第42話 ダンジョンボス戦3
ポチの剣爪がぶちんっ!と舌を切り裂く。
「ゲーッ!?」
それまで舌で綱引きをしていたカエルは反動で後ろへとひっくり返り。
プールに大きな水柱が立つ。
「うわ!?」
僕も同じくだが、体が小さい分こっちの方が小回りが利く。
すぐに立ち上がり、カエルへと追撃だ!
地響きを立てながらカエルへと駆け寄り、全力でジャンプ!
天井スレスレにまで飛び上がり、狙うは……ココだ!
カエルの皮膚はきれいなエメラルドグリーンだが、火に当てられた頭の付近が茶色く焼け焦げたように変色している。
狙うのはその中でも弱そうな喉だ。
喉へと金属の塊であるパワードスーツがその重さを持ってめり込む!
「んーーっ!!」
カエルが言葉にならない悲鳴を上げる。
そのまま反射的に上に乗っかった僕を引っ叩いた!
「ぐぅっ!!」
そのままプールサイドまで吹っ飛ばされ、コンクリートの上を火花を上げながら転がる。
頭がぐらぐらして吐きそうだが、奥歯を噛み締めて耐える。
舌で打ち抜かれたときに比べれば大丈夫だ。
「ワン!」
体勢を直そうとするカエルの背後からポチが切り掛かった!
だが、それを意に返さずカエルがその丸太のように太い腕を振るう。
「きゃいん!」
ポチもプールサイドまで吹っ飛ばされた。
カエルの背がちらりと見えたがエメラルドグリーンのきれいな肌で、切り傷の跡は見えない。
やはり、あのヌメりを何とかしないとダメか。
カエルがギョロリと僕を睨みつけてくる。
その身を屈ませて……嫌な予感。
慌てて立ち上がり、ふらつく足元に叱咤激励しながら走り出す。
それと入れ替わるようにドパン!!と目の前のプールで大きな波が立ち、押し寄せてきた。
同時にカエルが飛び上がり……その巨体を天井スレスレまで寄せている。
そのまま僕に向かってフライングボディプレス!
さっき僕がやったことをそのままやり返してきた。
床を転がるようにして慌てて避ける!
カエルの体は家ほどの大きさがある。
あんなのをまともに受けたらペシャンコだ。
カエルのわき腹辺りに転がった僕に、赤く大きな目がギョロリと向く。
立ち上がろうとするが、カエルが腕を振り上げる方が早い!
「わん!」
ポチがその腕へと飛び掛った!
相変わらず滑ってしまうようだが、カエルの挙動が遅れる。
その隙に再度転がり、脱出。
カエルが腕を振り回す。
ポチがそれを伏せて避ける。
カエルの注意はポチに向いたようだ。
その隙に背後へと回る。
膝を曲げるとギィ……とスーツの関節が軋む音がした。
散々叩かれたり、転げまわったりしたからな、もう少しだけ持ってくれ。
全力で垂直に大ジャンプ!
茶色いカエルの頭へと向けて振り上げた踵を落とす。
「ゲェッ!!」
頭頂部に突き刺さる踵にカエルが悲鳴を漏らす。
やはり熱で変色したのか、茶色い部分には効く。
「ゲェー!!」
カエルが片手を振り回した。
慌てて距離を取る。
その隙にカエルはもう片手を頭に回し防御の姿勢だ。
攻撃側の片手を振り回しながら僕とポチへと歩み寄ってくる!
「にゃーっ!」
何時の間にか後ろへと忍び寄っていたリリィが槍を突き刺すが……穂先は滑ってしまったようだ。
カエルがギョロリと背中を見る。
「にゃー!?」
リリィが慌てて逃げる。
この隙に攻撃を入れようと僕とポチが近寄るが……
ギョロリとすぐに振り返ってきて、腕を叩き付けて来る!
厄介な……ならば!
「リリィ! ポチ! 離れてくれ!」
そう言って僕はプールの中へと飛び込む。
「ゲコォォー!」
カエルが僕を追って飛びかかってくる!
