表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/295

89 :外から来た冒険者

 街の北側出入り口から戻り、一人ギルドへ向けて通りを歩く。まだ日はあるが、早めに戻ることにした。

 手の中にある紙切れを見る。大らかな文字で二割増しと書かれた臨時依頼の報酬額に満足していた。


 まとめ役らの高笑いを聞いていると、そのまま言ったことを反故にするんじゃねえだろうなと心配になり、急かしてもぎ取った依頼書だ。

 体格差も相手の立場も上とか関係ない。生活が懸かっているんだし、ここは強気に出るところだ。弱いからこそ、ここだけは譲っちゃいけない。


「……依頼書を、よこせ」

「も、もう、タロウ君は怖いなあ。ちゃんと書くから落ち着いて、ね!」


 よほど俺の詰め寄り方が堂に入っていたのだろうか。まとめ役は慌てて道具袋からくしゃくしゃの紙切れを取り出し書き殴った。

 間違いが黒く塗りつぶされた文字もあったが、特にハンコで修正なんて必要はないらしい。ハンコ文化なんてなさそうだけど。そんな間違うほど急がなくても良かったんだが。


 しかし思ったよりもいい額を提示してくれた。

 すだれ草などのように利用するものではないらしいが、普段は手を入れない場所だから色を付けてくれたんだろう。無理強いされたし、ありがたく貰っておく。


「確かに。良い取引でした」


 だから笑ったのは本心からだった。


「うっわ黒い笑いを浮かべてるぜ」

「さすが頑固な草の根を察知するだけのことはある。抜け目ないな」


 腹黒いのはお前らだろ!


「また何か思いついたら頼むからー」


 断る!

 そこでまとめ役らとはおさらばした。




 ギルドの扉をくぐり窓口に直行。依頼書を渡すと、内容を確認した大枝嬢がぐにゃぐにゃと顔を歪めた。にこにこと微笑んでいるらしい。


「最近は色んな方との交流も増え、行動範囲も広がっているようですネ」


 お友達が増えて良かったわねといった微笑ましい雰囲気を感じる。この歳でその褒められ方は、ちょっと微妙だ。良いことではあるだろうけど。

 何かが腑に落ちなくて首を傾げる。交流はともかく、行動範囲?


「あまり俺が遠出するのは、困るのかと思ってたんですが」


 こう、最初に受け付けた職員が担当者になって、その冒険者の行動で評価が決まるとか、死なせたらペナルティとかさ。ノルマみたいのがあったりすんのかなとか思っていた。

 知るほどに大枝嬢は、ただ優しいだけじゃないよなと。人の親切心を疑うというのも、なんかカッコ悪いけど。


「慣れた方でも失敗することはありまス。事故もありまス。それぞれに得意なことも違いまス。初めは安全な仕事から、少しずつこなして頂ければと考えていたのでス」


 ただ、と言いかけて大枝嬢は困ったように顔を歪めた。


「タロウさんに冒険者の経験はないことや、人種の特性も鑑み、行動範囲を狭めさせていただきましタ。具体的には、同ランクの方との共同作業を手配しなかったことなどでス」

「それは……」


 当然のことだと言い切れなかった。俺自身が現実を見て納得する分には、当たり前に思っていたことだ。

 しかし誰かに口にされると、また違う。目の前で他の奴らの迷惑になると言われたも同然で、思ったよりグサッとくる。

 打算的な感じがして、なんとなく嫌だなと思ったりするのは、俺がまだまだ子供だからなんだろうか。


「ですが、タロウさんは自発的に他の方々に関わり、自らできることを探して依頼をこなしてらっしゃいまス。私の判断もまだまだだと考えさせられましタ。仕事の幅を狭めるようなことをして申し訳ないでス」

「いや、そんなことはないです。一人じゃ満足に身を守れないのは、その通りですから」


 そもそも俺は周囲に流されたり、強引に引きずられただけだから。

 自発的要素なんかどこにあったよ!


「生活はまだ苦しいでしょうけれど、続けて頂ければ私も嬉しいでス」

「とんでもない。十分に暮らしていけてるし、これも大枝嬢のお陰ですよ」

「オオエダ?」

「なんでもないっす! お邪魔しました!」


 俺は逃げるようにギルドを出た。

 大枝嬢はやるべき仕事の中で、出来る範囲で皆を気にかけてくれているんだろうなと、そう思えた。




 通りには夕飯の仕度で匂いが漂う。ちょうど良く日が傾き始めていた。

 できることを増やそうたって、すぐにどうこうできるはずもなし。そうだな晩飯食ったら、また暗闇縛りでスーパーカピボー大戦でも繰り広げよう。


 夜の森に入ることはせず、そばで戦うだけだが、昼間以上に気を張る。どういうわけか夜の方が魔物も好戦的な気がするし、良い訓練になってると思いたい。

 実際これも結構、慣れてきたと思うんだよな。

 行動パターンは同じだし、覚えゲーのお陰もありそうだけど。残機どころかリセットも出来ない覚えゲーとか、とんだクソゲーだよ。


 そんなどうしようもないことを考えながら宿に戻り、おっさんに声をかけて食堂へ入ると先客が居てビクッと体が震えた。

 そういえば行商団の護衛らしい冒険者が泊まっていたんだった。初日の晩に見かけた後は、すれ違っていたのか見ていない。理由の一つは分かっている。俺が部屋を出る時間には、壁が震えるようなイビキが聞こえているからだ。寝つきが良い方で良かった。


 この長細く狭苦しい食堂に人がいる違和感はなかなか拭えない。

 三卓しかない手前の二つが埋まっているため、恐る恐る狭い席からはみ出た膝を避けるように横になり奥の席へと向かう。


「っと、わりぃな」


 難癖つけられなくて良かった。冷や冷やしつつ席につく。

 この感覚、どこかを思い出すんだよな。そうだ寝台列車の通路側?

