第55話 元ダンジョンの奥には
久々にロボCとの再会だ。
ロボCはダンジョンボスとの戦いに手を貸してくれた重警備ロボットで、現在は足を悪くしてこの警備室に匿っている。
「ロボC、変わりはなかったか?」
「はい、マスター。マスターが出て行かれてから侵入者や新たな異変の兆候はありません」
「そうか、新しい仲間を紹介するよ。彼女はリリィ、この近くの村に住んでいて、僕も今はそこで世話になっている」
僕の後ろに隠れておそるおそる様子を伺っているリリィを手で示した。
「そうですか、よろしくおねがいします」
「よ、よろしくにゃー」
リリィは少し緊張しているようだ。
まぁ、ロボCは僕らよりも二回りほど大きいからな、単純に怖いのだろう。
「わん!」
ポチも声を上げ、ロボCに駆け寄って行った。
「わうわう……」
「……なるほど、そんなことが」
なにやら二人で話しているように見える。
ロボ同士だから言葉が通じるのか?
二人が話している間にロボCの様子を見た。
相変わらず足が動かず不便そうだ。
これをなんとか修理できればいいのだが……
ダンジョンボスにやられたロボA、Bの体もこの警備室に運んであり、壁際に寄せられている。
二人には悪いがパーツ取りをしてロボCの足を直せないか、警備室にあったマニュアルを読んでみるが……
同型機だからパーツの互換性はあるみたいだ。
だが、壊れてる部分を外して付け直すには特殊な工具が要る。
ボルト一つとっても一般的ではないものを使っていて、戦闘用の機体の為、締め付けも人間の手では外せないほどきつく締め上げているらしい。
マニュアルには故障かな?と思ったら、すぐカスタマーセンターにご連絡をと書かれ、自力で直すことについては書かれていない。
だが、工具があれば何とかなるのか?
きつく締められていても今の僕の力なら、もしかしたら動かせるかもしれない。
やられた二人のパーツがちゃんと動くのかどうかもまだわからないが、試す価値はあるな。
良し! 次の行動を考えたところで周りを見渡すと……ポチとロボCが話してる横で所在無さ下にしているリリィが目に入る。
「みんな、いいかな? 一旦ここで自由行動にしよう。僕は探し物をしてくる。
ポチは……ロボCと情報交換をしててくれ」
「わん!」
ロボCの横で伏せをしていたポチがしっぽを振りながら返事を返す。
ロボCも了解、と返してきた。
「リリィはどうする? 上の階に行けば、まだ取ってない物もたくさん残ってると思うけど」
「ん! それなら私はお宝探しに行ってくるにゃ」
「もう魔物は居ないと思うけど気を付けてね」
「わかってるにゃ」
「それじゃみんな、また後で」
警備室を出て、まずは用具室に向かう。
僕の使ってるバールもここで手に入れたものだ。
中には電線やケーブル類が壁際に積まれてあり、ネジや釘なども棚に収められている。
肝心の工具箱は……と、あった。
「どれどれ……やっぱし違うな」
中にはレンチや差し込むタイプの六角レンチもあるが普通の物だ。
ロボCに使われていたのはボルト頭が内側と外側に分かれていて、内側が六角形のへこみ、外側が八角形に整えられている。
多分、同時に回すか片方ずつ回すことで外れると思うのだが……
一応、この工具も持っていくか。
後、他に工具の在りそうな場所は……
コントロールルームを見てみたが、中は壁や天井が焼け焦げた酷い惨状で工具も無く。
使えそうなものも無い。
次にポチを見つけた管理者用の個室を見てみるが、相変わらずここは棚が書類や本で埋め尽くされている。
何か工事などに関係のありそうな書類を探してみるか。
棚のファイルを手当たりしだい開いてみると、その中に懐かしい名前を見つけた。
アポロ・クレート。
僕の兄さんの名だ。
このシェルターの工事の責任者でこの部屋を使っていたのも兄さんだったらしい。
そうなると……ポチは兄さんの私物だったのか!
地上を核ミサイルが襲った後、兄さんはどうなったんだろう……
さらに読み進めていくと、一番奥の発電室にも用具室が隣接されているらしい。
そこも見てみるか。
ダンジョンボスの居たエレベーターホールを抜け、ダンジョンコアのあった発電室へ。
コアは消滅し、あの異様な雰囲気はもう無い。
発電機として使われているレーザー核融合炉も静かに安置されている。
これの動かし方がわかればシェルターに電気が通って、エレベーターも使えるようになりそうなのだが。
用具室を探ってみるが、さっきの用具室と大して変わらず、新しい発見は無かった。
これで全て見たか?
一度、警備室に戻るか。
そう考えたとき、ふと思い出す。
長老さんから聞いたとあるスカベンジャーの話。
スカベンジャーがダンジョンで拾った銅貨を落とし、それを拾い上げた謎の人物。
『それ以来、ダンジョンの奥で暗がりに銅貨を投げ込むと謎の商人が現れると言われてるそうな』
……ちょっと試してみるか。
リュックからゴブリンの落とした銅貨を取り出し、後ろに向けて放り投げてみた。
チャリーン……リン……ィ……
硬貨の落ちた甲高い音が一度響き、それが跳ね回り、徐々に音が小さくなっていく。
その音の残響に耳を傾けていたところ、突然ピタッと止んだ。
「ねぇ、落としたよ」
知らない声に背筋に氷を当てられたように身震いする。




