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第48話 土遊び

 長老とマイルズさんに持っていた種を見せたところ変なことを言われる。


「夜逃げスイカ?」


「そうじゃ、コイツは魔生植物の夜逃げスイカ。

 その名の通り、夜になると逃げ出すスイカじゃ」

 何故か自信満々という体で長老さんが話すが。


「逃げるんですか……」

 正直、戸惑う。

 何言ってるんだろう?


「ははは! その様子だと想像できないみたいだな。

 まぁ、実際に見てみればわかるぜ。こいつらは成長も早いしな」


「昔、わしらの村でもコレを育てていてのう。どんな荒地でも育つというので息子が無理して買ってきたんじゃ。

 最初のうちは種を産んだのじゃが、そのうち産まなくなってのう。ついに枯れてしまったのじゃ」


「ちゃんと水や肥料はやってたんだけどなぁ?」


「そ、そうですか」


「見かけはアレだが。甘くてうまいぞ。畑が出来たら植えようぜ」

 そのまま畑作りの打ち合わせをして、その日は避難所で夜を明かすことにした。




 翌日、村の再建のために二手に分かれる。


「それじゃ俺たちは畑の準備だな」

 マイルズさんに僕とリリィの3人で村へと向かう。


「わしはランクルと一緒に北へ避難した村人たちに事の顛末を知らせに行ってくる」

 長老さんはランクルさんという黒髪のネコ族のおじさんと一緒に北の集落へと向かう。

 移動には車を用い1台は北へ、残り3台は村へと。


「それじゃマイルズ、こちらの指揮は頼んだぞ」


「おう、じいさんもしっかりな」


「うむ、それではの」

 ランクルさんの運転で北へと走り出した。


「それじゃ俺たちも行くか」

 鍵を回し、エンジンを動かす。

 この車は4人乗りのオフロードバギーで荷台が狭い、座席2つ分くらいしかない。

 なので、それぞれの車の後ろには荷車をロープで括り付け、牽引していくことにした。

 荷車の大きさはバギーよりも一回り大きく、物がたくさん乗りそうだ。


「ええっと……ブレーキを踏みながら鍵を回すんだったよな?」

 初めての車の運転をおっかなびっくり始める。

 ブレーキをしっかりとベタ踏みだ。

 ポチは荷台であくびをしている。


「アクセルはゆっくりとな。のんびり行くぞ。

 あんましスピード出すと後ろの荷車が壊れちまうからな」

 マイルズさんがそう言い、僕も後ろの荷車を見るが。

 木製の車体に太い木の車輪が付いている。

 確かに速度を出すと車輪が割れちゃうのかもな。


「わかったにゃ、ゆっくりにゃ!」

 そう言ってリリィがブォン!ブォン!とエンジンを噴かす。


「こら! 噴かすな!」


「早く行くにゃ! 車の運転初めてで楽しみにゃ!」


「くそ……、やっぱ人選間違えたか? でも残りはロブ婆さんとガキんちょしかいねぇからなぁ……」

 マイルズさんが頭を抱えるが、それを煽るようにリリィがエンジンを噴かす。


「早くにゃ!」


「わかった、わかった。絶対にスピードを出すなよ!」


「わかってるにゃ」


「本当にわかってるんだろうな? まぁいい、行くぞ」


「ゴー!にゃ!」

 出発することになったが案の定ロケットスタートを決めたリリィの車をショートサーキットで止め、アクセスでスピード管理しながら村へと向かう。



 村は変わらずレイダーたちに荒された時のままだ。


「それじゃ俺は小屋を解体してそれを運んでいくから、リリィは残りの家財道具の移送。

 坊主は畑の土を積んでくれ」

 そう言ってスコップと手押し車を手渡してくる。

 それから3人で手分けして作業に入った。





 畑に車を横付けして、スコップ片手に下りる。

 ポチも下りてきて、畑のすみっこを前足で叩いている。


「さて、ひたすら掘るか……」

 目の前には一面の田園。

 見渡す限りに刈り取られた麦畑や掘り返させられた芋畑が広がる。

 幅50m正方形の畑が20枚。

 ショベルカーみたいな重機でもあれば楽なのだろうが、これを手作業でというのは骨が折れるな。


「たしか表面から10cmぐらいの深さで十分だと言ってたな」

 栄養があり、土を富ませる菌類がたくさん居るのがそれぐらいの深さまでだそうだ。

 それより深い所は植物の根を住処に菌類が繁殖しているらしいが、土の部分には少なく今回は運ばないことにした。


「やるか……、よっと!」

 麦畑にスコップを入れるが切っ先が残った根に引っ掛かる。

 土を掘り起こすには根ごと返さなければならない。

 これは大変そうだ。


「ふんっ!」

 ぶちぶちっ!と根っこを引きちぎりながらスコップを返す。

 掘り起こした土を脇に避け、まずはとにかく掘る!

