第51話 鍛冶屋へ
さらに翌日の夜、残りのスイカの収穫をした。
今度はマイルズさんたちは休みでまだ交流を持っていない、残りの4家族から代表を募って収穫をする。
それぞれに1個ずつ、リリィとエリオットさんには前以ての約束通りの数を渡す。
「助かるよ。酒なんかは嗜好品だから避難で持ち出す際に躊躇してしまい置いてきてしまったからな。
戻ったら当然の如く無くなっているし、レイダーめ……」
北から戻ってきた一人、イードさんが悔しげにこぼす。
他の人たちも似たようなことを言っていた。
「それにしても坊主。魔物のドロップをたくさん持ってると聞いたが?」
灰色の毛で顔中が覆われた猫耳のおじさんが話しかけてくる。
鍛冶屋のホランドさんだ。
癖毛の太い毛が頬と目の周り以外を覆い、なんだか長毛種の猫みたいなおじさんだ。
「ええ、リザードマンのウロコとかならありますよ」
「ウロコがあるなら明日、わしの所へ持ってきてくれんか?
ウロコは銅と合わせれば緑魔銅になる。村が襲われ鍬や鋤といった農具も足りぬでな。
満足な額は払えぬかもしれんが買いたい」
「わかりました、明日持っていきます」
確かに鉄製品などは不足してそうに感じていた。
役に立つなら、多少は提供してもいいな。
次の日、ポチと共にホランドさんの家を訪ねる。
ホランドさんやマイルズさんたちは旧村に残された建物を解体して、それを資材に家を組み立てていた。
「よく来てくれた。とりあえず大長屋へ行こう」
大長屋というのは旧リサイクルプラントのことだ。
今はみんなでここに暮らしている。
僕とポチも2階の一部屋を貰っていた。
「こっちじゃ」
そう言って、地下へ。
ホランドさんが水処理プラントであるプールの方へと歩いていき、僕とポチもそれについて行く。
その先には非常灯の灯りで照らされた薄暗いプールの一角に、土壁で出来た四角い小屋のようなものが出来ていた。
「ここじゃ」
木で出来た扉を開け、中へと進む。
僕らもそれに続いて、中へ。
ランタンの灯りが点けられ明るくなった小屋内は、プール沿いの水場にレンガで造られた風呂桶のようなものに壺のようなものが並んでおり。
金床やハンマーといった鍛冶道具が壁際に置かれている。
「いつの間に……」
「戻ってきてから鍛冶小屋を何処に建てるか考えておってのう。
ここなら常に作業に必要な水も空気も循環しておるし、地下で防音性も高い。
皆が畑の作業をしている間に建てたのじゃ。
それで、見せてくれるか?」
「あ、はい」
背のリュックサックからこれまでに得た魔物のドロップアイテムを取り出す。
床に魔物のドロップの小さな山が出来た。
「ほう……こんなに」
ホランドさんはそう言うが、これでも大分目減りしていた。
特にリザードマンの緑のウロコはレイダーを誘き出すためにばら撒いた結果、100枚以上あったのが一度0まで減ってしまった。
あの後、拾いなおしたがそれでも30枚しか見つけられなかった。
それ以外にはダークメタルスパイダーの魔石が1つに、メタルオーガの金属塊。
リザードナイトの青いウロコが8枚。
後は謎の銅貨が184枚、銀貨が14枚にグリーンマンの葉っぱが52枚。
「鍛冶に使えそうなのはウロコぐらいじゃな。緑のウロコ1枚、100Dでどうじゃ?」
「村の復興に必要であればタダでお譲りしますよ?」
緑のウロコは元々の数も多かったので、惜しむ気もしないしな。
「そういう訳にはいかん。村の復興にも関係あるが、それはそれ。
これはわしの商売でもある。作った道具と引き換えに食料と換えてもらったりしとるからのう。
それにこれはダンジョン産じゃろう? 野良のと違って大振りで出来が良い。
これなら街までもって行けば倍の200Dで売れるかもしれん。
この値段で売ってもらえられるだけで、わしも製品を買う村人も助かるよ」
そう言って、ニコリと笑う。
これは……押し問答してもしょうがないかな?
「わかりました。そうおっしゃられるなら、その価格でおねがいします」
「うむ、それでは今用意するからちょっと待ってくれのう……」
ホランドさんが腰から皮製のポシェットを取り出す。
中からはジャリ、ジャリと金属の擦れる音が鳴る。
「ほれ」
渡してきたのは30枚の銀貨だ。
代金は3000Dとの事だったから、1枚100Dの価値があるのだろう。
親指と人差し指で作った輪っかに入るぐらいの大きさで何かの花の模様、100Dと刻印してある。
プレス機で作られたか、きれいな硬貨だ。
これを魔物からのドロップの銀貨と比べてみる。
「やはり違うなぁ……」
ドロップの銀貨はこれよりも一回り大きく、厚く。
形もそれぞれ不揃いで手作り感がある。
表面には人の横顔と見知らぬ文字が掘ってあった。
「魔物の落とした金か」
「ええ、これも使えないかと思ってたんですけど……」
「それも魔素を含んでおるからのう。鍛冶には使えるが、もったいないのう」
「そうですね」
ウロコで作れるものをわざわざお金を鋳潰して作ることもないだろう。
「他にもいろいろあるが、これは何じゃ?」
鈍く銀色の輝きを放つ金属塊を拾い上げた。
「それはメタルオーガの落とした金属塊です」
「メタルオーガというと……例の人食い鬼か!?」
目をまん丸に広げ、身を乗り出してきた。
「ええ、そうです」
「何と……よく倒せたものじゃ」
「まぁ、運もありましたからね」
「で、これは……どうすればいいんじゃろう?」
「ん? ホランドさんでもわかりませんか?」
「鬼の金属など扱った事が無いからのう。それにこれは変じゃ」
「変とは?」
「魔鋼は丈夫な分、大概重いからのう。だが、コレは軽い。
普通の鉄より少し軽そうじゃ。だからといってコレから感じる存在感はそこらの魔鋼とは比較にならん」
「そうなんですか」
「ちょっと調べてよいかの?」
そう言って懐から小さな総金属製のハンマーを取り出す。
了承するとそれで軽く金属塊を叩いてみた。
キーンッ……と軽やかに音が響く。
「純度は高そうじゃのう……」
そう呟くと今度は奥から大きなハンマーを取り出してきた。
「強度はどうかのう?」
そう言って大きく振りかぶる。
僕とポチも慌てて後ろに下がり、距離をとった。
「ふんっ!」
弧を描いて黒い鉄の塊が振り落とされる。
当たる!と思った瞬間、金属塊から青い光が広がり覆う。
コォォン……と思ったよりも軽い音を立て、ホランドさんのハンマーが止まる。
ホランドさんも目を向いて止まった。
……
…………
動かない。
死んでないよな?
不安になり、声を掛けようとした時。
「驚いた……衝撃が吸われたぞ」
いつも読んでいただきありがとうございます。
今週の投稿はここまで、来週は中篇製作3回目(全4回予定)なので。
次の投稿は再来週の火曜日(9/6)になります。




