第44話 リサイクルプラントのダンジョンコア
ダンジョンコアのある化学処理プラントへと続く、扉を開く。
鉄製の両開きの扉だが、あの巨大カエルが通るには小さすぎる。
あのカエルも最初からあの大きさではなかったってことか?
リザードマンを良く食べてたみたいだし、そうやって大きくなったんだろうか?
そう言えば、シェルターに居たデブオークも他のオークを食べてた所為か、やたらでかかったな。
魔物同士食い合うことで巨大化、もしくは進化するということか?
そんな魔物を延々と産み続けるダンジョンコアとは一体何なんだ?
魔物も不可思議だ。
2種類あり、ダンジョン内で生息し、死ぬとアイテムに変わる魔物。
それとは別に外で生息し、どうやら独自に繁殖を行なっているらしい魔物。
外に居たでかいダンゴムシのやつだな。
アレは倒した後も死骸が丸のまま残っていたが。
アプリ、崩壊後の歴史記録によればダンジョンから抜け出た魔物が何らかの条件で受肉することで繁殖可能になるとのことだが。
通路を抜け、再度扉をくぐる。
大きな広間へと出た。
左右を大きなパイプが通っており、それに何かの薬品が入ったようなタンクが接続されている。
目の前の、パイプに挟まれた道の先に眩いばかりの紫の光、ひし形の輝く影。
ダンジョンコアの放つ妖光が僕たちに降り注ぐ。
立ちくらみを起こしたように足元がぐらつく。
慌ててまぶたを閉じ、直視しないようにするが。
妖光はまぶたを貫通して僕の視界を覆い、脳を直接襲うような刺激を与える。
吐き気と眩暈を感じ、胸の奥から不安と恐れが湧き出してくる。
何故だか、「目の前の偉大な存在に逆らってはいけない」との言葉が頭に浮かんできた。
頭を下げたくなる欲求が湧いてきて、膝の力が僕の意思に反して抜けようとする。
「にゃぁぁ……」
「わぅぅ……」
僕の横に居た二人が頭を抱え、ひざまずく。
リリィの目にはうっすらと涙が浮かび、ポチもまるで眠気に耐えるように上目遣いでダンジョンコアを睨みあげる。
それを見て、怒りでカッと胸が熱くなった。
自分の胸を拳で叩きつけ、渇を入れる。
胸の痛みに集中してそこから体の奥の熱、魔力を意識して引き出す。
怒りが魔力の栓を強引に開放する。
腹の奥から湯水のように魔力が湧き出し、全身へと広がっていく。
熱湯を飲み込んだような痛みが走るが、構うものか!
全身を怒りと魔力が熱くする。
それと入れ違いに妖光の圧力が消え、目の前のダンジョンコアがたじろぐような感触を得た。
妖光をかき分ける様にして、二人の前に進む。
「二人とも僕の影へ!」
紫の光が満たす空間の中、僕の影だけが黒々とその存在を主張している。
「う、うん……」
「わぅ!」
二人が這うようにして僕の後ろへと並ぶ。
僕の影は小さく狭い。
伏せをするポチにリリィが覆いかぶさる形になった。
僕の影に入り、二人の様子が気持ち楽になったようだ。
まだリリィの息が荒いがポチはスッと立ち上がり、僕の影の中からダンジョンコアを睨み、唸っている。
「リリィ、大丈夫?」
「う、うん。ちょっとマシになったにゃ」
まだポチの背に覆いかぶさりぐったりとしているが、返事を返す余裕は出来たようだ。
ならば……
「これを」
ショットガンを渡す。
「! わかったにゃ」
ポチに覆いかぶさりながら、銃身を僕の脇から出すようにして狙いを定める。
「喰らえにゃ!」
二連の銃口の片側から火が噴き出る!
ダンッ!という銃声が周りのパイプに反射して後を引き、木霊し。
ダンジョンコアを外れ、周りのパイプに散弾が当たり火花が散った。
「あれ? もう一回にゃ!」
再度引き金を引き、銃口が火を噴くが。
やはりダンジョンコアを外れ、周りのパイプから火花が散る。
「あれ、あれ? おかしいにゃ?」
リリィの疑問に僕もうなずく。
火花はダンジョンコアを中心になるように散っていった。
その真ん中にあるダンジョンコアに当たらないとは考えにくい。
……何らかの力で逸らされたか?
「アルス、弾おかわりにゃ」
「ごめん、もう無いんだ」
リリィが絶句した様な表情を返す。
だが、こうなれば僕がやった時みたいにやるしかない。
前進して直接叩く!
「二人とも、行くよ!」
二人が無言で頷き返す。
進むごとに妖光の圧力が強まってきた。
目がチカチカする。
目の前で妖光が一際輝き、陽炎が立ち上ったように感じた瞬間。
-- 戻りなさい…… --
頭に言葉が浮かび上がる。
「うるさい!」
-- 許しを請うのです…… --
「黙れ」
このコアはずいぶんお喋りのようだな。
前のコアとは違う。
前のはただひたすらに拒絶の意思を感じたが。
コアにも個性があるのだろうか?
