93 :経験値
妙なことを考えてる内に、もっさもっさと生い茂っていたケダマ草を毟りまくり、道具袋はぱんぱんに膨らんでいた。しかも四袋分。
余分な袋もないし、今日はこれくらいにしてやろう。
ギルドへ四袋分を納めてから、俺は南の森へと戻ってきた。
レベルがどうのといえば、俺もだ。
「……すっかりレベルなんか、上がらなくなっちまったな」
体感での話だが、ノマズを倒して以降に、それまでの上がり方のような頻度はない。だとすれば、やはりレベルが上がる毎に必要な経験値は増えていくんだろう。
かといって鈍足補正が緩和された感じはないから、俺が倒せる魔物の上限を考えれば、これが頭打ちなんだろうか。
念のため周囲の藪をつついてから、なんとなくコントローラーを取り出し中心に触れた。すっと青い光の文字が黒い表面に表示され、横に流れる。
文字を出すのも久々だ。見たところで何も起こらないし、情報があったって次は何を倒せばレベルアップだとか、予定を立てる楽しみもないからな。
本当に俺には無意味な機能だよ……。
『レベル22:マグ39459』
うーん……特に感想もない。
近頃は、魔物の討伐数だけなら増えている。そのほとんどがカピボーと思うと悲しいが。
やはり魔物もランクが上になるほど実入りが良くなるだろう。マグが経験値にあたるなら……と思ったが、モグーとケムシダマのように同レベルのはずが、マグ量の一致しないやつもいるか。
「そういやケムシダマから分裂したのは、ケダマ四匹だったな」
レベル4のケムシダマから、レベル1のケダマ四匹と、ぴったり分割されてる。
偶然か?
でも、全レベルの魔物がいるわけでもないのに、一部はレベルが被るだとか、今思えばよく分からない設定だったな。
コントローラーをしまうと歩き始める。
焦っても仕方ないが、ますます狩りの時間が増やしたくなった。単体で稼げないなら数をこなすしかない。
ギルドへケダマ草を納めると、また南の森へと戻ってきた。
手近なカピボーとケダマのテリトリーを適当に蹂躙しつつ、ふと考え込む。
考えたら、妙なレベルの上がり方をするよな。俺は苦労したが、実力的には低ランクの魔物ばかり倒してきた。
そんな魔物を倒すくらいで、ポンポンと上がっていたのがおかしかったんじゃないか?
またレベルの有無に意識が向く。無いと疑うのではなく、逆だ。
あると考えた方が、辻褄の合うことは多い。それも、俺にだけではなく全員に。
いつぞやの炎天族の子供たちと、人族の子供たちの動きの違いを思い比べる。
機敏な動きでカピボーを倒した炎天族、草束の壁におぼつかない足取りでぴょんぴょんと飛びついていた人族の姿。
同じ年ごろに見えても、俺が知っている子供といえば、この人族の方だ。
生まれつきの種族差もあるだろうが、そこからさらに石ころで魔物退治できるようになるほどの差を生むのは、マグを得られるかどうか。魔物を倒せるかどうかが関わっているように思える。
それがあの子供たちの差ではないのか。
あ、それだろ。
子供にレベル差があるなら当然……まさか俺、赤ん坊だった……?
「ケャッピケェッピ」
思わず突っ伏していたら、垂れたポンチョにケダマが潜り込もうとしていた。
「俺は草じゃねえぇ!」
「ケュ……!」
気を取り直して、大人の話に戻ろうか。
ゲームのようなステータスは存在しないとしても、ランクごとの難度があるなら、人間にも当てはめているだろう。その強さの基準はなんだ?