 ふんっ!ふんっ!ふんっ!と頑張っていたところ。


「わう♪ わう♪ わう♪」

 横でポチが楽しそうに穴を掘っていた。

 穴の中に頭を入れ、足で盛大に土を掻き出している。


「ポチ……、楽しそうだな」


「わん!」


 僕の掘った穴とポチの掘った穴を比べるが、掻き出された土の量は倍以上違う。

 もちろんポチの方が多い。

 その上、引っ掛かる根っこもズタズタにされている。

 見ればポチの爪がソードクローで剣に変わっており、長さも調節できるのかいつもより短い10cmほどにしてあった。

 あれなら土を切り裂くようにして、簡単に掘り返せるだろうな。

 うーむ……


「ポチ、良かったらこっちの方を掘ってみないか?」


「わん!」


「よしよし、浅く広く頼むな」


「わん!」

 ポチが僕の掘っていたところに来て、前足で掻き始める。

 引っ掛かる根っこもサックリと切り裂き、土を後ろへと蹴り飛ばす。


 僕はそれをスコップで拾っていき、手押し車へ。

 すぐに手押し車に土の山が出来て、今度は大きい荷車へと。

 1時間ほどで荷台はいっぱいだ。

 荷台に僕の背ぐらいの高さの土の山が出来ているのだが、それでも畑1枚の10分の1ほどしか進んでいない。

 ポチはとっくに半分ぐらいまで掘り進んでいるのだが。

 荷台がいっぱいだから皆と一度合流するか


「ポチー! そこまでー!」

 畑の向こうのポチへと声を掛ける。


「わう?」

 もう終わり?とばかりにポチが振り返った。

 ポチを呼び寄せ、お疲れと頭を撫でる。

 ポチがしっぽを振るがそれにつられて土も飛び散った。

 全身土だらけのポチをボロ切れで拭うが落ちきらない。


「帰ったら水浴びしような」


「わん!」




 それからマイルズさんたちと合流した。

 マイルズさんの荷台には板や柱などの木材がこんもりと乗っかっており。

 リリィの荷台にはタンスやイスなどの家具が括り付けてあった。


「アルス、すごい山にゃー」

「おう、こっちが終わったら手伝いに行こうと思ってたんだけど坊主が一番とはな」

 二人とも僕らの荷台の土の山を見て、目を丸くしている。


「あはは、ほとんどポチの仕事ですけどね」


「わん!」


「それじゃ帰るか」


 それから行き以上にゆっくりと車を出す。

 時速10kmぐらいしか出てないが、それでも振動や石を踏んだときのガタツキで土が少しこぼれてしまう。

 今度来るときはこぼれない様に、シートか何かで固定しないとな。


 リサイクルプラントの裏側へと車を停める。

 この辺が畑の予定地みたいだ。


「ポチ、またおねがい」


「わん!」

 ポチが爪を剣に変え、土を切り刻むように掻いていく。


「わう♪ わう♪」

 穴掘りが好きみたいで楽しそうに進めて行く。


「それじゃ、俺は柵を作るか」


「畑に柵が? ああ、害獣避けですか。

 手伝いますよ」


「いや、これはお前さんの種用だよ」


「種って何にゃ?」


「夜逃げスイカの種持ってるんだよ、この坊主」


「にゃに!? 本当にゃ?」

 リリィがこちらへと詰め寄ってくる。


「う、うん」


「でかしたにゃ! 植えるにゃ、植えるにゃ♪」

 リリィが小躍りしはじめた。


「最初の畑はスイカにして、どんどん進めて行こうぜ」


「わかりました」

 ポチが掘り起こした土に持ってきた畑の土を混ぜていく。

 持ってきた量が荷車1台分なので幅20mの正方形の小さな畑しか作れなかったが、柵で囲われた立派なものだ。

 そこの真ん中にスイカの種を植えた。


「スイカにゃ♪ スイカにゃ♪」

 リリィが歌いながら水を撒くとすぐに芽が出た。


 早過ぎないか?

 ポチと顔を合わせる。



いつも読んでいただきありがとうございます。

今週の投稿はここまで、次の投稿は火曜日になります。

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