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第38話 少年期の終わり

昨日はすいません、悩んでました。

 男の目に深々とバールが突き刺さる。

 目を見開き、口がわずかに動くが声にならないのか、喋らない。

 痙攣し始め、残った片方の目が上を向いた。



 僕の手に重い感触。

 鈍い刃で肉を押し潰したような感触が残る。

 その感触を振り払うように、釘抜きの部分を掴んで思い切り引き抜く!

 引き抜いたときに男の体勢が崩れ、前のめりに倒れた。

 地面に顔から落ち、そこから血溜まりが広がっていく。

 血溜まりなどリザードマンやオーク、魔物との戦いで見慣れたものだ。

 だが、それでも1歩後ずさってしまう。


 人も魔物も殺すことに違いは無い。

 その感触も血を流すことも。

 それでも魔物の時とは違い、何か越えては行けない一線を越えてしまった気がする。

 胸がむかむかした。

 振り返り、何処かに向かう。

 早足になる。


「ひっ!」


 向かった先には残り2名のレイダーたちが居た。

 車から放り出されてもまだ生きていたようだ。

 全身にすりむいた様なキズができている。

 レイダーは一人も生かして返すわけにはいかない。

 生かせば、いずれまたやり返しに来る可能性がある。

 右手のバールが重い。

 ……足が止まった。

 思わず下を向く。

 ……僕は本当に正しいのだろうか?


「ぎゃぁぁ!?」


 前から悲鳴が聞こえて、咄嗟にそちらを向いた。

 そこには、レイダーの胸に剣のように伸びた爪を突き刺すポチの姿が。

 ポチが無言で僕を見る。


「……そうか、そうだよな」


 正しい、正しくないでは無い。

 倫理の善悪ではなく、僕がこの世界で生きていく為に必要なことをする。

 ダンジョンの中に誘き寄せたレイダーたちだって、リザードマンをけし掛けて殺したんだ。

 ボス格の男を殺したときとの違いは、その手を汚したか(・・・・・・・)どうか、だけ。

 ただ、それだけなんだ。

 足が止まったのは僕の心が弱かったから。

 勇気を持って踏み出したと思ってたけど、肝心の前を向いていなかった。

 肝心な時に心を閉じた僕には、目の前が真っ暗闇に閉じたように思え、二の足が踏めずにいる。

 ……大きく深呼吸をし、空を見る。

 空は晴れ、雲が流れていた。

 荒野は乾いた風が吹き抜け、地平線の果てまで見える。

 都市は破壊され、魔物がそこらへんを跋扈する、壊れた世界。

 そんな壊れた世界で僕と共に歩き、今も僕を見守っているポチ。

 外に出て、知り合ったリリィにタルパ君と村の人たち。

 眠る前、僕は学生だった。

 守られて当然の子供だと思っていた。

 100年前の世界とはまるでかけ離れた状況。

 失った日々。

 破られた最後のルール、過去の突き止まり。

 僕は気づく。




 ここが世界の果てだ。





 知っていたはずなのに気づかなかった。

 今まで生きてきた世界とは、違う世界へと来たことを。

 僕を守るものは居ない。

 故に、僕は僕自身を守らなければならない。

 知り合った人々も大切に思うなら、それらもだ。


 ポチがじっ……と僕を見つめる。

 ……もう大丈夫だよ。


 右手のバールを強く握る。

 ……どんな相手でもそれを殺すことは倫理的に悪とされる行為であろう。


 足を踏み出す。

 ……行動には責任が伴う。

 だが、それを背負うことを無闇に恐れるわけには行かない。


「ま、待て! 助けてくれ!」

 残った男が喚く。


 さらに踏み出す。

 ……ただ生きていくだけでも、その足には僕の命の重みが掛かる。


 バールを両手で持ち、頭上に構えた。

 ……僕は誰も裏切らない、善も悪も飲み込んで自分の意思を押し通す!


「ま、待っ……」


「……悪いな」

 腹の底から太く、低い声が喉を通り。

 渾身の力でバールを振り下ろし、頭をカチ割った!





 レイダーを全て仕留め、これで一件落着というわけにもいかなくなった。

 ダンジョンであるリサイクルプラントの入り口の扉が壊れた。

 蝶番の部分が完全に捻り切ってある。

 直すのは難しいかな?

