第15話 オーク
非常灯の灯る、薄暗いコントロールルームで目覚める。
冷凍睡眠室から持ってきたマットの寝心地は最高だ。
100年も寝てた寝具だからな、実に落ち着く。
ポチと一緒に朝食を摂る。
食料は今日を含めて、後6日分しかない。
急がないとな。
準備を整え、ポチと一緒に階段前へとやって来る。
まず目指す場所は、昨日オークが寄りかかっていたドアの場所だ。
階段に伏せるようにして、薄暗い地下4階の通路を覗う。
……良し、居ないようだ。
中腰になりながら、足音を立てないように進む。
ドアの開閉ボタンを押し、そっと中を覗う……
「ブヒッ?」
中で寝転がっていたオークと目が合った。
ひっ……、と出かかった声を喉元で飲み込み、すぐさま駆け寄る!
立ち上がられる前にバールで押さえ込んだ。
「ブヒィィ!!」
オークもなすがままにはされず、腕を振り回す!
「ぐぅ……っ! ポチ、頼む!」
腰の入っていない手打ちのパンチとはいえ、指が太く、肉の厚いオークの拳は重い。
それを耐えながらポチにトドメを頼んだ。
「わん!」
ポチがオークの首を噛み千切る!
「ポチ、良くやった!」
オークの魔素の霧へと変わっていくのを横目にポチを褒める。
褒めるのは躾の一環だからな、たっぷりと撫でておく。
このまま撫でておきたいが、廊下からドタドタ……と無粋な足音が響いてくる。
ドアにロックを掛ける。
リザードマンの力でも破れなかった頑丈なドアだ、オーク相手でも大丈夫だろう。
これでココは安全地帯だ。
「さて次の行動に移るか。
ポチ、ちょっとここで待っててな」
部屋を見渡す、机やロッカー等がある。
換気口は……と、あった。
換気口の下に机を置き、上に乗って換気口の蓋を外す。
換気口の入り口は結構広い。
60cm程ある。
地下だから通気には気を付けてるのだろう。
換気口の中からはブゥゥン……と空気を循環させてる装置の音がする。
これも非常灯と一緒で、主電源や予備電源とは別系統の基礎システム用の電源が組まれているのだろう。
この電源をこちらで操作できれば楽だったのだが、しょうがない。
埃まみれの換気口に備えて、前に手当てをする時に切った布切れを口に巻く。
リュックを下ろし、中へと入り込む。
窮屈だが僕なら何とか進める。
ポチは肩幅が結構あるし、体重が重すぎるので底が抜けてしまうだろう。
ポチは鉄の塊みたいなものだからな。
換気口の中を進む、目指すは予備電源のある事務室だ。
地下4階は物資の格納フロアで、エレベーターホールや動力室の真上が倉庫になっている。
地下1階から3階は人の住む居住フロアで、エレベーターホールや動力室の真上が大広間やベッドルーム等になっている。
今進んでいる廊下沿いの場所は、各フロアとも事務室や用具室になっているようだ。
僕の寝泊りしているコントロールルーム等は核シェルター内の端っこのエリアである。
埃っぽい換気ダクトを進み、事務室の上まで来た。
下を覗く。
「ブヒブヒ!」
「ブヒィー!」
うわぁ……、2体もいるよ。
怖気付きそうになるがぐっと堪え、覚悟を決める。
静かに換気口の蓋をずらし、バールを手に取る。
釘抜きの反対部分の尖った切っ先を前にして、ずるり……と天井の穴から抜け落ちる。
「ブヒ?」
物音に気づいたオークがこちらを向くが、遅い!
全体重を掛けたバールが、オークの鎖骨の隙間から胸へと突き刺さる!
バールを突き刺すだけでは勢いを殺すことが出来ず、そのまま床に頭から落ちた。
「痛てて……」
ドタッ!と床に落ち、おでこをぶつける。
痛みに眉を顰めながらオーク達を見れば。
バールを突き刺したオークは徐々に魔素の霧へと変貌し、それを唖然と見ていたもう片方のオークが、こちらに憎悪の赤い視線を向けながら殴りかかってきた!
それを前転をしてかわし、オークの横を掛け抜ける。
すぐにドアの前に着き、ロックを掛ける。
これで増援は来ない。
これで一対一だ。
両手を交差させ、ガードの構えを取りながらオークににじり寄る。
「ブヒィ!」
オークが手を振り上げた!
