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第6話 ポチ

 コントロールルームを出てもう一度、僕の眠っていた部屋、冷凍睡眠室コールドスリープルームへと向かう。

 リュックサックを背負い、貴重品をポケットに入れる。

 慎重に廊下を進み、ドアを開け、中を覗く。

 プシューッ……とドアの開く音が響く。

 その音でリザードマンがやって来ないか、ドキドキする。

 ……大丈夫だったようだ、中にも居ない。

 さっそく自分の入っていた冷凍睡眠装置コールドスリープマシンを調べる。

 最後に見たように側面から出た引き出しが出たままになっている。

 中はカラだ。


「この側面の引き出しを出す装置がないか……と! あった、ボタンだ」

 側面にあったボタンを押してみる。

 ウィーン……と音を立て、引き出しが閉まっていく。


「良し、開閉は自由みたいだな。

 じゃ、全部もらうとするか、へへ!」


 かたっぱしから冷凍睡眠装置の引き出しを開け、中の食料と作業服を漁っていく。

 さらに冷凍睡眠装置の中に敷いてあったマットも持っていくことにした。


「床に寝るのもきついからな。これは敷布団だな。

 後はたくさんある服を上に掛ければ良さそうだ」


 マットを取りながら、冷凍睡眠装置を眺める。

 ここに100年寝ていたのか……

 あれ? この世界って魔素があるんだよな?

 特に、ここはダンジョンだし……

 そんなところに100年も寝ていて、僕は大丈夫なのか?



 心配事も増えたが、とりあえず19日分の食料に服。

 収穫は上々、リュックサックに詰めきれない量だ。

 何往復もしながらコントロールルームに運んでいく。


「食料はこれで十分だけど……。

 他には、武器とか欲しいな」

 チョコバーを齧りながら、考える。


 武装したリザードマンから手に入れた剣と盾があるが、重すぎて扱えそうに無い。

 ちなみに魔物図鑑で調べたところ、アレはリザードナイトというリザードマンの上位種で。

 危険度も高いと説明してあった。


 もう一度廊下に出て、他の部屋も調べていく。

 廊下は直線に100mほど前に伸びており、途中で右に曲がる横道がある。

 右側の手前に冷凍睡眠室のドアがあり、右側に付いたドアはそれだけだ。

 左側には3つのドアが付いている。

 コントロールルームに近い、手前の部屋から調べていく。

 手前の部屋は用具室のようだ。


「工具とかがあるな。……お! バール見っけ!」

 ロッカーを漁るとバールを見つけた。


 他にも工具箱や長い電線やケーブル等が置いてある。

 工具箱をコントロールルームに移し、バールを手に次の部屋を調べていく。


 次の部屋は休憩室のようだ。

 テーブルやソファー、ロッカーに飲み物の自動販売機が置いてある。


「お、自販機ある! コークもあるぞ!」

 コク・コークは子供にも大人にも大人気のジュースだ。

 思わずポケットから財布を取り出す。


 中身は小銭が少々に1000クレジット紙幣が1枚……

 ジュースを買うにしても、10本でカラっ欠になる寒い内容だ。


「……今は我慢するか。まだ食料も水もあるしな……」

 疲れた体が炭酸を求めているが、ここは我慢するしかない。

 もしかしたら?と思って、自販機の下に小銭が落ちていないか探るが無かった。


 次にロッカーを漁る。

 中には細身のゴルフバックがあった。


「中身は……と、パターにアイアンか」


 バールが有る今、武器としては要らないな。

 中身を抜いて、代わりにバールを入れて背負う。

 ついでにお金は落ちてないかと探ったが無かった、ぐぬぬ……

 この部屋はもういいな、次行くか。


 次はコントロールルームから一番離れ、ダンジョンコアの有る動力室に近い部屋だ。

 正確には、この廊下と動力室の間にはエレベーターホールとそれを繋ぐ通路がある。

 場所的に一番危険に近い部屋だから、いつでも逃げ出せる様に体勢を整えながらドアを開ける。

 ボタンを押すが動かない、ロックが掛かってるようだ。

 カードリーダーがドアの横に付いていたので、コントロールキーを通す。

 ピーッ!と鳴り、ロックが外れたようなので開閉ボタンを押す。

 プシューッとドアが開く、おそるおそる中を覗くが……よし、居ないな。

 この部屋は机にベッドや棚があり、個人用の個室という感じだな。

 さっそく漁る。


 ……この部屋はあまり収穫が無さそうだ。

 棚にたくさん本や資料の様な物が詰まっているが、これらには興味ないし。

 ベッドにあった毛布が手に入ったのが収穫か。


「後は……見てないのは部屋の隅にあるダンボールか」


 かなり大きなダンボールだ。

 僕のお腹ぐらいまでの高さがある。

 家電とかかな?

 中の梱包材を抜き取り、出てきたのは銀色の犬の様な物だった。


「なんだコレ?」


 説明書を見れば、これでも一応警備用のロボット犬らしい。

 人工知能が搭載されてるようで、飼い主の身を守る番犬になるそうだ。

 体長60cm、大き目の中型犬ぐらいか。

 顔は細身で精悍な感じの犬だな。


「なんかおもちゃっぽいけど、動かしてみるか」

 説明書の手順に沿って起動する。


「……ピピッ! 起動しました、私はダイン工業社製警備ロボットLB401です。

 ご主人様の登録をお願いします」


「僕はアルス」

 ロボット犬の顔に近づけて言う。


 ピッ!……カシャッ!


