第26話 逃走
遠くに見える都市影から4台の車が土煙を上げながら、こちらへと向かってきていた。
車は四角いオフロード車で天井が無い。
バンパー代わりか、鉄パイプが側面にゴテゴテと貼り付けてあり、なんだか手作り感が漂う。
4台の車が僕達の前で止まる。
車に乗っているのは8人の男達にロボット?
後部座席に白く、装甲の厚そうな……コレ、パワードスーツだ!?
全体的に装甲が厚く、手足はずんぐりと太く短い。
これは中に人間が入っている為だ。
中まで機械ならもっと細く出来るはず。
頭部は半球の様な形で、口元にフィルターが付いており、目の辺りには菱形のガラスが埋まっている。
さらに左側頭部、右肩にカメラも付いている。
そして足に比べ、腕の方が少し長いな。
どうなってるんだろう?
指先は金属製で全体に比べ細く、繊細そうに見えた。
僕が知ってるパワードスーツよりもかなりの重装甲だ。
確か軍で採用されていたものは特殊繊維を多用していて軽く、動きやすさを重視していたタイプだったと思ったが。
目の前のパワードスーツも間接の継ぎ目に布のような物が見えるが、それぐらいだ。
他の男たちは革のプロテクターの様な物を身に纏っており、剣呑な目付きでこちらを見てくる。
服装は一様に汚れていて、髪は脂でべったりとしていて何日も風呂に入って無いように見える。
車に乗ってなければ浮浪者の群れにしか見えなかっただろう。
……違うよな?
とりあえずは挨拶だ。
初めて会った第一地上人だしな。
「こんにちわ」
挨拶をするが返答は返ってこない。
男達は無言で僕の横のポチやその背の荷物を睨んでいる。
……嫌な感じだ。
ポチも異変を感じ、その重心が僅かに沈む。
僕らが警戒し始めて、パワードスーツの男から声を掛けられた。
「兄ちゃん達さ、その背中のカバンには何が入ってるの?」
不躾な質問だ、当然答えない。
「答えないならいいや……。自分で調べるから!」
そう言って男がショットガンを取り出す!?
周りの男達も笑いながらハンドガンを向けてきた!
ま、マズイ!
接近戦ならまだなんとかなるかと思ったが、銃はマズイ。
シェルターの中で散々撃ってきた僕だからわかる。
あれは実力差を覆す。
金属で出来ているポチはともかく、僕の服装はジャージだ。
一撃で致命傷となる。
複数の銃口に晒されては戦いにならない。
すぐに逃げることを選択する。
後ろへと振り返りながら。
「ポチ!」
だが、ポチは僕とは逆方向に走り出した!
ポチが猛然と一番右の車に向かって駆け込み、頭から突っ込んだ!
その攻城槌が如き強烈な一撃に車が斜めへと傾げる。
乗っていた男達は振り落とされ、それを見ていた男達からもひっ!と僅かな悲鳴が聞こえた。
体当たりをした後、一歩下がり男達の周りをぐるっと回る。
男達は半ば恐慌を起こしたようにポチを狙い撃つ。
だが、その弾は高速で駆け回るポチにはかすりもしない。
ポチが囮役を買って出てくれている間に距離を稼げた。
それを見て、ポチも僕を追いかける。
「クソ! 逃げたぞ! 追え!」
3台の車が追いすがってくる。
ポチの体当たりを受けた1台はどうやら故障したようだ。
だが、それは読んでいた。
僕も逃げながらアクセスを掛け続け、その間合いは半径200mに達している。
「ショートサーキット!」
昨日、覚えたばかりの魔術を発動。
これはアクセスの経路を通り、機械にスタンを起こす妨害魔術だ。
後方50mほどにまで迫っていた車に一瞬、電流が走るような光景が見え、エンジンが止まる。
男達は何が起こったのかわからず、何度もエンジンを入れようとしていた。
良し、このまま逃げ切れるか、と思った瞬間。
ドンッ!と背中に衝撃を受け、倒される。
背中で何かが弾ける様な感触
背がじんわりと濡れる……
プシュー…という気の抜ける音
痛くない。
ガバッ!と起き上がる。
リュックに詰めた缶ジュースが弾を防いでくれたようだ。
後ろを見る。
パワードスーツが構えたショットガンから硝煙が立ち上る。
クソ! やりやがったな!
その姿、覚えたぞ。
今は逃げるけどな!
そのまま全力で走り抜ける。
1kmほどを全力で駆けた後、少しペースを落としさらに2kmは走りこむ。
レベルアップしたとはいえ、流石に荷物を抱えてこれだけ走りこむのは疲れた。
道端のガレキの裏へと回り、座り込んだ。
「はぁはぁ……、ポチ。どう? まだ追って来てる?」
ポチがガレキの影からそっと後方を覗き込み、首を振る。
なら一休みとしよう。
リュックを見れば、ところどころに小さな穴が開いている。
中はジュースでびちゃびちゃだ。
ダメになったジュースは10本。
中身は走っている間に全部漏れてしまったようだ。
もったいないがこれで命を救われたなら安いものだ。
ありがたく感謝してから捨てることにする。
一応、痕跡を残さないために穴を掘り、その中に空き缶を埋めた。
ポチと共に2本ずつジュースを飲み、一息つく。
僕のリュックの中には魔物から出たドロップアイテムと救急箱に雑貨、それにジュースが入っているが。
その数はかなり減ってしまった。
「僕の方はあと5本か」
ポチのスポーツバッグには50本詰めた為、まだ40本以上残っているはずだが何日持つか?
早く、まともな人里を見つけないといけない。
地上での第一目標は衣食住を満たすこと。
それから兄さん達の足取りを追おうと思っていたが……、まさか銃を持った浮浪者の群れがいるとは。
昔に見た映画や漫画の世界みたいだ。
「中々上手くいかないもんだな……」
落ち込んでいるとポチが鼻先を僕に擦り当て、擦り寄ってくる。
しばらくポチとじゃれ付き、気を持ち直す。
とりあえず人里を見つけないと。
だけどその前に手を洗いたいかな。
服も手もジュースでべたついている。
「ポチ、水のありそうな場所わかる?」
流石に無茶振りだったか、首を傾げる。
「んー…、これなら。テックブースト」
ポチへとテックブーストを掛ける。
これで全体的な能力、筋力や頑丈さだけでなく神経系も向上するはずだが。
テックブーストの青い光りを纏いながらポチがその場をうろうろし始める。
鼻をくんくんとさせると、
「わん!」
南に向かって吠えた。
「良し、そっちに行ってみようか」
南へとさらなる探索を進めた。
その頃、主人公達の遥か後方でレイダー達がおかしな物を見つけていた。
「お頭、コレです」
男が手の平大のウロコを差し出す。
「こりゃあ……魔物のドロップだよな? リザードマンか?」
そんなウロコがすでに手元に5枚集まっている。
落ちているのは取り逃がした少年の逃げた先。
犬と一緒に大きなカバンを背負っていたが、まさかあの中身は全部コレなのか?
魔物のドロップは不思議な効果があり、物によるがそれなりの値段で売れる。
リザードマンのウロコなら冶金に使えたはずだ。
確か……銅と相性が良くて鋼を越える強靭さを持った緑魔銅になるはず。
リザードマン自体、結構強い魔物だというし、結構な値段になりそうだ。
それがカバン一杯としたら?
「これは……運が向いてきたかも知れねぇなぁ」
何をしても裏目に出る男、マッコイ。
渾身の勘違いであった。




