第52話 思わぬ名前
通常更新再開です。
またよろしくおねがいします。
登場人物紹介
アルス 主人公、黒髪黒目の16歳、少年
ホランド 猫族のおじさん、灰毛のずんぐりむっくり体型、鍛冶屋を営んでいる
ランタンのその乏しい赤い灯りが照らす室内。
今、発生した青い発光がゆっくりと消える。
ホランドさんが振り下ろしたハンマーを持ち上げる。
「もう一度じゃ」
再度、目の前の金属塊に向けてハンマーを振り下ろした!
当たる!と思った瞬間、金属塊から青い光が広がり覆う。
コォォン……と思ったよりも軽い音を立て、またもやホランドさんのハンマーが止まる。
「やはり衝撃を吸われておる。……ゆっくり叩くとそうでもないんじゃな」
コン、コン!と軽く叩くが青い光は出ない。
どうなってるんだろう?
「僕も試してみていいですか?」
「ほれ」
ホランドさんが横にどき、渡されたハンマーを半分ほどの力で振り下ろす!
当たると思った瞬間、衝撃に備えてギュっと握りこみを強めるが。
それと同時に青い光が目の前にぼっと燃え上がるように広がり。
それにハンマーの槌頭が触れた瞬間、重さがスルリと抜け落ちてしまった。
まるで振り下ろしたハンマーから突然、槌頭が抜け落ちてしまったかのような感触に手の先を見る。
槌頭はちゃんと付いている。
そしてハンマーもピタリと止まってしまった。
「な? 吸われたじゃろう」
「はい……、不思議ですね」
「じゃなぁ、こりゃ鍛冶屋の仕事じゃない、科学者の領分じゃ」
「科学者ですか?」
「そうじゃ、魔物の落とすドロップは大抵不思議な効果があるからのう。そういうのを科学者たちが調べておってな。わしの知ってる魔鋼の知識も昔にとある科学者から譲ってもらったものじゃ。まだクラスタの街に居るかのう? 彼らに尋ねた方が良いじゃろう」
「それじゃコレなんかも……」
ダンジョンボスだったダークメタルスパイダーの魔石を取り出す。
その黒曜石の中に黄金の蜘蛛の巣が埋まったような石をホランドさんはしげしげと眺め、ため息をついて返してきた。
「魔石なんぞ初めて見たわ。長生きはするもんじゃな。普通の魔物は落とさんからなぁ、コレも科学者に見せた方が良いじゃろう」
返してもらった魔石もなんらかの効果があるのだろうか?
とはいえ金属塊のように叩くわけにも行かない。
科学者とやらに任せることになるか?
ん?
科学者なら機械も直せるかな?
シェルターに置いてきたロボCやパワードスーツの修復が必要だ。
「すいません、その科学者の人たちを紹介してもらえませんか?」
「ん、いいぞ。とは言っても今もあの街に居るかどうかはわからんが。ハンターギルドで技術者集団ナイン・テックについて尋ねれば教えてくれるじゃろう」
「ナイン……」
担任の苗字と同じ響きにドキリとする。
「確かリーダーの名前じゃ。わしは会ったことが無いがのう」
気になる名前が出てきたが、ホランドさんもそれ以上の事は知らないとの事で、次に移る。
「これはどうです?」
リザードナイトの青いウロコを見せる。
リザードマンの緑のウロコは買い取ってくれたのだが、コレはまだその話が出ていない。
「リザードナイトか。これは銀と合わせる青魔銀、俗に言う青銀という魔鋼になる。鋼より硬く伸びのある金属で、何より切れ味が良い。科学者が言うに分子構造がウロコのように尖った形でな……」
ホランドさんが言うには青銀の分子構造は縦長の6角形で、叩き伸ばしていく過程で分子がきれいに並び、伸びる方向に向けてその尖った角を向けるという性質があるらしい。
具体的に言うとコレで刃物を作った場合、刃が分子レベルでギザギザになるとの事だ。
丁寧に研げばとんでもない切れ味を出すらしい。
「コレを鍛えるには銀が要るのじゃが、手持ちに無くてのう」
「それでは仕方ないですね」
「まぁ、お前さんのお陰で緑銅が大量に作れそうじゃ。緑銅は鋼並みの硬さで伸びが特に良い。どんだけ酷使しても曲がりはすれど折れたり、刃が欠けたりしないからの。農作業にはぴったしじゃ」
ニカリと笑い機嫌が良さそうだ。
「どうやって作るんです?」
まだ出来たばかりの鍛冶小屋、大きな溶鉱炉などは見当たらないが。
「簡単じゃよ。銅は鉄に比べれば低温で溶けるからのう。そこの火炉を木炭で埋めて、その中に材料を詰めた坩堝を差し込む。後は火を着けて、中身が溶け合うのを待つだけじゃ」
作業場の奥にはレンガで出来た風呂桶の様なものがあり、それが火炉。
その横に真っ黒な壺が置いてあり、それが坩堝らしい。
灯りが乏しく、暗がりの多いこの小屋内では、暗闇に同化していて見えなかった。
ホランドさんに指で指してもらいわかったが、黒鉛で出来ているそうだ。
黒鉛は鉛筆やシャープペンの芯に使われているアレだ。
耐火性に優れ、安価な為、鍛冶仕事では重宝されているらしい。
見馴れない道具類を珍しげに眺めていたところ。
「ウロコを融けやすいように粉にしたら作業を始めるが、見に来るか?」
「ええ、おねがいします」
「それじゃ準備が出来た頃に知らせにいくとするかの」
ニャッニャッニャッ!と陽気に笑うホランドさんと握手をし、地上へと戻る。
ロボCを直す手がかりを手に入れたかもしれない。
様子も気がかりだし、一度シェルターまで戻らないとな。