「……名前と音声と顔の映像登録が済みました。

 続いて、個体に名前を付けてください」


「んー、それじゃポチで」


「……登録しました。これにより起動ガイダンスは終了します。

 おつかれさまでした」


「これでいいのかな? ポチ?」


「わん!」


「言葉喋れる?」


「くぅーん……」


 言葉を喋れたのは、起動用に音声が入力されていただけか。

 まぁいい、こんな所に1人で居るのに心細く思ってたところだ。

 ロボットでも一緒に居てくれるならありがたい。


「おいで」

 ポチに向けて手を広げる。


「わん!」

 一声鳴いて、ポチは擦り寄ってくる。


「あはは。よしよし、いい子だ」

 ポチを撫で回す。

 良い子だ、これは良い相棒が出来た。


「ポチ、おいで」

 立ち上がり言う。


「わん!」


 この部屋は調べ終わった、一度コントロールルームに戻るか。

 プシューッとドアが開いていく。


 プシューッ……


 廊下に出ようとしたところ、もう一度ドアの開く音が聞こえた、横から。

 え?と思い左を向けば、動力室に繋がるドアから出てきたリザードマンと目が合った。

 その目は丸っとした驚きの目から、少し細められ好戦的な目に変わる。


「うわぁぁ!?」

 慌てて逃げようとするが……


 ドンッ!


 それよりリザードマンの手の方が早い。

 平手で肩を叩かれる!

 倒れてしまった。


「ぐっ・・!」

 爪で少し引き裂かれたようだ。

 肩が熱い、見れば青色の作業着がもっと濃い色に染まっていく。


「ギィィ!!」

 リザードマンは勝ちを確信したのか、目が笑っている。

 そして、両手を上げ、威嚇をしながら迫ってくる。


 慌てて立ち上がろうとするが、リザードマンは目の前だ、殺られる!?


「ワン!!」

 その時、ポチがリザードマンに噛み付いた!


 リザードマンはポチに噛まれたしっぽを振り回し、引き剥がそうとする事に夢中の様だ。

 い、今のうちか?

 今すぐコントロールルームにまで逃げれば、ガンタレットで……

 でも、今ここで逃げれば、ポチが……


 僕は……


 後ろを向く、その時視界の隅でポチが壁に叩きつけられたのが見えた。



 瞬間、記憶がフラッシュバックする……


 -- 誰かの口元が笑っているのが見えた --


 -- その周りにも笑っているやつらが…… --


 -- 顔を手で覆った女性が何か言っている --


 -- 手からしずくが零れる…… --




 僕は…… 僕は……


 僕は……誰も裏切らない(・・・・・・・)!!



 目の前でリザードマンが、ポチに向かって手を振り上げている!


 許せない、目に力が入る。

 怒りに任せ、奥歯を強く噛む。

 胸の鼓動が激しい、体中へ熱い血が滾る!

 腹筋に力を入れ、跳ねる様に立ち上がった!

 そのまま駆け寄り様にバールを引き抜き、思いっきり叩きつける!

 バールの一撃がリザードマンの左腕を叩き折った!

 痛みに顔をしかめたリザードマンがしっぽを振ってきたのをバックステップで躱す。

 そこにリザードマンが太い爪を向けて、突き入れて来たのをバールを盾に防ぐ。

 動きを止めた僕を見て、リザードマンが笑う。

 再度、しっぽが襲ってきた!


「ぐぅっ!」

 わき腹に太いゴムの束で殴られたような衝撃が走る!


 息が詰まり、体の中心から頭頂に向けて電気が走ったように痛みが駆け巡る!

 意識が痛みに乗っ取られそうになるのを、奥歯を強く噛み……押し止めた!

 自分でも考えられないほどの力でバールを押し返し、距離を取る。

 傷ついたが心は揺らがない、心が気炎を吐く。


 距離を取った僕に対し、リザードマンが飛び掛かろうとして……前につんのめる!?

 ポチが後ろ足に噛み付いて、防いでくれた。

 チャンスだ!

 バールを掌で返し、釘抜きの部分を前に出す。

 リザードマンの頭に向かって、思いっ切り叩きつけた!

 先端が半分ほど入り込んだのをさらに押しこもうと力を入れるが。

 膝立ちのリザードマンがバールを手で掴み、防ぐ。


「なら!」

 今度はバールを思いっ切り引く!


 再度、リザードマンがつんのめる。

 床に寝そべったリザードマンに対し、その手ごと思い切り踏みつけた!

 バールの先端が奥まで刺さる。

 頭を踏みながら全身の力でバールをてこの様に引く!

 リザードマンの頭部を砕き割りながら、先端が抜け出てくる。

 引っかかる部分が無くなって、おもわず尻餅をついた。


 リザードマンの頭部は割れ、青い血が水溜りを作る。

 血は端の方から蒸発し、その体もじきに紫の霧へと変わった。


「ポチ! ポチ、大丈夫か!?」

 ポチに駆け寄る。


「わん!」

 元気良く吼えるが、その体はあちこち傷ついている。


「ごめんな……、ごめんな……」

 一瞬でも見捨てようとしたことを謝る。


 ドロップアイテムのウロコを拾い、コントロールルームに帰る。

 ポチも後ろ足でびっこを引きながら付いて来る。


 苦い辛勝だった……



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