来ませんか?」
「まぁ、ギルドともやり取りはあっただろうし、何か記録でも残ってるかもな」
「それじゃ!」
勢い込む僕にロイドさんが手を差し出す。
「3000でいいぞ?」
その視線はさっき僕が銀貨を仕舞ったところに注がれている。
銅線の代金を僕とリリィで山分けして3300Dずつだ。
「ちょっと待ってください」
そこにヌーが割り込み、商談代行を受け付けると言うので任せた。
ヌーとロイドさんで軽いやり取りをした後……
「1000でいいそうですよ!」
えらい値切られてるなぁ……、僕が吹っかけられていただけか?
「それじゃ、それでお願いします」
「おう、調べておくからまた今度来な」
代金を渡し、帰ろうとしたところで。
「ちょーっと待った! 今の取引もほら! ほら!」
そう言ってヌーがさっきの手帳を見開きにして差し出す。
中身は、細かな数字がいっぱい書かれているな。
取引をするたびに書くのか?
「あー、はいはい」
ロイドさんがおざなりに書き込んでいく。
返された手帳を見て、ヌーがにこにことしている。
それを見て、何だかスーパーの買い物スタンプみたいだなと思った。