 外れた扉の奥にはうろちょろするリザードマンの姿が。

 目が合う。


「ギィィィ!」

 リザードマンがこちらへと駆け出そうとする。


「アクセス」

 すぐに魔力波を広げ、通路のガンタレットを操作。

 ガンタレットがぐるりと回り、入り口付近に群がるリザードマンへと掃射!

 ダダダッ!!……と地に響くような発砲音が通路に木霊し。


「ギャァァァ!?」

 リザードマンの悲鳴がそれに合わせる。


 ……

 通路に居た全てのリザードマンが倒れ、静かになる。


「ポチ、ちょっと入り口を見張ってて」


「わん!」


 ポチが入り口へと駆け出し、1歩踏み入る。

 見張りのついでに魔素も吸い取っておくようだ。

 その間に僕は長老さんと話さなければならない。


 みんなの立て篭もっている旧発電施設のドアを叩く。


「……誰にゃ?」


「アルスだよ」


「今、開けるにゃー」

 ドアを開いてリリィが出迎えてきた。

 終わったことを伝え、そのまま長老さんの場所へと案内してもらう。




「それでは全て終わったんですな?」


「いえ、新たな問題が出てきまして」


 その問題となる壊れた扉を長老さんに門番をやっていたマイルズさん、リリィと共に見に行く。


「これはまた派手に壊れたなぁ……」

 マイルズさんが呆れたように呟く。


「直せそうですか?」


「この村に鍛冶屋は居ないし、溶接も出来ないから無理だぞ。

 外れた扉をはめ込んで石と木で固定するぐらいしか出来ねぇ」


「それだと……」


「ああ、中から魔物たちが暴れたら壊されるだろうなぁ……」


「そうなったら、ダンジョンから湧き出した魔物たちがここら辺を跋扈することになりますのう……」


「……やっぱしコレ自体なんとかする必要があるか」


「どうするにゃ?」


「ダンジョンの攻略を考えた方がいいだろうね」


「それは良いにゃ! 私も手伝うにゃ!」


「アルスさん……、お願いできますか?」

 長老さんが問いかけてくる。


「ええ、こうなったのは僕の責任もありますから」


「助かります。わしらに出来ることでしたらなんでも言ってください」


「それじゃ、全て終わったら手伝って欲しいことがあるんですけど」


「わしらに出来ることでしたら任せてください」


「おう、俺も手伝うぜ」


 全てが終わったら僕の居たシェルターの中にあったものを全て運び出したい。

 あの中にはロボCも居るし、まだまだ使えそうな物もあった。

 この世界で生きていくと決めた以上、先立つ物も要るからな。


 さて、ダンジョンの攻略をどうするか?

 まずは装備の確認からだ。

 レイダーたちから奪った銃器にパワードスーツ、車が4台。

 パワードスーツは中で死んでいたボス格の男を取り出し、付着していた血などをキレイに洗い。

 レイダーたちの遺体は近くの川辺の土手に埋めた。

 パワードスーツにアクセスを掛け、自己診断プログラムを起動する。

 ドアに打ちつけた肩の部分が少し傷んでいるが、それ以外は問題無さそうだ。

 バッテリーも半分以上残っていて、後ろ腰のケースに予備バッテリーも入っていた。

 銃器はショットガン1丁にハンドガンが16丁、弾は……少ないな。


「コレ……、お父ちゃんのショットガンにゃ」

 リリィが泣きそうな顔でショットガンを手に取る。


「そうか……」

 何て声を掛ければいいのか、わからない。


「……仇が取れてお父ちゃんも喜んでるにゃ」

 ぎこちなくニッと笑う。


「ああ、そうだな。そうだといいな」


「コレ、アルスが使ってにゃ」


「え? お父さんの形見なんだろ?」


「私は銃は使ったことないし、コレがあるにゃ」

 背負った組み立て式の槍を指差す。


「これからダンジョンボスを倒すなら使える人が使った方が良いにゃ。

 その方がお父ちゃんも喜ぶと思うにゃ」


「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」


 装備は充実したが。

 さて、どうやってあのカエルを倒すか。

 まずはあの舌を何とかしないとな。

 あいつの行動を思い返し、対策を考える。



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