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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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95 :フラストレーション

 水を飲むため砦そばの柵に腰かけた。辛うじて砦の日陰ができていて、一仕事終えた体には涼しくていい。柵のすぐ外に砦が幅を取っているせいか、柵に絡むように背高草が覆っているのに放置気味だったんだ。

 忍び寄る背高草をばったばったと薙ぎ倒したため、休憩も止むをえまい。

 鉱山から運び出された荷物や道具の置き場となっている広場に目を向けて、人や荷物の流れを見ていた。


「そこで何をしている!」

「は、はひ!」


 水筒を落とすところだった!


「なんだぁ? タロウか。どうしたこんなところで。採掘でもやりたいのか?」

「採掘?」


 声を張り上げたのは、砦から出てきた茶色い革鎧姿。二人の兵士には見覚えがある、炎天族と岩腕族の二人組だ。以前俺はこの二人に怒られたんだった。


「受付なら朝だが。いや……そもそも冒険者が採掘はできん決まりだ。まさか、護衛依頼を受けようなんて、考えてないだろうな」


 物欲しそうに見ていたのが悟られたか。ただ道具類とか気になっただけで、護衛依頼を受けようだとか微塵も考えてない。死んでしまいます。


「いや、ほらそこ。草を片づけてただけだ」


 慌てて砦の陰に積んだ束を指差した。表情を見るに合点がいったようだ。それで通じるのも微妙だが。


「ああ、そうだったな! 砦にも知らせが届いていたのを失念していた。草刈り依頼を募っているらしいな?」

「初耳だ」


 噂どころかお知らせになってるじゃねーか!


「森の警備してる奴らから依頼が殺到していると聞いたが、一段落ついたのか。なら今度は、鉱山入り口周辺はどうだ?」


 聞いてない!


「実は苔草に困っている。わずかな窪みにも気が付けば生えているんだが、弾力があってな。躓きそうになる厄介な草なんだ」


 コケソウって……草もそんな名前かよ。俺のセンスと大差ねえな。


「だが採掘従事者を連れ出すには危険な場所で、手を借りたいと思っていた」

「見ての通り俺も人族だし低ランクだ」

「はっはっは、謙遜するなぁ! アラグマ相手できるんなら大丈夫だ問題ない」


 その噂は広まってるのか……問題だらけだろ。


「いやあちょっと俺にはまだ難易度高すぎるっていうか準備が整ってないというか、心とか覚悟とか夢とか希望とか……」

「おっと、もちろん明日からすぐになんて言わんよ」

「こっちも今は、王都からの客相手があってな。人手が足りず自由に動けんのだ」


 もしかして、さっきの護衛だか案内だかしてる奴ら?


「街道に向かっていた団体か。やっぱりあれが偉い人たち?」

「おお事情通だな」


 役人も大変だ。役人といっても、地方公務員。ドラマなどで見た、田舎の駐在さんといったイメージがする。

 妙なことに考えが逸れかけたが、次に言われたことで意識が戻った。


「おっと、俺はメタルサ・アーガだ。エヌエンの宿に落ち着いたらしいな。時間ができ次第、伝言する」


 ゆったり構えた岩腕族の男が名乗った。


「おう、そうだな。一応俺も伝えておこう。ヴァルキ・プロルだ。どちらかの名で伝える。その時は予定を調整してくれ」


 ちょっと押しの強い炎天族の方も、きちんと名乗ってきた。この辺は冒険者たちとの違いかきちんとしてるなーと、つい頷いてしまったじゃないか。


「ああ、任せてくれ。こっちこそ依頼は助かるよ」


 調整が必要な予定なんかないけどな。

 二人に背を向け草の元へと舞い戻る。水筒を道具袋にしまって、ふぅと息を吐き出した。


 任せてくれ、だってよ。なにを格好つけてんだ。まるで本当に俺が募集したみたいじゃねえか。事実になる後押ししてどうするよ!

