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第36話 避難準備

 二人の安否を知らせるためにまた村へと戻ってきた。

 村は木でできた柵で覆われており、その入り口となるところで槍を持ったおじさんが番をしている。


「あんた、確か嬢ちゃんを探しに行ってくれた人だよな?」


「ええ、そうです。二人の安否を知らせに戻ってきました」


「二人? タルパはどうしたんだ?」

 おじさんが訝しげにこちらを見つめてきた。


「ケガをしてしまったので向こうで治療して休ませています。

 そのことで二人のおじいさんにお話が」


「む、……そうか、わかった。付いて来い」

 おじさんが先導してくれるようだが、その様子はこちらを疑っているように見えた。

 まぁ、状況的に怪しく見えるのは確かだし仕方ないか。



 昨晩泊まったリリィたちの家へと戻ってきた。

 相変わらず家はボロボロだ。

 この村全体に言えることだが。


「長老、客人たちが帰ってきたぞ」


「おお、戻ってきたか!」

 いそいそとおじいさんが出てきて周りを見渡すが。


「アルスさん? 二人はどうしたのでしょうか?」


「……その事でお話が」


 ダンジョンに行き、リリィを見つけたのは良いがその時にタルパ君がリリィを庇ってケガを負ってしまったことを二人に話す。

 キズは塞いだが出血が激しかったために安静が必要で、今は安全な施設に居るということを。


「安全と言うがダンジョンのすぐ側なんだろ?」

 槍を持ったおじさんが尋ねてくる。


「ええ、ダンジョンの側ですが壁も扉も頑丈でカギも掛けられるから、魔物が入り込んで来る心配は無さそうでした」


「そうですか……」

 おじいさんは先ほどとは一転、憔悴したような表情だ。


「すいません、二人を守りきれませんでした……」


「いえ、気にせんでください。元はといえばあの子(リリィ)が勝手に突っ走ったのが原因で、アルスさんは困ったわしらに手を貸してくれたのですから」


「……すいません。それとリリィから伝言が。

 タルパ君が動ける様になったら、私も北の親戚の元へ避難するにゃ、だそうです」


「そうですか……、タルパが動ける様になるにはどれくらい掛かりそうでしたか?」


「できればしばらく安静にしたいところですが、本人を歩かせず荷車に載せたりして移動させるなら1日か2日様子を見て、と言ったところじゃないでしょうか」


「2日……」


「おいおい……、2日もじっとしてるわけにはいかねぇぞ。

 レイダーどもが来ちまう」


「そのレイダーの事で聞きたいことがあるんです。

 もし、この村から人が消えたら……、奴らはそこで諦めるでしょうか?」


「どういうこった?」


「……諦めんでしょうねぇ。追って来ますか?」


「奴らは車を持っています。それだけに行動範囲が広い。

 僕は北の森については知らないのですが、そこまで逃げればなんとかなりそうですか?」


「北の同胞は腕っ節は強ぇぇんだが……」


「問題は銃とあの白い鎧じゃな。下手に逃げれば同胞にも危機を呼び込むことになってしまうか……」


「おいおい……、じゃあどうすんだよ? このままここに残っても殺られるだけだぞ!」


「じゃが……」


「そこで提案があるのですが、今二人が篭っている施設は頑丈ですのでしばらくそちらに避難されては?」

 あいつらと戦うにも、村人を守りながら戦うのは無理だ。


「ダンジョンの近くの所かよ! でも、他に行く場所も無ぇか……」


「そうじゃな、アルスさん。そこまでの案内をお願いできますか?」


「わかりました。それとこの村にはどれくらい人が残っていますか?」


「わしとこやつの家にランクルとロブ婆のとこも残ってたか?

 今、この村に残っているのは8人だけですじゃ。他は皆、北へと向かいましたじゃ」


「リリィたちも合わせて10人なら十分余裕を持って施設に入れます。

 では支度をしましょう、手伝います」


「ふぅ……、カカァに支度を急ぐよう言わないとな。

 ところでそこへ行けば、奴らは諦めるのか?」


「どうでしょうね……? 盗る物が無くなれば他所に行くかもしれませんけど……」

 その時、昨日村の入り口で会った人たちが荷車を押して北へと向かっていたのを思い出す。

 もしかして、轍の跡が残ってないか?


