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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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84/295

84 :DIY

 宿のベッドに身を投げ出す。

 川までの距離はそう遠くなかった。森の中では二時間ほど過ごしたくらいだと思う。なのに、なんとも長く感じた一日だった。格上の魔物と対峙することにはなったが、疲労よりは充足感の方が大きい。


 あれだけ刈り取った草木の山も、二束三文といったところだった。

 いつもの背高草よりは何倍も良い報酬だが、普通の冒険者からしたらやるだけ赤字になるだろう。どう考えても収入より食費の方が高くつく。

 待ち時間の暇つぶしか、移動中に邪魔な分だけ取り除く程度といった、消極的な行動なのも頷ける。森の維持を考えたら、一気に全部を取り除くのもまずい気もするし、それでいいのかもな。


「ったく、俺のどこがアラグマなんだよ」


 シャリテイルは、俺が洗濯ばかりしていると大げさに言いたかったんだろうが、あれは洗濯好きとかいうレベルか。生地がボロボロになるわ。


 今は、遠征でいないんだよな……シャリテイルもカイエンも、無事だといいな。


 二人が遠征に出かけてから、もう一週間は経つだろうか。この世界に飛んできた日から、正の字でも書いてりゃ良かった。

 今は十日ごとの宿代更新日を基準に動いているが、必死だったのが続いていたからか日付の感覚がいまいち把握できない。


 たしかギルドにカレンダーのようなものが貼り付けてあった気がする。予定表だっけ。また明日にでも大枝嬢に聞いてみよう。

 俺の好奇心はごく一部のものにしか反応しないようだ。もっと色んなものに目を向けられるくらいの余裕を持ちたい。


 思い立ったら即メモだ。体を起こしてサイドテーブルに置いた紙に書き込んだ。

 そしてランタンの灯りを消すと、すぐに眠ってしまった。



 ◆



 昨日の収穫、いや拾得した物。すだれ草の葉っぱ四枚と触手草何本か。

 部屋の小さな窓なら二枚で十分覆えるが、失敗を考えて多めに持ち帰った。


 持ち帰ったすだれ草の葉っぱは、裏手の物置きに置かせてもらっていた。

 というわけで?

 本日のミッションは、カーテンというかブラインド製作です!


 おっさんに設置してもいいか聞くついでに作り方も教わった。ぬかりない。

 作り方といっても下地作りまでだが。


「腐ったり虫が湧いたりしないようにしてくれるんなら置いても構わないけどよ」


 と、また不思議そうな顔で許可をくれた。


 また布切れでも買いに行けばいいんだろうが、売られているものが本当に端切れって感じだったんだ。裁縫も苦手だし、ツギハギになるのも部屋の雰囲気を壊しそうで嫌だ。

 今は良い具合に寂びれた山小屋というイメージで統一されている。味のあるボロ具合が、ツギハギの布一枚でただのボロ屋に気持ち的にランクダウンしそうじゃないか。

 その点、枯れ草の再利用なら山小屋風イメージにもぴったりなはずだ。干し草のベッドみたいな感覚で。


 実情は、出費を控えたいだけだったりする。布きれごときと言ったら怒られそうだけど、思ったより高かったんだよ。手間かかるものだし、本来はそんなもんなのかもな。


 ぼやきと共に、手拭いで口に蓋をする。物置きにあった七輪もどきに火を起こして煙いのだ。どうやら手っ取り早く草を消毒と乾燥させるなら火で炙るらしい。

 四人組の話は、そう的外れでもなかった。


 この草は、さっと炙ることによってキュッと引き締まるらしい。虫が食っていたらその作用で外に出てくるということだ。

 さらに焦げないようにうまいこと熱していたら、虫はそのまま焼け死ぬから頑張れと念を押された。


 火が移らないようにしなければならないのだが、紐みたいに細い葉だ。

 そのまま使う算段だったから、葉がバラバラにならないように葉の中心を通る太い茎の中心から断ち、茎の部分をぶらさげる側にすると決める。


 裾がばらばらと広がらないよう端を軽く縛っておき、さらに拾ってきた枝の二本に括りつけて両端を椅子に乗せ、真ん中に七輪を置いた。七輪の下にも箱を置いて高さを調節する。