避けようとするが……水の抵抗があってなかなか進まない。
天井スレスレまで飛び上がったカエルが降りてくるのがスローに感じられた。
「わん!」
ポチが僕に飛びかかってきて、押されるようにして水の中へと倒れこむ。
そこに飛び込んできたカエルの巨体!
ぎりぎり躱すことが出来た。
カエルに密着しながら、ポチを抱える様にして。
「フラグメントウォール!」
新しく覚えた防御魔術を発動。
僕とポチを6角形の青く透明なガラスのような壁が覆っていく。
そのまま右手を後ろ腰に、カシュッ!と音を立て長方形の予備バッテリーがせり上がって来た。
それをカエルに向かって投げつけ。
「アクセス!」
バッテリーの電極を開放。
軍事用パワードスーツを動かすほどの膨大な電力が放電される!
プールに雷が落ちたように電流が走り、それにほんの一瞬遅れてバンッ!と空気が割れるような音が響く。
「ゲェェェェ!!」
カエルが雷に体を焼きながら悲鳴を上げる。
一方、僕とポチは無事だ。
フラグメントウォールは物理耐性は低いが、電気・熱・酸・魔力を遮断する特殊攻撃専用の防御魔術。
目の前を真っ白に染め上げるほどの強力な電流ですら完全に遮断して見せた。
光が収まり、プールの真ん中にこんがりと焼かれたカエルが腹を見せている
死んだか?いや、痙攣しているからまだ生きてるか。
ここがチャンスだ!
カエルへと詰め寄り、攻撃しようとする。
それに気づいたカエルが反応を返そうとするが……、腕は痙攣し動かない。
震えながら口を大きく開け、噛み付こうとしてきた!
「させないにゃ!」
プールサイドから大きくジャンプしたリリィがカエルの頬へと槍を突き刺す!
今度は滑らずに深く刺さった。
ヌメりの無くなったカエルならこちらの攻撃が効く!
このまま攻撃しても良いが、どうせならカエルの動けないうちにもっと強力なのを入れてやる。
カエルの腹へとよじ登り、下顎を踏みつける!
上顎に手を掛け、パワードスーツの強力な力が一気に引き上げた。
ガコン……と顎の外れる音がする。
「ポチ!」
「わん!」
まだフラグメントウォールの掛かっているポチが、その口の中へと飛び込む。
酸も防ぐ効果もあるから、ポチが消化されることは無い。
「わぉぉん!」
カエルの口の中からポチの雄たけびが聞こえてくる。
それに続いて青い血反吐が溢れてきた。
「おっと!」
それを避けるようにカエルの上から飛び降り、一度プールサイドへ。
さっき落としたショットガンを拾う。
ロックを外し、銃身を中折れに。
使い終わった薬きょうが2つ飛び出してくる。
腰のサイドポケットから新しい弾丸を取り出し、装填。
ストックを持って軽く振り、遠心力で銃身をまっすぐに嵌め直す。
カチリ……とロックの掛かる音が立つ。
銃の用意をし振り返れば、ポチがカエルの腹から切り裂いて出てきたところだった。
臓物を撒き散らしながら、ポチが飛び出してくる。
その前足は鋭い剣爪だ
カエルの血でプールが真っ青に染まる。
槍を引き抜こうとしていたリリィも慌てて距離を取る。
逆に、僕は大きく跳躍しカエルの胸の辺りへと着地する。
ドスン!と重い衝撃と共にカエルがビクンと震えた。
そのまま頭の方へ。
僕を視認したカエルの目が真っ赤に燃える。
最後の力か、首を素早く振って噛み付こうとしてきた!
「うぉぉ!」
それに渾身の前蹴りを合わせ、蹴り倒す!
倒れたカエルの口にショットガンを突っ込み。
「これで終わりだ」
引き金を引く。
くぐもった射撃音が連続して起こり、カエルの大きな瞳から青い血の涙が流れたと思ったら、グルンと上を向き。
カエルの皮膚が徐々に紫の霧へと還元していった。
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