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第49話 北から戻ってきた人たち

 植えたばかりのスイカの種から芽が出た!

 葉は一枚、瑞々しい鮮やかな緑色で肉厚だ。


「おお! 出たにゃ。早く大きくなるにゃー」

 そう言ってリリィがジョウロで水をさらに掛ける。

 葉っぱが生き物の様に左右に揺れた。

 こころなしか、水を喜んでいるようにも見える。

 ポチもその様子を見て何か思ったか、クンクンと臭いを嗅いだり、前足でツンツンとした。

 それを受けて葉っぱがイヤイヤをするように左右に揺れる。

 その様子を見て、マイルズさんたちも元気が良いな!と笑い。

 コレは僕の知らない生き物だと思って、それ以上考えるのを止めた。




 それから1週間。

 毎日、村跡へと畑の土を取りに何度も往復し。

 1辺が50mの正方形の畑が10枚出来た時にようやく長老さんたちが帰ってきた。

 長老さんの乗った車の後ろには荷車が何台も続き、それをたくさんの人たちが引いている。


「お、避難していた人たちが帰ってきたのかな?」


「ひぃ、ふぅ、みぃ……。 あれ? 少ないにゃ」

 リリィが帰ってきた人たちの数を数えるが半分ほどしか居ないらしい。


「どうしたんだろうね?」


「んー? 荷車が足りないとか、かにゃー?」

 リリィと顔を合わせ、首を傾げるが。

 ここに居ても仔細はわからない。

 今やこの1週間で半ば公民館と化した元避難所へと急ぐ。



「……という訳で希望者だけで戻ってきたのじゃ」


 長老さんが言うには、あのレイダーたちに親を殺された子供たちは北の親戚を頼ることになり。

 母親は残ったけど男手が無く、畑を維持できない世帯も北へ残ったそうだ。

 戻ってきたのは5世帯、20人で。

 鍛冶屋をやっているというホランドさん夫婦に子沢山な農家のイート、アール、サンズさん一家たち。

 それと一人戻ってきたエリオットさんという若い男性。

 鍛冶屋のホランドさんは村を再建する上で自分が必要になるだろうとのことで戻ってきてくれて。

 農家のイート、アール、サンズさん一家たちはそれぞれ5人から6人の家族で北の親戚を頼るにも数が多く。

 親戚たちに多大な負担を掛けるということで戻ってきた。

 で、残るエリオットさんはと言うと。


「こっちは放ったらかしになる畑が出るだろう?

 これなら次男の俺でも畑が持てそうだから戻ってきたんだ」

 と、赤毛でソバカスの浮いた顔の青年が笑う。


 そんな訳で畑の整備を急遽進める。

 50mの畑1枚で2、3人が食べていけるだけの収穫が出るらしいが、何度も同じものを植えると連作障害が出るし。

 時々、休耕を挟まないと土の栄養が足りなくなって作物が大きくならなくなる。

 一家族に対して畑4枚は必要だとのことで急ピッチで進めていく。

 人が減ったとはいえ、この村の世帯数は僕とポチを除いて9世帯。

 ロブ婆さんとエリオットさんと一人なので合わせるとしても8世帯、32枚の畑が必要となる。

 スイカ畑を除いた現在の畑数は10枚。

 まったくもって足りない。

 僕とリリィが車で土を運び、ポチがひたすら荒野を耕していく。

 そんな作業を進めている中、スイカ畑の前でエリオットさんを見かけた。


「こんにちわ、どうしました?」


「やぁ、すごいね。夜逃げスイカなんてひさしぶりに見たよ」


「えぇ、確かに。拾ってきた僕が言うのも何ですけどすごいですね」

 目の前には幹が高さ1mほどに成長し、頂点に大きな丸い深緑の球体の付いた草が生えている。

 ふいに頂点の球体が割れ、中からギザギザの歯が見え、こちらを威嚇してきた。


「本当何なんですかね、コレ?」


「何って夜逃げスイカだろう?」

 こちらの人にはコレが普通に見えるみたいなんだよな。

 100年前の常識を持った僕からすると、魔術よりも違和感があるのだが……


「ゲッゲッゲッ♪」

 スイカが鳴いた!


「鳴いた!」


「そりゃスイカなんだ鳴きもするだろう?」


「そうですか」

 やっぱり、この世界はおかしくなっている。


「それはそうとコレの面倒は君が見るのかい?」


「どうなんですかねぇ……。リリィに丸投げしちゃおっかな?」


「!? 何てもったいない! 良かったら俺に任せてもらえないかな?

 収穫の3割もらえれば、ありがたいんだけど……」


「3割ですか」

 畑の事はよくわからないし、自分でやるよりも専門家に任せた方が良さそうに思える。

 7割手元に残るというのもずいぶん良い条件なんじゃ?


「そうですね……」


「何の話してるにゃー?」

 土を運び終わったリリィが僕らの所へと寄ってきた。


「うん? このスイカ畑を誰に任せるかって話をしてたんだ」


「にゃんだってー! アルス、やらないにゃ?」


「うん、僕は農業の経験無いし、今後の仕事を何にするかまだ決めてないから」


「そっかー。じゃあ私に任せるにゃ。収穫の7割で手を打つにゃ?」

 リリィがその細い胸をドンと叩いて、ニッと笑いかけてくる。


「それじゃエリオットさん、お願いします」


「そうかい!? ありがとう!」


「にゃんで無視するにゃ!?」


「いや、エリオットさんは3割で良いって言うから」


「にゃ!? じゃぁ、じゃぁ、収穫手伝うにゃ。2割を要求するにゃ!」


「収穫だけで2割なのか……」


「うわぁ……」

 エリオットさんも眉を潜める。


「むむ! じゃぁ種拾いも手伝うにゃ」


「種拾い?」


「そうにゃ。大きくなったしそろそろ良いんじゃないかにゃ?

 ちょっと行ってくるにゃ。よっと……」

 そう言って、スイカ畑を囲う柵を越えていく。

 畑の真ん中に生えるスイカ草?の前に立つと、その頭の位置にある球体を手で突っついた。


「げっ!? ……ペッ!」

 スイカ草がその口から黒い何かを吐き出す!


「よっと!」

 リリィがそれを華麗にかわし、さらに突っつく。


「ペッ! ペッ! ペッ!」


「よっ! こら! にゃ!っと」

 続けざまに吐かれる何かを軽々とかわし、土に落ちたそれを拾い集めてきた。


「これが種にゃ」

 リリィが手の平大の黒いスイカの種を差し出してくる。


「ああー、うん。途中からなんとなくわかってた」


「これを枯れるまで吐いてくるにゃ。やり過ぎると枯れちゃうから加減が大事にゃ。

 多分?」


「多分?」


「前のはすぐに枯れちゃったからわかんないにゃ」


「そっか」

 エリオットさんなら何か知ってるかと視線を向ければ。


「これは俺だと噛まれそうかも……」

 エリオットさんはリリィの動きを見て自信を無くした様だ。

 この分だと収穫も面倒そうだし、種と収穫に関してはリリィに任せてみようかな。


「それじゃリリィにも頼むよ」


「まっかせるにゃー!」

 リリィが勢い良く畑に戻っていき、さらに種を吐かせる。

 数は20粒。

 それだけ吐くとスイカ草もさすがにしんどいのかちょっと下を向く。

 リリィもそこで止め、その種を畑に埋めた。

 水を撒くが、やはりすぐに芽が出てくる。


「1週間ぐらいで大きくなるにゃ」


 畑をエリオットさんに任せ、僕とリリィはまた土運びに戻る。

 1週間後……エリオットさんは大丈夫かな?



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