「他所へ行くとして……、昨日のうちに避難した村の者たちの後を辿られたら北に向かうかもしれんのか……」

 おじいさんが絶句した表情で呟く。


「おいおい……じゃあ、どうしろってんだ!?」


「奴らに関しては僕に任せてください。……始末します」


「始末って、坊主がか? ふざけた事言ってねぇで……」


「僕は踏破者です」

 それを口にした時に二人の動きが止まる。


「……ば、馬鹿なこんなガキが踏破者なんて」


「やはり、そうでしたか」


「長老!?」


「マイルズ、お前も聞いたことがあるだろう。十傑の中に銀の犬を連れた者が居たという話を」

 おじいさんがポチに視線を送り、話す。


「十傑の話は御伽噺みたいなもんで、その半分は素性もわかってないんだぜ?」


「じゃが、確かに銀の犬を連れた英雄がダンジョンを踏破し、街の復興にも寄与した一節は残っておる」


「マジかよ……」


「あの、十傑というのは?」


「え、知りませんでしたか? 過去にここの近くの街を造り、数々のダンジョン、魔物どもを滅ぼした英雄たちなのですが」


「すいません、ここら辺のことに疎くて」


「彼らが付近のダンジョンを潰し回ったお陰でここら辺一帯は魔物が少なく、彼らの興した3つの街がこのニュータイタン地域の中心となっているのですよ。

 彼ら自身は町を興した後、悪魔を倒しに行くと言って、そのほとんどが旅立ってしまいましたが」


「そんなお話が」


「って、のん気に話してる場合じゃないぜ! 早く準備をしねぇと」


「そうじゃな、アルスさん。この話はまた後で」


「あ、はい」


 それから村の人たちの手伝いをする。

 槍を持ったマイルズさんの所は奥さんとの二人所帯なので、手伝うことが無く。

 ランクルさんという黒毛のネコ族の家は子供が多く、こちらも手が足りているようだ。

 リリィたちのおじいさんは独り身のロブお婆さんと共同の荷車を使うそうで、ここを手伝うことにした。


「どんどん運んでおくれ!」

 真っ白な毛色で耳がぴんっと立ったおばあさんが元気良く指示をしてくる。


「アルス君、すまんのう。ここの婆さんは人使いが荒くてのう……」


「爺! 聞こえてるよ!」


「いえ、大丈夫ですから」

 怒られないよう急いで荷物を家から運び出す。

 荷物を荷車へとどんどん乗せていくのだが、どうしても乗り切らず諦めなければいけない物も多い。


「ベッドや大鍋の類は置いてくしかないね。はぁー、もったいない。

 あんた、踏破者なんだろ。奴らをパパッと倒してこれないのかい?」


「すいません、僕の力は外で使うのに向いて無くて、場所を選ぶんです。その為にも皆さんに一度避難して欲しいんです」


「ロブ婆、無理を言うもんじゃないよ。何の義理もないわしらの為に体を張ってくれると言ってくれるんじゃよ」


「それはわかってるけどねぇ」


「あいつらを倒せばまた戻って来れますから、食料や貴重品だけでも積んですぐに避難しましょう」


「わかったよ。そう言えばあいつら、さっき向こうの川の近くで見かけたんだよね」


「なんじゃと!」


「何かを探してるみたいに地面を向いてたから、気づかれずにここまで帰れたけど」


「何でそれを早く言わん! アルス君、急がんと……」


「はい!」




 それから貴重品を優先に荷車に積んで、すぐに村を発つ。

 僕を先頭におじいさんの荷車を引き、ポチが列の殿を勤めた。

 移動している際中、ロブ婆さんが言ったあいつらが何かを探しているという言葉を考える。

 ロブ婆さんの言った場所は僕とリリィが出会ったところに近い。

 僕を追ってきたか?

 だが、地面を探すというのは……

 思いつくものがあり背のリュックを見る。

 僕のリュックに開いた穴から落ちた魔物のドロップアイテム。

 まさか、コレか?



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