 窓際の壁に折り畳み式の小さな座席があって、そこで駅弁食いながら富士山見たっけな。

 ここは、大きな窓がない分すげえ圧迫感だけどな。板目の隙間から外がちらっと覗けるのは風情があると言ってよいものかどうか。


 四人の客に目を向けても目の前の奴の背中しか見えないが、二人の炎天族と岩腕族に森葉族の男だ。今も会話に、王都からどうのといったことが聞こえてくる。

 この街にわざわざ来るのは、国や大きな街が支援する行商団か、たまに近隣の村との取引きがあるくらいらしい。

 近隣の村さえ山脈を越えねばならず危険らしいが、そんな所にも冒険者ギルドなんてあるんだろうか?


 などと考えていたら一人と目が合った。わざわざ体を横に傾けている。


「よお、早いんだな」

「いい仕事が入ったんだ。そっちも、早いよな?」


 狭くるしい室内だからか、向こうから声をかけてきた。こっちの人間は、知らない奴らだから距離をとるなんてことはないらしい。逆に声をかけるのがマナーとかあるんだろうか。


「護衛の報酬があるからよ。小銭が稼げりゃいいからな」


 今回訪れている行商団は、国とガーズとの取り決めで公式に送られてきた団体で、どうやらギルド関係の客もいるそうだ。おっさんが看板清掃の件で言っていた、王都からのお偉いさんたちのことだろう。ただ、おっさんから聞いたギルドの上の奴が来たなんて話題はどこからも聞こえてこない。


 主な予定には、砦やギルドと報告会のようなものもあるとか。商人の方は普通に持ちこんだもののを売ったり、希少な高ランク素材を買いつけになど、それぞれの用事があるようだ。

 それでそこそこ長居するらしく、その間に護衛の冒険者たちは羽を伸ばそうが依頼を受けようが好きに過ごしていいらしい。残念ながら何もない街だから、暇だから依頼を受けていく奴らばかりだそうだが。


 また四人で話しだしたのを聞くともなく聞く。嫌でも内容が耳に入ってくるが物騒な話題はないし、大騒ぎすることもない。

 この街の奴らほどお気楽な雰囲気がないから、こっちからは話しかけづらい。笑い方もニヒルだし厳めしい面構えで、どこかくたびれたようなところもカタギなのか疑わしさ満点なんだ。

 例えば映画で見た傭兵稼業のやつらの雰囲気というか。いわゆる冒険者とは本来こうあるべきなのではないかと思える。


 壁から視線を離した。

 ええい、ごにょごにょと解説してないで、何か聞くなら今しか機会はないだろ!

 俺はゆっくりと立ち上がった。


「ちょっといいか」


 えー談笑中のところぉまことに申し訳ございませんのですがぁといった含みが届いたかは分からない。

 だらしなく座っている男たちは、お喋りをやめて気だるげに振り向いた。

 う、うっわー……目つき鋭でぇ。

 壁を背もたれ代わりに腕を組んで見上げている姿とか、なんか佇まいに年季を感じる。

 おかしいな。確かこいつらは中ランク冒険者と言っていたと思う。高ランク冒険者をカイエンしか知らないせいか、こいつらのがすっごく強そうに見える。

 あ、上目遣いに睨まれてる気がするのは俺が立ち上がったからだ。狭いんだからわざわざ立つことはなかった。咳払いして口を開く。


「王都から来たんだよな?」

「まあ一応、そうなるかな」


 藪から棒になんだといった顔で、手前の男は鼻を鳴らした。

 へ、変なこと尋ねて、怒らせたらどうしようか。声が震えてませんように。


「王都なら、人族の冒険者はいるよな?」

「居るに決まってんだろ。んなこと聞いてどうすんだ」

「少ないと思うが、どれだけ珍しいもんなんだ……いや、どれくらい人族の仕事はある?」

「は? 珍しい? なに言ってんだ。人族なら仕事なんか幾らでもあんだろ」


 えっ。


「珍しく、ない?」


 俺たちは互いに困惑しているようだった。


「おぅい、お待たせぃ! なんでぇしけた面して」


 ちょうどおっさんが飯を運んできて、微妙な空気は救われた。




 がつがつと貪りながら話を続ける。


「んぐにゅ。へえ、ここにゃ人族の冒険者はあんたしかいないのか」

「ほふぅ! まあ、でかい街はそんだけ住人からの依頼もあるし、人が多けりゃ色んな奴がいるからなぁ」


 はふはふと野菜汁を啜りながら話す姿には、さっきの鋭さはなかった。腹が減って気が立っていただけなんだろうか……。


 意外な事実だ。この街にはいないと聞いてから、珍しいと思わない程に存在するとか考えもしなかった。

 急いで飯をかき込んだ一人が、笑顔で腹をさすりながら言った。


「ふいぃまあ分かるな。ここのランク付けはおかしいからよ」


 その言葉に、また驚いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