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第56話 取引

 非常灯の灯る薄暗闇の中、後ろから声を掛けられ、驚きをもって振り向く。

 目の前に立つのは僕の投げた銅貨を差し出してくる銀髪の少年。


「これ、落としたよ」


「あ、ああ。ありがとう」

 相手に聞こえるんじゃないかと思えるほどの胸の動悸を隠すように、何でもない風を装って受け取る。

 今までまったく気配を感じなかった。

 この部屋に入った時、確かに僕しか居なかった筈なのに。


「君は一体……?」


「うん? 用があって呼び出したんじゃないの?」

 銀髪の少年が首を傾げる。

 その黄金の瞳が暗闇の中、ゆらりと炎の様に揺らめき、目の前の存在が尋常の者ではないことを僕に悟らせた。


「いや、そういうおまじないの様な話を聞いて、試してみたんだ」


「そう……、なら大体の事は知ってるんでしょ? 何か取引するかい?」


「ちょっと待って……」

 リュックから残りの銀貨と銅貨を取り出す。

 数を数えながら思う、まさか本当に出てくるとは……。

 話ではニンジンを売ってた、との事だが。


「結構あるね」

 差し出したのは古い銀貨が14枚に、銅貨が184枚。


「えっと……全部で884ペセタだね。ん、銀貨が1枚50ペセタだよ。

 それじゃ何を出そうかな。何か希望はあるかい?」


「何でもいいの?」


「とりあえず聞くだけなら」

 相手はこう言うが今、僕の欲しい物と言えば……。


「特殊な工具が欲しいんだ。ロボットの修理に使えるような」


「う、うーん。新しい物は持ってないんだ、ごめんね。

 古い物ならあるけど……金槌とか要るかい?」

 困ったように少年がはにかむ。


「いや、他には?」


「道具類ならいろいろあるけど、良い物は高くなるからなぁ。

 日用品なら安いけど、野菜とか薬とか」


 野菜……村での作付けは主食が麦と芋、他にはズッキーニャなどの青物、それと変なスイカぐらいだ。

 新しい作物を持ち帰れば、みんなが喜ぶかもな。

 僕は農業には詳しくないが、根菜類は病気や虫害に強そうなイメージがある。

 例えばニンジンとか。


「病気とか虫とかに強い作物とかあるかな?」


「あるよ。ニンジンやジャガイモ、後は変わったトマトなんかどうかな?」


「とりあえず、これで買えるなら3つとも欲しい」

 手の中の硬貨の山を見せ、尋ねた。


「十分だよ。ニンジンとジャガイモは1ペセタ、トマトは500でいいよ」

 そう言って、値段の差に驚く僕の手から躊躇なく硬貨を手づかみに持っていく。

 その手をいつの間にか持っていた袋の中に入れると、代わりにニンジンを取り出した。

 ジャガイモ、でかい種と次々に取り出す。

 種は褐色で手の平大の大きさだった。

 これが変わったトマト?

 受け取った種を見ながら、何か既視観がある。

 ゲッゲッ、と笑うアレが頭の隅をちらつく。


「ニンジンとジャガイモは排水の良い土で夏場は水多目に、トマトは……どこでも育つよ。

 残りは282ペセタだね。他には?」


「他は……ちょっと待って」

 聞こえた作物の育て方、トマトの辺りに何か引っかかるものを感じながら、やはりアレを思い出す。

 夜逃げスイカ。

 村で育てているが正確な育て方がわからず、昔に枯らしてしまった事があるとリリィが言っていた。

 もし、このトマトの種がアレの仲間なら、育て方を知ってるのかも?


「村で変わったスイカを育ててるんだけど」


「うん?」


「夜逃げスイカって言うんだけど、知ってるかな?

 これの育て方を知りたいんだ」


「……ははーん、アレか。知ってるよ。これは情報を買いたいという事だよね。

 200でいいよ、どうする?」

 少年が楽しげに笑う。

 何か足元を見られている気がするが、断る理由がない。


「うん、おねがい」

 再度手を差し出し、そこから掻っ攫うように持って行かれた。

 手には銀貨が無くなり、銅貨の小山だけが残る。


「アレの本体の方は水と日の光と魔素を食う。根元に魔物の屍骸でも埋めればそれなりに生きるはずだよ。

 子スイカの方は普通の野菜と変わらない、排水性の高い土で水を多目に上げれば勝手に育つよ。

 両方ともそこらの虫や病気程度に負けるものではないから、そこらへんは気にしなくて大丈夫かな。

 あ、トマトも同じだから」

 さらりとトマトの正体も告げてきた。


「それで、残りはどうする?」


「他には……」

 後は思いつかない、手の中の銅貨を見て考える。

 そう言えば、何故魔物は死ぬとドロップアイテムに変わるのだろう?

 それもダンジョン製の魔物のみ。

 いや、ダンジョンの中だとそうなってしまうのか?

 何故、神話や御伽噺に出てくるような魔物が今の時代に居るのか?

 そういった疑問が頭の中でぐるりと回り、思わず口からこぼれた。


「……何で神話に出てくるような魔物が居るんだ?」


「神話の時代にも魔物は居なかった(・・・・・・・・)けどね」


 え?と驚き、目の前を向いた時には少年の姿は消えていた。

 薄闇の中に僕だけが佇む。



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