第33話 リサイクルプラント3
昨日は投稿できず、すいませんでした。
階段の上からはガラス壁を崩そうとする音が聞こえてくる。
今すぐにリザードマンたちが出てくるわけでは無さそうだ。
その間に少しでも準備を整える。
まずは天井の確認。
ガンタレットはこのリサイクルプラントにも配備されていて、通路の天井に30mごとにあるようだ。
これが重要だ。
動けないタルパ君に魔素を吸収させてレベルアップさせるには、僕が直接リザードマンたちを倒してしまうわけにはいかない。
近接戦闘すると僕とポチが魔素を吸収してしまうためだ。
その為にガンタレットを使う。
これが条件。
ガンタレットを動かすにはリサイクルプラントの奥にある予備電源を動かさなければ。
地図はさっきの警備室で確認したから大丈夫だ。
後は少しでも有利になるために、警備室の横にある用具室を漁る。
ここもすでに荒らされていてめぼしいものは無い。
残っているのは掃除用具ぐらいか……、洗剤だけもらっていくか。
洗剤を背のリュックに仕舞い、出来る準備はこれぐらいか。
タルパ君の為にも急ぐか。
階段を上り、2階へ。
ガラス壁の向こうには30体近くのリザードマンたちが取り残され、ガラス壁は大きな亀裂が入り、今にも崩れてしまいそうだ。
そこにトドメを刺す。
「ポチ」
「わん!」
ポチがガラス壁に向かって駆け寄る。
壁の手前で床に爪を食い込ませ、踏み込む足に力が入り、勢い良く体を引き上げ。
弾丸のように突進していく!
強烈な頭突きはヒビの入ったガラスを散弾のように撒き散らした。
鉄格子の嵌まった窓から差し込む自然光がガラスを反射させ、廊下が季節はずれの雪化粧をしたように輝く。
「ぎぃぃ!?」
ガラスの散弾は壁の前に居たリザードマンの肌を切り裂き、薄く青い血が流れ落ちる。
リザードマンたちの赤い瞳から強い視線が送られてきた。
「よし、逃げるぞ!」
「わん!」
階段を一気に飛び降りた!
わざと強く足音を立てながらリサイクルプラントの奥へと走る。
それに遅れてリザードマンたちのペタペタという足音が追いかけてきた。
後ろを見る間でもない、引き寄せは成功だ。
こいつらを放置した場合、予備電源のスイッチを入れてる間に警備室に隠れている二人を見つけてしまう可能性があったため、こいつらを引き連れてスイッチを入れに行く。
1階の通路は警備室より100mほど先に行ったところで二又に枝分かれする。
一つは車が通れるぐらい幅の広い通路でゴミの集積所へと繋がる通路。
もう一つはその隧道でそれに沿う様に奥の制御室へと繋がる通路。
予備電源は制御室にあるのでその通路へと入っていく。
制御室へ続く道は今までの通路よりも細い。
壁の上半分は窓ガラスで、そこからゴミ集積所へと繋がる通路が見渡せた。
ちゃんとリザードマンたちが追いかけてきているか不安になり、振り返って見るが。
うん、ちゃんと追いかけて来ている。
30体近くのリザードマン、そのほとんどは緑色の普通のリザードマンで2体だけ青い上位種が混ざっていた。
上位種は武装をしている分、他のリザードマンより足が遅いようだが、その内の1体ぐんぐんと前へと駆け上がってくる。
2階で追いかけられたときのようにこいつも武装を投げ捨てて追いかけてきた!
その息は荒く、目は血走ってこちらを睨みつける。
かなりの俊足だ。
ぐんぐんと僕の背へと近づいてくる。
僕もレベルアップで強化された体で廊下を跳ねる様に駆けているが、青いリザードマンはそれを上回る勢いで。
まるでスピードスケートの選手のように姿勢を前に傾けながら、地面すれすれを飛ぶ鳥のように僕へとぐいぐい迫ってくる。
その荒い呼吸が背に掛かりそうだ。
だが、それは2階ですでに体験した。
リュックから洗剤を取り出し、背中越しに廊下へと撒き散らす。
僕の背をその爪で狙っていたリザードマンが洗剤を踏み、空中でクルッと半回転!