その下を姿勢を低くして、両手のガードでオークの手を押しのけながら、もう一度駆け抜ける。
バールを突き刺したオークはすでに魔素の霧へと変わり、バールが床に落ちている。
魔素を吸収しつつバールを拾い上げ、オークに向かい構える。
心臓はずっとバクバクしている、だけど心は何故か落ち着いていた。
立ち向かうという充実感。
下の階で溜まった、逃げ続けることから生まれた怯えを拭い去っていく感じがする。
魔素を吸収しクラスチェンジを果たした今、僕でも戦える!
「ブヒィィ!!」
オークが殴りかかってくる。
オークの間合いよりも、一歩分早くバールを振り切る!
狙いはヒザだ。
「ブヒッ!?」
ヒザを叩かれたオークが姿勢を崩し、立ち止まる。
その隙に横に回り、ヒザ!ヒザ!ヒザ!と叩き続けた!
オークが腕を振り回すが一歩下がり、躱す。
オークは立ち上がろうとするが出来ない、右ヒザは砕けている。
その隙に背に回り、釘抜きの反対側の切っ先を向け……全体重を掛けて突き刺す!
「ブッ…ヒィ……」
人間であれば心臓の辺りを刺され、オークが魔素の霧へと変わっていく。
「ふぅ……なんとかなったな」
背にはびっしょりと汗を掻いている。
終わってみれば完勝だったが、内実は結構ギリギリの勝負だった。
3体目のオークの魔素を吸い、レベルが上がる。
前にリザードマン3体を倒したときは一気にレベルが5まで上がったものだが、クラスチェンジをしてレベルが上がりにくくなったようだ。
ステータス
Name アルス・クレート
Age 16
Class テクノシャーマン
Lv 2 (+1)
HP 240/240 (+40)[生命力]
MP 1050/1050 (+50)[魔力量]
Str 25 (+5)[筋力]
Vit 26 (+5)[耐久力]
Mag 52 (+10)[魔力制御力]
Dex 26 (+5)[器用さ]
Agi 26 (+5)[素早さ]
属性 《機械》
使用魔術 情報魔術
スキル
■アクセス MP消費 1
魔力を電波のような波動に変えて放つ。
魔力に意思を乗せ、機械を操ることが出来る用になる。
ステータスが思ったより上がった。
レベルが上がりにくい分、上昇量も増えたようだ。
さて、ここに来た目標を果たすか。
事務室の予備電源のスイッチを入れる
ビーッ!という警告音と共に、ドッドッドッ!とエンジン音の様なものが聞こえてきた。
ッ、パッ……!パッ……!と、非常灯から天井の照明に切り替わる。
明かりが灯り、ホッとする。
昨日からずっと薄暗い中に居たから、自然と緊張していたようだ。
一息ついたところで。
「アクセス!」
魔力を自分を中心に、円になるように広げていく。
体中から、魔力がかなり薄く放出されているのがわかる。
出力を強めるように、広がれー、広がれーと念じていたら際限無く広がっていく!
慌てて止めたが、それでも半径500mほどの広さにまで広がった。
「うわ! やり過ぎたか、消費は……え?」
これだけ広げても消費した魔力は、たったの5だった。
「えらく省エネな魔術だな……」
だが、これで核シェルター全域に魔力の網が広がった。
目を瞑れば、立体型のレーダーが瞼の中に浮かび上がる。
反応があるのは……地下4階の機械にポチ、地下5階に置いてきたロボC。
それぞれが緑の光点として映る。
地下4階のガンタレットに意識を向ける。
視界がガンタレットのカメラに切り替わった。
「うわ、これだと前が見えないぞ? 調整、調整……」
調整と念じて、右目だけに映るように切り替えた。
廊下のガンタレットで見るが、薄暗い。
明かりを意識すると廊下のライトが次々と点いていく。
「……かなり便利だな。意識するだけでスイッチの切り替えや調整ができるのか」
まさしく魔術なのだろう。
機械の操作限定とはいえ、念じ、イメージを描くだけで自在に操作できるのだ。
廊下には3つのガンタレットがあったが、次に奥の倉庫のガンタレットを起動する。
「さて、倉庫は……げっ!」
倉庫内は荒らされ尽くし、その荒らし主と思われるオークがいたる所に群がっていた。
その数は100体ほどいそうだ。
さらに通常のオークよりも二回りほど巨大なオークも1体いる。
その背は320cmほどで、横もまた同じぐらいに幅がある。
巨大なデブだ。
そのデブオークが近くのオークを捕まえた……と思ったら、そのまま齧り始めた!?
「げ! こいつら共食いするのかよ。……あれ?
じゃあ、なんでこんなに居るんだ?
数が多すぎる……まさか!?」
不吉な予測を立てる。
「ダンジョンコアが崩壊したから暴走してるのか?」
もし、こんな奴らが地上に出てしまったら……
それを考え、魔物を殲滅することを決意する。




