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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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88 :帰るまでが遠足

 連絡係と通りすがってから、しばらくは俺が団扇草と格闘するワサワサとした葉っぱの音だけが響いていた。

 片っ端から刈っているわけではない。特に道幅が狭い場所や、飛び出ている葉をはらうだけだ。それでも頑固な草だし、いつもより除去には時間がかかる。


 なんで、俺がこんなことをしてるんだろうな。

 唐突に賢者タイムが訪れたのは、先ほど抱いた印象のせいだ。

 遠征のためにフラフィエが配給用の道具を納品したなら、作成のための猶予があるだろう。これだけ組織的なら、その待機期間に、こうした雑用は済ませられるんじゃないか。


「遠征前の準備っていうか、予定に組み込めないんすか」


 ダイレクトに質問をぶつけてみたわけだが。えーっていう表情で、なんとなく察しはついた。


「こう、言い辛いんだが、なんとなく気になる程度っていうかな」

「たまにだからさ。終わると忘れちゃうっていうかー」


 いい加減な理由だった。

 金にもならないし、直接危険なものでもないから分からないでもないけどさあ。


「言いたいことは分かるがな。お前のように一撃必殺でこの頑固な草を断ち切る者など、なかなかいないんだぞ? 俺様の鍛えた拳でも引きちぎることはできなかったのだからな」

「そこはナイフ使おうか!」


 どれだけツッコミを入れればいいんだよ!


「うわっなんか怒ってるっぽい?」

「な、怠けてるとか、毒があるから触りたくないとか、そんな風に思われたなら心外だよなあ」

「毒ぅ!?」


 はじめに、言えよ!


「怒んなって。食べたら腹壊すらしいぜ」

「そうそう、それだけだって! あの泡が怪しいよな?」


 こいつらの感覚は分かった。よくこれで、まとめ役などやってられるな。


「でも、これなら他の人族にも頼めばいいじゃないか」

「そうできたらいいんだけどよ。少しはてめえの身を守れるくらいでないと、連れてくるのはちょっと悪いし」

「農地の奴らは街の運営基盤を支えてるんだぜ? なにかあって飯が食えなくなったら困んだろ」


 意外と真面目に考えてるんだなっておい。


「俺は自分の身を守れないんですが?」

「そうじゃなくてだな。そうやって勝手に互いの仕事に触れないよう、決まりがあるのだ」


 そんなもんあったのか。

 確かに、勝手に荷物持ちとして拉致られても抵抗できないだろうし怖いよな。 

 逆に、すぐ疲れるらしい炎天族と畑仕事を一緒にやったら、作業量がばらばらになるだろう。給料があるんだろうとは思うが、分配に問題が出てきそうだ。

 思わず納得しそうになった。


「……おい、俺は無理やり掴まれてきた気がするんだが?」

「カッハハハ、何言ってる。タロウは冒険者仲間じゃないか!」


 こいつら草と間違えて刈ろう。


「まあまあ、そうぷりぷりすんなって。だから報酬二割増しなんだろ?」

「ぐっ……そうだった」


 やるさ。ああ、やるさ。元が安いんだ。二割増しくらい大した額じゃないだろうと、さっき気付いたとしてもな。釣られたのは俺だ。


「特に邪魔なところだけでいいんだ。ささっとやっちまおうぜ!」


 やるのは俺だろうが。ぶつくさ言っても終わらない。

 その後はひたすら集中した。




 草を断っては、引っこ抜く。何の修行だ。昔話の爺さんか。これにはなんのオチも含蓄もないけどな。


「ぐぬ……こいつ、かってぇ、なっ!」


 意地になって根元を強く引っ張りすぎて手が滑り、踏みしめた足元も湿っていてさらに滑り、後ろにバランスを崩していた。

 背後は、川だ。


 やべ、まずった。


「あでっ! え……落ちて、ない?」


 川に落ちたと思ったが尻に衝撃があった。湿った岩だ。そこに尻餅ついて助かったらしい。ほっ、運が良かった。


「タロウ動くな!」


 見上げた先に、森葉野郎の殺意のこもった視線と剣先が、目の前にあった。

 俺の人生、同業者にやられて終わるのかよ。


 反射的に庇おうと上げた腕を、横から馬鹿力に引っ張られ、景色が回転する。


「ぅがっ!」


 すぐ脇にあった木の幹に体をぶつけた。

 衝撃で落ちてきた木の葉をはらいのけ、体を起こして川沿いを見ると、森葉野郎の剣先にマグの煙が漂っていた。

 そして、岩も消えていた。


「危なかったな。ヤドカラだ」

「体が宿にされるところだぞ」


 確かレベル13の魔物だ。

 ヤドカラの貝殻の上だったのか……あんなにでかいとは思わなかった。

 ノマズより巨大だったんじゃないか?