顔から地面へと着地した!
ゴッ!と重く鈍い音が足裏から伝わり、床が一瞬揺れる。
駆けながら後ろを振り返ったところ、青いリザードマンは頭を抱えながら蹲っている。
アレは痛そうだ。
先頭の一体が離脱したのを見て、後続のリザードマンたちが洗剤を踏まないように恐る恐る床を踏みながらペースダウンする。
今がチャンスだ!
「ポチ! ごめん!」
先を行くポチのしっぽを掴む。
「わう!?」
突然のことにポチが困惑しているが、その走りは止めない。
僕もしっぽに掴まりながら加速していく。
足がモーターに繋がれたギアのように猛烈に回転していく。
ポチに引きずられるように通路を駆けて行った。
制御室のドアにもロックが掛けられていたが、入り口の扉に比べセキュリティが緩いようで簡単に解ける。
中に入り、カギを閉めた。
アルミ製の薄い扉なので簡単に破壊されてしまうだろうが、これで少しは時間稼ぎが出来る。
制御室内は窓側に機械類が並んでおり、もう片方にはエレベーターが。
地図だと地下の施設に繋がっているはずだったな。
まずは予備電源を入れなければ。
窓の向こうにはゴミをリサイクルマシンへと放り込むためのベルトコンベアが並んでおり、その奥には地下深くまで続く穴が開いている。
ベルトコンベアの上にはゴミが乗っかっているが、中には粗大ゴミのような大きな物まである。
時間があればこれらの様子も調べてみたいが、今は後回しだ。
窓側の一番奥に予備電源があった。
重く固いスイッチを力を込めて引き下げる。
ビーッ!という警告音と共に、ドッドッドッ!とエンジン音の様なものが聞こえてきた。
それと同時にドアが強く叩かれる!
ドアがベコリ!と凹み、続けて何度も執拗に叩かれた。
「ポチ! こっちだ」
エレベーターへと走る。
案内表示を見れば、エレベーターかごは下にあるようだ。
スイッチを押して悠長に待っている暇は無い。
バールでドアをこじ開けた!
中は真っ暗な闇。
後ろからはバキッ!とついにドアの蝶番が引き裂かれる音がする。
追い立てられるように飛び降りた!
先の見えない暗闇の中の浮遊感。
前が見えず、足元から地面が無くなる不安感はは五感を失うのに似ており。
腰の辺りがぞわぞわとし、それが背中へと煙のように立ち上ってきた。
幸い数秒で足裏への強い衝撃と共に不安感が散らされる。
「点検口は何処だ?」
暗闇の中、焦る気持ちでエレベーターかごの上を探る。
途中何かに足を引っ掛け、転びそうになった。
「コレか!?」
足を引っ掛けたものをグイッと引っぱる。
中から強烈な明かりが飛び出してきた。
すでにエレベーターの中は照明が点いている様だ。
「ポチ!」
呼びかけ、光の中へと体を滑り込ませた。
僕が下に下りると同時にかご全体を大きく揺らす地響きが。
ポチが天井に空いた穴から顔を覗かせた。
「おいで」
「わん!」
ドアをバールでこじ開け、先に地下へと出る。
たしか地下は水処理プラントだったか?
地下通路を非常灯の明かりがぼんやりと照らす。
「アクセス」
魔力を広げ、照明を操作。
天井を走るように白色の明かりが奥へと向かって点いていく。
光が暗闇を押しやるように広がり、視界が一気に開かれた。
今居る通路は右側をパイプが縦に並んで走っていて、左側には上半分がガラス窓の壁が延々と続いていた。
ガラスの向こうにはプールの様な物がいくつも並んでいる。
そのプールの中にエメラルドグリーンの小山が1つ。
それに二つの赤い光が灯ったのが見えた。