思い出したのは、遠征に出たやつらの穴埋めに出かけていた奴らの多さだ。
同じ冒険者の中ランク同士だというのに、上との差がありすぎる。戦闘技術の習得率によるものだけとは思えない。
ギルドは、なるべく冒険者に負担がないよう対処している。多くの冒険者を、同じ場所に派遣するように采配をしていることなどだ。
だけど安全だからこそ経験値は分配され、強さも均等になっていく。全体の底上げを狙うなら良い手だと思う。
それでも差が出てくるのは、パーティーの役割分担のせいに思えた。
アタッカーを受け持つ奴がいたら、そいつが順当に強くなる。強い者が、強い魔物を倒す。強くなればランクも上がって派遣される先も増え、より強い魔物を倒す機会も増える。
でも、実際の高ランク者の数は片手で数えられるほどで、後は中ランクの上位者に頼っている状況のようだ。
ここに居る奴らの態度を思い返すと、仲間思い、なんだよな。
パーティーを組んでいれば、強いからと一人で高ランク依頼を受けることはないだろう。そこで、ある程度強くなるとレベルアップも鈍化する。
それ以上に強くなりたいなら、ソロで回るしかない。
とはいえ初めからソロだと数が捌けないから効率は悪いだろうし、強くなる前に死にそうだ。
ギルドが人を手配しているからソロで活動する奴なんてほぼいないだろうし、高ランクが少ない理由はそんなことじゃないかと思えた。
連想が過ぎただろうか。だけど妄想というには妙に納得できる。
そうだったとして、俺に辿れる道ではないが。
「キャピッ!」
「おわっと!」
草むらから飛びついてきたカピボーを躱して、短い尻尾を踏み剣で突いた。
どのみち俺が強くなりかたを知ったところで、「人族でもなれる!? 高ランクになる方法!」といった説得力皆無な本を書けるくらいだな。
レベルを上げようにも、装備を整えるには金がいるし、金を稼ぐには戦わないといけないしで堂々巡りだ。しかも低ランク装備を揃えたところで死ににくくなるくらいのもんで、俺の動きがいきなりプロっぽくなることはない。
生活費を差っ引いたら貯蓄できる額もわずか。何か不測の事態が起きても困るから、全額を装備に割くわけにもいかない。
現実でだって武道やらスポーツでも、それなりに身に着けるには何年とかかる。
まあ、武道とも喧嘩とも違うし、魔物向けの動きを鍛えていくことくらいなら俺にもできると思う。いや、成果は出ていると感じている。誰だって続ければ最低限の底上げがあるなら俺にもあるということだし。
こうして人生が続いていくなら、忍耐力を上げて地道に出来ることをやっていくしかない。
今のところは、宿代を一月分くらい貯めれば少しは安心できるだろう。その後の稼ぎの余分で革製の防具も揃えられそうだし、それからなら無茶もできるというものだ。
現実のRPGって、世知辛いよな……。
ケダマを倒しつつ奥の森との境目まで進んだが、ここで休憩したら折り返そう。
もっと魔物を倒さないとまずいかもと心配になり、つい南の森で討伐していたが、ケダマ草毟りに来たら北へ行くつもりだったろ。
水を飲みつつ、コントローラーについて考える。無駄だろうと思っても、どうせ他に考えることもなくて暇だしな……。
確信できたのは、コントローラーが俺にとって重要らしいことだけだ。てめえで考えろということなのかと思うが、謎解きゲーは苦手だったんだよ。
そもそも、説明書があれば済むことだ。特に謎が解けたからと帰れるわけでもないだろうし。
本当はコントローラーの方がこっちに来るはずが、おまけで俺が付いてきたと言われた方が納得できるほどの不遇っぷりだ。
かといって別の受け取り手がいるのかという考えは一瞬で消える。あえて別世界から取り寄せるほどの機能ではない。
レベルを確認できるが使用者のものかコントローラーなのかの判別不能。やたら貯め込んでいるマグは、ただのスコアなのか使えるものかも分からない。ただし絶対に壊れないような気配はある。
レベルアップ時だけとはいえ傷を癒すことがなければ、正直いらねぇよ。こいつさえなければもう少し他の荷物を持ち歩けるのに。
「途中から愚痴になってきたな。やめやめ。んおぉ」
「ホケッ!」
「うわっ、た!」
帰ろうと立ち上がり、伸びをした手が、ホカムリを殴り飛ばした。またか。
「ここは、お前の寝床なのか? 場所取って悪いな。永遠に寝てろ」
「ケピィ!」
俺の方が悪役っぽいな。ま、まあ、魔物の側からしたら俺は冒険者なんていう悪党中の悪党だよな。
「正義とは己の立ち位置で変わるものさ。悪く思うなよ」
これ悪役だ。
草刈りマラソンの目標を掲げたが、魔物狩りもやりたくなってきたな。まずは街巡り優先で、余った時間で南の森殲滅タイムアタックに挑戦しようかな!