 また恐ろしい場所に連れていかれそうだし、覚悟だけはしておこう。

 準備なんか、心に鎧をまとうくらいしかできないけどさ……。


 逃げるように刈り進み、日が沈む頃には東の放牧地が見えていた。




 ギルド内をぐるりと見渡して、努めて気にかけずにいた現実を受け止めた。

 ちょうど冒険者の多くが四方から戻ってきているため、むさい。そうだ、何度見たって現実は変わらない。


 むさい――。


 幾ら外見から受ける印象を覆すような、いわゆるゲーム的にデタラメな身体強化魔法などが存在しない世界とはいえ、圧倒的に野郎ばかりのげんなりする空間だ。


 こういったシチュエーションならお馴染みの、女冒険者とのあれやこれやの機会への期待もあった。そりゃ、元がゲームか小説かで傾向は違うが。

 俺の場合はゲームだったら、おっこいつ頼りになりそうだなと、見るからに強そうな野郎キャラの方を使いたいと思うが、ファンタジーな小説ならば逆だ。


 居なくはないんだ。

 例えば、現在奥の席に集まっているグループの中に、張りのある褐色の肌が眩しいお姉さんがいる。短いワイルドな赤い髪も、動く度に幾筋かが頬にかかり、その下から覗く細く鋭い瞳がサディスティックなセクシーさを醸し出している。

 種族ゆえか俺よりも二の腕が逞しいところは気後れするが、それよりも残念なことがある。

 彼女は、その隣に並ぶ、よりガタイのいい炎天族の男の嫁だ。


 そう、たまに女性冒険者を見かけても、既に誰かのパートナーなのだ。女性比率が少ない職だもんな。普通、そんなところに入ってきたら放っておかれないに決まってる。


 あれ?

 確か一人、可愛いのに残念なソロの冒険者がいたような……いや気のせいだな。

 きっと羨ましさが見せた幻に違いない。


 飢えてんのかな。そんなご身分じゃないんだけど。

 思えば、日本にいたときより女っ気がない。

 俺と関係あるなしは別として、道を歩けば当たり前に老若男女を目にした。なんの戦闘準備も必要ないし、着の身着のまま歩けるほど平和だったからだ。


 目の保養になりそうな場所は大通り沿いだけだ。

 商店街と呼べそうなギルド付近の店には、全種族の女性が集っている。店員にも、今晩の食材を買いに来る客にも女性は多い。

 それに織物など手工業関係が、西側の住宅地の北側に固まっているらしい。薬屋フォレイシーのある辺りだ。そういった職場には、人族以外にも手先の器用な首羽族だとか、平均的になんでもこなせる森葉族の女性が集まっていると小耳にはさんだ。


 聞いてしまったのは、もちろんこの場でだ。ああ、今もまた聞きたくないのに耳が拾ってしまう……。


「んで、女房がいうにはよ、最近ケダマ草がちょくちょく入ってくるんだと。で、ほらこれ貰ってくれないか。余分に作ったから世話になってる奴にでも渡せって、うるさくてなぁ」

「だからって、下着ばっか何枚も貰っても」

「だからさ、お前んとこの嫁からも言ってやってくれよ。シャツも欲しいってさ」


 そうか。そうかよ。裏切者どもが。てっきり冒険者なんて、どいつもこいつもうだつの上がらない寂しい奴らだと信じてたのに。街の中に人族以外の女性住人が多すぎるというところで気付くべきだった。


 ケダマ草採取が役に立っていたと知れて、俺は嬉しいよ……それくらいしか自分を慰める要素がない。

 ほんとその他の情報は要らなかった。この街が遠いせいか、どうも家族で来るやつが多いらしい。出稼ぎするとなると、村の方では嫁の縁を持ってくるとか、そんな話が結構聞こえてくるんだ。家族で来るのを、ギルドも推奨してるんだろうか。

 聞けば衣料品やら雑貨製作にしろ、女手も欠かせないようだもんな。

 故郷だとか、どこにも縁のない俺には視界が霞んでくるような内容だ。

 やけに背中がすすけた気分で報告もそこそこに、とぼとぼと宿に戻った。




 部屋に着くなり机に向かう。


「あれくらいの圧力に負けてたまるか」


 ここはイマジナリーガールフレンドを……だめだ! やめろっ! そこまでは落ちぶれたくないというか帰ってこれなくなるぞ! くっ……鎮まれ、俺の右手!


 あかん、抑えられない。ガシッと鉛筆を掴む手を恨みがましく眺める。


「かまうもんか……禁呪を、解放する――開け次元門(ハローワールド)! 出でよ我が前に、弐次妖冥(サモン・)・召喚(TypeⅡワイフ)!」


 サカサカサカ――鉛筆が紙上に形を浮かび上がらせる。

 そこには見事な丸みを帯びた女体の影が――うおおおおお!




 しばらくの後に、丸めた紙屑を放り投げていた。


「ふぅ……高次元の概念だ。この世界に持ち込むには、早すぎたのだ」


 そこは低次元の間違いではというツッコミはなしだ。描けたのは、カピボーから四つの棒が生えたようなものだった。俺には絵が描けないんだったよ。


「まあいい。その内、俺にも春は来るし……」


 来てくださいと祈りながら不貞寝した。


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