 そのまま放置できたら楽なんだが、全体の縮み方が同じになるように、こまめに移動させ両面焼きだ。

 しかも完全に炙るのではなく、多少引き締まったところで、編みこまないとならない。

 完全に繊維が固まる前に、紐などで綴じるためとのことだ。


 一枚目は、見事に焼け焦げだらけとなった。


「ふっ……俺を甘く見たな? こんなこともあろうかと予備を持ち帰ったのだよ」


 草野郎を火責めにし、縄で縛り刑に処し、汗だくになりながらも残りは成功させた。


 そこからは、葉の裾を閉じるために紐で編む苦行だ。

 おっさんから、触手草は柔らかさが残るため使い捨てるにはちょうど良い、簡易の紐に使えるらしい。これも炙ると、気色の悪いぬめっとした紫色も良い具合の茶色となり普通の枯草と変わりない。

 柔らかさの欲しい縦方向を綴じる紐は触手草を使い、固さの欲しい裾を綴じるのだけ、同じ草の葉で編んでいく。


 編んだ後も根気よく炙り続け、もうゴールしてもいいよねと思いかけたころ、色の違いに気が付いた。

 すだれ草のくすんだ緑色は綺麗に色が抜けて、日に焼けた畳のように明るい茶色になっている。

 もろにすだれ色だ。

 持ち上げて全体を眺める。


「おお、いいじゃん!」


 運動靴の紐をリボン結びするのすら苦労していた俺だ。

 三つ編みなんか当然慣れてないから、すだれのように直線的とはいかず全体的に歪んで見えるが、それも味があると思えばどうということはない。

 所々についた黒い斑点も、水玉模様と思えばいい。

 イメージ的にはアジアンテイスト?

 部屋にも合ってる。


 十分と判断し、飛び出た裾の葉先を断ってサイズを合わせて完成だ。

 カーテンのようには開けないが、丸めて括れるように紐を取り付けた。長めに切った触手草だ。ブラインドと称した理由がこれである。

 ほとんど黄色っぽい茶色に、濃い目の茶色はポイントとして映える。


 カーテンレールはないから、どうにか天井の板目の隙間に紐でも通そうかと考えたが、おっさんに三角形の木の破片を渡された。釘らしい。

 金属製はないらしくどうしてるのかと思ったが、こうやって作ってるんだと感心した。


 物置きにあった細い角材の幾つかを貰い、そこに紐ですだれを括りつける。

 窓枠の上に少しだけ穴を開け、そこに木釘を打ち込んだ。完全に埋めず頭だけ残るようにして、そこに角材を引っ掛ける。

 水洗いはできないから、洗濯代わりに炙るなら固定しない方がいいからな。


「ほぅ、器用なもんだな」


 おっさんは手先の話ではないだろう感想を残し、どこか興味深げに見ると去っていった。

 嫌がられなくて良かった。

 これで内装も日に焼けにくくなるだろう。焼けそうなもんはメモ紙くらいだが。


 歪んだ葉の隙間から、日差しが程よく部屋を照らす。なんとも趣があるではないか。

 入手した素材を加工して新たなアイテムを作成する。これもまた実にゲームっぽい。タロウのスローライフは始まったばかりだ!


「やべっそろそろ昼だ。ギルドギルドっと」


 今までの看板掃除などの作業から、なんとなく半日でやれるだろと考えたが予想通りだった。

 ギルドへ寄ってから草刈りに行こうと思っていたことを、また忘れるところだったが、昨晩のメモが目に入り助かった。

 通りを急ぎながら気付く。結局は足りない材料を貰ってしまったことに……。

 一瞬うなだれるも顔を上げる。


「また何かお礼をしよう!」


 再び気合いを入れ直しギルドへと急ぐ俺だった。


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