第41話 ダンジョンボス戦2
「ゲコーッ!?」
カエルが開いた口から炎を立ち上らせながら鳴き上げる。
浸かっているプールで口を濯ごうとするが……、水と油。
火の着いたガソリンが水面に広がり、カエルの体へと炎が纏わりついた。
「ゲコーッ!!」
再度カエルが鳴き、その巨体をプールの中に沈めようとするが沈みきらない。
火に炙られながら、プールの中でじっ……と消えるのを待っている。
それを待つ気は無い!
「アクセス!」
水処理プラント内のガンタレットが動く。
位置的に射線が通るのは2台だけだがとやかく言ってられない。
リンク、銃口をカエルに合わせ……
「掃射!」
ダダダッ!!とフルオートでライフル弾が吐き出される!
大きな太鼓を高速で叩き続けたような銃声と、タッタッタッ……!と規則的に水を叩くような音が響く?
疑問に思い、右手を挙げ一度射撃を止めるが。
……カエルは無傷のようだ。
血の一滴も流れていない。
もう一度射撃するが変わらず。
ライフル弾がカエルの表面を滑り落ちてしまう。
弾を受け流す程のぬるっとした液体が全体を覆っているようだ。
プールの水面で燃えてた火が収まってくる。
怒りを帯びたカエルの目がギョロギョロっと左右へ動く。
その目は次のタンクを用意していたリリィに向けて止まった。
「ひっ!?」
目の合ったリリィが短く悲鳴を上げる。
舌を納めたカエルの頬が膨らんでいく。
そうはさせるか!
「こっちだ!」
カエルの頬に向けてショットガンを一発ぶっ放す!
ダンッ!と銃声たなびかせ散弾が飛んでいくが、丸く膨らんだ頬を揺らすだけで終わる。
やはりキズ一つつかない。
だが、カエルの目はこちらへと向けることは出来た。
ショットガンを見て、火が着いた瞬間を思い出したか?
赤い瞳がギラリと輝く。
そうだ、こっちを見ろ。
腰を落とし、舌が発射される瞬間を待ち受ける。
僕とカエルの視線が交差し、頬がギチギチに張り詰める。
来るか?と思った瞬間。
カエルがその大きな前足を水面に叩きつけた!
目の前に広がる水の壁。
カエルの口元が……見えない!?
背筋に針が突き刺さったように悪寒が走った!
咄嗟に左手の盾を前にかざす。
それと同時に目の前の水面が弾け、ゴンッ!!と重い衝撃。
重いパワードスーツを着ているのに、空き缶を蹴り上げるかのように吹き飛ばされる!
水処理プラントと通路を隔てている分厚い強化ガラスを叩き割って、通路へ。
建物の2階から背中を向けて落ちたような衝撃!
壁を走る太いパイプを何本も潰して止まる。
「アルス!?」
リリィが隠れ場所からタンクを持って出てくるが、マズイ。
舌先が戻っていく。
声に出そうとするが衝撃で肺がショックを受けたか、息が出ない。
なんとかショットガンの銃口で指し示して知らせる。
「あ! 待つにゃ!」
リリィが舌を追いかけるが、戻る方が早い。
そこにポチが駆け込む。
「わん!」
ポチが飛び掛かって舌の途中に噛み付いた!
流石にポチは重いか、舌の動きが止まる。
そこにリリィが間に合う。
「離れるにゃ!」
ポチが舌から口を離した瞬間を狙ってガソリンタンクを投げつける!
舌先へと触れると、アメーバのように舌が蠢き絡みついた。
そして、そのままカエルの口へと戻っていく。
「ゲ!」
カエルも目をまん丸にして戻ってくる舌先を見つめるが。
やはり条件反射だったか?
止められないようだ。
壁に埋まったまま右手のショットガンを向ける。
これでも喰らえ!
銃口が一瞬、火を噴いて散弾を吐き出す。
それにつられるようにカエルの口から炎が吹き上がる!
「ゲッゲッゲッ……!」
カエルが火の着いた舌をプールに浸けて消そうとするが消えない。
少し潤んだカエルの瞳がこちらを睨みつけた。
「……上等だ!」
体のあげる悲鳴を無視して、壁から体を引っこ抜く!
さっきの衝撃で凹んだ盾を掲げながら、前へ。
カエルもそれに呼応するように焼け爛れた舌をずるずると啜って口の中へと納める。
2度の着火でダメージは与えられたようだな。
カエルの頬が膨らんでいく。
僕とカエルの視線が再度交差し、空気が張り詰めていく。
右手のショットガンを落とし、両手で盾を構えた。
腰を落とし、両足をべたっと地面につける。
カエルの両目がギラリと光った瞬間、口が開き、衝撃波が水面を走る。
見えたと同時に盾にゴンッ!……と重い手応え!
再び体を吹き飛ばされそうになるが、両足を踏ん張り……、堪えた!
足元のコンクリートを削りながら2m後退。
「……、っおぉ!!」
両手で盾を跳ね上げ、舌先を天井へと跳ね返す!
天井に当たった舌先が地面へと落ち、動きを止める。
だが、舌がビンッ!と張り詰め、戻る前兆を示す。
そうはさせるか!
盾を捨て、両手で舌に掴みかかる。
「ゲーッ!」
カエルが舌を戻そうとするが、こちらも全力で引っぱる!
体重を後ろに掛けて、全力で引っぱり上げた。
互いに全力の綱引きが痛んだ舌にピシリ……と切れ込みを入れる。
「ポチ!」
「ワン!!」
切れ込みに向かってポチが飛び掛かる!
振り上げた前足から青く輝く剣が伸びる。
青い軌跡を描いて、ぶつりっ……と切り裂いた!
切り裂かれた舌が弾けたゴムのように舞う。