「あ、ありがとう。助かった……」

「そのために俺たちゃ居んだよ」

「引っくり返る前に助けられなくて悪いな。まさか転がるとはね」


 そこは忘れてくれ。頼みます。


 川を見渡すが、もうなんの変化もない。やたらスピードがある魔物がいるかと思えば、ひっそりと現れる。

 川の魔物はとんでもないな。




 先に進むと段々と木の高さが低くなり、枝葉で視界の悪さが増していた。ゆるい傾斜とはいえ、木の根や下草がうねり足場の悪い道だ。疲れは感じなくとも、気分的にはつらい。

 徐々に左手に下がっていく川を見下ろしながら、木々が密集する中を歩いた。

 完全に、せせらぎの音も消えたころ、藪の壁を抜けると一気に視界が開けた。


「眩しい」


 瞬いて見る。

 一面の平原だ。遠く霞む向こうは山並みで遮られているが、かなり広い。

 その地面は緑で覆われているのに、温かみはなく寒々しさを感じるのは、所々に黒々とした大岩が転がっているし、褪せたような色彩だからだろうか。

 それとも、すぐ右手にジェッテブルク山がそびえているためか。街から見るよりも近くに見えて圧巻だ。


「んごぉ、この辺にしとくかぁ!」


 まとめ役は伸びをしながら作業の終了を告げる。

 ほっとするより、もう終わりかと呆気にとられた。まだ、昼を回ってからそう経っていない。


 出てきた辺りを振り返ると、どこが連絡路への入り口だか分からん。

 これも払っておくか。手を動かしながらも、腑に落ちなかったことを聞く。


「これ、俺がやる意味あったのか」


 わざわざ俺一人連れて、しかも中ランクの上の奴らが守りながらやるほどのことだろうか。

 また生えてくるだろうし、これ一回で終了なわけがない。普段は放置しているらしいから、今後も臨時で受け持てるかの確認だったというなら納得いくが。


「まあ、そんなことをしたと報告を受けたのでな」

「短時間で片付いたと聞いてよ、実際に歩きやすくなってりゃ試してみたくなんだろ」

「ぶっちゃけると思い付き?」

「思い付き……」


 俺が押し黙ると、場の時も止まった。


「おっ、また怖い顔すんなって!」

「そこは実力が認められる機会だったって喜ぼうぜ」


 なんの実力が見せられるってんだい!


「わざわざ時間作ってまで、できるはずないだろう? たまたま偶然こっちの巡回ついでだからな。怠けてないし」


 本音が隠れてないぞ。


「あれが巡回なんだ」


 のんびり歩きながら、ちんたら俺が作業してるのを見つつ、襲ってきた魔物だけ狩ってたようだったが。


「い、いやその。いつもは積極的に奥地まで突っ込んでるんだ。今朝の報告では魔物の数もそこそこ安定したから、後回しの問題を片づけようとだね……」


 もじもじと筋肉をはちきらせて言い訳すんな!


「それで分かったんだがよタロウ。お前な、かなり使える!」

「うん、まじ。意外だった!」


 後方二人組も真剣に頷いた。


「あの刈りっぷりに、まとめる手さばきといい、森の辻斬りタロウと評判になるのも頷けるぜ」

「荷物もすごい持てるよな。これなら、もっと人族の冒険者も居てくれていいと思うわー」


 森葉野郎、そんな物騒な噂は聞いた覚えはない!

 首羽野郎、ポーター扱いしてんじゃねえぞ!


「いやぁ、それにしてもあの転がりっぷりは面白かったな!」

「面白くねえよ!」


 やはりこいつらは刈っておくべきだったか。


「まとめ役なんて偉い立場なんだろ? もうちょっと、ええと、考えたらどうだ」

「フハハ。まとめ役なんて引き受けちゃってるが、円滑に団体作業を進めるための使いっぱしりみたいなものよ。偉いだなんて勘違いして威張るのはお門違いってもんだ!」

「威張って言うな!」

「ははは。タロウは威勢がいいな。それじゃあ戻りはこっちだ。北側の道に続いてるから歩きやすいぞ?」


 顎で示された方を見れば、遠目にも山の斜面に人通りのある道が見える。採掘場方面の道だ。あんな歩きやすい道が、すぐそこにあったのかよ。見た目ほど近くないんだろうけど。


「連絡なんかは遠回りしても、あっちから来た方が安全じゃないのか」


 まとめ役は、すっと手を上げ山とは反対側を指差した。


「小屋が分かるか。木々で偽装しているが、あれが連絡係の中継地だ」


 それを見たとたん、俺は目を眇めた。

 森沿いではあるが平原の中にぽつんと、不自然な草木の塊が沸いている。分かるも何も、塊の中心から木の板屋根が覗いていた。

 ここの奴らは、どこまで本気なんだよ。


「どのみち、ここらで魔物を食い止めなくちゃならんからな。連絡ついでに森の中を突っ切る。実に合理的っ!」

「だよな!」

「ガーハハハハ!」


 三人の高笑いが響いた。

 俺は頭を抱えたい。

 炎天族にはパワーありあまってウザイ奴しかいないのか。少なくとも俺の中ではそうなった。それについてくる、森葉野郎と首羽野郎も大概だがな。




 昨日よりげっそりしてトボトボと戻りながら、平原の遠くを眺める。時おり小さな点が動いた。地面に刺さる黒く大きな岩は、ジェッテブルク山の山肌が滑落してきたようにも見える。そこに櫓を設けてあるようだ。

 頬をなでる風が運んできた匂いは、遠足で山に行って弁当を食べてるときを思い出させる。のどかに見えるのにな。


 一人だったら、何度か死んでる。だけど今日俺の周りにいたのは、さすがの中ランク冒険者。まったく危なげない働きを見せてくれた。笑いながら魔物を引き裂くまとめ役の姿には引いたが。

 思えば、俺のところまで飛んでこないように、わざわざ体を張ってくれてるようだった。


 分からないな。

 やっぱり分担は大事と思い、俺は弱いんだからと卑屈になるでもなく自覚して、できることを精一杯やろうと思っていた。

 そう決めても、頭で納得しても、こうして見せられると考えてしまう。

 堂々巡りだろうと、もっと何かできるんじゃないかって思ってしまう。


 心が、納得いかないんだ。


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