第27話 川辺での出会い
進路を南へ、1時間ほど歩いたところで乾いた地面が、背丈は短いが草に覆われた一帯へと変わる。
乾いた空気に水気が混じる。
「わん!」
ポチが遠くの土手へと小走りで向かう。
僕もそれを追いかけた。
ポチが土手の斜面を下り、視界から消えたと思ったら。
「何にゃ! 魔物にゃー!?」
ポチの消えた先から女性の悲鳴が聞こえた。
慌てて土手へと駆け込んだ。
駆け込んだ先には姿勢を低くしたポチと、槍を構えた桃色の髪の少女。
一触即発の状態だ。
「ポチ! 待て!」
ポチが僕の指示に従い、伏せをする。
すぐにポチの前に出て、手を広げる。
「魔物じゃありません! 槍を下ろしてください」
少女は目の前の光景を信じて良いものか悩んだのか、戸惑っているようだ。
槍先も僅かに下を向き、揺れている。
僕はポチをハグし、頭を撫でる。
「わうわう!」
ポチも無邪気に僕へと擦り寄る。
それを見て、ようやく槍を下ろしてくれた。
「ソレと君はいったい何にゃ? 旅人かにゃ?」
少女が問いかけてきたので、改めて少女を見るがその姿に戸惑う。
背丈は僕と同じくらいで165cm前後といったところか。
髪の色は桃色、長さは肩まで、そして頭にネコミミが付いている。
飾りじゃないよな?
本来あるべき位置に耳は見えず、それより少し高い位置にネコミミが横へと張り出している。
服装は民族衣装なのか幾何学模様に染めたジャケットにワンピース。
ずいぶん太い糸を織り上げた、丈夫そうな布地だ。
そして穂先が幅広で厚みもある重そうな槍を僕に向ける。
その表情は眉間にしわが寄っていて、クリッとした大きな金色の目が、今は細められていた。
しまった、じろじろと無遠慮に見すぎたか。
「待って! 僕はアルス・クレート、こっちはポチ。友達だ」
「君はわかったけど、そっちは何にゃ?
本当に魔物じゃないかにゃ?」
「ポチは……ロボットなのかな? 一応、サイバードッグっていうクラスなんだけど」
「ロボット! 初めて見たにゃ!」
少女が槍を下ろす。
「僕らは変な浮浪者みたいな集団に追われてここまで逃げてきたんだ」
「追われて? そいつらの中に白い大きな鎧を着た奴は居なかったかにゃ?」
「ああ、居たね。パワードスーツを着てショットガンを構えたのが」
「ショットガン……、銃身が二つ横に付いたやつかにゃ?」
少女が緊張した表情で聞いてくる。
「う、うん。銃口が二つ見えたからそんな感じだったと思う」
「そうかにゃ……」
少女が下を向く、槍を掴む手に力が入っていた。
気まずい時間が過ぎる。
1分ほどで気持ちを切り替えたのか、顔を上げる。
「それでアルスたちはどうするにゃ?」
「うん、何処か人里があれば、そこまで行きたいかなって」
「それならウチの村に来るかにゃ? あいつらに追われてるなら他人事じゃないにゃ。」
「ありがとう。お邪魔させてもらえるなら助かるよ」
「あたしはリリィにゃ。よろしくにゃ」
それからリリィの水汲みを手伝う。
木製で古めかしい、まるで馬が引くような台車に大きな瓶が4つ乗っている。
これ一杯に水を汲むのだが、水を入れた瓶はレベルアップした僕でもふらつく程だ。
「あれ? 結構、力あるにゃね?」
「うん、これでもレベルアップしたからね」
「へー、アルスはハンターかにゃ?」
「いや、ただの学生……てのも今はおかしいか。ただの無職だよ」
「プータローにゃ。でもレベル上げできるなら街まで行けばすぐに仕事見つかるにゃ。
あたしのはコレにゃ」
そう言って、携帯型のラジオを取り出す。
大きさは手の平大だ。
「ん? それは?」
「何って通信機にゃ。アルスも持ってるにゃ?」
「僕のはこういうのだよ」
スマホを見せる。
「うわ! 画面が付いてるにゃ。高級品にゃ」
スマホは高級品なのか。
シェルターにまだいくつか落ちてたな。
今度行ったときは拾っておくかな。
「通信機ってことはアデプトシステムをダウンロード出来るってことだよね。
リリィのはラジオに見えるんだけど」
「コレでも出来るにゃ。出来ないやつもあるんにゃけど、中にメモリーってのが入ってれば出来るってお父ちゃんが言ってたにゃ」
「へー、そうなんだ。」
試しにリリィにラジオを操作してもらったら、音声でステータスを読み上げた。
リリィのレベルは20のようだ、結構高い。
今の僕のレベルが14だから、僕よりも高いことになる。
水を汲み終わり、一休み入れることにした。
リュックからジュースを取り出す。
僕はコーク、ポチはオレンジジュースでリリィもオレンジでいいかな?
「これ、何にゃ?」
差し出された缶ジュースを見つめ、首を傾げる。
「ジュースだよ」
缶を開けるところを見せ、リリィも真似る。
「うわ? 甘いにゃ!」
勢い込んでゴクゴクと喉を鳴らす。
その光景にクスリとしながら、僕とポチもゆっくりと飲んでいく。
リリィはすぐに飲みきって、缶を下に向けるが一滴も垂れてこない。
羨ましげに僕らの方へと視線を向ける。
「もうちょっと欲しいにゃー」
僕のコークを見つめながら、僕のヒザを爪でカリカリする。
近い吐息に心臓が跳ねた、首筋から耳にかけて熱くなる。
「あ、あるよ! ポチー?」
ポチが寄ってきて、くくりつけたスポーツバッグを開ける。
中にはぎっしりとジュースが詰まっていた。
「にゃー! いっぱいにゃ! コレ飲んでもいいにゃ?」
「もちろん」
僕の見栄を張った発言にポチがやれやれ…といった感じの視線を送ってきた気がした。
「ぷー、おなか一杯にゃ」
さらに3本も飲んでリリィはご満悦のようだ。
「アルスは良いやつにゃ。村まで来るにゃ、おじいちゃんたちを紹介するにゃ」
立ち上がったリリィに続いて、僕もリュックを背負い立ち上がる。
「あれ? なんか落ちたにゃ」
リリィがリザードマンのウロコを拾う。
ハッ!としてリュックを見直すとサイド部分に大きな切り裂かれた様な穴が開いてあった。
慌てて中身を取り出し、確かめると。
ダンジョンボスの魔石やメタルオーガの金属塊は大丈夫だったが、リザードマンのウロコが30枚も減っていた。
「……なんてこった」
その場にヒザをつき、手を地面に当て…伏せる、と。
「わん?」
ポチも真似して僕の横で伏せた。
「わ? わ? コレ、どうしたにゃ?
魔物のドロップが一杯にゃ。もしかしてアルスって強いのかにゃ?」
リリィはドロップアイテムを眺めて、目を白黒させている。
「いや……大したことはないよ。レベルもまだ14だし」
「そのレベルでこんなに倒せるにゃか? あ、さっきクラスがどうとか言ってたにゃ。
もしかしてアルスは踏破者なのかにゃ?」
いつも読んでいただきありがとうございます。
今週の投稿はここまで、次の投稿は火曜日になります。




