第53話 出発
ホランドさんとの話も終わり、地上へと戻ってきた。
建物の外へと出ると日が眩しい。
何処からか飛んできた水気が頬を撫でる。
旧リサイクルプラント、大長屋の裏が畑として開墾されたが、そこにホースで水が撒かれていた。
黒毛の猫族の子供たちがニャッニャッと笑いながら水の帯を宙に舞わせる。
昔は農業用の水は川から荷車で運んでいて重労働だったらしい。
最初リリィに会ったときも水汲みをしていたが、畑に撒く水はアレを毎日2往復する必要があって大変だったらしい。
が、今は水道にホースを繋ぐだけで出来る。
その為、水撒きは子供の仕事となった。
北から戻ってきた人たちには子沢山な人が多い。
イートさんの家なんかは子供が6人もいる。
本来、重労働だった水撒きを子供たちに任せられることで、大人たちは畑の拡張に精が出せるとの事が戻ってきた理由の一つでもあるそうだ。
それを横目に見ながら公民館へと向かう。
公民館の奥でリリィと長老さんが胡坐をかいて作業をしていた。
長老さんは藁のようなもので籠を編み、リリィは鉈を研いでいる。
鉈がリリィの今の装備だ。
槍はカエルに突き刺したときに穂先が曲がってしまいダメになってしまった。
「お、アルスにゃー」
リリィがこちらに気づき、手を振ってくる。
「やぁ、リリィ」
「おや、こんにちは。鍛冶の方の用事は済んだのですかな?」
「はい、ウロコを買い取ってもらえました」
「それは助かりますじゃ。なにぶん物資不足ですからのう」
「ええ、それでちょっとやることが出来たのでそれを断りに」
「どうしましたかな?」
「一度、シェルターへと戻ろうと思います」
「ええ!? どっか行っちゃうにゃ?」
ズボンがぐいっと引っ張られる。
四つん這いに近づいてきたリリィの手が僕のズボンを掴んでいる。
「ちょっと行ってくるだけだよ。あそこには仲間も残してきてしまったし、まだ使えそうなものも残ってたから」
「そうにゃぁ、にゃら良いにゃ」
ホッとしたのか手を離し、グッと握りこむ。
「私も行くにゃ! お宝の匂いがするにゃ!」
「うん? 良いけど……」
長老さんの方を見るが、
「ええ、よければ連れてやってくださいじゃ。畑作りも一段落して今は特にやることが無いですからのう。水撒きも草むしりもこの子はやりたがらないからここに置いてもしょうがないですからのう」
「水撒きくらいならやるにゃよ?」
「そう言って、いつもタルパに押し付けておるじゃろうが」
そういえばタルパ君が居ないが、畑だろうか?
「あれ、そうだったかにゃー?」
リリィがとぼけているが尻尾は正直だ。
さっきまで振れていた尻尾が縮こまって動かなくなった。
「あの、それで車を貸してほしいんですけど……」
車は村の共同資産として扱われている。
「おお、車は自由に使ってくだされ。ガソリンも掻き集めれば往復分ぐらいはあるはずじゃ」
「帰りに街で買ってくるにゃ。おじいちゃん、お金にゃ!」
リリィが手を差し出し、長老さんが懐から銀貨を数枚出す。
「お小遣いも欲しいにゃー。街に行くの久しぶりにゃよー?」
「しょうがないのう」
さらにもう一枚差し出し、リリィがニッと笑う。
「おじいちゃん大好きにゃー!」
リリィが長老さんに抱きつき、それを長老さんがハイハイっと行った風に頭を撫でている。
「それじゃ鍵を借りますね」
「はい、孫をよろしくおねがいしますじゃ」
鍵を借りて、公民館を出る。
時間はまだ昼前、すぐに出れば日が落ちる前に帰ってこれるだろう。
ポチを探しにいく。
ポチは畑の開墾に借り出されてたはずだが。
畑へと行くと土が舞い上がってる場所がすぐに目に入り、場所が知れる。
近くへと行くとポチが一生懸命穴を掘っている。
その周りで大人たちがポチの掘り上げた土の塊を踏んで崩し、ほぐしていた。
ほぐされた土は刈り取られた草と共に畑へと戻されていく。
その中に赤髪の人影、タルパ君も居てこちらへと軽く会釈してくる。
こちらも返し、ポチの元へ。
「ポチ、一回シェルターへ帰るよ」
「わん!」
泥だらけのポチが返事を返してくる。
周りの人たちへと説明をして、ポチをきれいにしてから3人で車へと。
「鬼の居た穴はここからだと北西にゃ。途中、ダインの都市跡を目印にすればわかりやすいにゃ。コンパスも持ってきたし、案内は任せるにゃ」
「ダイン?」
「昔の街にゃ。今はダンジョンがあるらしく、夜になると魔物が出るって聞くにゃ。ガソリン無いから寄り道はダメにゃよ?」
ここに来るまでに、レイダーたちに追い返された街があったがアレだろうか?