進むごとに妖光の圧力が強まり、それに反抗する様に体を循環する魔力を強めるが……体が熱い。
肺や血管が焼け付くようだ。
だが、魔力を強めればその分、妖光の圧力は減った。
やはりこれは魔力攻撃のようだ。
ならば。
「フラグメントウォール!」
目の前に青色に透き通る壁を作り出す。
それと同時に体に感じていた圧力が無くなった。
「にゃ?」
リリィが顔を上げる気配を背中越しに感じる。
呼吸も楽になったように感じられたが、それと同時にフラグメントウォールが燃え始めた!
炭に着火した様に表面がバチバチッ!と火花を散らしながら燃え上がる。
燃やし削られ、どんどん壁が薄くなっていく!
「フラグメントウォール!」
慌てて重ね掛けして厚みを元に戻すが、燃えるのは止まらない。
燃えるのもそうだが、今までこんな圧力に晒されていたのかと唖然とした。
フラグメントウォールを何度も重ね掛けしながら、コアが手の届く範囲にまで近づいた。
後は砕くだけだが、距離が近すぎる。
リリィが僕の後ろから槍で砕いた場合、ダンジョンコアの膨大な魔素を前に居る僕が受けることになる。
距離があれば咄嗟に退く事が出来るが。
ダンジョンコアの魔素はクラスチェンジに必要な力だ。
それを中途半端に3人で分けるのはマズイ気がする。
ダンジョンボスでさえ、その魔素を吸収するときは体が焼け付くような痛みに襲われる。
コアはそのボスの数十倍といった量だ。
クラスチェンジの力へと変換することで何とか受け入れられるが、そのクラスチェンジが起きなかったら……受け止めきれるのだろうか?
予測不可能なことはするべきではない。
コアを砕くときはリリィが前に出て、僕たちは退がらなければならない。
だが、リリィの様子を見れば……
どうするべきか?
目の前で青い壁が火を噴きながら耐える。
フラグメントウォールや体に循環させた魔力で防ぐことは出来た。
結局は魔力攻撃なのだ。
ならば。
「リリィ、合図したら前に出てコアを砕いてくれ」
「……わかったにゃ!」
まだ調子が悪そうだがリリィは右手の槍を持ち上げる。
僕も右手を挙げ、それを下げると同時に。
「アクセス!」
そう唱えると同時にリリィが脇を抜け、駆け出た!
アクセスで広がった魔力波は弱く、妖光の圧力に押し負ける。
僕の肌のすぐ上にしか広がらない。
リリィも駆け出たが苦しそうな表情をして、すぐに膝を突いてしまう。
出し惜しみはしない、一気にだ!
「アクセス!!」
腹の底の魔力を全て魔力波に変換するつもりで放出していく!
濃い魔力波が渦巻くように僕を中心に広がっていき、その様子はまるで風船を膨らませるように妖光を押し退けていく。
全身の血管が沸騰したように熱い!
神経が剥き出しになったように過敏になり、魔力の放出の勢いを知らせてくる。
だが、まだだ!
もっと!
「アクセス!!」
限界を超えた魔力の奔流が完全に妖光を押し出し広がり、コアが僕を中心とした青い光に包まれる。
「今だ!」
「にゃ、にゃぁぁ!!」
膝を突いたリリィがガバッと起き上がると。
両手で構えた槍で体当たりするように突きこんでいく!
穂先がコアの中心へと突き刺さる。
キーンッ……と耳鳴りがした後、直径30cmほどのコアの全身にヒビが入る。
直後、何処か遠くで悲鳴が上がったように感じた。
それと入れ違いに僕の首元が後ろから引っぱられる。
ポチが僕の襟を噛んで強引に後ろへと引っぱっていく。
全力で走るポチの勢いが凄まじく、首が絞まり息が出来ない。
離れる間際、コアが完全に砕け散り。
濃い紫の嵐に消えていくリリィの姿が見えた。
ポチに引きずられ通路まで。
部屋の中はあっという間に紫の霧に覆われた。
それをポチと一緒に見守る。
中心部辺りでカッ!と青い光が瞬いた瞬間、逆再生のように紫の霧が中心部へと吸い込まれていく。
霧が晴れ、残されたのは青く輝きうつ伏せに寝るリリィ。
ポチを顔を見合わせ、すぐに駆け寄る。
「リリィ! 起きて!」
「わん!」
「うぅ……だるいにゃぁぁ……」
リリィは薄目を開けながら起き上がろうとするが、力が入らないみたいだ。
その時、リリィの腰元のラジオから声が流れる。
-- ジジッ……魔素の吸収を一時的に抑え、封印しました……
-- ……至急、クラスチェンジをして消費してください……
-- ……制限時間内に出来ない場合、封印が解け暴走します……
-- ……残り 00:05:00……
「リリィ! 早く起きてー!」
「わぅ! わぅ!」
リリィの肩を強く揺すり、ラジオをその手に持たせる。
「わ、わかったにゃ……」
ダルそうに再生ボタンを押すと。
-- ジジッ……下記が貴方の適性クラスになります
-- ……リジェネレートソルジャー
-- ……ブーステッドサムライ
-- ……どちらかを選んでください……




